この記事では、『姿勢反射(postural-reflection)』という用語について記載していく。
身体には色んな反射があるよ
姿勢反射や立ち直り反射、そして後述する平衡反射は、ヒトを含め動物の生存には大切な機能である。
でもって、環境の変化に伴う身体的変化を最小限にし、安全を保つための制御機構ともいえる。
身体的変化が小さいときは、その影響は全身に及ばないが、変化が大きければ大きいほど全身に影響を及ぼし、全身的な反応となってくる。
姿勢保持には、視覚により身体の傾きを補正することもあるが、多くの場合は、無意識のうちに行われていることが多い。
姿勢反射と立ち直り反射
まずは姿勢反射と立ち直り反射について記載していく。
姿勢反射とは
姿勢反射とは、体位反射とも呼ばれる。
重力と体軸との関係で、身体の支持面の状態に応じてヒトは自動的に姿勢を変化させていくのだが、このとき働くのが『姿勢反射』である。
身体は、位置感覚に関連する全身の知覚によって反射的に全身の筋が適切に緊張し、身体の位置や姿勢・運動における平衡を保つ機能を有している。
そして、身体が静止しているときの姿勢反射を『平衡反射』と呼んだり、
運動しているときの姿勢反射を『平衡性運動反射』と呼ぶことがある。
ただし、『姿勢反射』という用語は、文献によって様々な表現がなされている。
その点も踏まえたうえで、記事を観覧してみてほしい。
姿勢反射とは「姿勢の移動や運動時など身体の位置の移動(重心移動)に際し、重力に抗して姿勢保持に反射的に働く筋肉の収縮反応」で、脊髄神経の支配を受けて行われる。
姿勢反射には前庭反射・緊張性頸反射・立ち直り反射・踏み直り反応・支持反応などがある。
~文献:理学療法学事典~
姿勢反射の種類
姿勢反射の中枢は脊髄レベルとされ、上位中枢との連絡を絶つと、解放された下位中枢の機能が強く現れるようになる。
姿勢反射は以下に分類される。
局在性な姿勢反射:
「刺激を加えた一側下肢のみの反応」のように、身体の一部に現れる反応。
例えば、動物の四肢が硬直して身体を支える陽性支持反応が挙げられる。
※局在性な姿勢反射は重力や外力が刺激となる。
陽性支持反応…足底を床につけると肢は柱のように固くなる
※左イラストは、右下肢の陽性支持反応
体節性な姿勢反射:
上下肢など、体節全体、両側性に起こる反応。
『屈筋逃避反射』や『交叉性伸展反射』が典型的な体幹性反射として挙げられる。
※「体節性な姿勢反射」は四肢の動きによって起こる。
汎在性な姿勢反射:
上下肢の反応のように多くの体節に現れる反応で、『緊張性頸反射』と『緊張性迷路反射』が最も代表的なものとされる。
※「汎在性な姿勢反射」は頭部の空間での位置や動きによって起こる。
- 緊張性頸反射
上部頸椎の関節の固有受容器の興奮で誘発され、頸部の伸張度によって四肢の伸筋の緊張を変化させる。
『対称性緊張性頚反射(symmetric tonic neck reflex :STNR)』や『非対称性緊張性頚反射(asymmetric tonic neck reflex :ATNR)』が該当する。
対称性緊張性頸反射(STNR):
STNRは、頚部を矢状面で屈曲-伸展した場合に生じる。
頚部の屈曲は、上肢屈筋・手指屈筋の緊張を増し、伸筋の緊張を低下させる。また、下肢の伸筋の緊張を増し、屈筋の緊張を低下させる。
※逆に頚部の伸展は、上肢と体幹の伸筋の活動を高め、上肢と手指の屈筋の緊張を低下させる。また、下肢の屈筋の緊張を高め、伸筋の緊張を低下させる。
非対称性緊張性頸反射(ATNR):
ATNRは、例えば他動的に頭部を体幹に対して回転させると、顔面側の上下肢は伸展、後頭部側の上下肢は屈曲する
野球などの投球時のフォームなどがイメージしやすい(詳しくは後述する動画を参照)
- 緊張性迷路反射
⇒これは内耳にある迷路が刺激されて全身の緊張分布に変化を及ぼすものであり、以下の様な反射を意味する。
背臥位:背臥位の姿勢が刺激となり四肢の伸筋緊張が亢進し曲げにくくなる。
腹臥位:腹臥位の姿勢が刺激となり四肢の屈筋緊張が亢進し伸ばすときに抵抗を感じる。
これは動物実験で除脳することにより高次中枢の影響を取り除き、延髄動物にすると背臥位では伸筋緊張が高まり、腹臥位では屈筋緊張が高まったことから発見された。
背臥位(あるいは半側臥位)で背部に圧刺激が加わり続けている寝たきり患者さんでは、起こした際も下肢・体幹が伸展方向へ突っ張って、端坐位(全身の屈曲)に体が馴染むまで時間を要す場合があるが、それらの中の一部には緊張性迷路反射の影響が加味されている可能性がある。背臥位で頚部が伸展位となっており、後頸部筋群などがガチガチに緊張している場合があるが、マッサージなどではなく、端坐位になってもらうだけで(反射の影響であれば緩む)のは周知の事実である。
上記のような姿勢反射は脊髄動物(低位除脳動物)でもみられる(姿勢反射の中枢は脊髄なので、脊髄を有していれば起こる反射である)。
ただし、中脳動物(上位除脳動物)のような『立ち直り反射』は見られないため、私たちのように直立姿勢を保持することは出来ない(=立ち直り反射は欠如している)。
※姿勢反射は基本的には脊髄のレベルでは発現するが、中脳の参加のもとに統合される。
更に大脳皮質における『踏み直り反射』や『跳び直り反応』なども姿勢反射に関与することが知られている。
つまり、厳密な意味での姿勢反射を挙げると「局在性・体節性・汎在性の姿勢反射」のみが該当するが、「姿勢反射が関与している反射・反応」と広い意味でとらえると、多様な反射・反応が該当することになる。
人間が重力に抗して一定の姿勢を保ち転倒しないためには頭頸部・四肢・体幹を伸ばして、しっかりと固定しなければならない。
生後の発進に伴って姿勢のパターンは変化してくる。
寝たままの姿勢、四つ這いでの姿勢、さらに足底で起立する姿勢などである。
立位は最も不安定であるが、消費エネルギーは最も少ない。
その立位を保持するためには筋群は同時収縮し緊張を持続しなければならない。
脊髄性の伸張反射だけでは、同時に屈筋に相反神経支配による抑制が起こり関節を十分に固定できない。
したがって姿勢を重力に抗して保持するには脊髄・脳幹・基底核・皮質レベルの中枢神経系の反射メカニズムの作用が必要となる。
この色々なレベルの反射を総称して姿勢反射という。
~アドバンス版 図解 理学療法技術ガイド(の臨床PNF)より引用~
立ち直り反射とは
「脊髄動物には見られないが、中脳動物にはみられる姿勢反射」として『立ち直り反射(立ち直り反応)』が挙げられる。
立ち直り反射は、正常な位置から身体がずれているとき、正常の位置に姿勢を戻そうと働く反射である。
※もっと詳細は立ち直り反射(立ち直り反応)に関しては、後述するリンク先を参照してみてほしい。
姿勢反射を動画で紹介
姿勢反射に関して、緊張性迷路反射・立ち直り反射・緊張性頸反射(+ひっかき反射)の順に解説されており、身振り手振りで分かり易い例えとともに解説しているので、ぜひ一度観覧してみてほしい。
平衡反応とは
運動時には、はるかに複雑な反応が必要になる。
立位時であれば、支持基底面は狭く、運動に伴い重心はすぐに支持基底面からはみ出てしまう。
このとき倒れることなく、バランスをとる反応を平衡反応という。
※冒頭でも記載したように、身体が静止しているときの姿勢反射を『平衡反射』と呼んだり、運動しているときの姿勢反射を『平衡性運動反射』と呼ぶこともある。
※あるいは、冒頭で分類した姿勢反射の分類も、姿勢反射ではなく「局在性平衡反射」「体節性平衡反射」「汎在性平衡反射」と呼ばれることもある。
※何が言いたいかというと、同じ意味でも書籍によっていろいろな呼ばれ方をしているという事。
話を元に戻して、平衡反射(平衡反応)の種類について記載していく。
平衡反射(平衡反応)の種類
平衡機能は、検査の方法により種々の名称がある。
パラシュート反応(parachute reaction):
垂直位置から急速に下方に動かすと、両下肢は外転・伸展し足指は開排し、支持基底面を広くとるよう準備する。
また体を急に上方へ動かしたときの反応(lift reaction)では、上肢・頭部は屈曲する反応である。
防御反応(protective reaction):
体が水平方向に急に動かされたときの反応を指す。
例えば立位時前方に押されたとき、足関節は底屈、足指は屈曲、上肢は後方伸展してくる。
座位であれば、上肢が伸展し手掌面で体を支えるようにする。
傾斜反応(tilting reaction):
被検者を板上にのせ、さまざまな姿勢で板を動かしたときの反応を指す。
背臥位で板を左右に傾けると体幹の側屈が生じる。
眼球運動と頭部の動き:
頭部の回転運動に伴い眼振が生じる。
身体が左に回転すると、頭部は右にむく。
姿勢反射と筋緊張
高位レベルの姿勢反射・反応は正常な筋緊張が備わっていることが重要である。
筋緊張の亢進 or 著しい低下があると、姿勢調節は困難となる。
なので、以下などでは姿勢反射障害がみられる。
・脳血管障害に起因する錐体路障害
・大脳基底核病変のパーキンソン病
・小脳・脊髄性の失調症
・脱髄疾患である多発性硬化症などの神経疾患
筋緊張とは? 筋トーヌステスト(筋緊張検査)も含めて紹介
また、(このブログでは全く扱っていないが)脳性麻痺児・発達障害児にも姿勢反射・反応の成熟が遅延あるいは停滞する場合がある。
あるいは、『姿勢反射は、成長に伴いより成熟したものに統合されていく』というのは重要な点なので押さえておいてほしい。
これら姿勢反射は、表在及び深部感覚系からの刺激をそれぞれの中枢で受け、上位中枢からの修正によって姿勢の調節を行う。
そのため、中枢神経に障害が起こると上位中枢からの調節が困難になり、健常者では通常認められない反射などが出現する
関連記事⇒『病的反射検査を網羅! 動画もあるよ』
一般的には、中脳レベルより上位の反射・反応は生涯持続するが、脳幹レベルより下位の反射・反応の多くは発達とともに統合され、特殊な場合を除き出現しない。
そのため、中枢神経障害に対しては、非麻痺側の機能を向上させることも重要であるが、麻痺側について考慮すると、中脳レベル以上の反射・反応をいかに誘発するかが治療上のポイントとなる。
~『文献:理学療法学テキスト (3) 運動療法 1』より引用~
例えば、いつまでも(極端な)緊張性反射が残存していると、正常な立ち直り・平衡反応の発達に影響を与え、協調性のある姿勢運動パターンの獲得を阻害する。
※原始反射なんかは次第に抑制されていく。
原始反射(primitive reflex)とは:
出産後早期に出現し、やがて表面的には観察されなくなる反射。
これらの反射はそれ自体が運動発達における異常を示すものとはいえず、健常な乳幼児においても観察される。
しかし一定の時期がくるとより高いレベルの反射に統合され、反射は抑制され観察されにくくなる。
仮に長期間にわたってこれらの反射が抑制されず、わずかな刺激で誘発されることがあると、本来出現すべき高いレベルの反射の成熟を妨げることとなる。
このため一定期間を過ぎても反射が明らかに観察される場合は運動発達において異常性の兆候としてとらえられる。
Milaniが原始反射として運動発達評価表で取り上げたのは、把握反射・非対称性緊張性頚反射・モロー反射・対称性緊張性頚部反射・足底反射である。
~『文献:理学療法ハンドブック第3版』より引用~
例えば、『汎在性な姿勢反射』の例として非対称性緊張性頚反射(ATNR)を挙げ、動画においても(投球動作などで)活用されるかのような解説をした。
しかし厳密には、ATNRも原始反射に含まれ「常児は4~6カ月までは陽性反応、6カ月以後の陽性は反射性成熟の遅滞」と判断する。
反射とは「一つの刺激に対して一つの反応しか返ってこないがそれは必ずおこるもの」を指すため、成人しても首を捻るごとにATNRが出現していては生活がままならない。
なので、野球ボールのキャッチングや投球動作時にATNR「様」なフォームになるのは、『ATNRの要素が潜在的に残っているから』といった表現の方が、この意見を支持しやすい。
緊張性頚反射は、正常の場合、実際に明らかになることは少なく、むしろ、その出現は異常とされる。
しかし、正常の場合でも、大きな努力を必要とするような活動では、その影響が明らかとなり、通常の動作にも背景で役立っていることがわかる。
緊張性頚反射は重力には影響されないが、実際の場面では、重力ので緊張性迷路反射が出現するため、その修飾を受ける。
~『現代リハビリテーション医学 改訂第4版』より引用~
姿勢反射を総まとめ
ここまで、姿勢反射についてゴチャゴチャと記載してきたが、ここから先は、以下の順に簡潔に姿勢反射をまとめて終わりにする。
①脊髄レベルの反射
②脳幹レベルの反射
③中脳レベルの反射
④皮質レベルの反射
①脊髄レベルの反射
脊髄レベルの反射は局所的・機能的・生理的単位であり、以下の性質を有している。
- 相動性の活動を有するが、その活動は短時間である。
- 主動筋は興奮し、拮抗筋は抑制された状態にある。
- 共同筋お同時収縮が生じるが、これは中枢の興奮の程度により左右される。
