この記事では、PNF(固有受容性神経筋促通法)のホールドリラックスとコントラクトリラックスについて解説していく。
コントラクトリラックス
コントラクトリラックスとは
コントラクトリラックス(Contract Relax)とは、(筋原性な)関節可動域制限が起こっている際に用いられる手法であり、回旋を強調した等張性収縮でリラクゼーションと促通を獲得し、関節可動域拡大を図るために用いられる手法である。
コントラクトリラックスの目的
コントラクトリラックスは、筋短縮と軟部組織の硬結が関節可動域制限である場合、リラクゼーションの獲得と関節可動域増大を目的とする。
コントラクトリラックスの手順
- 治療部位を可能な可動域の最終域または最終域近くまで動かす。
- 療法士は要求する「(3次元的な)運動方向とは逆の方向」の全要素に対して抵抗を加える。
※特に回旋の要素を強調する
※抵抗をかける時間は5~10秒
- 療法士は動きが起こらないように等張性の抵抗を十分に加える。
※最大抵抗が良いという意見もあるし、最大抵抗は必要としないという意見もある。
- 患者は力を抜き他動的または自動的に新しく得た可動域まで動かす。
- 最終可動域を獲得するまでこの技術を繰り返す。
- 新しく得た可動域での運動により、その可動域における筋収縮を再教育する。
ホールドリラックスについて
ホールドリラックスとは
ホールドリラックス(Hold Relax)とは「関節可動域増大のための促通と筋弛緩を得る為の回旋運動を強調した等尺性の運動」を指す。
ホールドリラックスの目的
痛みが原因で関節可動域制限がある場合、筋弛緩と関節可動域増大を得るために用いる。
あるいは痛みの軽減を図るために用いる。
ホールドリラックスの手順
- 痛みが起こる手前またはその近くまで制限のある部位を動かす。
- 制限または痛みのあるパターンに回旋運動を強調し等尺性運動を指示する。
※抵抗はコントラクトリラックスよりも非常に弱くゆっくりとしたものでOK(痛みを伴わないように!)
- 等尺性収縮中、患者は動かないように意識する。
- その後、患者はゆっくり力を抜き、自動介助または自動運動で新しく得た痛みのない範囲まで動かす。
※最終可動域を書くとっくするまでこの技術を繰り返す。
- 新しく得た可動域での運動により、その可動域における筋収縮を再教育する。
最大伸張位で最大収縮させると筋損傷が生じるため、最大伸張位から10~20°減じた関節角度で実施する。
※この考えは、関節モビライゼーションを「治療肢位(自動運動最終域)」で実施するというのと、考えが非常に似ている。
例えばハムストリングスの伸長のためSLRを他動的に実施するのであれば、最大伸張位から10~20°降ろした肢位で実施する。
杓子定規的な表現をすると「ホールドは2~3秒保持→休憩2~3秒→自動運動でエンドレンジ(ER)まで→ERから10~20°戻す→ホールドと数回繰り返す」という順序になる。
肩関節の可動域制限に対するホールドリラックスの一例
ここでは、肩関節挙上制限があり、制限因子が以下な場合を考えてみる。
②三角筋前部線維や広背筋の弱化(これにより最終域で関節が詰まった印象で制限を受ける)。
①に対して:
ホールドリラックスERから10~20°戻した状態で療法士は伸展・内転・内旋方向に対して抵抗を加えて、患者に保持してもらう。
重要なのはPNFに則り、力を加えてほしい運動方向のみ(この場合橈骨側にのみ)療法士の手を接触させておくということ。
②に対して:
ERから10~20°戻した状態で、療法士は屈曲・外転・外旋方向(つまり、更に上肢を挙上させる方向)に対して抵抗を加えて静止性収縮を促す。
これは上肢挙上のための主動作筋を短縮位で収縮させることで、運動単位を動員させることが目的である。それと同時に、拮抗筋である大胸筋にもIb抑制が加わっているとも言える。
※ここでは、単なる可動域制限が例なので、患者が可能な限り最大収縮を用いる(特に、主動作筋の運動単位を増やすには収縮力が強ければ強いほど良い)。
一方で、制限が収縮痛である場合は運動単位の動員を増やすという考えは適応にはならない。
※上記のコメントを含めると多少混乱するかもしれないが、②の問題(主動作筋が弱化している)な場合で尚且つ主動作筋の運動時痛が生じている場合、どうしても痛みを伴わない僅かな抵抗量となるので、「運動単位が増えにくく、逆にIb抑制により更に筋に力が入りにくい」ということが起こる可能性がある。
