この記事では、高齢者の歩行速度の評価指標として活用される「10m歩行テスト」につて解説していきます。
この記事を読んでもらえば、10m歩行テストの目的・方法・基準値(カットオフ値)を理解してもらえると思います。
目次
高齢者の10m歩行速度を評価する目的
歩行速度は60歳を過ぎるころから急激に低下すると言われています。
また、加齢による歩行速度の低下率は通常歩行(快適歩行)速度よりも最大歩行速度(出来るだけ速く歩いた時の速度)のほうが大きいと言われています。
そんな「歩行速度」に関しては、転倒リスクの因果関係も指摘されており、運動などによって歩行速度を改善させることは、すなわち転倒予防に寄与することを意味しています。
※最大歩行速度1m/s以上あるかどうかが転倒の危険性を予測する指標の一つとされています。
あるいは歩行スピードが一定速度以上でなければ日常生活にも影響が出きます(たとえば信号を渡れないなど)。
これらの意味においても、高齢者の10m歩行の評価は重要な意味を持ってきます。
※容易に実施できる評価なため、リハビリの効果を対象者に伝えるツールとしても優秀です。リハビリ効果を数値で表現できるこということは、対象者のモチベーションをグッと高めることにも繋がります。
10m歩行テストの方法(やり方)
歩行速度は5m、あるいは10m歩行で評価されるこが多く、この記事では10m歩行にフォーカスしています。
10m歩行テストのやり方は単純で「対象者に一定の距離を歩行してもらう」というシンプルなテストです。
※通常歩行を評価する場合、(一般的には)計測する距離(10m)の前後に1m程度の距離をとって、10mの区間を歩行させるといった手法をとるのが一般的です(つまり12メートル歩いてもらい、10mを評価する)。
※一方で、最大歩行速度を評価する場合は、2~3m程度の予備路を設けて測定を行うほうが望ましいとされています。
※以下は「5m歩行テストにおける3mの予備路を設けたイラスト」になるので、これで何となく予備路をイメージしてみてみて下さい。
※10m歩行テストなら、イラストの「5m」を「10m」に置き換えてイメージしてみて下さい。
10m歩行テストのついでに、歩幅/歩行率(ケイデンス)も算出
10mの測定区間にかかった歩数をカウントしておくと、歩幅や歩行率(ケイデンス)を算出することができます。。
・歩行率 = 歩数 ÷ 歩行時間
※例えば、10mを20歩で歩けたなら⇒「歩幅は0.5m」となります。
※例えば、20歩を10秒で歩けたなら⇒「歩行率は2歩/秒(=毎秒約2歩)」となります。
快適歩行速度 VS 最大歩行速度
快適歩行速度の測定は、歩行機能を反映する定量評価の代表的なものであり、筋力や日常生活の移動能力と密接に関連することが知られています。
一方で、「快適歩行速度」よりも「最大歩行速度」でテストするほうが、以下の理由で望ましいとの意見もあります。
- 再現性が高い
- 体力レベルを反映し易い
- 生活機能の変化を予測する指標となり得る。
※ただし、10m歩行テストを、どちらで実施するかはケースバイケース。
歩行速度の計測において、最大歩行速度と快適歩行速度どのどちらを採用するかは、諸家により意見が分かれると思いますが、米国国立衛生研究(NIH)では、両方の速度で計測することを推奨しています。
施設に合わせた歩行速度を採用されるのが良いと思います。
~“臨床思考”が身につく 運動療法Q&A より~
10m歩行速度テストの解釈
歩行速度を計測する際は、このとき10mの測定区間にかかった歩数をカウントしておくと、歩幅や歩行率(ケイデンス)を算出することもできる点は前述したとおりです。
※高齢者では速い歩行速度が要求されると、歩幅より歩行率(ケイデンス)を高めて対応する傾向があります。
そして、高齢者の転倒との関連で見ると、最大歩行速度が毎秒1m未満であるかどうかが転倒の危険性を予測する指標の一つとされているので、この指標は必ず覚えておきましょう。
また、最大歩行速度に関しては以下の文献もあります。
- 歩行速度が毎秒1m以下になると下肢障害や入院、死亡の危険性が上昇する
文献『Cesari M, et al: Prognostic value of usual gait speed in well-functioning older people—results from the Health, Aging and Body Composition Study. Jam Geriatr Soc53 :1675-1680,2005』より
- 男性で1.50m/秒、女性で1.35m/秒未満では、心血管疾患由来の死亡率が上昇する
文献『Dumurgier J, et al: Slow walking speed and cardiovascular death in well functioning older adults: prospective cohort study. BMJ 339: b4460,2009』より
