この記事は、リハビリ(理学療法・作業療法)に必要な『歩行分析の基礎知識』のまとめ記事になる。
跛行(異常歩行)については後述するリンク先も参考にしてみてほしい。
目次
歩行周期
歩行は、リズミカルで周期的な運動によって行われており、この一連の動きは『歩行周期』として表される。
一歩行周期とは
『一歩行周期』とは以下を指す。
一歩行周期は、以下の2つの相に分類される。
- 立脚相:
歩行周期中の「下肢に荷重している時期」「足部が床面に接地している時期」を指し、『立脚期』と呼ばれることもある。
- 遊脚相:
歩行周期中の「足部が床面から離れている時期」を指し、『遊脚・遊脚相』と呼ばれることもある。
ちなみに、正常の歩行周期では60%が立脚相で、40%が遊脚相であると言われている。
立脚相・遊脚相はもっと細かく分類されるよ
前述した「歩行における2つの相(立脚相・遊脚相)」は、さらに細分類される。
でもって、この細分類が正常歩行の理解の指標となったり、歩行の大まかな構成や把握を可能とする。
歩行の細分類方法は『従来型』と『ランチョ・ロス・アミーゴ方式(Rancho Los Amigos』があるのだが、現在はランチョ・ロス・アミーゴ方式の分類で表現されることが多いである。
ただし、念のため『ランチョ・ロス・アミーゴ方式』と『従来、使用されていた用語』の2つを掲載しておく(私は、ちょうど両方の用語が教本に掲載されていた時期に国家試験を受けたので両方覚えさせられた。。。)。
従来の用語 |
ランチョ・ロス・アミーゴ方式 |
||
ヒールストライク(HS) |
踵接地 |
イニシャルコンタクト(IC) |
初期接地 |
フットフラット(FF) |
足底接地 |
ローディングレスポンス(LR) |
荷重応答期 |
ミッドスタンス(MS) |
立脚中期 |
ミッドスタンス(MSt) |
立脚中期 |
ヒールオフ(HO) |
踵離地 |
ターミナルスタンス(TSt) |
立脚後期 |
トゥオフ(TO) |
つま先接地 |
プレスウィング(PSw)の終わり~ イニシャルスイング(ISw)の始まり |
遊脚前期の終わり ~遊脚初期の始まり |
アクセルレーション |
加速期 |
ISwの一部とミッドスイング(MSw) |
遊脚初期~遊脚中期 |
ミッドスイング |
遊脚中期 |
MSwの一部とターミナルスイング |
遊脚中期~遊脚終期 |
デセレーション |
減速期 |
TSwの一部 |
遊脚終期の一部 |
※今ではどうなのだろうか??「ランチョ・ロス・アミーゴ方式」だけ覚えておけばよいのだろうか?
ではでは、本題であるランチョ・ロス・アミーゴ方式における歩行周期について掲載していく。
ランチョ・ロス・アミーゴ方式の歩行周期
ランチョ・ロス・アミーゴ方式における『立脚相』と『遊脚相』の細分類は前述した通りだが、ここではさらに各相における「機能的役割」や「身体機あく部位の主な役割」も併せて一覧にしてみる。
立脚・ 遊脚期 |
機能的役割 |
相 |
身体各部位の主な役割 |
立脚期 Stance phase 0-62% |
荷重の 受け継ぎ |
初期接地 Initial contact (IC) 0% |
足背屈筋の遠心性収縮で足底屈を制動。 遊脚終期から続く膝屈筋と広筋群(内・外側・中間広筋)、股伸展筋群、体幹伸展筋群がICからLRにかけての外力に抗するため活動する。 |
荷重反応期 Loading response (LR) 0-12% |
衝撃を吸収し身体重心を上昇させる作用が必要。 足背屈筋、広筋群、股関節伸展・外転筋群が最も強く活動する時期。 |
||
単脚支持 |
立脚中期 Mid stance (MSt) 12-31% |
