この記事では『応用行動分析学(ABA)』について、ABC分析も交えて解説している。

 

就職したての新人理学療法士・作業療法士さんは、患者さんと接するにあたって是非覚えておいてほしい考え方である。

 

でもって、オススメ書籍に関しても後述しているの、興味が出た方はそちらもチェックしてみてほしい。

 

目次

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応用行動分析学とは?

 

行動分析学(人間の行動を分析する学問;Behavior Analysis)』において、「実験的行動分析によって導き出された原理や法則を、人間の問題行動の解決へと応用させた方法論」を『応用行動分析学(ABA;Applied Behavior Analysis)』と呼ぶ。

 

ちなみに、『実験的行動分析(Experimental Analysis of Behavior)』とは以下を指す。

 

「環境」を操作することで「行動」がどの程度変化したかを記述することによって、行動の「原理」や「法則」を導き出すための分析

 

行動分析学の基本的な「原理」は以下の2つにある。

  • レスポンデント条件づけ(「古典的条件づけ」「パブロフ型条件づけ」とも呼ばれる)
  • オペラント条件づけ

 

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 応用分析学に用いられる『ABC分析』とは?

 

応用分析学(ABA)は『ABC分析』を基本として考えていく。

 

でもって『ABC分析』のA・B・Cは、それぞれ以下を指す。

 

A:先行刺激(antecedent stimulus)

B:行動(behavior)

C:後続刺激(consequent stimulus)

 

 

私たちは、様々な刺激の存在する『環境』との相互作用の中で『行動』をしている。

 

※ちなみに、「行動(B)」は活動をイメージしてしまいやすいが、「注意を向ける」「推論する」「記憶する」なども行動(behavior)に該当する(要は、世間一般に言われる行動よりも広義な意味で使用される)。

 

 

でもって、私たちの『行動』に影響を与える環境条件のことを『刺激(stimulus)』と呼び、『先行刺激』と『後続刺激』の2つに分けられる。

 

先行刺激

先行刺激とは、「行動」に時間的に先立って存在し、行動を引きだすきっかけとなる刺激を指す。

例えば「勉強しないと、受験に失敗するよ」という先行刺激、「受験なんて将来に影響しないから、勉強しなくても良いよ」という先行刺激のどちらを与えるかで、後の「行動(勉強するかどうか)」が変化する。

※ちなみに、「先行刺激によって、機械的、自動的に決まってくる不随意的行動」を『レスポンデント行動』と呼ぶ。

 

後続刺激

後続刺激とは、行動した結果、環境から与えられる応答(フィードバック)を指す。

例えば、「テストで80点を取った(行動)」のに対して、「80点取れて凄い!と褒めてあげる」という後続刺激、「もっと良い点が取れたのでは?」という後続刺激のどちらを与えるかで「その後の行動(次も勉強頑張ろうという気持ち)」が変化する。

後続刺激の結果、「行動が増えていく場合を強化」「行動が減っていく場合を弱化」と呼ぶ(行動が増えていくような後続刺激を強化刺激、行動が減っていくような刺激を嫌悪刺激と呼ぶ。)。

※行動に対する応答がない場合にも、その行動は減っていき、これは『消去』と呼ぶ。

※ちなみに、「後続刺激によって直接的な影響を受け、増えたり減ったりする行動」のこと『オペラント行動』と呼ぶ。

 

上記のように、「先行刺激(A)」と「後続刺激(C)」が「行動(B)」にどの様な影響を及ぼすかを詳しく分析することを、それぞれの頭文字をとって『ABC分析』と呼ぶ。

 

 

患者行動(リハビリ・運動)を例にABC分析を解説

 

例えばセラピストが患者に対して運動を促そうとしている場面を想定する。

 

先行刺激:

その際に、以下のどちらを先行刺激として加えるかによって、患者の行動が異なってくる。

 

①セラピストは「単に運動の指示だけ」を出す

⇒患者は運動を実施してくれない

 

②セラピストは運動の指示だけでなく「運動の目的・エビデンスも合わせて解説する」

⇒患者は運動を実施してくれる

※もちろん先行刺激は「運動前に、世間話を多少して信頼関係を気づく」など無限に存在し、患者に合った先行刺激を選択する(ここで示しているのは、あくまで一例)。

 

後続刺激(応答):

また患者は、以下のどちらの後続刺激(応答)が起こるかによって、行動(運動)が強化されたり、弱化されたりする。

 

①運動して痛みが和らいだ

⇒行動が強化(疼痛緩和が、運動に対する強化刺激となった)

