この記事は骨粗鬆症を有した高齢者の転倒で生じやすい『大腿骨頸部骨折』の概要と、大腿骨頸部骨折の予防に有効との意見のある『ヒッププロテクター』についてまとめている。
ただし、「骨折予防」と「ヒッププロテクター」に関連を持たせることに興味のない人には、何ら価値のない(っというか面白みのない)記事なので、さっさと閉じてほしい。
目次
ヒッププロテクターの予防目的である大腿骨頸部骨折について
大腿骨頸部骨折は、高齢者の転倒によって生じやすい骨折の筆頭に挙げられる。
そしてヒッププロテクターは、「股関節の外側に位置するため大腿骨頸部骨折を予防する用具」と理解して良い。
~画像引用:転倒予防理学療法の資料~
大腿骨頸部骨折は骨粗鬆症に伴う最も重篤な合併症であり、これを予防することが骨粗鬆症治療の目標のひとつである。
そして、大腿骨頸部骨折の発生要因は「骨粗鬆症(骨強度を規定する因子)」と「転倒に影響を及ぼす因子」の関与が重要である。
つまり、「骨粗鬆症+転倒=大腿骨頸部骨折」という方程式が成り立つ。
骨粗鬆症大腿骨頸部骨折
骨粗鬆症とは「種々の原因によって骨量が減少し、骨折が起こりやすくなった状態」と定義されている。
骨粗鬆症の治療目標は、疼痛緩和や(漫然とした)骨量増加とされた時代もあったが、現在では骨折の予防が第一目標となっている。
臨床で遭遇しやすい「骨粗鬆症に伴う骨折」には以下が有名である。
このうち、大腿骨頸部骨折は患者の移動能力を著しく低下するため、手術適応となることがほとんどであり、骨折を予防することは重要となる。
大腿骨頸部骨折の発生機序
多くの大腿骨頸部骨折は、骨量が骨折閾値以下に低下した高齢者に発生する。
しかし、骨量だけでは将来の大腿骨頸部骨折を予測することはできないとされており、大腿骨頸部骨折発生に関しては転倒というイベントが重要な意味をもち、実際、大腿骨頸部骨折の90%以上は転倒に伴って発生する。
大腿骨頸部骨折の予防
大腿骨頸部骨折を予防するためには、理屈として「転倒さえしなければ良い」という事になる。
※脊椎圧迫骨折や肋骨骨折などは、(重度な骨粗鬆症などでは)知らない間に生じていた、咳やクシャミをしただけで生じたなどといった事も有り得る。
従って、転倒要因で改善可能なものを対象としてアプローチしていくことになる。
すなわちバランストレーニングなどのリハビリ(理学療法・作業療法)や環境整備などが重要となってくると言える。
また、「万が一転倒した際にも骨折しないだけの骨強度」という意味では、骨粗鬆症の治療方法として(運動療法以外では)薬物療法や食事療法なども含まれる。
薬物療法においては、優秀な薬剤が多く登場しており骨粗鬆症の進行予防に貢献しているものの、それだけで「転倒による骨折を予防できる」というものではない。
そして、「転倒しないだけの体作り+環境整備」と「転倒しても骨折しないだけの骨強度の獲得」という2本柱で対策をしても不十分な点を補うのがべく考案されたのが『ヒッププロテクター』である。
ヒッププロテックターの構造と効果
ヒッププロテクターには大きく分けて以下の2種類がある。
- 衝撃分散型(energy-shunting)
硬くて軽いシェル構造
- 衝撃吸収型(energy-absorbing)
柔らかく重いジェル構造
転倒して病院に運ばれ、大腿骨頸部骨折を起こした患者の76%が側方への転倒で、56%が大転子に血腫を認め、一方、非骨折者は側方への転倒少なく、手を伸ばすような防御反応が42%に認められたという報告がある。
したがって、ヒッププロテクターを大転子外側に設置し、転倒時の大転子への衝撃を減弱させれば、転倒時の大腿骨頸部骨折を予防できると推測できる。
臨床試験で大腿骨頸部骨折発生の相対危険度を50%以下に抑制することに成功したとする文献もあったりする。
※ただし正確に言えば、装着率の低さを含めてヒッププロテクター効果に関する否定的な報告もある。