足部上での脛骨の前方傾斜に伴い足底屈筋群が活動。 股関節は外転筋群が骨盤の保持のために活動を継続。 立脚中期後半には股屈筋が活動を開始する。 |
|
立脚終期 Terminal stance (TSt) 31-50% |
足底筋群の活動が最大となる。 距骨下関節の回外により、足部の剛性が高まる。 |
||
遊脚肢の 前方移動 |
遊脚前期 Pre-swing (PSw) 50-62% |
中足趾節間関節伸展位で足趾が床面に接地し、遊脚の準備とともに反対側への荷重移行をスムーズに行う。 足底屈筋の残存的活動とともに股屈筋群の活動も継続し、遊脚期に向けた膝屈曲が生じる。 大腿直筋が膝関節の過度な屈曲を制動。 |
|
遊脚期 Swing phase 62-100% |
遊脚初期 Initial swing (ISw) 62-75% |
遊脚のための股屈筋群の活動が継続。 足部クリアランスのための足背屈筋の活動が生じる。 |
|
遊脚中期 Mid swing (MSw) 75-87% |
足背屈筋群の活動が継続。 膝関節はほぼ受動的に伸展。 |
||
遊脚終期 Terminal swing (TSw) 87-100% |
股屈曲と膝伸展はハムストリングスの伸張性収縮により制動。 足背屈筋群の活動は継続。 広筋群は立脚期への移行に備えて活動を開始。 |
念のため、もう少し簡略化した「歩行周期と役割」の一覧表も記載しておく。
相 | 特有の役割 |
初期接地 イニシャルコンタクト(IC) |
衝撃吸収。 |
荷重応答期 ローディングレスポンス(LR) |
荷重を支えつつ安定性を保証。 前方への動きの保持。 |
立脚中期 ミッドスタンス(MSt) |
支持している足の前足部の上まで身体を運ぶ。 下肢と体幹の安定性の確保。 |
立脚後期 ターミナルスタンス(TSt) |
立脚肢の直上を越えて体を前へ運ぶ。 |
前遊脚期 プレスィング(PSw) |
遊脚期の準備態勢。 |
遊脚初期 イニシャルスイング(ISw) |
床から足が離れる。 |
遊脚中期 ミッドスイング(MSw) |
足と床の十分なクリアランスの確保。 |
遊脚後期 ターミナルスイング(TSw) |
イニシャルコンタクトの準備 |
歩行周期における機能的役割
上記の表では、各歩行周期に「機能的役割」や「身体機あく部位の主な役割」をザックリと付け足している。
でもって、付け足した「機能的役割」をもう少し補足しておく。
- 荷重受け継ぎ
荷重受け継ぎは、初期接地から荷重応答期にかけての役割である。
歩行周期のなかでも最も大きな衝撃が身体に加わる場所であり、下肢関節や体幹部の適切な筋活動により、衝撃の吸収と立脚期に向けた身体重心の前上方への加速を行う必要がある。
- 単脚支持
単脚支持は反対側下肢の離地(立脚中期の始まり)から反対側下肢の接地(立脚終期の終わり)までの間である。
この区間では、適切に配列された上半身と支持脚により身体重心を高い位置に保ちながら、足底での荷重点は中足趾節間関節部まで前方移動を続ける。
- 遊脚肢の前方移動
遊脚肢の前方移動は、立脚期に分類される前遊脚期から始まる。
股関節と足関節の協調作用により膝関節の適切な屈曲が作り出されることが重要である。
遊脚期では足部のクリアランスを確保するために足背屈筋の作用が必要であり、遊脚期の後半では次の立脚に向けた準備が始まる。
歩行相の分類
ランチョ・ロス・アミーゴ方式の歩行周期の続きになるが、ここから先は『5つの立脚期』と『3つの遊脚期』について、もう少し詳細に記載していく。
5つの立脚相
・初期接地:イニシャルコンタクト(IC: Initial Contact)
・荷重反応期:ローディングディスポンス(LR: Loading Response)
