この記事では、高齢者のリハビリ(理学療法・作業療法)に取り入れられることのある『デュアルタスク Dual task(二重課題)』について記載していく。

 

※デュアルタスク(二重課題)を用いたリハビリは、認知症予防においても注目されているが、この記事では転倒予防にフォーカスを当てて記載していく。

 

 

デュアルタスク Dual task(二重課題)とは

 

私たちは、普段の日常で「考え事をしながら歩く」「テレビを見て笑いながら皿洗いをする」「スーパーを歩きながら今日の献立を考える」など2つ(あるいは、それ以上)のことを同時に行っている

 

一方で、この様な「2つのことを同時に行う能力」は加齢とともに衰えてくることが知られている。

 

例えば「歩行中に話しかけられると、会話に集中するために足を止めてしまう(Stops walking when talking)」などといったことが起こるのだ。

 

そして、高齢者が転倒する原因は、何も「運動機能が低下していること」だけではなく、Stops walking when talkingの様な「2つのことを同時に行う能力の低下」も関与しているのだということを1997年にスウェーデンの研究者Lingin-Olssonが発表し、そこからデュアルタスク(2つの課題を同時にこなすこと)が注目され始めた。

 

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングとは

 

筋力やバランス能力、歩行能力の低下が転倒の主たるリスクファクターと言われている。

 

しかし、実際には十分な運動機能を備えていても転倒してしまう高齢者は大勢いる。

 

入院中は「見晴らしが良い」「完全にフラットな床面」「目的の無い(リハビリとしての)歩行に集中できる」といった条件が整っている。

 

一方で、私達が生活をしている環境に目を向けてみると、「見晴らしが良くなく」「段差や躓きやすい障害物が存在し」「(歩行自体ではなく)歩行する目的に意識が向いていたり、会話に意識が向いていたり」といった条件下での歩行であることも多い。

 

つまり「歩行」だけでなく、「その他の課題」にも注意を分散させるようなリハビリ(理学療法)の方が「機能的な歩行」ということになってくる。

 

このように「2つ以上の課題が同時に課されるようなトレーニング」を『デュアルタスク(二重課題)トレーニング』と呼ぶ。

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングは高齢者の転倒や認知症の予防するリハビリとして、様々なプログラムが開発・検証されている。

 

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングの根拠

 

デュアルタスク(二重課題)能力の向上には『注意を分散する』という能力が重要となる。

 

私達の頭の中にはペットボトル容器の様なものが存在し、この限りある容器の中で、どの課題にどれだけの注意を配分するかという処理作業を行っている。

 

そして、この容器は加齢変化や病的変化の影響を受け、容量が減少するということも報告されている(加齢による脳容量減少とデュアルタスク能力とが関係していることも分かっている)。

 

そして、デュアルタスク(二重課題)トレーニングは「一つの運動課題(あるいは認知課題)を実施する」という単純なトレーニングではなく、「この頭の容器の中で注意分散を整理」も同時に行うトレーニングとなる。

 

このようなトレーニングを継続して半年程度実施すれば、かなり多くの高齢者にデュアルタスク(二重課題)能力の向上が認められ、転倒リスクを軽減できることが分かっている。

 

 

SWWT test(二重課題 デュアルタスクの評価)

 

ここで再び、スウェーデンの研究者でありデュアルタスク(二重課題)を世間に広めたLingin-Olssonの研究に話を戻す。

 

彼は、「Stops walking when talking」という現象が転倒の関連していると考え、以下の様な可能性に言及している。

 

歩行中に話しかけられると立ち止まってしまう高齢者は、6か月以内に転倒する可能性がある

 

そして、Stops walking when talkingを転倒予防の評価テストに活用したものが「SWWT test」となる。

 

「話しかける内容の難易度設定」は非常に難しい。

 

例えば、提唱者のLundin-Olssonらは、SWWT testにおける声かけ刺激として体調や天候に関する質問を例示しているが、二重課題という観点からすると、より難易度の高いエピソード記憶に基づいた質問が望ましいとの指摘もある。

 

そういった意味で、「話しかける」といったフワッとした指標よりも、後述する「デュアルタスク(二重課題)トレーニング」における効果判定などの方が、評価テストにも活用しやすいのではと考える。

 

 

二重課題(Dual task)トレーニングの例

 

ここから先は、リハビリで活用できそうなデュアルアスク(二重課題)の例を記載していく。

 

例えば、実際の生活場面を想定したリハビリを考えてみると、「単純な歩行」よりも「デュアルタスク歩行」のほうが『機能的なリハビリ(理学療法)』と言える。

 

  • 認知課題⇒100から1ずつ引き算をしながら歩くなど
  • 運動課題⇒コップに入った水を溢さないように歩くなど

 

※単純な歩行に比べてDual task(二重課題)歩行検査で歩行速度が20%程度遅延するような場合は、転倒リスクが高いとする意見もある。

 

そして、このデュアルタスク(二重課題)能力を向上させることも転倒予防に有効とされている。

 

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングが必要な人

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングが必要な高齢やとは、どの様な人達なのだろうか?

 

結局のところ「機能低下の予防」を考えると、全ての高齢者に対して、デュアルタスク(二重課題)トレーニングは重要となる。

 

ただし、そこから更に絞るとすると、「比較的移動能力が高い人」が対象となりやすい。

 

例えば、屋内移動でも杖が手放せない高齢者となると、(デュアルタスク能力も重要だが)それ以外のバランス能力(筋力・平衡感覚など)の強化のほうが、優先順位が高くなる。

 

大まかな判断としては、要支援者はデュアルタスク能力が重要、要介護者はデュアルタスク能力以外のバランス能力が重要と表現できる(あくまで分かりやすい例として)。

 

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングの実際

 

デュアルタスク(二重課題)トレーニングは多種多様なものが存在しするが、その中の一つを以下に紹介する。

 

 

座位での二重課題(デュアルタスク)トレーング例

 

  1. 椅子から落ちない程度に浅く腰かける。
  2. 始めに5秒間、なるべく速く、多く足踏みをする(運動課題)。
  3. クイズ形式で「“あ”から始まる言葉」「都道府県名」などをなるべく沢山言ってもらう(認知課題)
  4. ③のクイズの答えをなるべく沢山言ってもらいながら、同時に5秒間なるべく沢山足踏みをする。
  5. これを何セットか行う(運動課題と認知課題の組み合わせ=Dual task)

 

※段階的に10秒間などと時間を伸ばす。

 

※ただ、あまり時間を伸ばしすぎると(その間、速い足踏みを続ける必要があるので)瞬発力や体力向上など別の意味合いのトレーニングとなってしまう(あくまで、これはDual taskトレーニング)。

 

※「動物の名前」、「野菜の名前」「100から1を引いていく」など色んな課題でトレーニングしてみる。

 

 

この二重課題(デュアルタスク)トレーニングのポイントは以下を同時に実施すること。

  • 認知課題(クイズ)をなるべく大きな声で言ってもらう。
  • 運動課題(足踏み)はなるべく早く、多くしてもらう

 

つまり、語想起も足踏みも最大限頑張るということがポイントとなる。

 

どちらか一方(例えば足踏み)に偏った努力になると、デュアルタスク能力の向上につながりにくくなる。

 

この運動は座位で実施するため、立位が不安定な高齢者でも安全に行うことができるDual task(二重課題)トレーニングなので、ぜひ実施してみてほしい。

 

このデュアルタスク(二重課題)トレーニングは、座位でのトレーニングでありながらも機能的な歩行能力が向上することが確認できている(計算課題を行いながらの歩行、お澤の上にボールをのせての歩行は共に15%程度改善)。

 

※週1度の頻度(1回5~10秒×10セット)で半年間実施しての変化

 

もちろん、自宅環境やICFの活動・参加に直接結び付くような二重課題(あるいは、それに類似した課題)でも構わない。

 

例えば、前述した「コップの水をこぼさないように歩いてもらう」のと類似した行為は、日常で想定される頻度は高い。

 

運動機能が高い人は、更に「水をこぼさないようにしながらの跨ぎ動作や階段昇降」などで難易度を挙げることも可能。

 

ただし、前述したようにデュアルタスク(二重課題)トレーニングの最たる対象者は「足腰は元気だが、認知機能の衰えを感じてきた人達」であり、だからこそ運動課題よりは認知課題を活用した二重課題トレーニングが活用されやすい。

 

 

もっと簡単なデュアルタスク(二重課題)トレーニングが知りたい方へ

 

もっと単純で難易度の低い二重課題トレーニングは無いかと聞かれるならば、「貧乏ゆすり(ジグリング)をしながらの語想起」をおススメする。

 

この方法は貧乏ゆすりとして「つま先を床につけたまま踵を浮かせるように上下に小刻みにガタガタと震わせる」という運動課題と、「語想起として野菜・料理・動物の種類などの思い出しながら答えてもらう」という認知課題を同時にこなすトレーニングとなる。

 

貧乏ゆすりも立派な「運動課題」であり、更には貧乏ゆすり(ジグリング)が脳に血液を送るポンプの働きがあることが分かっており、脳の活性化にもつながる。

 

これは「端坐位で安全、簡単に出来るトレーニング」なので、「通常のリハビリ(理学療法・作業療法)」の合間にチョット試してみてほしい。

 

意外と「単純な語想起が可能な人」でも、「ジグリングをしながらだと、流暢に答えられなくなる」といったことが起こる事がある。

 

※ただし、この運動課題も真剣に(つまり出来るだけ多く振動させるよう意識しつつ)実施するのがポイント。

 

また、下肢の関節障害を有している人は、ジグリングによる振動刺激によって以下が起こったりする可能性もある。

 

まぁ、これは余談であったが、ぜひ臨床でも試してみてほしい。

 

 

分かりやすく二重課題(デュアルタスク)を解説した動画

 

分かりやすく二重課題(Dual task)を解説した動画は以下になる。

 

動画のタイトルは『シナプソロジー』となっていうが、これは、「昭和大学脳神経外科の藤本司名誉教授」と「スポーツジムでおなじみの(株)ルネサンス」が独自に開発した『二重課題(デュアルタスク)を活用したトレーニング』となる。

 

 

シナプソロジーは講習会も実施していたり、サイトではこの動画にのっている二重課題トレーニング、そのエビデンスなども紹介している。

 

もし興味がある人は、リンク先を貼っておくのでチェックしてみてほしい。

 

外部リンク:シナプソロジーとは?

 

 

バランス・二重課題の関連記事

 

以下は転倒予防・バランストレーニングの関連記事となる。

 

永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ

 

知らなきゃ損!バランス評価テストのカットオフ値まとめ

 

 

二重課題(デュアルタスク)は転倒予防のみならず、認知症予防に関しても重要視されている。

 

そんな「認知症予防と二重課題」に関しては以下の記事でも解説しているので、合わせて観覧すると二重課題に対する理解が深まるかもしれない。

 

認知症予防にコグニサイズ(二重課題トレーニング)を紹介