頸椎捻挫(外傷性頸部症候群・むち打ち損傷)の原因・症状・治療を解説

この記事では頸椎捻挫(外傷性頚部症候群・むち打ち関連障害)に関して、原因・症状・治療法などを解説していく。

 

頸椎捻挫(むち打ち損傷)とは

 

頸椎捻挫』とは以下の様に定義されている。

 

頭という重い物体を支えている頚部へ外力(交通事故,スポーツなど)による衝撃が加わり、頚部に前後屈(前倒し、後ろ反り)、側屈、回旋(捻じり)を強いられることによって生じる様々な障害を指す。

X線上明らかに診断しうる脱臼・骨折は除外する。

 

また、本症は1928年にCroweによって、「鞭(むち)がしなるような」状態に頚部が強いられることから『むち打ち損傷(whiplash injury)』とも報告されている。

 

以下のイラストは交通事故によって頸部が鞭のようにしなっているイメージになる。

 

  • 左イラストは、前方衝突により頸部が強制屈曲された後、屈曲している。
  • 右イラストは、後方衝突により頸部が強制伸展された後、伸展している。

 

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頸椎捻挫(むち打ち損傷)の症状

 

頸椎捻挫は頸部の痛み・運動制限はもちろんのこと、上肢にかけてのしびれや筋力低下、頭痛・肩こり・吐き気・めまい・耳鳴り・視覚異常・冷や汗・集中力や記憶力の障害まで多彩な症状を呈する病態であり『むち打ち関連障害(WAD : whiplash associated disorder)』とも呼ばれる。

 

 

Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)とは

 

重複するが、頸椎捻挫(むち打ち損傷)の症状は前述したように非常に多彩である。

 

  • 頚椎周辺の疼痛⇒頸・肩・後頭部・肩甲部などの疼痛
  • 上肢症状⇒肩・腕・手の疼痛・自覚的しびれ感・筋力弱化など
  • Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)

 

でもって、多彩な症状のうちBarre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)に関しては、以下の様に言われている。

 

Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)とは

 

1925年にフランスのバレ、1928年にバレの門下生のリューが発表した症候群で、「頚部の疾患・外傷でありながら、むしろ頭部や顔面に頑固な自覚症状を訴える例があり、これらの症状が頚部の交感神経と密接な関係を持つ」とされている。

 

症状は、頭痛・頭重・めまい・耳鳴り・難聴・眼精疲労・視力障害・流涙・首の違和感・摩擦音・昜疲労性・血圧低下など多彩な症状を示す(いわゆる不定愁訴の範疇に入れられることもある)。

 

血液検査、尿検査、レントゲン検査、種々の機能検査を行っても異常が認められないにもかかわらず不定愁訴を訴える患者さんに対して、便宜的に「自律神経失調症」という診断が下されることが少なくない。

 

~『事故相談ニュース』より引用~

 

Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)は頸椎捻挫などの頸部外傷を受傷した直後ではなく2~4週間ほど経過してから現れるのが普通だと言われている。

 

しかし、頚椎捻挫が治癒するであろう期間(3~6ヶ月)を過ぎても前述した不定愁訴が持続する場合に、Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)と診断されることもある。

 

原因は確定されていないが、交感神経の支配領域に症状をもたらす「頚部交感神経緊張亢進説」が有力で、実際に頚部交感神経ブロック(星状神経節ブロック)が症状改善につながる場合もある。

 

※頸部交感神経ブロック(星状神経節ブロック)に関しては以下も参照

⇒『腰・首(+仙腸関節)などの『脊柱』に対するブロック注射を解説

 

 

頸椎捻挫(むち打ち損傷)の診断・アウトカム指標

 

頸椎捻挫の定義でも記載したように、頸椎捻挫の原因(損傷組織)は軟部組織にとどまり、骨傷や、椎間板および周辺靭帯の損傷を伴わないのが特徴である。

 