その場合は、「痛みの出ない程度範囲のなかでの最大収縮」を心がけることで、可能な限りIb抑制ではなく運動単位が動員される方向へ持っていく(「収縮したら痛みが出る=極最小の筋収縮力で良い」という考えでは、更に弱化させてしまう。
※拮抗筋(大胸筋)の反射的短縮(筋スパズムなど)をIb抑制で弛緩させることを狙っている場合は、拮抗筋に対する等尺性収縮を極最小の抵抗量で実施すれば良いということになる。
ホールドリラックスとコントラクトリラックスの違い
基本的に、ホールドリラックスとコントラクトリラックスは、どちらも可動域の拡大、筋(働筋・拮抗筋)のリラクゼーション効果が得られる。
では、どの様に使い分けるかと言えば、「痛みの有無によって」である。
具体的には以下のようになる。
目的とする筋に痛みのある場合はホールドリラックス
方法:最適な静止性収縮(等尺性収縮)
口頭指示:「止めて」「私の力に合わせて」など
目的とする筋に痛みの無い場合はコントラクトリラックス
方法:最適な求心性収縮
口頭指示:「押して」「引いて」など
※求心性収縮と静止性収縮(等尺性収縮)などの整理は以下の記事も参照。
⇒『筋の収縮様式(求心性/遠心性/静止性/等尺性/等張性収縮)』
ホールドリラックスとコントラクトリラックスのポイント
口頭指示の内容によってクライアントは正しい収縮様式を用いることが可能となる。
ホールドリラックスを目的に「止めておいて」と指示した場合、セラピストが急に抵抗を解除しても、関節は動かない。
他方で、コントラクトリラックスを目的に「押して」と指示した場合、セラピストが抵抗を解除すると、関節運動が起きることとなる。
例えば、痛みのある筋に対してコントラクトリラックスを行うと痛みを助長することが多いことも使い分けの理由となる。
あるいは、目的とする筋に対して最大収縮させると同時収縮が起こってしまうことと、力み過ぎてクライアントに適切な感覚入力ができない(刺激がぼやけてしまう)ことも理由になるかもしれない。
筋収縮を起こさせた直後は、筋収縮の余韻が残るので収縮後すぐにストレッチやROMexに入るのではなく、休止期間をおくのはPIRと同様である。
なおかつPNFにおける相反神経支配などの神経生理学的観点からも、そのストレッチやROMexはpassiveではなくactiveで施行するほうが望ましいとされている。
※ちなみに相反神経支配に関して「働筋に対して拮抗筋は弛緩する」との解釈が一般的でだが、最近では拮抗筋も弛緩するのではなく遠心性収縮を起こしながら働筋と強調して円滑な関節運動を可能にしていると言われている。
ホールドリラックス・コントラクトリラックスまとめ
ホールドリラックスとコントラクトリラックスの違いは、「コントラクトリラックスで痛みが出てしまうのであればホールドリラックスを用いる」という程度。
元来PNFは「とにかく動かすことで患者を良くしよう」という考えであったため、静止性収縮は用いなかった。
しかし、後になって「痛みを出さずに用いれるテクニック」としてホールドリラックスが出来た。
(痛みが無い)筋に対してホールドリラックスとコントラクトリラックスで、(筋原性な)可動域制限の改善率にどの程度差があるかは不明。
ただ、私達が臨床にPNFを含めた等尺性収縮性弛緩テクニックを用いるにあたっては、「神経生理学的効果」「収縮様式による(一般論としての)反応の違い」「負荷量に関する考え方」などをザックリと掴んで、あとは臨機応変に活用していけば良いだけの話と言える。
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ホールドリラックスで関節可動域が改善したのちに、「得られた可動域内での自動運動」の重要性も、以下の記事で言及している。
PNFストレッチングって何だ?
ホールドリラックスやコントラクトリラックスと同様にIb抑制(やIa抑制)を利用したテクニックとして『PNFストレッチング』なるものが存在する。
PNFストレッチングは、ホールドリラックス・コントラクトリラックスを応用したような手法っぽいので、観覧することでこの記事での理解も深まると思う。