 

②運動して痛みが悪化した

⇒行動が弱化(疼痛増悪が、運動に対する嫌悪刺激となった)

 

 

理学療法士・作業療法士の行動(モチベーション)を例にABC分析を解説

 

今度は、理学療法士・作業療法士の「リハビリに対する行動(思考・モチベーション・アプローチ方法)」にフォーカスして考えてみよう。

 

理学療法士・作業療法士の行動が、先行刺激や後続刺激(応答)によって変化する可能性がある。

 

先行刺激:

以下のどちらの先行刺激が加わるかによって、セラピストの行動(思考・モチベーション・アプローチ方法など)が異なってくる。

 

①リハビリで担当している患者さんは、病棟でも有名なクレーマーで、気難しくリハビリにも拒否的。

⇒トラブルに巻き込まれたくないな。最初の方は当たり障りなく接し、積極的なリハビリは控えておこう。

 

②リハビリで担当している患者さんは、明るく前向きで、自身のことも好いてくれている。

⇒積極的なリハビリを一緒に頑張ろう

 

後続刺激(応答):

また、理学療法士・作業療法士前述した患者の例と同様い、どの様な後続刺激(応答)を受けるかで、行動(運動)が強化されたり、弱化されたりする。

 

例えば、高齢者の筋力増強訓練を実施する場合、筋力増強効果はすぐには得られないことがある。

 

一方で患者は、即自的効果や慰安的なセラピーを好む傾向にある。

なので、患者に筋力増強訓練を促すと、(後述したように、患者への先行刺激を誤ると)疲れた表情、不満の言葉など、極論としてリハビリ拒否に繋がる可能性だってあり得る。

 

で、この行動(セラピストが筋力増強訓練を促す)に対する後続刺激(患者の疲れた表情・不満の言葉、リハビリ拒否)は、セラピストの行動を弱化させる。

つまり、この後続刺激は『強化刺激(行動を強化する刺激)』ではなく、『嫌悪刺激(行動が弱化する刺激)』になっていると言える。

 

セラピストが筋力増強を選択するには様々な理由(評価の結果筋力低下が著しかった・移乗動作自立に筋力増強が必要と判断したなど)が考えられるが、嫌悪刺激が加わり続けると、(極論として)如何様な理由があろうとも、行動(筋力増強練習)をしようとしなくなる。

※あるいは、負荷を軽くする、反復回数を減らす、徒手抵抗に切り替える、まずは慰安的な内容から始めるなど、いずれにしても行動が変化してくる。

 

 

仮に「筋力増強訓練」が患者にとって有益なものであるならば、ABC分析によってセラピストの行動が強化されるよう(最悪リハビリ拒否にはつながらないよう)工夫したほうが良いだろう)。

※具体的には、適切な先行刺激や後続刺激(嫌悪刺激に繋がらない、強化刺激につながる内容)を配置することによって患者の行動を変化させることが重要となる。

 

そうすると「患者が熱心に筋力トレーニングに取り組んでくれる」「元気になったという効果」「患者の笑顔や感謝の言葉」といったセラピストにとってポジティブな強化刺激が生み出され、セラピストの行動(思考・モチベーション・筋力トレーニングという選択)は強化される。

 

急性期・回復期は自然回復によって「目に見えて患者が良くなっていく」といった現象を目の当たりにし易いので、セラピストの「リハビリに対する意欲・楽しさ・探究心など」が弱化することは少ないかもしれない。

 

一方で維持期・慢性期になると、必ずしも「目に見えて右肩上がりに良くなっていく患者(あるいは利用者)」ばかりではないため、セラピストによっては行動(リハビリに対する意欲・楽しさ・探究心など)が徐々に弱化してしまうケースも存在するのではないだろうか?

 

従って、前述した「患者のリハビリに対するABC分析」も重要だが、「自身のモチベーションンにフォーカスしたABC分析」も大切になってくると感じる。

 

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余談:『ABC分析』の類似用語、『ABC理論』について(+違い)

 

ここから先は、余談として『ABC理論』について掲載して終わりにする。

 

この記事は『応用行動分析学(ABA)』の核となる『ABC分析』について解説してきた。

 

でもって、『ABC分析』と類似した用語に『ABC理論』という用語ががあのだが、これらの用語は以下の様に全く異なる。

 

ABC分析

A:先行刺激(antecedent stimulus)

B:行動(behavior)

C:後続刺激(consequent stimulus)

 

ABC理論

A:様々な出来事(activating event)

B:考えや思い。その状況についての「考え方」や「捉え方」(belief)

C:結果(consequence

 

何となく違いが理解してもらえただろうか?