・立脚中期:ミッドスタンス(MSt: Mid stance)
・立脚終期:ターミナルスタンス(TSt: Terminal stance)
・遊脚前期:プレスウィング(PSw: Pre-swing)
3つの遊脚相
・遊脚後期:イニシャルスウィング(ISw: Initial Swing)
・遊脚中期:ミッドスウイング(MSw: Mid Swing)
・遊脚終期:ターミナルスウィング(TSw: Terminal Swing)
以下のイラストは、『5つの立脚期』と『3つの遊脚期』が記載されているとともに、対側下肢の位置関係も視覚的に理解しやすいと感じる。
~画像引用:歩行を診る―観察から始める理学療法実践~
各期における対側下肢を文章で解説されている書籍は多いが、対側下肢との位置関係は一通り目を通した後も記憶に残りにくと感じる。
でもって上記のイラストと合わせて専門書籍を観覧すると、各期における対側下肢の位置関係が記憶に残り易いと感じるので紹介してみた。
初期接地(イニシャルコンタクト):立脚相①
『初期接地(イニシャルコンタクト)』とは「足部が接地する瞬間」を指し、正常の場合は踵から接地する。
なので文献によっては、この相を『踵接地』や『ヒールストライク(Heel strike)』と表現していることもある。
ただし初期接地(イニシャルコンタクト)は、(前述したように)「足部が床に触れる瞬間」を表しており、足のどの部分が接地するかは特にこだわらないため、病的な歩行の場合の表現としても適している。
※初期接地に全ての患者が踵から接地するとは限らず、いわゆる「ベタ足」で歩行している際でも表現できる。
例えばヒールコンタクトという概念は、踵ではなく前足部で接地する場合、歩行周期の始まりの相を表す用語としては混乱をきたす。
それに対しイニシャルコンタクトという用語であれば、この歩行周期の始まりを公平に表現でき、健常歩行と病的歩行の両方に活用できる。
~観察による歩行分析より引用~
従来、踵接地(Heel Contact , Heel Strike)とよばれていたが、脳卒中や末梢神経麻痺の場合必ずしも踵から接地できない。
この場合、ICにおける接地部位を記述する方が、踵接地云々と記述するより理解しやすい。
同時に踵ロッカーの状態も記述できるので、LRにおける身体の前進状態もわかりやすい。
~動作のメカニズムがよくわかる実践! 動作分析より引用~
ただし、初期接地(イニシャルコンタクト)が踵接地(ヒールコンタクト)になっているか否かは重要で、正常歩行では踵接地がなされる。
踵接地の際に足関節が固定されており、下腿三頭筋に伸張刺激が加わることにより、次の立脚中期で自分の体を高く持ち上げるために必要なシステムが活性化される。
なので、例えば脳卒中片麻痺のケースでいえば、(理想は)歩行開始時の一歩目は非麻痺側を出して初期接地で踵を床に接地させることにより、その後のリズミカルな歩行に重要な要素(中枢パターンジェネレーターの賦活)になる。
荷重反応期(ローディングレスポンス):立脚相②
『荷重反応期(ローディングレスポンス)』とは「体重を荷重し、踵からの衝撃を足と膝関節で吸収する期」を指す。
(初期接地が踵接地である場合)、踵接地から荷重反応期までの間で『ヒールロッカー』というロッカー機能が働く(後述する)。
立脚中期(ミッドスタンス):立脚相③
『立脚中期(ミッドスタンス)』とは「足底が全面接地していて、体重が前方に移動し足部の上にかかっている期」である。
前述した「初期接地」「荷重反応期」が両脚支持期であったのに対し、立脚中期は片脚支持期である(=片側足部のみが床に接している)。
