この記事では頸肩腕症候群(けいけいわんしょうこうぐん)という用語について記載していく。
頸肩腕症候群の定義
首から肩・腕に痛みや凝りなどの症状がある場合、病院で診察してもらうと「頸肩腕症候群」と診断される場合がある。
聞きなれない言葉なので、診断された人は「頸肩腕症候群って何だ?」と思う事だろう。
そんな「頸肩腕症候群」は以下のように定義されている。
広義の頸肩腕症候群は、首(頸部)から肩・腕・背部などにかけての痛み・異常感覚(しびれ感など)を訴える全ての症例を含む。
この中で、他の整形外科的疾患(たとえば変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群など)を除外した、検査などで病因が確定できないものを(狭義の)頸肩腕症候群と呼ぶ。
~ウィキペディアより~
つまり、広義・狭義の頸肩腕症候群は以下を意味する。
広義な頸肩腕症候群とは
『首から肩、腕などに凝りや痛みを起こす病気の総称』である。
狭義な頸肩腕症候群とは
『首から肩、腕などに凝りや痛みがあり、それら症状の原因が不明な病気』である。
そして、病院で『頸肩腕症候群』という診断がなされる場合は、狭義な意味で使用されることとなる。
頸肩腕症候群はやはり病態診断ではない。
過剰な上肢負担が引き金となり生じた頚部、肩上肢にわたり愁訴を伴う疾患の総称として認識される。特に労働災害として認定される際に用いられることが多いため、成書によっては職業性頸肩腕症候群と区別するべきともある。
しかし、病態診断でなく、なおかつ、心理的要因が深く関与するため、近頃では安易に用いられない疾患名となった。
~『考える理学療法 評価から治療手技の選択』より~
頸肩腕症候群の症状・病理
頸肩腕症候群の症状として、以下などが頸・肩・上肢に起こる。
・疼痛
・凝り
・しびれ
・脱力感
・冷汗
・発汗異常
・手の浮腫
・・・・・・・・・・・などなど。
一方で、これらの症状に関しては以下のようにも言われている。
その症状は局在性に乏しく、自覚症状が強い割にはそれを裏付ける客観的所見に乏しいのが特徴であり、検査上にも一般的に異常を認められれない。
~図解 理学療法技術ガイド第一版より~
頸肩腕症候群に隠れている可能性がある病気
狭義な頸肩腕症候群とは「首から肩、腕などに凝りや痛みがあり、それらの症状の原因が不明な病気である」と前述した。
そして、以下の原因で凝りや痛みが出現する場合があり、その際はこちらの診断名が優先されることもある。
- 頸椎症(頸椎症性脊髄症・頸椎症性神経根症)
- 頸椎椎間板ヘルニア
- 後靭帯骨化症
- 頸椎捻挫(むちうち症)などの外傷
- リウマチ性脊椎炎
- 感染性脊椎炎
- 脊椎腫瘍・脊髄腫瘍
- 胸郭出口症候群
- 肩関節周囲炎(五十肩・凍結肩)
- 絞扼性末梢神経障害(腱鞘炎など)
- 高血圧・脳血管障害・冠動脈疾患
- 自律神経失調症
- 更年期障害
・・・・・・・・・・・・・・・などなど
後半は整形外科的疾患から少し離れたが、上記の様に「首から肩・腕にかけて凝りや痛みが生じるとされる疾患」は多くある。
そして、患者が病院を受診すると、医師は症状を詳しく聞いて、原因となる可能性のある病気を考え、上記のような「首~腕にかけての症状の背後に隠れいていそうな病気」がないかを調べる。
その結果、原因が判明すればその病名で呼ばれることになるが、原因がはっきりしない場合に『頸肩腕症候群』という名称で呼ばれることとなる。
実際は(他の運動器疾患にも言えることだが)原因がキッパリと確定出来ない場合も少なくないので、(症状が重篤でないと判断された場合に)「とりあえず頸肩腕症候群と診断しておこう」といった事も起こる可能性はある。
頸肩腕症候群=肩こり?
