この記事では『パーソナルスペース』について記載していく。
ペリパーソナルスペースとパーソナルスペース
人間は自分の身体の周りに「なわばり」として感じる空間を持ている。
これを個人の空間(パーソナルスペース)という。
でもってパーソナルスペースは以下の様に細分類される場合もある。
※参考:菅原光晴・月刊神経内科・77(5),512-520,2012
- 遠位空間(extrapersonal space)⇒A
- 近位空間(peripersonal space)⇒B
- 身体空間(personal space)⇒C
ミラーニューロンの発見者、イタリアの脳科学者ジャコモ・リゾラッティは、脳はBの領域内にある人や道具を特殊なやり方で把握していることを発見した。
つまりこの領域内にある人や物を、自分の身体の境界である皮膚が膨張して、あたかも自分の身体の一部であるかのように感じていることを明らかにした。
そして、そのような空間を特にペリパーソナルスペースと名付けた。
たとえば箸やスプーンを使用しているとき、その箸やスプーンは自分の身体の一部であるかのように脳は捉えている。なので、箸で物をつまむ際、箸で物をつまむ感覚のみならず、手で物をつまむような感覚まで感じることが出来る。
あるいはテニス選手はラケットを、を自分の腕が延長したものとして捉えている。
ちなみに、パーソナルスペースに入っている人が「親密な人」である場合、モノの例と同様な現象が起こったりする。
つまりは、「相手が苦痛で顔をしかめると、自分も顔をしかめる」や「相手が笑っていると、自分も笑顔になる」といった様に『脳が相手の行動をみて、自分が行動しているかのように感じる』といった事が起こる。
※これはミラーニューロンの働きが影響していると言われている。
関連記事⇒『ミラーニューロンを解説するよ』
一般的なパーソナルスペースの意味
パーソナルスペースの解釈は様々存在し、以下のほうが一般的な解釈かもしれない。
でもって、ここから先は「一般的なパーソナルスペース」について深堀り解説していく。
パーソナルスペースに人が入った場合
一般的なパーソナルスペースの解釈は「他人に近づかれると不快に感じる空間のこと」と記載した。
でもって、パーソナルスペースは以下の順に狭まっていくと言われている(あくまで一般論)。
- 女性が男性に正面から近かれる場合の距離(このパターンが、最も距離を長くとる)。
- 男性が男性に正面から近づくかれる場合の距離
- 女性が女性に正面から近づかれる場合の距離
- 男性が女性に正面から近づかれる場合の距離(このパターンが最も距離を短くとる)
※上記は受け身の立場におけるパーソナルスペースの話。
極論として、「女性が男性に不用意に近づかれるのは嫌だし警戒心が高まる」が、「男性が女性にグッと近づかれても、嫌な気分になりにくい」と表現であれば、なんとなくパーソナルスペースをイメージし易いかもしれない。
初対面の場合は、パーソナルスペースに注意する
「自分にとってのパーソナルスペース」と「相手のパーソナルスペース」は同一ではない。
対話をする際、「妙に話す距離が近い人」がいる一方で、「話す際の距離を遠く感じる人」もいる。
これは、私が思っているパーソナルスペースと相手が思っているパーソナルスペースが異なっていることを意味する(あるいは、好かれている or 嫌われている といった要素によっても距離は関係してくると思うが)。
なので初対面の場合、(自分のパーソナルスペースではなく)相手のパーソナルスペースに配慮したほうが良い場合があるかもしれない。
※配慮することで「相手に不快感・不安・恐れを抱かせ、緊張が高まったり、円滑にリハビリが進まないなど」が起こらないケースがあるかもしれない。
以下はウィキペディアから引用したパーソナルスペースのイラスト。
前後に均等なパーソナルスペースが敷かれている。
一方で、以下は前述した『菅原光晴・月刊神経内科・77(5),512-520,2012』のパーソナルスペース。
このパーソナルスペースでは、正面よりも背面(+側面)の距離が短くなる傾向にあることを示している。
で、「ウィキペディアのパーソナルスペース」より、こちらのパーソナルスペースの考え方(正面よりも背面・側面の距離が短くなるという考え)の方が一般的だと思う。
例えば飲食店で、初対面の人と30分話し続けなければならない場面を想像してみよう。
対面するよう椅子に座って話し続けるのと斜め前方に位置するのとでは緊張感が違ってくるのではないだろうか?あるいは、カウンターに並んで座って話したほうが緊張しにくいといった事もあるだろう。
初めてのデートでドライブをするのも、運転席と助手席に並んで座るので(飲食店で真正面に相対して話すのに比べると)パーソナルスペース的には緊張せずに話せるといったことがあるかもしれない。
当然、リハビリ(理学療法・作業療法)でも配慮すべき
パーソナルスペースは、当然のことながらリハビリ(理学療法・作業療法)を実施する際も配慮すべきである。
問診の際の距離、立ち位置などの参考にもなる。
ちなみに、『書籍:結果の出せる整形外科理学療法−運動連鎖から全身をみる』では以下のような記述がある。
ヒトはパーソナルスペースという、各個人の侵略されたくない空間をもっている。
特に前方はその感覚が強く、不快感、恐怖感を生じさせやすいため、肩の触診は決して前方から行うことはない。
また、背後の場合、別の恐怖感も生じるため、最も受け入れられやすい。
僧帽筋中部、一般的に肩こりを生じやすい部分に触れ、その後触診箇所に移るのが適切である。
ある国では、肩の専門医試験において、前方から肩を触診しただけで、試験を中止させられることもあるという。
訪問リハビリとパーソナルスペース
『パーソナルスペース』の解釈を「他人に近づかれると不快に感じる空間」とした場合、それを「人の生活空間(縄張り)」と広く捉えることも出来る。
人の生活空間はプライベートな空間であり、例えば「自宅」というパーソナルスペースに人を入れたがらない事もあるだろう。
※ちなみに、私も(友人も含めて)自宅には招きたくないタイプの人間だ。
なので、対象者宅のルールもわきまえながら、「パーソナルスペースに入らせて頂く」という意識を持つことが重要だ。
具体例としては以下などがあげられる(あくまで一例)。
- パーソナルスペースに入るので、相手がどう感じるかを考えて.きょろきょろ見回したり、飾っている物に勝手に触ったりして不愉快な思いをさせないようにする。
- 自分の都合で部屋を快適な温度に調節したり、ドアを開けっ放しにしたり、勝手に配置を変えたりしないようにする。
- リハビリ(理学療法・作業療法)を実施するからといって、対象者または家族の承諾なしに勝手に身体に触れたり、ベッドに上がったりすることのないようにする。
- 必ず対象者または家族の了解を得てから行動する。
- 人が家に出入りして特に問題となりやすいトラブルは、財布や金銭関係なので、今後、訪問理学療法士が疑われることのないように自分の潔癖を証明できるようにしておく。
- また、訪問先でものを拝借するときは、水道やティッシュなどを使いすぎないようにし、使ったものはきちんと片付けておく。
- 理学療法活動が終了した後は、対象者の生活の場であることを意識して、対象者の衣類やシーツの乱れを整え、ベッド周辺などの環境も対象者の使用しやすい状態にしておくようにする。
これらの例のように、「家庭という場」でリハビリ(理学療法・作業療法)を実践するためには、『パーソナルスペースの観点からの配慮』を常に忘れないようにすることも大切となってくる。