立脚中期では、『アンクルロッカー』というロッカー機能が働く(後述する)。
立脚終期(ターミナルスタンス):立脚相④
『立脚終期(ターミナルスタンス)』とは「体重が、固定された前足部へ移動する期」を指す。
この相において、踵は持ち上げられ、足部は中間位を保持して脛骨を固定したまま、体重を前足部へ移動する。
でもって、この機能は『フォアフットロッカー』というロッカー機能である。
アンクルロッカーの後半からフォアフットロッカーによって関節や筋に以下が起こる。
・股関節伸展⇒股関節屈筋群の伸張
・足関節の背屈⇒足関節底屈筋の伸張
でもって、反対側の接地(初期接地)が起きると、これらの伸ばされたばされた筋が解放されて求心性収縮に切り替わり体幹を前上方に押し出している。
歩行周期を100%とすると、片方の脚の単脚支持期は40%、両脚支持期は10%であり、長い時間をかけた伸張の後で短時間の求心性収縮が起こることがわかる。
筋は伸張されると大きな力を発揮しやすいことは周知の事実であり、正常歩行では一歩ごとに筋の伸張、短縮が繰り返されている。
でもって、特に立脚後期によってフォアフットロッカーが起こり十分な『股関節伸展(股関節屈筋群の伸張』が生じることはCGP(中枢パターンジェネレーター)を引き出すうえで重要な要素となる。
※CGPに関しては後述する。
ちなみに『遊脚期の振りだし』のために腸腰筋(股関節屈曲筋)を鍛えるといった話ではなく、いかに立脚後期に股関節の伸展を作り出してあげるかという事の方が重要である。
※ただし、高齢者の中には正常歩行から逸脱した歩行戦略を取らざるを得ない人達も存在し、それらの人に対しては躓きなどによる転倒予防のためにも股関節屈筋群を鍛えることは意味があるかもしれない。
また、下腿三頭筋の伸長もCPGを駆動させるために重要や要素といわれている。
あるいは立脚後期における下腿三頭筋の活動(プッシュオフ)によって、体幹を前進させる力を生み出すという点においても重要となる。
※骨盤の位置エネルギーを前上方へ保つ働きがある
立脚後期(ターミナルスタンス)も立脚中期と同様に「片脚支持期」であり、反対側のイニシャルコンタクトが起こる(両脚支持期)までがターミナルスタンスである。
※反対側のイニシャルコンタクトが起こってからは、プレスウィングの相に入る。
遊脚前期(プレスウイング):立脚相⑤
『遊脚前期(プレスウィング)』とは「膝関節を屈曲し、遊脚の準備をする期」を指す。
前遊脚期と訳されることもあるが、いずれにしても「遊脚」がつくので『遊脚相』と間違いやすい。
しかし実際は(前述したイラスト・一覧表を見ても分かるように)『立脚相』に含まれる。
この運動は、体重が前足の上に移動することによって起きる。
同時に体重は、反対側下肢で支持(反対側イニシャルコンタクト)される。
※つまりこの相は両脚支持期である。
ちなみに、前述した『フォアフットロッカー』は(ターミナルスタンスだけでなく)プレスウイングの期間も生じている。
ターミナルスタンスからプレスウイングにおいて生じる股関節伸展は「二重振り子」を生じさせ、その後の遊脚期における「膝屈曲⇒トゥクリアランスの獲得」に重要な役割を果たす。
⇒『トゥクリアランス(toe clearance)とは | 躓きにご注意を!』
遊脚初期(イニシャルスウィング):遊脚相①
『遊脚初期(イニシャルスウィング)』とは「足趾が床から離れ、大腿が前方に移動し始める期」を指す。
この期は遊脚相の全体の初め1/3を占め、遊脚側の足部が立脚足部と並んだ時までの区間を指す。
遊脚中期(ミッドスウイング):遊脚相②
『遊脚中期(ミッドスウィング)』は、遊脚下肢が「(遊脚側の足部が立脚足部と並んだ時から)下腿(脛骨)が床に対して垂直位になるまで、前に振り出す期」を指す。
