この記事では認知行動療法(オペラント行動療法・認知療法)をについて解説していく。
オペラント行動療法
認知行動療法は認知療法と行動療法が統合され、発展した心理療法のことである。
行動療法は1950年代に、それまで主流であった精神分析論の批判から発展した方法で、学習理論に基づく行動変容を行う心理療法である。
行動療法の学習理論はスキナーが用いた『オペラント条件付け』という概念に基づいている。
オペラント条件付けとは、自発的な行動が繰り返される頻度は、その行動の直後に何が起きたかによって変わってくるというものであり、『正の強化』『負の強化』『罰』という三つの基本要素がある。
例えばスキナー箱と呼ばれる実験装置に絶食させたラットを入れ、ブザーが鳴った時にレバーを押すと餌がもらえるようにしておくと、最初はブザーが鳴った時に偶然レバーを押してえさを得るが、それを学習したラットはブザーが鳴った直後にレバーを押すようになる。
餌は行動を起こした結果として与えられた『報酬』であり、行動の再発率を上げる『正の強化』となる。
また、ラットにAとBの餌を与え、Bの餌を食べた場合に中毒症状が出れば、ラットはBの餌を食べる頻度が減る。
Bの餌は『罰』であり、行動の再発率を下げる『負の強化』となる。
「痛み行動」と「認知の歪み」の修正+αの必要性
オペラント条件付けによる行動療法は、患者に自覚的な痛みがある場合でも、痛み行動を速やかに減少させることを期待するものである。
しかし痛み行動が減少しても、痛みの訴えを無視してしまっては、痛みの本質に対応できない。
このような反省から、認知行動療法により認知のゆがみを修正するだけでなく、痛みの基礎知識や自分の痛みについても学び、様々な疼痛体験の軽減を目指すための心理的手法を併用した治療プログラムが行われるようになった。
なかなか治らない痛みは生物学的な要因だけでなく、社会的な要因や心理的な要因が複雑に絡まっているのであれば、それを解きほぐさなければならない。
リハビリテーションにおいては、患者のレベルに合った運動療法プログラムを計画し、少しずつ運動量を増加して、目標が達成できたらスタッフが称賛するなど、正の強化を与える。
患者の痛みや苦しみには深い理解を示しつつも、痛み行動には過度に反応せず、痛みに対して前向きに対処する行動に対して積極的に評価することで、痛み行動と内面の認知の歪みを少しずつ修正していくような治療が望ましい。
認知バイアスの修正は可能である
抑うつ症を含めた精神的失調のあらゆる治療法が、結局はネガティブシンキングのおおもとにある回路に働きかけているのは明らかだ。
これらの回路が活性化し、可塑性のある状態になれば『良い』回路を強めたり、『悪い』回路を弱めたり出来るようになる。
古典的なカウンセリング療法は脳の緊急領域の活動を鎮める一方で、前頭前野の活動を高める効果も持っている。
そうした手法の一つである認知行動療法には感情のコントロール力を高める作用があり、不安症や抑うつ症の治療には最適であることが多い。
この療法は患者の意識レベルで作用する非常に複雑な心理学的介入であり、何らかのガイドラインや方策を患者に提示することで、思考パターンや行動形式を変えようと試みるものだ。
認知行動療法は不安症や抑うつ症の治療にたしかに高い効果をもつが、介入の仕組みが複雑なため、どんなメカニズムで脳に変化をもたらすのかは正確に分かっていない。
しかし、それが効果を持つ理由の一つはおそらく、不安症や抑うつ症の患者のネガティブな認知バイアスを、軽度のものならこの手法で変化させられることにある。
このことは、認知バイアスの変化と不安症や抑うつ症の症状との関係からも、裏付けられている。
ネガティブなバイアスをポジティブな方向に変化させれば、不安の症状は治まり、気分は安定する。
認知バイアスを修正する際のポイントは、物事を否定的に解釈したりネガティブなものに注意を向けたりしがちな基本的傾向を再教育するものだ。
この方法は前意識レベルではたらき、患者の無意識下で作用しながら、本人が気づかないうちに脳に変化をもたらす。
こうした手法で、ネガティブなものよりもポジティブなものに注目する習慣を確立すれば、それを支える回路も徐々に変化し始めるはずだ。
この先さらに研究が必要なのはもちろんだが、認知行動療法が扁桃体ではなく前頭前野の抑制中枢に作用することは、すでに多くの研究で実証されている。
認知行動療法によって認知バイアスの修正などの心理学的介入を行うことは、不安や恐怖の回路を制御する能力を強め、その結果として、有害なバイアスを変化させているはずである。