この記事では、腸肋筋・最長筋・棘筋について解説していく。

 

ちなみに、上記の腸肋筋・最長筋・棘筋は、合わせて『脊柱起立筋』と呼ばれており、この表現のほうが認知されているかもしれない。

 

目次

閉じる

腸肋筋・最長筋・棘筋・半棘筋の基本情報

 

腸肋筋・最長筋・棘筋の基本情報は以下になる。

 

筋名

起始

停止

作用

神経

腸肋筋

腰腸肋筋:

腸骨の腸骨稜

仙骨後面

 

胸腸肋筋:

第7-12肋骨

 

頚腸肋筋:

第3-6肋骨

腰腸肋筋:

第4-12肋骨

 

胸腸肋筋:

第1-6肋骨と第7頸椎

 

頚腸肋筋:

第4-6頸椎

頚部と体幹の伸展

片側が働くと、頚部と体幹の同側への側屈

脊髄神経の後枝の外側枝(C8-L1)

最長筋

胸最長筋:

第5-2腰椎の棘突起

腸骨の腸骨稜

仙骨後面

 

頚最長筋:

第1-6胸椎の横突起

 

頭最長筋:

第4-7頸椎の関節突起

第1-6胸椎の横突起

 

胸最長筋:

全腰椎の横突起

第1-5腰椎の肋骨突起と副突起

第3-12肋骨

 

頚最長筋:

第2-6頸椎の横突起の後結節

 

頭最長筋:

側頭骨の乳様突起

 

頭頸部と体幹の伸展

片側が働くと統計部を体幹の同側への側屈

脊髄神経の後枝の外側枝(C1-L5)

棘筋

胸棘筋:

第11・12胸椎-第2腰椎の棘突起

 

頚棘筋:

第5頸椎棘突起

 

頭棘筋:

上部胸椎・下部頚椎の棘突起

 

 

胸棘筋:

第1・2・3胸椎-第8・9胸椎

 

頚棘筋:

上方の棘突起

 

頭棘筋:

頭半棘筋の内側縁

 

頚部と体幹の伸展

脊髄神経の後枝の内側枝(C2-T12)

 

脊柱起立筋に該当する筋を答えるような質問が国家試験で出題されることがあるので覚えよう。引っかけ問題として、多裂筋・板状筋(頸椎後面にのみ付着している筋)・頭長筋などが選択肢に含まれる場合があるが、誤りなので注意しよう。

 

 

「腸肋筋・最長筋・棘筋」=脊柱起立筋

 

前述したように(ここで記載している棘筋を除いた)腸肋筋・最長筋・棘筋を合わせて『脊柱起立筋』と呼ぶ。

 

以下のイラストのように、水平面では「内側から棘筋→最長筋→最肋筋の順」に走行している。

 
以下は、脊柱起立筋を後方から見たイラスト。

つまり、以下のように細分類された表現が用いられることも。

  • 最長筋⇒頭最長筋・頸最長筋・胸最長筋(頭・頸・胸に区別)
  • 腸肋筋⇒頸腸肋筋・胸腸肋筋・腰腸肋筋(頸・胸・腰に区別)
  • 棘筋⇒文献によって区別が異なる。この記事では「頭・頸・胸腰」としているが、上記イラストでは「頸・胸」で区分している文献もある(後者の文献が多い)。

 

ここでは、数少ない「頭棘筋」の分類として『筋骨格系のキネシオロジー』を引用しておく。

棘筋には胸棘筋、頸棘筋、頭棘筋が含まれる。一般にこの小さくて不明瞭な(または一部欠けているところもある)棘筋の柱は共通腱の上部から起こる。棘筋は多くの胸椎の隣接する棘突起に付着しながら、頚部では項靭帯に付着しながら上行する。棘筋はふつう、周りの筋と見わけがつかず、または完全に欠如しているところもある。頭棘筋は、存在する場合、しばしば頭半棘筋と混ざり合っている。

 

 

筋連結

 

各筋の筋連結は以下の通り。

 

腸肋筋(Iliocostales muscle)

最長筋(筋膜)・多裂筋(筋膜)・腰方形筋(筋膜)・頚板状筋(腱)・大殿筋(筋膜)と連結

 

最長筋(Longissimus muscle)

腸肋筋(筋膜)・多裂筋(筋膜)・腰方形筋(筋膜)・頭半棘筋(腱)・頭板状筋(腱)。頚板状筋(腱)・胸棘筋(腱)・大殿筋(筋膜)と連結

 

[胸]棘筋(Spinalis thoracis muscle)