遊脚終期(ターミナルスウィング):遊脚相③
『遊脚終期(ターミナルスウィング)』は「(下腿が床に対して垂直になった状態から)足部がが床接地するまでの区間を指す。
遊脚周期にて「下腿を膝関節完全伸展または、ほぼ完全伸展になるまで前へ振り出す」ため、この期によって(どこまで下肢を前方へ振りだせるかによって)一歩の長さが決まる。
この相では、次の体重負荷への準備が行われている。
・大腿の前方移動は抑制される。
・足部は体の前方で中間位をとり、床へ接地するための最適な肢位となる。
正常歩行と筋活動
人が歩行をするためには様々な筋活動が起こっており、各相で各筋活動が弱まったり強まったりしている。
※それら筋活動に関しては、専門書籍を読めば具体的に記載されているのは割愛するが、この記事の歩行周期の一覧表における「身体各部位の主な役割」を読んでもらうと何となく各相における大切な筋活動は理解してもらえるのではないだろうか。
でもって、ここでは以下の点を記載しておく。
・正常歩行に必要な筋活動は、最大収縮のごくわずかで十分
・正常歩行では、「筋活動のタイミング」などの運動学習のほうが重要
例えば、以下の動画は「推進力があれば動力源(人間で言うところの筋力)が無くとも、このロボットは歩けてしまう」というのをザックリとではあるが示している。
上記動画は極端な例ではあるのだが、参考になる思うので是非一度観覧してみてほしい。
例えば虚弱高齢者(中枢神経系の問題はない)であっても、MMT(徒手筋力テスト)などによる下肢筋力検査の結果と歩行能力が必ずしも比例しない点などは、臨床でもよく経験するので分かり易いと思う。
- 下肢筋力が強いと判定されるにも関わらず、歩行が不安定な人がいる。
- 下肢筋力が非常に弱いと判定されるにも関わらず、安定した歩行が可能な人がいる。
まぁ、これは起立・着座など様々な動作に当てはまることではあるが、歩行も例外ではないという事になる。
歩行において重要なロッカー機能
前述した『歩行相の分類』の項目で、以下の3つのロッカー機能が登場した。
・ヒールロッカー(Heel Rocker)
・アンクルロッカー(Ankle Rocker)
・フォアフットロッカー(Forefoot Rocker)
これらロッカー機能(Rocker function)に関して『書籍:観察による歩行分析』では以下の様に記載されている。
下へ向かっていこうとする身体重量は、前方への動きに変換されなければいけない。
そのためには踵と足関節と中足趾節関節が対応する必要がある。
変換の際の複合的な工程は、Perry(1992)がロッカーファンクションと呼ぶ「振りてこ」のメカニズムに基づいている。
筋の活動がこの工程を制御し、次々に起こる3つの層で身体重量の制御された転がりを可能にする。
それぞれの相で果たすべき役割に関して、各相の各時刻に特有の「振りてこ」のメカニズムの回転中心と、動きの軸が存在する。
そして身体重量は「振りてこ」の助けを借りて、それぞれの「振りてこ」の回転中心を支点にして前方へ動く。
でもって、各ロッカーファンクションにおける支点は以下の通り。
ヒールロッカー:
回転中心が床と踵の接点にある。
アンクルロッカー:
回転中心が足関節にある。
フォアフットロッカー:
回転中心が中足趾節関節にある。
~画像引用:ゲイトソリューションのパンフレットより~
上記イラストからも、次々に起こる3つのロッカーファンクションによって身体重量が前方への動きに変換されているのが理解できる。
ロッカー機能に関しては以下の記事でも詳しく解説しているので、是非とも合わせて観覧してもいてほしい。
歩行に必要な『ロッカー機能』の知識を分かり易く解説!
