この記事は、書籍『カラー版カパンジー機能解剖学』を紹介する記事である。
カパンジー機能解剖学とは
『カパンジーの機能解剖学』は上肢・下肢・体幹の三冊で構成されている。
これら三冊がセットになったのが以下になる。
第6版からカラーになって絵が見やすくなっているので、絵ばかりをパラパラと眺めるだけで終わることの多い私にとっては非常にありがたい!
カパンジーは理学療法士の間では比較的知名度があり、学生の時から「ややこしいな」と思いつつも勉強した記憶が蘇ってくる。
また、卒後の徒手療法研修会でカパンディの考えや資料が多く採用されていることが多かったため、筋骨格系の機能解剖の理解を深めるために部分的に読んだりしていた。
文章は相変わらず硬くって頭に残りにくいが、皆さんは是非ちゃんと読み解いてみて欲しい(笑)。
ある研修に参加した際、講師に「カパンジーは読み返すと、自分の成長に伴って、その都度新たな発見がある。バイブルとして何度も読み返してほしい」と言われたのを思い出します(ただ誤った解釈なども多少存在するらしく、原著を読むのが一番ともいわれたが・・)。
私はちゃんと成長しているのだろうか?
少なくとも以前のように、読んでいる最中に睡魔に襲われることは少なくなってきたように思う(笑)
また、絵を観ただけで色々なイメージが湧くようになってきているとは思う。
ここから先は、「カパンジーで紐解く機能解剖」と題して、椎間関節や椎間板についての機能解剖をおまけとして記載していく。
椎間板内の水分移動①
椎間板の中心には髄核があり、この髄核は水分を88%含んだ透明なゼリー状の物質だとされている。
そして、この髄核に圧が加わることで漏出したり、免荷時には再吸収が起こることから、以下が起こるとされている。
①朝が一番髄核内の水分が多い(つまり髄核の内圧が高い)
②活動終わりの夜が一番髄核内の水分が少ない(つまり髄核内圧が低い)
- ①に関しては、朝は髄核内圧が高いということから、以下が言えるかもしれない。
ヘルニアが起こりやすい
変性のある椎間板ではこわばりを感じやすい
②に関しては、夜が一番髄核内圧が低いということもあってか、カパンジーには以下の様な記載がある。
『健常人では、この厚さの一日の終わりでの喪失は2㎝にも達する』
その他で重要なこととしては、加齢とともに椎間板の厚みが無くなっていく(髄核の内圧は減少していく)ということだ。
これは高齢者の脊柱柔軟性が低下する一つの理由とされている。
椎間板内の水分移動②
活動時間(荷重位)が長ければ長いほど、減少した椎間板の厚みが回復するに時間がかかってしまう。
※カパンジーには荷重位・非荷重位に伴う椎間板の厚みの変化が分かりやすくグラフになっていて、その変化が曲線になっていることは興味深い。
上記の現象は『椎間板がきわめて長い時間荷重されたにも関わらず、免荷の時間が十分にとれなければ、椎間板は初期の厚さまで回復できない』ということを意味している。
これは特に、椎間板に変性がある人にとって大切な情報となる。
っというのも、椎間板が健常であるか変性しているかで、椎間板の厚さの減少具合が異なるからだ。
カパンジーでは『椎間板に100㎏の荷重をかけると、健常な椎間板は1.4㎜厚さが減少するのに対して、変性した椎間板は2㎜厚さが減少する』と述べている。
更に興味深いこととして、変性した椎間板では初期の厚さまで完全に回復しない』とも述べている。
例えば、体重80㎏の男性の(一番圧応力が大きい)L5/S1の椎間板では諸々計算して37㎏の負荷が加わるとされている。
このことから100㎏の圧というのは体重216㎏の(椎間板が変性した)男性であれば、立位保持をしただけでどんどん変性が進行していくということだろうか??
まぁ体重216㎏というと身近な問題には聞こえないかもしれないが、姿勢であったり活動であったり(例えば重たいものを持ち上げる際に加わる瞬間的な圧力)で、この100㎏というのは私たちにも加わると思われる。
ただし、『どのくらいの時間100㎏の荷重を加え続けた結果なのか』『じゃあ80㎏では変性は起きなかったのか』『どのくらい変性した椎間板で実験したのか』などなど情報不足であることにご注意を・・・
ズラズラと書いてきましたが、椎間板変性を悪化させないためには、以下が大切なポイントになるのではないかと思う。
①休憩は非荷重位でなるべく長くとるにこしたことはない(昼休憩60分ある中の30分を臥床で過ごして『元気になったから残りの30分は座って漫画読も』ではなく臥位で読むこと!)