⇒『外部リンク:ヒッププロテクターに股関節骨折の予防効果なし』
ヒッププロテクターの問題点
ヒッププロテクター装着は大腿骨頸部骨折発生を抑制しうるが、それは当然ながらヒッププロテクターを正しく装着していた場合のみである。
さまざまな研究で、脱落症例が多いことが問題となっており、対象者はさまざまな理由でヒッププロテクターを装着しない。
シェル型は硬く痛みを伴うことが多く、ジェル型は柔らかい代わりに重くてかさばる。
不快感(プロテクターがきつい、暑い、装着そのもに対する拒否反応)や見栄え(腰回りが膨らむ)、あるいは不自由さ(トイレ動作時の煩雑さ)を理由にヒッププロテクターを着けないことが多く、特に夜間の装着率は著しく低下する。
転倒による大腿骨頸部骨折におけるヒッププロテクターの今後の課題
ヒッププロテクターは正しく装着されれば、大腿骨頸部骨折発生率を有意に減少させることができると言われている。
特に施設入所者などで転倒のコントロールが難しいと思われるような対象者には最適な装具と思われる(認知症・徘徊により転倒のリスクが高い高齢者を含む)。
問題点である装着率の低さをデザインの変更や指導法の工夫により改善させること、更には費用を軽減させることも、今後の研究課題となっている。
~ヒッププロテクターも進化~
最近は、ヒッププロテクターの着用のしやすさも改善しているという。
従来、パット付きの下着という特殊性から、本人にとっても、介助者にとっても毎回の着用がわずらわしいと考えられる傾向があった。
骨折の頻度は、1年に何度もあるわけではなく、持っていても着用していなかったケースも、臨床試験で報告されている。
最近では、より軟質でも、骨折予防効果が見込める製品開発も進んでいるという。
パットは軟質よりも硬質のものが効果は高いと見られていたことで、着用すると動きが制限させる問題は無視できなかった。
原田氏は、「従来のヒッププロテクターは、理学的な性能が良くないものもあったかもしれない。今後は、よりはきやすい製品も出てくると見られ、普及すると期待できる」と言う。
原田氏は、「転倒予防のために、ベッドの周囲にマットを敷くような対策も打たれているが、ベッドから離れればマットを敷いて、骨折予防というわけにはいかない。
ヒッププロテクターは、日常の転倒に伴う骨折を予防するためには有効であり、医療安全の観点からは、積極的に導入すべき」と言う。
以下などは、なかなかオシャレで、「今、高齢者に流行りの登山」などで着用していても違和感が無いように感じる。
あるいは以下の様なヒッププロテクターもあるらしい。
※どういう仕組みなのか、車のエアバックの様になっている(日本でも販売してるのかは不明)
以下の動画は、『ヒッププロテクターの着用を嫌がっていた高齢者が、着用に前向きになったことがきっかで、(転倒を恐れることなく)屋外散歩を楽しむようになった』というホノボノとした動画である。
そういった意味では、ヒッププロテクターというツールはICFにおける「活動・参加」に大きく影響を与えることが可能なのかもしれない。
一方で、ヒッププロテクターを受け入れるかどうかは本人にかかっており、(動画でも表現されているように)本人の意志に変化を与えるのは医療スタッフではなく、家族なのかもしれない。
関連記事⇒『ICFにおける活動と参加(+違い)』
関連記事
ここでは「大腿骨頸部・骨粗鬆症・ヒッププロテクター」というキーワードにフォーカスを当てて転倒予防を考えてきたが、もっと包括的な転倒予防に対する記事は以下となる。
大腿骨頸部骨折を含めた「大腿骨近位部骨折全般」について(術式なども含めて)解説した記事は以下になる。
⇒『大腿骨近位部の骨折って何だ?原因・予防法・各手術方法も解説』
また、転倒リスクを考えるにあたってのバランス評価+基準値(カットオフ値)は以下を参照。