 

念のため、ABC理論のポイントも、例を交えて示しておく。

 

 

ABC理論のポイント:同じ事実でも、その解釈、行動は異なってくる。

 

『患者行動(リハビリ・運動)を例にABC分析を解説』で記載した内容の一部を、もう一度以下に記載してみる。

 

後続刺激(応答):

患者は、以下のどちらの後続刺激(応答)が起こるかによって、行動(運動)が強化されたり、弱化されたりする。

 

①運動して痛みが和らいだ

⇒行動が強化(疼痛緩和が、運動に対する強化刺激となった)

 

②運動して痛みが悪化した

⇒行動が弱化(疼痛増悪が、運動に対する嫌悪刺激となった)

 

これは、「後続刺激」によって、後の患者行動が変化する(痛みが和らいだら運動に積極的になるし、痛みが悪化したら運動に消極的になる)という内容を示している。

 

ではこの刺激(応答)を「セラピストの行動に与える後続刺激」と捉えなおした場合はどうなるだろうか?

 

(上記ではリハビリ内容を「運動」としているが)自分で考えたてアプローチしたものの、患者の反応がことごとく悪い場合(痛みが改善されない、あるいは悪化する場合)を想像してみてほしい。

 

そんな状況に陥った場合、『ABC分析』で考えるとセラピストは自身の才能を悲観して「自分に、この仕事は向いていないのかもしれない」と考えてしまうことだってあり得る。

 

※で、そこから『ABC分析』で解決策を模索しようと考えるなら、ここまで記載してきた内容を参考にしてみてほしい。

 

 

それでは前述したケースにおいて『(ABC分析ではなく)ABC理論』では、どの様に考えていくのだろうか?

 

ABC理論を、このケースに当てはめると以下になる。

 

A:様々な出来事(activating event)

⇒自分で考えてアプローチしたものの、患者の反応がことごとく悪い(痛みが改善されない、あるいは悪化する)

 

B:考えや思い。その状況についての「考え方」や「捉え方」(belief)

⇒自身の才能を悲観する。

 

C:結果(consequence)

⇒「自分に、この仕事は向いていないのかもしれない」と考え仕事を辞めてしまう。

⇒「あれこれ悩むのをやめ、仕事に対して適当に向き合うようになる」

※まじめな人ほど、前者を選びやすいが、それは勿体ないことだと思う。

 

で、ABC理論の核となる考えは以下になる。

「A」は変えられない。

しかし、「B」は、いかようにも変えられる。

「C」はBによって180°変わってくる。

つまり、「B」についての理解を深めることが大切になる。

 

先ほどの例では、自分で考えたてアプローチしたものの、患者の反応がことごとく悪い場合、自分の才能を悲観するかもしれない。

 

しかし、「悲観する」という考え方・捉え方が全てではない。

例えば「自身の未熟な部分が見つかって良かった(これはポジティブすぎるか??)」などと捉えることも可能だろう。

 

で、(ここまでポジティブな発想に繋がらなかったとしても)悲観しすぎなければ、C(belief)として「仕事を辞める」などではなく、以下の結果も生まれてくるはずである。

  • 先輩に指導を仰ぐ(指導を仰ぐだけでも難しい場合は、先輩に治療してもらい、それを見学させてもらう)
  • 書籍などで勉強し、理解を深める
  • 講習会に参加して、技術を学ぶ

・・・などなど。

 

 

オススメ書籍

 

以下は『応用行動分析学(ABA)』を分かり易く解説してくれているオススメ書籍である。

 

リハビリ(理学療法・作業療法)にまつわる様々な事例も提示しながら解説してくれているので、臨床でも活用しやすい。

 

 

また、もう少し平易に表現された書籍であり、自身にも応用行動分析を活用したいと考えている人には以下の書籍もある。

 

 

 

関連記事

 

以下は、補足の欄に記載した『(ABC分析ではなく)ABC理論』について解説した記事である。

 

ABC理論に興味がある方は合わせて観覧してみてほしい。

⇒『ABC理論(ABC思考法)ー認知行動療法に通ずる思考法

 

また、ABC理論は認知行動療法としても活用されるので、こちらも合わせて観覧してみてほしい。

⇒『(HP)認知行動療法で大切な、認知バイアスを徹底解説!!

 

 

ちなみに、新人さんシリーズの記事に関しては、以下の記事でまとめている。

⇒『新人理学・作業療法士の雑記(個人エピソード含む)まとめ