②椎間板に加わる圧力を最小限にとどめにはどの様な姿勢や動作が良いかを知っておく必要性がある
③体重は軽いにこしたことはない
椎間板への栄養
椎間板線維綸外側には血管があるため、その部分の断裂や損傷は治癒する可能性がある。
しかし、椎間板内部に関しては、生後すぐは血管が存在して栄養供給されるものの年齢とともに血管が退化していき、成人になるころには血管は存在しなくなる。
では椎間板内部はどの様に栄養供給されているのだろうか?
文献によると『椎間板内部に関しては、椎間板にかかる圧の変化により軟骨終板を介して栄養が供給されている』とされている。
このことから考えると『しなやかな脊柱(どの分節でも程よく可動出来る状態)』というのは椎間板にとって非常に良い状態といえる。
一方で、脊柱の不動状態が続いたり、可動域制限があることにより、椎間板に圧力の変化が生じにくくなることは、
椎間板の栄養が低下、そして椎間板変性を導くことになるのかもしれない。
例えば、過度な安静であったりコルセットの着用であったりは、不動という観点から上記のデメリットも存在するということになる。
あるいは、椎間関節の過少運動性を改善させるということは、椎間関節のみなら椎間板の栄養状態にも影響を与えるということになるのかもしれない。
椎間板線維輪の走行と回旋運動
線維綸の線維は斜走していて、隣接する線維は逆方向に走行している。
そして、斜走の角度は一層一層で異なっており複雑だ。
この構造から屈伸・側屈では隣接し逆走している線維も共に緊張してくれるが、
回旋に関しては『一方向の線維は緊張するが、逆方向へ走行している線維は弛緩してしまう』といったことが起こってしまう。
つまり、緊張した一方向の線維しか回旋に抵抗できないことから、『椎間板は回旋に弱い構造』と言える。
文献によっては、以下の様に記されているものもある。
- 特に前屈を伴う回旋運動は椎間板に損傷を起こす危険性が高くなる
繰り返しの回旋力が加わる結果、最終的に椎間板ヘルニアにつながりやすい
徒手療法を試行する際においても、上記のことを考慮しながら評価をして、脊柱に対する回旋を伴う手技の適応を見極める必要がある。
例えば、下記のように分類して、それぞれの時期に段階に合わせた介入方法を整理しておくことは大切になってくる。
①関節過剰運動性(椎間板損傷が起こりやすい状態)
②線維綸の断裂・損傷直後
③椎間板脱出
④椎間板損傷後の慢性期
この流れからいくと、②③では回旋手技は用いず、安静であったりマッケンジーコンセプトであったりと別の選択肢を用いた方が良い結果が得られるかもしれない。
脊柱の生理的彎曲
脊柱には腰椎・胸椎・頸椎でそれぞれ弯曲が存在しているのですが、カパンジーの本にはこれら湾曲を有するメリットが書かれてある。
そのメリットとは『軸圧に対する脊柱の抵抗力を高めること』だそうだ。
※つまり、脊柱に加わるストレス(重力や歩行時の衝撃など)を和らげる『スプリング』の役割があるということ。
もちろん、脊柱には椎間板が存在していてクッションの働きをしてくれるが、それと一緒に脊柱の湾曲も緩衝の一役を担っているということだろうか。
そして、仮に頸椎・胸椎・腰椎が一直線になっていた場合と比較すると、軸圧に対して10倍の抵抗力を有しているとのこと。
この情報を鵜呑みにするなら、生理的な弯曲が損なわれるということは、十分にストレスが吸収できずに痛みが出てしまう原因にもなり得るということが言える。
ちなみに一部のオステオパシー学派では、仮に脊柱が直線化していたとしたら最もよくみられる症状は頭痛であろうと考えている。
それは歩くたびにショックが常にダイレクトに脳に及んでしまうからだそう(神経根の障害もあるかもしれませんがそれは本質的ではないとのこと)。
上記のことから生理的な弯曲を保つということは非常に重要なことだとであり、姿勢指導や、生理的な弯曲を可能な限り再獲得することには意義があると思われる。
おススメ書籍:カパンジー機能解剖学
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