したがって、X線写真をはじめとする画像診断上、異常を呈さないのが特徴である。

 

でもって、診断やアウトカム指標としては『ケベックWAD重症度分類』や『neck disability index』などが使用される。

 

以下はケベックWAD重症度分類となる。

 

グレード

臨床所見

推定病理

診断

・頸部に訴えが無い

・理学所見が無い

・頭痛、嘔気・嘔吐、不安感、不眠などが後から出現することもある。

外傷性頸椎症候群

・頸部の痛み、こり感、圧痛あり

・理学所見が無い

・顕微鏡レベルの頸部筋・靭帯の損傷

・筋スパズムを起こすほどではない

・頸部愁訴あり、圧痛あり

・頸椎の可動域制限あり

頸椎捻挫、軟部組織周辺の出血、軟部組織挫傷による筋スパズム

・頸部愁訴あり

・神経学的異常(感覚障害筋力低下深部腱反射減弱・消失

機械的損傷あるいは出血・炎症による神経組織の損傷

外傷性頸髄・神経根損傷

・頸部愁訴あり

・頸椎の脱臼、骨折を認める

重篤な脊椎および神経組織の挫傷および損傷

※全てのグレードにおいて、めまい、耳鳴り、記憶喪失、嚥下障害、顎関節痛が出現する可能性がある。

 

ケベックWADの分類では、グレードⅡの推理病理に「頸椎捻挫」の項目がある(0~Ⅱのいわゆる外傷性頸椎症候群というのが頸椎捻挫と解釈しても良いと感じる)。

 

一方で、グレードⅢは神経学的症状が頸椎捻挫から生じる『関連痛』ではなく脊髄・神経根症状であるならば頸椎捻挫に含むのか微妙である(ヘルニアが生じているなら頸椎椎間板ヘルニアと診断される可能性もある)。

グレードⅣになってくると「頸椎捻挫」ではなく「脱臼・骨折」と診断されると思われる。

 

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頸椎捻挫(むち打ち損傷)の治療

 

頸椎捻挫(むち打ち損傷)の治療として、ケベックWAD診療ガイドラインを記載しておく(引用:ペインリハビリテーション

 

※各グレードに関しては、前述した「ケベックWAD重症度分類」と照らし合わせてほしい。

 

 

グレードⅠ

グレードⅡ

グレードⅢ

グレードⅣ

初診

・安心感を与える

・通常生活への速やかな復帰を勧める

・消炎鎮痛剤は使用しない

・頸椎カラーは不要

・ストレッチ・可動域訓練

・安心感を与える

・可能な限り早期に通常生活への復帰を勧める

4日以上の安静を取るべきではない

・頸椎カラーの使用は4日以内

・マニピュレーションと姿勢のアドバイスの併用

・ストレッチ・可動域訓練

・頸椎牽引は他の治療法と併用

・急性期のトリガーポイントブロックは適応外

・急性期の筋弛緩剤は無効

・消炎鎮痛剤は3週間以内

・物理療法理療法(温熱療法、マッサージ、低周波)は3週間以内

・不眠・緊張に対する向精神薬は3ヵ月以内

・軽快していなければ再評価

脊椎外科専門医へのコンサルタント(手術を検討)

7日目

・軽快していなければ再評価

3週間目

・軽快していなければ専門家によるアドバイス

6週間目

・軽快していなければ専門家によるアドバイス

・軽快していなければ専門家によるアドバイス

・症状が1ヵ月以上続く場合、硬膜外ステロイド注入

・軽快していなければ専門家によるアドバイス

慢性期(12週以降)

・手術は不適用

・各種ブロック療法を試みる

・心理社会的因子の検討

・軽快していなければ各分野の専門家チームによる評価

・神経脱落症状が進行する場合、手術を検討

・軽快していなければ各分野の専門家チームによる評価

 

ケベックの診療ガイドラインは一つの指針に過ぎない。

例えば、グレードