この記事では、認知行動療法の一環として一般的に用いられているグループセラピーに関して、通所リハビリのとある風景と絡めながら考察してみた。

 

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認知行動療法におけるグループセラピー

 

認知行動療法において認知の歪みを修正する際、医師やセラピストと一対一で治療を行うこともあるが、グループセラピーとして5~10人程度で行われることもある。

 

そして、グループセラピーのメリットは以下のようなものが挙げられる。

 

①自分では思いつかない思考が見つかる

 

②他者の良い面を取り入れることで、考えや行動を変える「モデリング効果」がある

 

③自分と同じ症状を持った人たちがいると分かったり、自分の思いに共感してもらえることで安心感につながる。

 

④人前で話すことや人づきあいへの不安を克服するきっかけになる。

 

⑤個人療法より費用が安くすむ

 

・・・・・・・・・・などなど

 

 

一方でグループセラピーには以下のようなデメリットが挙げられる。

 

①メンバー同士で非適応的な認知を支持し合ったり話が脱線してしまう

 

②議論ではなく、相手に対しての非難になってしまう

 

③メンバーの誤った認知に共感してしまい、自身の認知の歪みが強化されたり、新たな歪みが出現してしまう。

 

※こうしたデメリットを防ぐには、セラピストが注意して会話の流れをコントロールする必要がある。

 

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国際的痛みセンターにおけるグループセラピー

 

国際的痛みセンターでの実際の運動療法も、ほとんどの場合はグループセラピーによって行われるようだ。

以前に投降した番組でも、個別ではなく集団でセラピーが行われていた。

 

クライアントの症状は一人一人違うので、リハビリの細かいメニューの内容は個人個人に対応して考えられますが、個別に考えられたプログラムは10人程度のグループによって進められる。

 

グループ療法のメリットは、他の人の病状が改善している様子を見ることができ、それが自分の希望や励みになるというところにある。

 

プログラムを開始しても改善を実感するまでには時間がかかることも多く、もし一人だけでは「こんなことをやっても無駄じゃないか」という消極的な気分になってしまう人も居るのではないだろうか?

 

一般的に自分のことは客観的にみることは難しく、あまり良くわからないものなのだ。

 

そのため、他者が少しずつでも実際に改善している様子をそばで見たり、他者から「良くなっている」などと評価されることは、非常にポジティブな効果が期待できるとされている。

 

 

通所サービスにおけるグループセラピーの要素

 

私たち理学療法士の臨床では、クライアントに対して個別で対応することが多いため、グループセラピーの効果を直接的に実感するチャンスは少ないかもしれない。

 

しかし、私は通所リハビリにも携わっているので、利用者さん同士がリハビリ室やデイルームでする会話を通してグループセラピーの効果を間接的に実感することはある。

 

ある利用者さん(Aさん90代の女性)は息子と2人暮らしで、息子が自営業をしているため、家事を全て担当している。

 

今のところ訪問介護(ヘルパーさんに来てもらって家事代行をしてもらう)を導入する意思はありませんが、かといって家事を全て担当しなければならないことに対してリハビリ中に愚痴がこぼれたりする。

 

「なんで90歳超えてまで家事をしないといけないのか」

「息子に嫁がいてくれれば料理しなくて済むのに」

「膝や腰が痛いのに、押し車押して買い物行くのが大変」

「人生って上手くいかないものねぇ」   

・・・・・・・・・・・などなど

 

 

リハ室ではそんなネガティブな発言も多いAさんだが、デイルーム(利用者さん達が集って過ごす場所)ではムードメーカー的な存在で、利用者さんたちと交わす会話の内容もリハ室での発言と少し異なる。

 

~例①~

Bさん

「私、膝が悪いから、家ではジッとしていることが多いのよ」

 

Aさん

「あまりジッとしすぎると、ますます膝が痛くなることもあるのよ。適度にお散歩してみたら?私の場合、庭先を少し歩くだけで膝が軽くなるわよ」

 

