この記事では、経済学用語の一つである『インセンティブ(incentive)』について記載していく。
インセンティブとは
インセンティブとは以下を指す。
例えば、馬を歩かせようと思った場合、目の前にニンジンをぶら下げておけば、馬はニンジンを食べたいがために歩くだろう。
この場合、馬にとって「にんじん」がインセンティブになったといえる。
インセンティブにおける『アメ』と『ムチ』の要素
インセンティブとは「意欲を引き出すために、外部から与える刺激」を指すと前述した。
でもって、外部から与える刺激には、「アメの要素」「ムチの要素」のいずれかを持たせることになる。
インセンティブにおける「アメ」の要素
例えば、高速道路の渋滞を緩和する政策の一つとして「ETCシステムを料金所に導入すること」を決定したとする。
確かにETCシステムを導入すれば、料金所でのお金のやり取りが不要となるため渋滞は緩和するだろう。
しかし、わざわざ利用者がETCの購入や手続きを考えると、「ETCを車に設置する」ということに対するインセンティブは働きにくい。
でもって、そんな際に「ETCを活用することで高速道路料金を半額(あるいは無料になります)」という制度にするとどうだろう。
強いインセンティブが働き、高速道路利用者の多くはETCを設置してくれる可能性は高い(特に頻回に利用する人たち)。
これが、インセンティブの「アメ」の要素となる。
※ただし、政府のアメは続かないことが多い。
※つまり、この例だと「ETC設置者が多数派を占める頃合いを見計らって半額(あるいは無料)という制度を廃止する」というような事を平気でする。
ちなみに、冒頭で示した「馬の前にニンジンをぶら下げる」というのも、アメの要素を持たせたインセンティブと言える。
インセンティブにおける「ムチ」の要素
例えば、飲酒運転による事故の多発を防ぐため「飲酒運転を減らしたい」と政府が考えたとする。
しかし、いくら「飲酒運転は危険です」と啓蒙したところで、あまり効果はないだろう。
でもって、この様な際は「飲酒運転が発覚した際の罰金を強化すること」は有効に機能する。
これによって強力なインセンティブが働き、飲酒運転の抑制につながるだろう。
※いっそのこと、(悪質な場合に限っては)死刑を制度に盛り込めば、もっと強いインセンティブが働くことだろう。
これが、インセンティブの「ムチ」も要素である。
国は様々なインセンティブを仕掛けてくる
定期的に改定される診療報酬・介護報酬に関しても、国は大きな意味での「方向」に社会を誘導するために、あれこれとインセンティブ(人をやる気にさせる何か)を仕掛けてくる。
例えば、「○○という行為をすることで、加算として報酬を上乗せできる」とすることで、病院・施設などへインセンティブが働くよう促したりする。
でもって「○○という行為をすれば儲かる」と皆が考えて一般化されたところで、
「○○という行為」を「通常業務に包括させてしまう」というように梯子を外して、
急に弱肉強食の世界に変えて、生き残りを余儀なくさせたりする。
例えば、介護保険制度が始まって数年間は、サービスを提供する事業所が圧倒的に足りない。
なので多くの人たちが事業に参入しやすいよう「介護サービスを運営したら、こんなに儲かるのだ」というインセンティブを働かせるよう国は先導していく。
そして、徐々に事業所が増えていき、更には飽和状態に近付いてきた際に、今度は「介護報酬の減算に舵を切る」といった梯子の外し方をして、弱肉強食の世界に変えることで、強者のみが生き残れる世界に変えようと試みる。
※事実として、介護保険が始まった当初は、(今とは比べ物にならないくらい)どんなサービスも簡単にメチャメチャ儲かるような制度設計になっていたらしい。
もちろん、高齢化社会による社会保障財源の問題もあるが、一方でこの様な「インセンティブを働かせる」→「皆が群がる」→「はしごを外す」→「はしごを外されても耐え抜いた者達だけで世界を形成してもらう」という流れは、政府が国民を扇動するための「よくある常套手段」だったりもする。
インセンティブはお金だけじゃないよ
インセンティブ(意欲を引き出すために、外部から与える刺激)はお金だけではない。
例えば「働いても給料は低いまま」という際は、「患者さんの喜ぶ笑顔が見れる」ということを自分の中のインセンティブとすることで、働く意欲の維持・向上を図ることも可能である(う~ん こんな事を書くと、キレイごとだと鼻で笑われそうだな・・・)。
