この記事は『上腕骨骨幹部骨折』について解説している。
骨折後のリハビリ(理学療法)に関するクリニカルパスも掲載しているので、リハビリの参考にしてみてほしい。
※ただし、あくまで参考・目安であり、必ず医師の指示に従うこと
上腕骨骨幹部骨折
上腕骨骨幹部骨折は、「大胸筋付着部と腕橈骨筋起始部の間(すなわち上腕骨の中央1/3部に相当する部)」の骨折である。
上腕骨骨幹部骨折は直達外力により発生する場合が多いが、投球技(野球・槍投・円盤投など)、腕相撲でも骨折をきたすことがある。
上腕骨骨幹部骨折の症状・合併症・診断
症状としては以下などがある。
- 圧痛
- 運動痛
- 変形
- 異常可動性
上腕骨に限らず長幹骨の骨癒合は良好であり、重度の合併症がなければ予後も良好である。上腕骨骨間部骨折で問題となる重度の合併症には、以下などがある。
- 橈骨神経損傷
- 開放骨折
- 2箇所以上の骨折
・・・など。
※橈骨神経損傷では高位麻痺となるため手の機能は著しく障害され、固定期間中であっても神経損傷に対する理学療法が必要となる。。
上腕骨骨幹部骨折は、X線写真で容易に確定できる。
骨折部が三角筋付着部より中枢にあれば、筋力により中枢骨片は内方へ、末梢骨片は外方へ転位を生じるのが一般的である。
また三角筋付着部より末梢部での骨折では、中枢骨片は外上方へ転位する。
上腕骨骨幹部骨折の保存療法
徒手整復後ギプス固定を行うか、持続牽引または機能的骨折装具で骨癒合を待つことが多いが、ハンディングキャスト(hanging cast)がうまくいくことがある。
以下がハンディングキャストになる。
上腕骨骨幹部骨折の手術療法
手術療法は、以下などの場合に選択される。
- 整復が不良で安定性が乏しい場合
- 骨折の状態や、橈骨神経麻痺などの合併症により遷延治療や偽関節の可能性がある場合
- 認知症を伴い保存療法での管理が困難な場合
・・・など
内固定材料としては以下などが挙げられる。
- 髄内釘
- Kirschner鋼線
- Ender nail
- プレート
リハビリ(理学療法・作業療法)
リハビリの考え方としては「上腕骨近位端骨折」とほぼ同じと考えてよい。
ただ上腕骨骨幹部骨折はギプス固定の範囲が広いので、肩関節以外にも肘関節、前腕、手関節にも拘縮が生じることがある。
また、廃用性の機能障害を予測し対処しておくことが基本である。
浮腫は末梢に発生しやすいため特に肘関節屈伸や回内・外の等尺性筋収縮運動を行い、固定除去後は自動運動を併用し、上腕三頭筋付着部周囲の癒着や筋拘縮の改善を図る。
上腕骨骨幹部骨折のクリニカルパス
上腕骨骨幹部骨折のリハビリ(理学療法)を実施するにあたって、以下のクリニカルパスは一つの目安になる。
※あくまでも一例であり、主治医の指示に従うこと
~『理学療法ハンドブック改訂第4版 4巻セット』より引用~
~1W | 1~2W | 4~6W | 8~12W | |
---|---|---|---|---|
ROM運動 |
肘関節屈伸、回内外の等尺性収縮運動や手関節・手指の運動。 固定が強固であれば肩関節の振り子運動。 |
肩・肘・手関節の自動運動 | ---------- | 肩・肘関節の全方向への全可動域運動可。 |
筋力トレーニング | なし |
固定部位の等尺性運動。 手関節掌背屈、手指屈伸は可。 |
6週目の終わりころに仮骨形成が良好であれば肘関節屈伸の等尺性運動可能。 |
肩・肘関節の等尺性運動。 漸増抵抗運動は徐々に負荷増加許可。 |
荷重 |
非荷重。 ただし完全な固定が得られていれば書字や食事動作は許可。 |
一般的に非荷重 |
可動型装具では疼痛のない範囲で上肢に荷重可能。 強固な固定では疼痛範囲内での積極的な荷重。 |
骨癒合が順調であればプレートや創外固定の場合にも荷重練習可能。 |
注意点 |
疼痛、腫脹、知覚異常の有無の評価。 橈骨神経損傷、コンパーメント症候群に注意。 |
---------- | ---------- | ---------- |
骨癒合 |
炎症期。 仮骨形成なし。 |
修復期の始まり。 骨形成系細胞が骨芽細胞へ分化、線維骨を形成。 早期の仮骨形成。 |
修復期。 架橋性仮骨の強度は正常骨より弱い。 |
骨折線は消失し始め、偽関節が明瞭になる。 治癒開始~骨癒合には17週程度という報告もある。 |
オススメ書籍
骨折のリハビリ(理学療法)をするにあたって、以下の書籍を一通りそろえておくと、非常に心強いと思う。
是非参考にしてみてほしい。
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