この記事では「理学療法士・作業療法士のスキルアップ」と題して、複数の視点からスキルアップを考えてみる。
理学療法士・作業療法士は、どんなスキルアップが必要か?
理学療法士・作業療法士が医療従事者として働く上で大切なスキルは何であろうか?
それは(独断と偏見で)以下の3つだと考える。
- コミュニケーション能力
- 治療技術
- 臨床推論能力
⇒臨床推論には①知識 ②認知・思考能力 ③メタ認知能力が大切
※ちなみに、順序は特に意味はない。
スキルアップ1:コミュニケーション能力の向上
コミュニケーションスキルは臨床を重ねるごとに向上する。
理学・作業療法士はチーム医療として機能する側面があることから、他職種とのコミュニケーションスキルは重要である。
当然ながらクライアントに接する際のコミュニケーションスキルも同様である。
※クライアントに重要なコニュニケーションスキルの要素は細分化可能であるが、以下には痛み治療に関するコミュニケーションスキルとしての一要素に言及しているので、興味があればチェックして頂きたい。
⇒『認知行動療法とは?痛みリハビリ(理学療法/作業療法)への応用』
スキルアップ2:治療技術の向上
治療技術の向上は重要である。
そして、この技術は真剣に治療に望んでいれば、試行錯誤するに従って必然的に向上する側面がある。
特に新人の頃のスキルアップは顕著で、誰しも「新人として入職した直後」と「1年後」ではまるっきり治療技術は異なっている。
※治療技術とはクライアントへの触れかた、操作の仕方、クライアントから返ってくる身体反応への対処など、様々な要素を含むが、それらは自然と上達する。
また、先輩や同僚と実技練習をすることは非常に有意義である。
実技系セミナーに通って学ぶことは大幅なスキルアップにつながる可能性を秘めている。
個人的には、座学系セミナーは教科書で学べる要素も多いので、1年のうちに数回だけセミナーに参加できるとするならば、(座学系より)実技系のセミナーをお勧めする。
※ただし、最初の数回で相性の良い実技系セミナーに当たらなければ、実技系セミナーのからは足が遠のくと思われるので、十分吟味して選ぶ必要はあるかもしれない。
スキルアップ3:臨床推論能力の向上
前述した「コミュニケーション能力」「治療技術」は臨床経験により自然と向上するが、臨床推論能力は意識的に向上させていく必要があるのではと感じる。
※もちろん、これらのスキルは各々単独ではなく、相乗的にスキルアップされていく側面もあり、治療技術を向上させようと思えば臨床推論に必要な「知識」も増える方向に自然とインセンティブが働く。
特に臨床経験を積み重ね、治療技術が洗練されてくるほどに、コミュニケーション能力が向上してくるほどに治療効率が良くなってくるのだが、時としてそれが弊害となる場合もあり常にメタ認知を働かせることが私達には求められる。
⇒『確証バイアスに注意せよ!ボトムアップとトップダウンについて!』
特にICFという広い視野で物事を捉えての問題解決が求められるような場面では、メタ認知を働かせることも含めて広い視野で物事を捉える能力が求められる場合がある。
⇒ 『ICFのまとめ一覧』
転職によるスキルアップ
転職はスキルアップとして有効な場合がある。
どうしても「職場のスタイル」というものがあり、時としてそれが理学療法・作業療法としてスタンダードだと思い込んでしまうことがある。
しかし、転職してみると今までスタンダードだと思っていた価値観とは異なる「理学療法・作業療法」も存在しることに気づき、自身の視野が広がり、それが前述したスキル(治療技術・コミュニケーション・臨床推論)を大きく向上させてくれる場合がある。
※もちろん、転職に限らず部署移動(急性期病棟から回復期病棟、入院担当から外来担当、医療保険分野から介護保険分野など)であったり、アルバイトなどでも視野が広がり、理学・作業療法士としてのスキルアップにつながる可能性がある。
ただし、診療報酬・介護報酬が下がっていく昨今において、転職は「スキルアップ」といったポジティブな側面があるのに対して、「給料」に関しては必ずしもポジティブな側面ばかりではない点には注意が必要かもしれない。
資格取得によるスキルアップ
前述したスキルアップ、特に「治療技術」や「臨床推論(ICFに基づいた問題解決能力を含む)」を向上させるために「資格取得」という手段も有効な場合がある。
ここでは、そんな「理学療法士・作業療法士がスキルアップするために取得する目的となり易い資格」について記載していく。
資格によるスキルアップ1:専門・認定理学療法士(作業作業療法士)の取得
理学・作業療法士として一番王道なスキルアップの方法と言える。
ちなみに、各々の資格を取得することで得られる恩恵(メリット)は今のところ存在しないと感じる。
関連記事⇒『メリットは?専門・認定理学・作業療法士を考察!』
一方で、「この記事でフォーカスしているスキルアップ」を考えると、資格を取得する過程での自己研鑽は格好のスキルアップ手段と言える。
つまりは、(専門や認定理学・作業療法士以外の資格にも言えることだが)資格を取得する過程における自身の成長(つまりはスキルアップ)こそがメリットと表現できるかもしれない。
資格によるスキルアップ2:柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師などの取得(ダブルライセンス)
一昔前にダブルライセンスがはやっていた時期があったが、今はほとんどメリットを感じない。
とくに柔道整復師はムチャクチャな保険請求が時折話題となっており、レセプト審査が厳しくなっていると聞く。
例えば以下の記事
関連記事⇒『外部リンク:柔道整復師の不正受給問題』