また、お金をインセンティブにしないほうが上手くいくケースもある。
例えば、「肩たたきをしてくれたらお小遣をあげる」といって、子供に肩たたきをさせたとする。
すると(タダで肩たたきをさせるよりは)意欲が出るので、断られる可能性も低くなり、子供は一生懸命肩たたきをしてくれるかもしれない。
ただし、このケースにおける「上手くいかないケース」は以下などが挙げられる。
- 子供にインセンティブが働くに満たない金額だと、逆に頑張ってくれなくなる。
- 肩たたきを今後もお願いしたい場合は、報酬に慣れてしまい、更なる高い報酬でないと同様な意欲が持てなくなってしまう。
これはボランティアにも言えることで、「ボランティアによって社会貢献、他者を笑顔にしている」といった思いが意欲につながっていたにもかかわらず、
「(少額の)報酬をボランティアスタッフに与えることで(お金ももらえるから)もっと頑張ってもらえるのでは」と検証したら、逆に意欲を下げてしまったという検証結果もあったりする。
資格取得もインセンティブに働くよ
理学療法士・作業療法士の世界に多い「認定資格」なども専門的な知識・技術を得るためのインセンティブになり得る。
その資格の価値はひとまず置いておいて、「何のゴールも設定しないまま闇雲に自己研鑽をする」よりも「認定資格」というゴールを設けた方がインセンティブは働きやすいということだ。
自己研鑽には直ぐに結果に結びつきやすいものから、ある程度学び続けることで初めて結果に結びつくものまで様々なものが存在する。
そして長期な自己研鑽の必要があるものとしては「分かり易い目標設定」に認定資格はなり得るかもしれない。
すると、「認定資格の取得のために頑張っていたら、知らず知らずに結果が出せるセラピストになっていた」ということもあり得る。
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もちろん、どんな自己研鑽にも「自分の相性」が存在するため、それを見極めなければ「認定資格を取るというゴールを達成できたは良いが、振り返ってみると何の結果も出せない自己満足な自己研鑽をしていただけだった」となってしまう可能性もあり得るのだが。
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国の政策の裏を読め! JPTAの記事を引用
最後に、「今後の医療・介護の動向」がインセンティブという用語も用いながら『JPTA NEWS 20017,6,No307』で紹介されていたので引用して終わりにする。
H28年11月10日(木)に開催された第2回未来投資会議において、安倍総理大臣から以下の発現があった。
「これまでの介護は、目の前の高齢者ができないことをお世話することが中心でありまして、その結果、現場の労働環境も大変厳しいものでもありました。
これからは、高齢者が自分で出来るようになることを助ける『自立支援』に軸足を置きます。
本人が望む限り、介護が要らない状態までの回復を出来る限り目指していきます。」
また、こういった議論を踏まえH29年4月14日(金)に行われた第7回未来投資会議においては、塩崎厚生労働大臣が「データヘルス改革」と題したプレゼンの中で「2018年(H30)年度介護報酬改定から、自立支援に向けたインセンティブを検討」と記された資料を示した。
また、インセンティブに関して以下の表記もあった。
「自立支援・重度化防止に向けた介護」を促す介護報酬上のインセンティブについては、例えば利用者の要介護度の改善度合い等のアウトカムに応じて、事業所ごとに、介護報酬のメリハリ付けを行う方向で検討を進めるべき。
その際、クリームスキミング(改善見込みのある利用者の選別)を回避する必要性にも留意し、アウトカム評価のみならず、例えば、専門職による機能訓練の実施といったプロセス評価などを組み合わせることを検討すべき。
つまり、介護報酬に関しては、医療報酬と同様に『成果(改善度合い)』をインセンティブにしようとしていることが垣間見える。
※ただし、そうなってくると「成果が認められそうもない利用者は受け入れない」ということも起こってくるため、その点も考えて制度設計を進めているようだ。
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