- 交互運動を行う時の、主動筋と拮抗筋間の相反神経支配による調節がこのレベルで行われる。
脊髄レベルの反射としては以下などが挙げられる。
- 屈筋逃避反射
- 引っ込め反射(flexor withdrawal reflex)
- 伸筋突出(extenser thrust)
- 交叉(性)伸展反射・シザーズ反射(crossed extension reflex)
- 足底把握反射(plantar grasp reflex)
- ガラント反射(Galant reflex)
※これらの反射は、脳幹レベルの反射が起こる前に出現する必要がある。
②脳幹レベルの反射
脳幹レベルの反射は、興奮及び抑制する経路を有しているため、脳幹及び皮質レベルからの調節が不十分であれば、異常な筋緊張を呈する。
脳幹レベルの反射は以下の性質を有している。
- 緊張性活動が出現する。
- 局在性、汎在性の反応が出現し、体全体に影響を及ぼす。
- 拮抗筋へ緊張が波及する。
- 反射を構成する筋への、選択的調節が行われる。
脳幹レベルの反射としては以下などが挙げられる。
- 緊張性迷路反射(tonic labyrinthine reflex :TLR)
- 非対称性緊張整形反射(asymmetric tonic neck reflex :ATNR)
- 対称性緊張整形反射(symmetric tonic neck reflex :STNR)
- 連合反応(associated reaction)
- 陽性支持反射(positive supporting reflex)
- 陰性支持反射(negative supporting reflex)
この他に、延髄~橋に中枢を有するモロー反射(the Moro reflex)、ルーティング反射(rooting reflex)、吸引・嚥下反射(sucking swallowing reflex)、引き起こし反射(traction reflex)などがある。
※ただし、これらの反射・反応の一部は、報告者によりその中枢が異なる点には注意し、混乱しないでほしい。
③中脳レベルの反射
中脳レベルの反射は、生涯持続し健常者における身体運動の基礎となる。
※このレベルになってくると「反射」という表現ではなく「反応」という表現も使われ始める。
反射(反応)としては、以下などが挙げられる。
- 迷路性頭の立ち直り反応(labyrinthine head righting reaction :LRR)
- 頭に作用する体の立ち直り反応(body righting reaction on the head :BOH)
- 体に作用する頸の立ち直り反応(neck righting reaction acting on the head :NOB)
- 体に作用する体の立ち直り反応(body righting reaction acting on the body :BOB)
- 両性動物的反応(amphibian reaction)
④皮質レベルの反射
皮質レベルの反射は、脊髄から中脳レベルの反射を調節できる。
皮質レベルの反射は複雑であり、感覚・運動中枢の統合を必要とするため、以下の調整を行う。
- 抑制解除:下位の反射を解放し、運動活動が増加する。
- 興奮の抑制:運動活動が減少する。
- 抑制の興奮:下位の運動活動が減少する。
- 興奮の興奮:運動活動が増加する
- 直接の錐体路抑制:意志により筋緊張を調節する。
皮質レベルの反射(反応)は以下などが挙げられる。
- 視覚性立ち直り反応(optical righting reactions :ORR)
- 平衡反応(equilibrium reaction)⇒視覚性台乗せ反応・保護伸展反応・傾斜反応・姿勢固定反応・・・・など。
参考文献
この記事の主な参考文献は以下になる。
・理学療法学事典
・南山堂医学辞書
・運動療法学ー障害別アプローチの理論と実際
・理学療法評価学
・理学療法学テキスト 運動療法1
・理学療法ハンドブック第三版
関連記事
姿勢反射に関して、『立ち直り反応』と『平衡反応』にフォーカスを当てた記事として以下もある。
重複する部分も多々あるが、異なった切り口からの解説も含まれているので、この記事と合わせて観覧してもらうと姿勢反射への理解が深まるかもしれない。
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