この記事では、肩関節を中心とした「上肢リハビリ」に活用される『サンディングボード』について、サンディング運動の目的・効果も含めて記載していく。
サンディングボードとは
サンディングは、もともと大工作業に由来する方法である。
※サンディングとは「やすりをかけて滑らかにする作業」を指す。
サンディングの方法は以下の通り。
でもって、サンディング運動を実施する際に用いられるボードを『サンディングボード』と呼ぶ。
サンディング運動の目的
サンディング運動は機能的作業療法の一つであり、目的は以下の通り。
片手で実施するのが一般的だが、麻痺が重度な場合は、非麻痺側手で麻痺側手を補助しつつ(つまり両手で)実施する場合もある。
使い方は、前述したように「傾斜面の上で、手で握った板を上下に滑らせる運動」を指す。
サンディングボードの使い方(具体例)
卓上型サンディングボードを腋窩レベルの高さに調節する。
サンディングボードの傾斜角度を、対象者に丁度良い角度に合わせる(傾斜角度があるほうが、屈曲や外転角度も増す)。
屈曲と肩甲骨のprotractionの運動:
握り棒付き板を、傾斜面に沿って前方、遠く上方へ突き出しスライドさせる。握り棒板が遠く前方へ行くほど屈曲角度が増す。
肩甲骨面挙上と肩甲骨のprotractionの運動:
外転30°から45°位で棒付き板を把持し、傾斜面を側方へできるだけ遠く上方へ突き出しスライドさせる。
※肩甲骨のprotractionに関しては以下の記事も参照。
サンディングを用いた骨盤・股関節へのアプローチ
サンディングは「上肢に対するアプローチ」として用いられるが、骨盤・股関節へのアプローチに応用したりもできる。
例えばサンディングにて、骨盤前傾による股関節屈曲運動を伴いつつ、上体の重さを支えた状態で前方への重心移動を促すことができる(以下のイラスト左)。
※サンディングを利用して股関節屈曲可動域拡大と前方への重心移動訓練といたことも可能ということ。
この様な運動を、大腿骨骨折の術後に用いることも可能である。
サンディングの様に末梢(大腿骨)が固定され、中枢(骨盤)を可動させたほうが疼痛が誘発されにくかったり、本人の意識が(患部ではなく)上肢運動に向くことで過剰な股関節周囲筋の防御性収縮が起こらない場合がある。
反応が良い場合は活用してみてほしい。
サンディングの効果
先ほど、サンディングの目的について「上肢機能の改善」と記載した。
でもってサンディングは「脳卒中片麻痺の上肢に対するアプローチ」として紹介されることが多いが、整形外科的な「肩関節・肘関節の機能不全」にも活用される。
例えば上肢の挙上運動に関して、「肘を伸ばしたまま上肢を(他動or自動介助or自動運動で)挙上する」といったエクササイズが実施されやすいが、サンディングの様に、挙上する際はリーチするような「肩甲帯・肩関節・肘関節」が連動して動いている。
つまり上記の様なエクササイズよりも、サンディングの様な動作を取り入れる方が「機能的な運動(日常生活に即した動き・運動)」ということになる。
※この記事ではサンディングを紹介しているが、器具を用いない徒手誘導によるアプローチの際にも、この考え方は重要となる。
また、同じように上肢挙上運動に活用される器具として「プーリー」があるが、「機能的な運動」という観点からはサンディング様な動作の方がお勧めできる。
※単に関節可動域の獲得を目的としているのであれば「プーリー」でも問題ないし、自主トレて押しても適しているケースはあるとは思うが。
また、ゼロポジションからの挙上は、「(三角筋などで)上肢を持ち上げている」のではなくて「(前鋸筋なども収縮し)押し上げている」という表現の方が正しい。
※もちろん、体幹の動きも重要となってくる。
この観点からも「プーリー体操」より「サンディング」のほうがお勧めできるエクササイズと言える。
それよりも「サンディング(前方へ手を伸ばす)」のほうが重要なケースも多い。
※サンディングとは、麻痺した手の機能回復や、関節の動きの改善を目的に、傾斜したボード上を上下方向に滑らせるサンディング動きを指す。
リハビリ器具に関する質問
最後にリハビリ器具に関する質問を『リハビリテーション医学Q&A』から引用して終わにする。
質問:脳卒中による片麻痺上肢に対する作業療法で正しいのは、以下のうちどれか。
②サンディングは手指の巧緻性向上に有効である。
③プーリーは協調性運動に適している。
④バイオフィードバックは筋再教育練習に有効である。
⑤利き手交換では、書字の練習はひらがなより開始する。
で、回答は④になる。
ちなみに、サンディングの目的は「筋力強化・関節可動域訓練」とのこと。
他の項目に関する誤りは、分かるだろうか?
これらの器具に関しては以下の記事で解説しているので、興味がある方は観覧してみてほし。