ちなみに、日本の歩行者用信号機は少なくとも毎秒1m以上の歩行速度が必要な設定となっています。
つまり、「毎秒1m未満では横断歩道が渡りきれない」と解釈されます。
っとなると「最大歩行速度で毎秒1m以上であるのは当然として、理想は快適歩行速度でも毎秒1m以上であること」が重要です。
また、片麻痺患者における「日常生活の移動能力と歩行速度の関係」として以下の解釈もあります。
※文献1『Perry J et al :Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke 26(6) :982-989,1995』より
※この文献にける歩行速度は「(最大歩行速度ではなく)快適歩行速度」である点に注意。
「日常生活での屋外歩行自立」と「日常生活での屋外歩行一部自立」の境界線
⇒0.8m/sec(10m歩行時間12.5秒)
「日常生活での屋外歩行一部自立」と「屋内歩行のみ」の境界線
⇒0.4m/sec(10m歩行時間25秒)
また、快適速度が毎分0.8秒未満かどうかは、サルコペニアの診断基準の一つとして採用されています。
サルコペニアに興味がある方は以下の記事も参考にしてみて下さい。
⇒『サルコペニアって何だ?』
年代別(女性)の通常歩行速度および最大速度について
健常女性における通常(快適)歩行速度および最大歩行速度の年齢別基準値は以下の通りです。
※文献『 Bohannon RW : Comfortable and maximum walking speed of adults aged 20-79 years :reference values and determinants. Age Ageing 26(1) :15-19,1997』より
年代 | 通常歩行速度(m/sec) | 最大歩行速度(m/sec) |
---|---|---|
20歳代(n=22) | 1.41±0.18 | 2.47±0.25 |
30歳代(n=23) | 1.42±0.13 | 2.34±0.34 |
40歳代(n=21) | 1.39±0.6 | 2.12±0.28 |
50歳代(n=21) | 1.40±0.15 | 2.01±0.26 |
60歳代(n=18) | 1.30±0.21 | 1.77±0.25 |
70歳代(n=20) | 1.27±0.21 | 1.75±0.28 |
高齢者の歩行の特徴
高齢者の歩行に関して、歩行スピードの低下以外にはの特徴が挙げられます。
- 歩幅(step length)の短縮
- 両足立脚時間の延長
- 歩幅(step width)および足向角(foot angle)の増大
- 遊脚期での足の拳上の低下
- 腕の振りの減少
- 体幹回旋の減少
- 体幹前傾位
- 不安定な方向転換
- 蹴り出し時の足関節底屈と股関節伸展の減少
- 踵接地時の足関節背屈の減少
- 立脚期の膝関節屈曲位
10m歩行テスト以外のカットオフ値(基準値)まとめ
10m歩行テスト以外にも、転倒予防に関するテストは複数あります。
それらに関しては以下のリンク先にまとめているので、興味がある方は合わせて参考にしてみて下さい。
知らなきゃ損!転倒予防テストのカットオフ値まとめ
転倒リスクのカットオフ値(基準値)一覧は以下となります。
※ここからでも興味のある記事にアクセスすることができます。
※特にTUGテストは、「10m歩行テストとは異なった意義を持つ歩行テスト」なため、合わせて読むと理解が深まると思います。
テスト | カットオフ値 |
---|---|
膝伸展筋力 | 1.2Nm・kg |
FRテスト | 15cm未満 |
片脚立位保持テスト(開眼) | 5秒以下 |
TUGテスト | 13.5秒以上 |
歩行速度 | 毎秒1m未満(横断歩道が渡りきれない) |
5回立ち座りテスト | 14秒以上 |
立位ステッピングテスト | 17秒以上 |
あるいは、10m歩行ほど臨床での活用頻度は少ないものの、歩行テストとしては国試レベルの歩行評価として6分間歩行があり、このテストに関しては以下に記載しています。
6分間歩行テストを動画で解説(基準値/やり方/意義)
歩行に関する基礎知識は以下の記事で総まとめしているので、ぜひ合わせて観覧してみて下さい。
リハビリに必要な『歩行の基礎知識』まとめ一覧
※正常歩行で重要な『ロッカーファンクション』に関しては以下で解説しています。
歩行に必要な『ロッカー機能(ロッカーファンクション)』の知識を分かり易く解説!
「正常歩行」に対する用語として「異常歩行(跛行)」という用語があり、以下の記事では、そんな「異常歩行」を網羅しているので是非チェックしてみて下さい。
※当ブログの人気記事の一つとなっています