私達が起こす失敗は、ポジティブな要素に変換することが可能である。

 

従って、失敗を恐れずに挑戦することは、仮に失敗を繰り返したとしても、最終的には良い結果に繋がることも多い。

 

一方で失敗によるネガティブな感情が、私たちを良からぬ方向へ誘ってしまうことがあるのも事実であり、これは「学習性無力感」が関与していると言われている。

 

今回は、そんな「学習性無力感」について記載していく。

 

学習性無力感とは

 

私達は大きな失敗に直面すると、パニックになり思考停止に陥りがちだ。

 

そして、時として物事を冷静に考える力を失ってしまうことすらある。

 

「この失敗は自分の責任だ」「人に迷惑をかけて申し訳ない」といった自責の念で頭の中がいっぱいになり、それがきっかけとなって、恐れ、不安、罪悪感、憂うつ羞恥心などのネガティブ感情が一気に現れる。

 

そして、これらネガティブな感情は私達の行動にも影響を及ぼす。

 

例えば恐れの感情は逃避行動に繋がる。

 

不安を感じると、更なる失敗を回避するために、新たな挑戦のやる気をくじかせる。

 

罪悪感は迷惑をかけた人への謝罪行動を促し、憂うつ感は引き込もりの行動に導く。

 

これらのネガティブな感情は、慢性疼痛患者にも当てはまり、「痛み行動」となって現れることもある。

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また、失敗した際に生じる羞恥心は、人と関わるのを避けたいという感情につながったり、(率先して物事を行わず)従属的な態度をとるようになる人もいる。

 

前述したように、失敗をすることは決して悪いことではないのだが、失敗した後に生まれるネガティブな感情に心が支配されてしまい、それが何度も重なってしまうと、「無力」「無気力」へ繋がってしまうことがある。

 

そして、この様なネガティブ感情に陥る癖は「学習性無力感」と呼ばれる。

 

 

 

学習性無力感の研究

 

「学習性無力感」の研究はマテーティン・セグリマンらによって行われた。

 

※セグリマンといえば現在では「ポジティブ心理学」の創始者の一人として有名な心理学者である。

 

※そんなセグリマンのキャリアの初期はポジティブ心理学ではなく、学習性無力感も含めたうつ病研究の権威として名前が知られていた。

 

 

セグリマンが行ったのは以下のような実験であった。

 

『犬を対象に、合図を鳴らした後に、軽い電気ショックという苦痛を与える。
そして、「合図を鳴らす⇒電気ショックを与える」を繰り返すことによって犬がどの様な反応を示すようになるか観察する』

 

これはパブロフの条件付けと同様な反応を狙った実験であり、「犬は、合図が鳴ると反射的に(軽い電気ショックを恐れて)箱の敷居を飛び越える」ということを想定していた。

 

しかし犬は「合図をならす⇒電気ショックを与える」を繰り返しても、その場を動こうとはしなかった。

 

これは犬が「敷居を飛び越えて電気ショックを逃れても、結局電気ショックの実験に戻される。逃げることは無意味だ」という無力感を学習したからだと解釈されている。

 

 

学習性無力感のメカニズム

 

学習性無力感は私たち人間にも起こり、それは動物実験と同様に以下の機序で生じる。

 

  1. 不快な体験が起こる
  2. 状況を変えることは自分ではコントロールできないと認識する
  3. 将来もこの不快な体験は続くだろうと悲観的な考えが生まれる
  4. 将来も自分のおかれた状況をコントロールできないと認識する
  5. 学習性無力感を学習する

 

 

痛み行動と学習性無力感

 

理学療法士・作業療法士として相対するクライアントも学習性無力感を抱えている場合がある。

 

例えば、「痛みの悪循環」などは学習性無力感が関与している事もあったりする。

 

「この痛みは必ず良くなる」と前向きに捉えて治療に励んでいたにも関わらず、症状の改善が遅延したり、度重なる症状悪化が起こったりといった「後ろ向きな出来事」が繰り返されると学習性無力感が生まれる。

 

そして、この学習性無力感によって「痛み行動」「痛みによる恐怖・回避思考」が助長されることがある。

関連記事⇒『痛み行動とは?!

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また、学習性無力感は「どうせ良くならない」「この動作は痛みが出るだろうから避けよう」といった思考につながる。

 

一方で、この学習性無力感という認知バイアスを「このくらいの動作なら出来る」「痛みは良くなるかもしれない」といった思考へ変換させるのに必要な要素は「自己効力感(セルフエフィカシー)」である。

関連記事⇒『自己効力感(セルフエフィカシー)とは?!

 

 

離職にも繋がる学習性無力感

 

失敗が重なると、無意識のうちに無力感を学習してしまう。

 

そして問題なのは、この無力感が拡大してしまうことと言える。

 

例えば、理学療法士・作業療法士がクライアントにリハビリを拒否されたとする。

 

そしてクライアントの拒否が、立て続けに2度も3度も続くと「全てのクライアントは私のリハビリを拒否するはずだ。私はこの仕事に向いていない」などと無力感に苛まれることがあるかもしれない。

 

あるいは失敗が原因で上司から非難されると、周囲の人が皆自分のことを非難しているかのような被害者意識を持ってしまうことがある。

 

この様な誇張的・破滅的なネガティブ思考は、他の分野にまで連鎖的に広がっていき、時として精神の深い谷底に落ち込んでしまうこともある。

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