この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)を実施するうえで考慮すべき過用症候群と誤用症候群について記載していく。

 

目次

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過用症候群・誤用症候群とは

 

過用症候群と誤用症候群の違いは以下の通り。

 

 

過用症候群(overuse symptoms)とは

 

過用症候群は、身体へのストレスの蓄積によって起こる機能障害を指す。

 

過用症候群は身体に対するストレスを量的側面から捉えている。

※ちなみに、廃用症候群も身体に対するストレスを量的側面からとらえている。

 

もっと分かりやすく表現すると以下になる。

 

『方法は妥当でも、運動量が過剰なために起こった障害』を過用症候群と呼ぶ。

 

例えば、長距離のランニングをしてしまったことによる関節痛・筋肉痛は過用(overuse)症候群ということになる。

 

過用症候群とは:

 

過用によって生じる一連の症状。

症状には、関節炎、各種の痛み、筋スパズム、過緊張による協調障害、化骨性筋炎、関節液の貯留、骨折、外傷、関節拘縮変形、筋力低下、脱力、筋萎縮、反射性交感神経性ジストロフィー、麻痺の回復遅延または回復停止、痙縮の増大などがあげられるが、ほかにも劣等感や意欲減退、心不全や狭心症などの各種合併症の増悪を生じることがある。

 

~『理学療法学事典』より引用~

 

 

誤用症候群(misuse symptoms)とは

 

誤用症候群は不適切な運動様式(や姿勢)などによって起こる機能障害を指す。

 

誤用症候群は身体に対するストレスを質的側面から捉えている。

 

もっと分かりやすく表現すると以下になる。

 

『誤った方法で行ったためにできた障害』を誤用症候群と呼ぶ。

 

例えば、正しいテニスのフォームを習得せずに無茶な打ち方をしていることで肘を痛める(いわゆるテニス肘)などは、誤用(misuse)症候群ということになる。

 

※なので、テニス肘の対処としては、単なる安静だけでなく、正しいフォームの習得も大切となる(単なる過用なだけなら、安静にしておけば完治するし、その後テニスを再開してもよっぽどのことがなければ再発しないという理屈になる)。

 

誤用症候群とは:

 

医療上とられた措置が誤っていたために生じた病的状態の総称。

理学療法では、不適切な関節可動域練習による肩関節痛や股関節や膝関節などの異所性骨化、杖や松葉杖の誤った使用方法による腋窩神経麻痺や正中神経麻痺、補装具の不適合による足部の創傷や誤った歩行練習による反張膝などがあげられる。

理学療法士自身が治療を行う際に十分注意することはもちろん、対象者・家族への指導では正しい知識や方法を理解したか確認するとともに、指導後の定期的なチェックも必要である。

 

~『理学療法学事典』より引用~

 

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リハビリにおける過用症候群・誤用症候群の具体例

 

ここからは、リハビリで遭遇する過用症候群・誤用症候群の具体例を記載していく。

 

 

過用症候群の具体例

 

過用症候群の例としては、前述したように「使い過ぎによる筋痛」がイメージしやすいかもしれない。

 

例えば高齢者は生活不活発になりやすく、そんな筋力や体力の低下している状態では「過用」が起こりやすいのだが、そんな高齢者に対してスパルタ的なリハビリをしていると容易に筋痛などが生じてしまう。

 

あるいは、変形性膝関節症によって生じている痛みに配慮せず、「足が弱るから」などとの理由で歩行(その人にとっては過剰な負荷を強要する)なども過用症候群に該当する場合がある。

 

※痛みによる感作が起こると疼痛が悪化する(もちろん炎症を引き起こすことも)

関連記事

⇒『中枢性感作とは?脊髄後角で起こること!

⇒『(HP)感作(末梢性感作・中枢性感作)と脳の可塑的変化

 

この様な過用症候群は(誤用症候群と同様に)として筋痛・関節痛といった『機能的変化』のみならず、変形などの構造的変化を起こしてしまう可能性もある。

関連記事

⇒『心身機能・身体構造 | ICF

⇒『(HP)侵害受容性疼痛について

 

従って、高齢者のリハビリを考えるうえでは、「生活不活発(廃用)」の予防を意識しつつも、過用が起こらないよう留意する必要があると言える。

 

 

誤用症候群の具体例

 

誤用症候群の具体例としては、「セラピストの誤った方法によるリハビリ(理学療法)」が挙げられることが多い。

 

要は、誤ったリハビリ(理学療法・作業作業療法)技術の適用によって、かえって新たな機能障害(損傷など)を起こしてしまう事があるということになる。

 

※この様にして起こった誤用症候群を「医原性障害」と呼ぶことがある。

 

具体的には脳卒中片麻痺に対する粗暴(あるいは誤った)関節可動域訓練による肩の損傷が挙げられる。

 

特に完全麻痺の場合における肩関節屈曲・外転の他動運動は、肩甲骨の回旋にも留意しなければならないが、それを度外視して十分に屈曲・外転を行おうとしてしまうと関節包・靭帯を損傷することが多い。

関連記事

⇒『肩甲上腕リズムは嘘?ホント?

 

そうなると内出血や慢性炎症を起こし、激しい痛みとともに著しい拘縮を生じることも少なくない。

 

あるいは、脳卒中片麻痺の尖足を強制しないまま歩行することで生じる『反張膝』も該当する。

関連記事⇒『異常歩行(破行)を網羅せよ!

 

ちなみに、疾患の特徴を把握せずにリハビリをしてしまう事によってる誤用症候群を招いてしまうこともある。

 

例えば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)では運動によって、かえって脱力を喚起してしまうことがあるため注意を要す。

 

※ALSの特徴を把握せずに運動を処方したという意味では誤用症候群だが、運動のし過ぎによって生じたと意味で過用症候群と解釈することも出来る。

 

 

過用症候群・誤用症候群は混在している

 

過用症候群・誤症候群は、必ずしも各々が独立して存在しているわけではなく混在しているケースも多い。

 

脳卒中片麻痺における過剰症候群と誤用症候群(+廃用症候群)の混在

 

例えば、脳卒中片麻痺では運動麻痺や筋緊張の異常のた めに、患者は身体をこれまでのように動かすことができず、共同運動や分回し歩行など の特有の運動や動作様式が出現してしまうことがある。

 

更には、麻痺側上肢は屈曲、麻痺側下肢は伸展、足関節は内反尖足位となる典型的な異常姿勢を呈するようになる。

関連記事⇒『共同運動と連合反応を解説(脳卒中片麻痺の専門用語)

 

そして、これらの典型的な動 作様式や異常姿勢には、運動麻痺や筋緊張の異常の影響に加えて、不適切な代償運動に よる『誤用症候群』が関係している。

 

また、運動麻痺により身体活動量が低下すれば『廃用症候群』が生じ、非麻痺側のみを使用して活動すれば『過用症候群』につながる可能性がある。

 

 

変形性膝関節症における過剰症候群と誤用症候群(+廃用症候群)の混在

 

例えば、変形性膝関節症における不適切な歩行様式(あるいは不適切な日常生活・姿勢なども含む)が膝関節の変形や疼痛を助長し(誤用症候群)、そのことが大腿筋膜張筋やハムストリングスなどの過緊張を引き起こし(過用症候群)、反対に大殿筋中殿筋などが減弱する(廃用症候群)ことが知られている。

 

このように、観察される機能障害・活動制限には、疾患や傷害による一次的な機能障害に加えて、「廃用症候群」「過用症候群」「誤用症候群」よる二次的な機能障害が密接に関わっている。

 

 

その他、過用症候群・誤用症候群の色々

 

ポリオ:

ポリオなど、前角細胞が障害された例では残存する前角細胞からの再支配が起こる。

なので、残存している前角細胞は常に過負荷の状態となっており、わずかな運動量においても過負荷となり、残存していた前角細胞を障害され、運動単位数が減少し、筋力低下が進行することになる。

ポリオ患者が中高年になり筋力低下が進む「ポスト ポリオ症候群」の機序の一つにこの過用によるものが考えられている。

 

末梢神経障害:

神経再生の過程で運動負荷などでかえって軸索再生が阻害される場合がある。

関連記事⇒『末梢神経の再生

 

筋疾患:

運動負荷による筋損傷が起こりやすい状態であるのと、筋力増強訓練による筋再生が起こらず、かえって筋損傷だけが進み筋力低下が進行する場合もある。

 

 

これは全て過剰(overuse)が原因で起こるため『過用症候群』に該当する。

 

しかし、ここに記載された知識を持っていれば防げた可能性がある。

 

つまりは、「医原性障害」によって起こった『誤用症候群』と表現することも出来るのではないだろうか?

 

 

関連記事

 

この記事では、過用症候群・誤用症候群の他に廃用症候群なる用語も頻繁に登場した。
これらの用語については以下の記事でも言及しているので合わせて観覧してもらうと理解が深まると思う。

 

廃用症候群!リハビリ/看護/介護で常識な知識を復習!

 

廃用症候群から生活不活発病へ(+違い)

 

『リハビリテーションの中止基準』を知っておかなきゃリスク管理は出来ないよ

 

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