Bさん

「そうねぇ、私も少しくらいお散歩してみようかしら」

 

 

~例②~

Cさん

「日中は家族が皆外出しているから寂しいわ」

 

Aさん

「私なんて、息子が自営業だから朝昼晩と食事作らなきゃいけないけど、あなたは家事を家族がしてくれるのでしょ?それって凄く有り難いことだから感謝しなくちゃ」

 

Cさん

「そう言われれば、そうかもねぇ」

 

 

~例③~

Dさん

「私もAさんと同じように、献立を考えたり・調理してるから毎日が億劫だし疲れるわ・・・」

 

Aさん

「そうそう、お互い大変ね。でも手先の運動にもなると思うし、料理は認知症予防にも良いってTVで放送してたわよ。なるべく前向きに考えるようにしましょうよ」

Dさん

「確かに、私は頭がまだしっかりしているけど、もしかしたら料理のおかげかもねぇ」

 

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Aさんのデイルームでの会話(例①、②、③)から感じたこと

 

例①のようにAさんにとって効果的であった内容を他者に伝えることは、その行為対して『正の強化』が起こる可能性がある。

 

また、伝えた相手が実際に自分と同様の行為を行うことで効果があったり、感謝されたりした場合、それは「他者への貢献」という社会的報酬が得られるため、多幸感による鎮痛も期待できる。

 

実際に、Bさんは散歩を始めるなど臥床傾向が改善され、痛みの恐怖-回避モデルから脱却できるといった好循環が生じ、Aさんに感謝していた。

 

感謝を受けるAさんの表情は「そうでしょ、歩くのは良いのよ」などと話しながら、とても嬉しそうな笑顔であったことを覚えている。

 

 

例②も、例①と同様にアドバイスによる「他者への貢献」という意味で多幸感につながる可能性がある。

 

また、自分とは立場が真逆な人に対して、自分と対比させることで他者を励ますという行為は、比較的高等なコミュニケーション技術が必要なため、高次な思考を司る前頭前野を活性化させることに繋がり、それによる鎮痛効果も期待できる。

 

更には、様々な境遇の人たちと会話をすることで、自身の立場を可能な限り客観視(認知バイアスの修正)ができるようになるのではないだろうか

 

 

例③は、自身と同様な境遇の人たちとの会話となる。

 

AさんはPTに話す内容(「なんで90歳超えてまで家事をしないといけないのか」「息子に嫁がいてくれれば料理しなくて済むのに」など)とDさんに話す内容は全く異なる。
本音は私に話した内容なのかもしれない。

 

しかし、Dさんをポジティブにするという意味において、あえて認知バイアス(解釈のバイアス)を修正して話すように心掛けるようにしているのかもしれない。

 

そして、本音とは違う内容であったとしても、相手を励ますよう思考することで自分の深層心理とは違った解釈にも気づくことができる。

 

また、自身の深層心理とは異なった発言をする場合であっても、発せられた『言葉』は深層心理をも修正してしまう強力な作用を持っている。

 

これは、仕事が辛い際でも「疲れる」「辛い」などのネガティブな思考や発現を連呼していると更にネガティブになってしまい、逆に辛くても自身を奮い立たせるような内容を思考したり発現することで、辛さが和らぐのと同様だ。

 

あるいは、思考や言葉だけでなく表情も同様で、「ネガティブな感情を抱いている際でも、無理やりにでも笑顔を作ることで、ネガティブ反応が和らぐ」ということは、多くの表情と感情について行われた実験で証明されています。

 

表情が及ぼす影響については、以下の記事も参考にしてみてほしい。

 

幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになれる

 

 

他者と関わること自体が認知行動療法の重要な要素を含んでいる

 

この様な利用者さん同士のやりとりを目の当たりにすることにより、デイケアに限らず地域のコミュニティーなどに参加して、他者とのかかわりを持つことの大切さを日々感じさせられる。

 

人とのつながりというのは、認知行動療法の視点から考えても、生活の質を高める上で大切な要素だといえるのかもしれない。