足部は歩行に伴い形態を変えることで、衝撃の吸収や荷重の伝達という役割を果たす。
立脚初期から中期では足底腱膜の緊張は低く、縦アーチも低下しており、足部への衝撃が分散し吸収される。
一方で立脚後期は、母趾が背屈し、足底腱膜の緊張が高くなり、縦アーチが増大する。
これにより足部の構造が強固となり、床からの反力を有効に伝達することが可能になる。
足底腱膜による『巻き上げ現象』を解説
正常歩行では上肢の振りもヒントの一つ
人がバランスをとる際は、肩甲骨・上肢帯の機能や上肢の重さなども非常に重要な役割を果たしている。
っというのも、極端な例では上肢における左右の重さを(肩甲骨の傾きなども全て使って)ヤジロベイのように自分の体の軸が大きくぶれないように調節しているからだ。
例えば脳卒中は肩甲骨が過剰前傾してしまい、肩関節が内旋している(中には肩関節亜脱臼などによって上肢を吊られている)人もいるのだが、
こうなってくると(肩甲骨前傾なままで肩関節も外旋できず)ヤジロベイのようにバラスをとるのに必要な肩甲帯の自由度を阻害してしまう。
なので、立位で脊柱が(上部胸郭も含めて)自由に伸展・側屈・回旋したり、下部胸郭が安定しながら自由に動いたり、肩甲骨の前・後傾が自由に行えたり、肩関節の内外旋が自由に行えるといったことが難しくなる。
でもって、上記の要素も含めた「上肢の振り」というのは、バランスをとりながら歩行をする際にも重要であることを意味しており、そういった意味でも麻痺側上肢へのアプローチは必要となる。
※もちろん、上肢で何かを持ちながら歩いたりといった「歩行以外の役割を持たせること」も日常生活では求められることもあると思うが、まずは「リズミカルな歩行の獲得」にフォーカスした場合は「上肢の振り」も大切になってくるということである。
ちなみに上肢の振りは、下肢とは逆の動きとなる。
(たとえば、右下肢を前方へ振り出すのであれば、上肢は左側を前方へ振りだすことでバランスを取っている)。
これは、『クラインフォーゲルバッハの運動学』でいうところの『カウンタームーブメント』に該当する。
まぁ、あまり深く考えなくとも、自分自身で以下を試してみると歩きにくいことがすぐに体感できると思う。
・両腕を組んだままあるいてみる。
・片腕を腹部に密着させたまま歩いてみる。
機能的な歩行(例えば障害物をよけたり、またいだり、スピードに緩急をつけるなど)で歩きにくさはさらに顕著になると思われるので体験してみて欲しい。
中枢パターンジェネレーター
歩行運動は基本的に同じ運動の反復がなされている。
したがって、一歩ごとに新しいプログラムが一から生成されるのではなく、歩行運動プログラムのテンプレートの様なものを使って、そのプログラムが反復されていると考えられている。
でもって、その様な周期性を持つ運動プログラムを形成する中枢が脊髄に存在することが知られており、これを『中枢パターンジェネレーター(CPG:central pattern generator)』と呼ぶ。
『中枢パターン・ジェネレーター』について:
歩行周期はインテルメジン領域(脊髄)の中で、振動しているインターニューロンのネットワーク、すなわち中枢パターン・ジェネレーターによってプログラミングされている。
このネットワークが遊脚期と立脚期を交互に生じさせる。
中枢パターン・ジェネレーターに称する強い感覚信号と反射は、両脚と体幹の相から層への連動を誘発する信号を発動する。
~『書籍:観察による歩行分析』より引用~
中枢パターンジェネレーターに関しては、リハビリ(理学療法・作業療法)への活用方法も含めて以下で解説している。
歩行リハビリで『CPG(セントラルパターンジェネレーター』を賦活せよ!
歩行動作における用語解説(時間的指標と空間的指標)
歩行動作に関する用語に関して、以下の2つに分けて記載していく。
・歩行動作の空間的指標(Spatial dimensions)
・歩行動作の時間的指標(temporal dimensions)
用語解説(歩行動作の空間的指標)
歩行動作の空間的指標として、以下などが有名である。
①ステップ長
②スライド長
③歩隔
④足角
①ステップ長(Step length):
『ステップ長』とは「片脚の踵接地地点から反対側の踵接地地点までの距離」を指す。
でもって片側に障害があると、左右のステップ長に差が生じることがある。
ステップ長は『歩幅』とも呼ばれる(同義である)。
②ストライド長(Stride Length):
『ストライド長』とは「2歩分の距離」を指す。
