この記事では、認知療法として用いられる「日記」の効果に関して、記憶バイアス・注意バイアスにフォーカスを当てながら解説していく。

 

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日記による記憶バイアスの修正

 

自分自身の記憶バイアスを修正する手段の一つとして、日記を書くことが挙げられる。

 

人は良くも悪くも記憶バイアスを有していますが、日記を読み返すことで、自身の記憶から抜けていた出来事を思い出すことも可能となる。

 

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うつ病と日記

 

抑うつ傾向によって負の記憶バイアスがかかったクライアントに対しても、日記によって「ポジティブな出来事も存在した」という事実を再認識してもらうことで、バイアスの修正が可能とされている。

 

抑うつ傾向なクライアントに対して日記を書いてもらう実験の中には以下のようなものがある。

 

悲観的で抑うつ度の高い被験者に対して、心に残る出来事に関する日記を1週間つけてもらうように指示した。

その際に、日記の内容は、それほど重要だと思う事柄でなくとも良く、楽しかった出来事、または不快だった出来事についても書くことを付け加えた

 

すると、日記を書いてもらって分かったことは、非常に強力な認知バイアス(注意・記憶のバイアス)が働いているということであった。

 

なので日記を読み返して事実を一緒に確認してみる際に、「ああ、これは忘れてました」ということがよくあったらしい。

 

そして、忘れている内容は、例えば「偶然友人と出会って、思いがけず楽しい会話で盛り上がった」などのポジティブな出来事に関してが多かったとされている。

 

この様な実験から、悲観的で抑うつ度の高い被験者は、「ポジティブではあるが、ささいな出来事」を忘れる傾向にある可能性が言われている。

 

 

日記は注意バイアスにも好影響を及ぼす

 

しかし、更なる日記の研究で分かった重要なことは、
日記を継続的に書くことによって、被験者は日記を書くために良いことも良くないことも『意識的に』探すようになった
と言っていることだ。

 

ここまで述べてきたことからも分かるように、そもそも論として、抑うつ傾向なクライアントは「ネガティブな事象に注意がいきやすい」という『注意バイアス』も持っているため、記憶バイアスうんぬん以前に、注意バイアスの影響で日記自体がネガティブな内容で埋め尽くされてしまう可能性がある。

 

そして、日記の実験で示された『意識的に』探すという行為(思考)が、この『注意バイアス』を転換させるきっかけになり得ることが分かった。

 

つまり、この行為(思考)を繰り返すことで、ポジティブな出来事にも意識が向き始めることで、徐々に注意バイアスの修正も出来るようになることを示唆している。

 

また、日記などにより「ポジティブな出来事」へ目を向けるだけでなく、日々の日常で幸せそうな事象全てに目を向けることも認知バイアス(注意バイアス)を修正する方法として推奨されている。

 

いずれにしても、日常生活におけるこれらの物事に目を向けることは、否定的なものに心を奪われる頻度を減らし、意図的に肯定的なものを見ることが習慣化される可能性を秘めている。

 

※クライアントに日記を提案する際は、やみくもに書いてもらいさえすれば注意バイアスが修正されるというわけではない点に注意が必要となる。

 

※定期的に日記を一緒に読みなおし、大切なポイントをフィードバックするなどを通して、少しずつポジティブな内容にも選択的注意が向くよう促していくことが大切になる。