肩凝りというのは、病名ではなく「症状」であり、いわゆる俗語である。
※これは「ぎっくり腰、急性腰痛」と同じ。
そして、頸肩腕症候群のもう一つの考えとして「頸肩腕症候群=肩こり」という考えがあるようだ。
南山堂医学大辞典によると肩凝りについては、以下のように記載されている。
首すじ、首の付け根から肩甲部の筋肉が重だるくはった感じとなりときに鈍痛を伴う状態で主観的にはきわめて不快な感覚で、ときによると頭痛や吐き気を合併する。
年齢的には小児を除くあらゆる年齢層に認められるが、若干女性に多い。
ただし、英語では「肩凝り」を表現する英語は存在しないらしい。
英語学習の長い方の中には、「肩こりは”I have a stiff shoulder”だと勉強した」と言う方がいらっしゃるはずです。
確かに、われわれが言う「肩こり」に一番近いのは、「stiff shoulder」です。
実際、和英辞典などでも紹介されています。しかし、細かい事をいわせてもらえば、これは正確ではありません。
日本人が考える「肩」とは、首の付け根から肩の間接が中心ですが、英語で言う「shoulder」は、肩の間接~肩甲骨全般を含む広い部分です。ですので、場所を正確に言え ば「I have a stiff neck」といったほうが良さそうです。
ただし、英語でいう「stiff shoulder/neck」は、怪我や病気が原因で、肩に張りができて動かすのが困難な状態のことを言いますので、日本人がイメージする「肩こり」よりも、ずっと深刻です。
もともと、「肩こり」という観念も無かった為に、結局のところ、英語には「肩こり」をそのまま表す単語は無いのです。
~http://peters.jp/blog_yokohama/?p=1330より~
※誤解が無いよう補足するなら、欧米人も日本人と同様な症状(肩凝りの様な症状)は起こる。
※単に、その様な症状に該当する表現が無いだけの様だ。
ただし、「肩凝り」と言いかえると、急にライトなイメージを持ってしまうのは私だけだろうか?
肩凝りもピンきりで、軽い運動やマッサージで簡単に治る肩こりもあれば、非常につらく痛みどめを必要としたり、腕への異常感覚や頭痛を伴う重篤なものもある。
「頸肩腕症候群=肩凝り」とする考えは間違ってないが、だからと言って「頸肩腕症候群=頸~肩にかけての筋機能不全」と単純に捉えるのではなく、関節などからの影響も念頭にアプローチしていくと、治療成績はグッと良くなる。
診断名は、単なるお飾りな可能性も?
首から肩・腕の痛みや凝りなどの症状があり、尚且つ器質的な問題が確認できなければ頸肩腕症候群と診断される可能性がある(何度も同じことを記載しているようだが)。
一方で、例えばレントゲン撮影などをして「頸椎の変形」が少しでも確認できた場合は、『変形性頸椎症』という診断が下される可能性がある。
つまり、「症状は同じでも、頸椎に変形があるかどうか」で診断名が変わるわけだが、一方で変形があっても症状が無い人も存在する。
なので(よっぽど明確な違いが無いのであれば)、「変形性頸椎症」であるとか「頸肩腕症候群」であるといった診断名はあまり意味をなさない事もある。
重複するが、変形性頸椎症(頸椎の変形・関節の問題で症状が起こっている)と診断された患者に対して筋・筋膜への理学療法(例えば、トリガーポイント療法など)で症状が改善したり、あるいは頸肩腕症候群(関節の問題ではないと判断された)に対する関節モビライゼーションで症状が改善されたりという事が起こる。
従って、私たちは(診断名もヒントとなり得ることもあるが)構造ではなく機能を評価し、機能障害に対するリハビリ(理学療法)を実施していくことが大切となる。