※ステップとストライドは混同されやすいので注意しよう。
ストライド長は『重複歩距離』とも呼ばれる(同義である)。
スライドは、歩行した距離とその間の歩数とから算出することができる
⇒ストライド長=歩行距離×2/歩数
③歩隔(Width of walking, Walking base):
『歩隔』は「左右の踵の中心間の横幅」を指す。
※歩行時の歩隔は、進行方向に対して直角に計測され、標準値は5~13㎝と言われている。
バランス障害があると、歩隔が増大することが多い。
④足角(Angle of toe-out, Toe out angle):
足角は「進行方向に対する足の長軸(第2中足趾節間関節と踵中心を結んだ軸)のなす角度」を指す。
足角は、通常は軽度(約7°)外旋位にあると言われている。
用語解説(歩行動作の時間的指標)
歩行動作の時間的指標としては以下が挙げられる。
①歩行周期
②歩行率(ケーデンス)
③歩行速度
①歩行周期(Walking cycle):
冒頭から何度も登場した『歩行周期』という用語は、歩行動作における「時間的指標」に該当する。
歩行周期は一般的に、一側の足部の「初期接地から次の(同側足部の)初期接地まで」を『1歩行周期』として測定している。
遅い歩行では1歩行周期に費やす時間は長くなり、逆に速い歩行では短くなる。
歩行速度が異なっても
1歩行周期を100%とすることで、1歩行周期中の各相の時間的分析ができる。
歩行周期と似通った用語に(前述した)『スライド長』というのがある。
ザックリと表現するなら両方とも「2歩の移動」分析しているのが、スライド長が空間的指標なのに対して、(重複するが)歩行周期は時間的指標に該当する。
歩行周期の初めの0%ポイントを身体の一部の床への接地で定義する。
同側の足(観察肢)の次の床への接地で歩行周期の終わりを定義する。
歩行周期の終わりは次の歩行の0%ポイントでもある。
同時に反対側の足は半周期遅れで観察趾と同じ動きをする。
専門書によってはストライド(stride)を歩行周期と同義として扱っている場合もある。
しかし、ストライドは距離を表し、歩行周期は時間を表している。
~観察による歩行分析より引用~
②歩行率(ケイデンス:Cadence):
歩行率(ケイデンス)とは「1分間当たりの歩数(ステップ数)のこと」を指し、『歩調』と呼ばれることもある。
例えば1分間の歩数が100とすると『100step/min』と表現する。
③歩行速度(Walking velocity)
歩行速度に関しては、以下も参照してみてほしい。
⇒『10m歩行テストの目的/方法(やり方)/基準値(カットオフ値)/歩行率を解説!』
また歩幅(ステップ長)と歩調(ケイデンス)との積によって歩行速度を求めることもできる。
したがって、歩行速度、歩幅、歩調のうちのどれか二つがわかれば、あとの一つは計算により求めることができる。
※ちなみにステップ長は(下肢障害などによって)左右で異なる場合もあるので、「ステップ長=ストライド/2」で求める場合も多い。
歩行分析のヒント! チェックリストを参考に
歩行分析のヒントとして以下のチェックリストは参考になると思う。
※ここまで記載てきた歩行周期やロッカーファンクションの知識なども参考にして分析してみてほしい。
※片麻痺を想定しているが、他疾患の歩行分析にも活用できると思う。
立脚期 |
遊脚期 |
||||||
IC |
LR |
MSt |
Tst |
PSw |
ISw |
MSw |
TSw |
踵接地 ○あり ○なし |
適切な背屈 ○あり ○なし |
|
適切な背屈 ○あり ○なし |
||||
|
適切な 底屈 ○あり ○なし |
踵離れのタイミング ○早すぎ○適切 ○遅れ
骨盤の安定 ○あり ○なし |
|
||||
適切な膝屈曲 ○あり ○なし |
適切な膝伸展 ○あり ○なし |
適切な膝屈曲 ○あり ○なし |
適切な膝伸展 ○あり ○なし |
||||
|
適切な股伸展 ○あり ○なし |
適切な股屈曲 ○ |
|||||
ヒールロッカー
○不足 ○過多 ○正常 |
アンクルロッカー ○不足 ○過多 ○正常 |
フォアフットロッカー ○不足 ○過多 ○正常 |
フットクリアランス ○あり ○なし |
- 代償運動:
○骨盤の持ち上げ
○パーストレトラクト
○分回し
○反対側の伸びあがり
○体幹前傾
○デュシェンヌ
○トレンデレンブルグ
- 腕の振り:
- 頭部の位置:
- 二重課題:
可能 or 不可能
(関連⇒デュアルタスクトレーニングとは?)
- その他:
正常歩行とは? 高齢者の歩行の特徴も解説
この記事では、いわゆる『正常歩行の特徴』を中心に解説してきた。
でもって、必ずしもこの記事に記載されている『正常歩行』に近づけることだけがリハビリ(理学療法・作業療法)ではない。
しかし一方で、正常歩行が効率的な歩行であることは間違いない。
また、正常歩行を熟視しているからこそ逸脱した所見も発見でき、アプローチにつなげることができるため、正常歩行を理解しておくことは大切になる。
高齢者の歩行は、正常歩行から逸脱してしまうことも有り得る。
加齢とともに正常歩行から逸脱してしまう事は少なくない。
様々な疾患を有したり、「疾患」とまでは診断されなくとも、関節の硬さを代償したり、緩さを制御したり、もっとザックリと「バランス能力が低下したり」などといった様々な理由で高齢者では正常歩行から逸脱してくる例は少なくない。
でもって、目的によっては必ずしも正常歩行に近づけることがリハビリ(理学療法・作業療法)の目的とはならない。
※たとえば、正常歩行は効率的だが、「ゆっくりとソロソロと(障害物に躓かないか十分注意を払いながら)自宅内を歩く」というのは、イニシャルコンタクトにおける踵接地は起こっておらず、プレスウィングにおいても股関節は全く伸展していないかもしれないが、「屋内を転倒せず安全に歩行できる」という点を目標に掲げるのであれば十分なケースもある。
目を凝らして観察すると、多くの人がいわゆる「正常」とは少し違った歩き方をしていることに簡単に気がつくはずである。
そのことからPTは「正常」とどれだけ違っているか?といことのみ着目した歩行分析は回避すべきである。
なぜなら個々人の歩行は、複合的に影響しあっている要素を考慮に入れなければならないからである。
どの様であれば個々人にとってふさわしいかを持って、正常とみなすべきである。
~『観察による歩行分析』より引用~
関連記事
⇒『実用歩行とは?』
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なぜ人は躓かないのか?
「正常歩行」「高齢者の歩行」というキーワードの余談として、なぜ人は躓かないのかについて記載してみる。
歩行周期では、遊脚相において床面とのクリアランス(隙間・ゆとり)を確保できずにつまずきが起こることが多い。
それでは、遊脚相においてつまずかないためには、どのような要素が必要なのであろうか?
前述した『イニシャルスイング』で膝関節屈曲運動が最大となり『ターミナルスイング』まで伸展運動が行われる。
でもって、この間には足関節では前脛骨筋の働きが持続的に行われている。
※一方で、拮抗筋である下腿三頭筋は遊脚相では活動しないという事になる。
※なので国家試験で以下の様な質問が出てきたら、回答は下腿三頭筋である。
Q46:正常歩行で立脚相のみに活動する筋はどれか?
①大腿四頭筋
②ハムストリングス
③前脛骨筋
④下腿三頭筋
⑤脊柱起立筋
解説:
1.大腿四頭筋は立脚直前から踵接地で最大となる。
2.ハムストリングスは遊脚後期から立脚初期に働く。
3.前脛骨筋は歩行周期全般に働くが、特に立脚期直前から踵接地時に働く。
4.下腿三頭筋は立脚相のみ働く。
5.脊柱起立筋は歩行周期全般に働くが、立脚期及び遊脚期の移行期に働く。
~『書籍:リハビリテーション医学Q&A』より引用~
・・・話を前脛骨筋による足関節背屈運動に戻して、この時期に足関節が底屈位のままであれば、膝・股関節の過度な屈曲による代償や前足部を引きずるような歩行がみられ、つまずきやすい状態を呈すことになる。
また、高齢者の場合は、機能的・構築学的な円背を呈している場合も多く、それらのケースでは正常歩行よりも過剰な足関節の背屈(前脛骨筋の収縮)で対処しようとすることもある(以下のイラストB)。
なので単なる機能的な円背・不良姿勢であるならば、(可能な限り)アライメント調整を行うことが、効率的な歩行を実施する上で大切な要素となりえる(以下のイラストC)。
つまずくことは転倒のリスクを高めるだけでなく、転倒後症候群など、高齢者の後の生活に多大な影響を及ぼす。
大腿骨頸部骨折=骨粗鬆症+転倒(でもってヒッププロテクターは予防に有効?効果なし?)
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