そして、昔(何十年も前)は「骨折や脱臼したら(整形外科ではなく)接骨院に行こう」という人もいたらしいが、今ではほとんど聞かない。
つまり、「本来の保険適用であるはずのクライアント(骨折や脱臼や外傷)は整形外科に流れていき、肩コリ腰痛などのグレーゾーンな患者の保険適用は厳しくなる」という意味で存在意義がどんどん無くなってきている。
なので、「肩凝り、腰痛、その他不定愁訴などを、(無理やりに保険適用とするのではなく)自費でアプローチしていこう」という流れも出来つつあり、そうなると整体師との境界線が曖昧となってくる。
つまりは「理学・作業療法士としてではなく整体師として開業する人々」との境界線も曖昧となってくる。
何が言いたいかというと、一昔前に理学・作業療法士が柔道整復師を取得するのは「開業権が得らえる」というのが最大のメリットであったが、(結局自費でアプローチしなくてはいけないのであれば)整体師としてそのまま開業したほうが良いという発想となる。
そして、整体師として開業して、浮いた学費を「開業向きな治療技術を体得するための自己研鑽」につぎ込んだ方が有益と言える。
※ただし、整体師という職業は、そもそも摘発されないから存在出来ているだけなグレーゾーンな職業なので「胸を張って開業したい」のであれば柔道整復師を取得するのも悪くないのかもしれない。
関連記事
⇒『理学療法士の専門性など』
※あん摩マッサージ指圧師や鍼灸師に関しては、少し異なった見解を(個人的には)持っているが、記事が終わらなくなるので割愛する。
資格によるスキルアップ3:ケアマネージャー取得
ケアマネージャーを取得することでのスキルアップは「臨床推論(っというか介護保険分野における問題解決能力の向上)」に繋がる。
これはイチイチ説明しなくとも理解してもらえると思うが、取得する過程で得られる知識(+それを応用していく能力も含めて)が身につけば、介護保険分野における活躍に貢献してくれることとなる。
また、「子育てをしながら働きたい」などといった理由で、(金銭的な事情より)肉体的負担を考慮したいのであれば、「理学療法士・作業療法士の強みを生かしたケアマネージャー」への転職というのもアリだと思う。
実際、「理学・作業療法士の資格を有したケアマネージャー」を知っているが、身体機能・残存能力などにフォーカスを当てながらの問題解決能力は、他のケアマネージャーより優れていると感じることが多い。
資格によるスキルアップ4:福祉住環境コーディネーター取得
これは私が2級を持っていることから、独断と偏見のもとで選んだ資格である。
取得しているからと言って何らメリットはないが、取得する過程において福祉住環境の知識を得るためのインセンティブとなってくれた。
そんなに取得が難しい資格ではないので、新人の頃は福祉住環境の勉強もどうせする羽目になるので、ついでに取得すれば(勉強する動機付けにもなり、資格も取得できるので)「一石二鳥」と言えるのではないだろうか?
その他にも理学・作業療法士が取得するメジャーな資格(例えば3学会合同なんたら)もあったりするが、あまり興味がなく調べる意欲も出ないため割愛する。
なぜスキルアップが必要か?
この記事における「スキルアップ」は、(私の独断と偏見で「コミュニケーション能力」「治療技術」「臨床推論能力」とさせてもらった。
また、これらスキルアップの手段として「転職」「資格取得」にフォーカスしたが、それに加えて(特に治療技術に関しては)「日々の臨床を大切にすること」や「治療技術に関する自己研鑽」が重要となってくるのは言うまでもない。
関連記事⇒『講習会の選び方を、関節モビライゼーション学派を基に考える』
そして最後に、私たち理学・作業療法士は「なぜスキルアップが必要なのか?(あるいは、なぜスキルアップがしたいのか?)について考えてみて終わりにする。
新人理学・作業療法士の皆さんも「自分がなぜスキルアップしたいのか」を一度は真剣に考えてみてほしいのだが、私がスキルアップが必要だと思う理由は以下の点である。
- クライアントのリハビリテーションに貢献するため
- 職場に貢献するため
どうだろうか、新人さんも大体私と同じ意見な人が多いのではないだろうか?
しかし最近は、そもそも論としてスキルアップへのインセンティブが上記な要素だけでは働きにくくなっている。
なぜなら、この「スキルアップ」が給料に結びつかなくなってきているからだ。
重複するが、昔は上記な理由でスキルアップをしておけば、自然と給料も上がってきていたが、最近はスキルアップが給料に直結しにくくなっている。
※工夫次第で直結するが、一般論として直結しにくくなっているという意味
※もちろん、「今後は理学療法士・作業療法士も選ばれる時代に突入するのでは」などと言われており、その為にはスキルアップしているかどうかは重要であるが、そんな「選ばれる時代」というのが一体どんな時代かというのがフワッとして抽象的だと感じる。
つまりは、「スキルアップしたって意味ないでしょ?」という空気が一部では漂ってきているということである。
※中にはスキルアップの一環として一生懸命に自己研鑽する者をバカにする人たちまで現れている。
したがって、この記事で示したスキルアップが重要であることを前提条件とした上で、「収入を得るためのスキルアップ」という理学療法士・作業療法士とは別の側面でのスキルアップに着目するのも重要なのではと感じる。
そして、「収入を得るために必要なスキル」は人によって異なり一概には言えないが、自身が気になっているスキル(あるいはどんなスキルが存在するのか)の情報収集をしてみるのも良いのではないだろうか?
これらのスキルアップも早ければ早いほど良いと(個人的には)感じている。