最長筋(腱)と連結

 

背筋群はゴチャゴチャしているので、一覧にしてみた

 

背筋群は分類がややこしいので、一覧表を以下に記載する。

 

長い背筋群

板状筋

頭板状筋・頚板状筋

脊柱起立筋群

腸肋筋

頚腸肋筋・胸腸肋筋・腰腸肋筋

最長筋

頭最長筋・頚最長筋・胸最長筋

棘筋

(頭棘筋)・頚棘筋・胸棘筋

短い背筋群

横突棘筋

半棘筋

頭半棘筋・頸半棘筋・胸半棘筋

多裂筋

回旋筋

その他の分節筋

横突間筋

棘間筋

後頭下筋群(大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下斜筋)

 

横突棘筋は、椎骨の横突起から起始し、上位の椎骨の棘突起に停止する筋群。いくつ上の棘突起に停止するかで名前が変わる(半棘筋・多裂筋・回旋筋)。

横突間筋は、「頸椎の横突起」や「腰椎の肋骨突起」などを上下につなぐ。

棘間筋は、隣り合う頸椎・胸椎・腰椎の棘突起間を結ぶ(ただし、胸椎では痕跡的)。

 

 

脊柱のグローバルマッスルとローカルマッスル

 

これらの骨格筋は脊柱における他分節を跨いで付着しており、グローバルマッスルと呼ばれることがある。

 

一方で、横突棘筋・横突間筋・棘間筋などはローカル筋と呼ばれている。

 

 

脊柱に安定した運動を行わせるためには、ローカル筋がまず働いて脊柱の安定性を高めてからグローバル筋を使った動きを出すことが望ましい。

 

体幹筋研究の第一人者であるHodgesらによる有名な研究の中に、この筋活動タイミングに関する研究がある。

 

被験者に上肢の挙上を行わせ、その際の三角筋と体幹筋群の活動開始時間を解析したところ、三角筋が活動を開始する前に同側の腹横筋の活動が開始していた。

 

これは上肢の挙上によって体幹には上肢重量と体幹からの距離に相当する回転モーメントが作用し体幹の同様を生じてしまうことを避けるため、あらかじめ腹横筋を収縮させ、脊柱の安定性を確保した上で上肢を挙上させるという筋活動であると思われる。

 

このように、何らかの外乱が生じる前に、ローカル筋があらかじめ働く反応はフィードフォーワード機能と呼ばれ、錐体外路の神経系によって調節される。

 

ただし、このようなフィードフォーワード機能は正しく機能する者と、していない者との個人差が存在する。

 

Hodgesらは腰痛を有する者にはこの機能が低下しているものが多く、その改善によって腰痛が軽減したことを報告している。

 

例えば、以下の様な興味深い研究がある。

 

被験者に、目の前にある1kgの鉛をテーブルから持ち上げるよう指示した。すると、多裂筋の筋活動は鉛を持ちあげる前に最も大きく活動し、持ち上げた後は活動が低下した。

 

次に、被験者には告げず鉛の重さを1kgから4kgへすり替えた。

すると、多裂筋の筋活動は鉛を持ちあげる前に先ほど(1kgの鉛)と同様な筋活動を示したが、持ち上げ後から活動量が顕著に増加した。

 

つまり被験者は、「鉛1kgを想定したフィードフォーワード的な筋活動により外乱に備えたものの、想定以上の重さ(誤った認識)であったため、持ち上げた後に(無意識下で)慌てて筋活動量を増やした」ということを示している。

 

そして、フィードフォーワードが正しく機能していないことによる「ローカル筋収縮のタイムラグ」が椎間板内圧の上昇による線維輪の損傷や、ローカル筋・関節包・靭帯などの過負荷によるぎっくり腰の発生につながってしまう可能性がある。

 

重複するが、体に生じる外乱に対応してあらかじめローカル筋を収縮させ、体への負荷に備えることは脊柱の動的安定性を保つために重要な機能であり、その機能を高めることによって腰部障害を予防することができる可能性がある。

 

また、慢性腰痛患者に対してもローカル筋を適切に使うことを指導することによって体幹安定性の再獲得が期待され、腰痛体操として有用であることが示唆される。

 

※このフィードフォーワード機能の重要性は、何も体幹だけではなく、上肢や下肢に関しても言えることである(「股関節に周囲の外旋六筋」や「肩関節周囲のローテータカフ」の機能など)。

 

関連記事

 

この記事でも紹介している体幹インナーマッスルについては以下を参照。

⇒『インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング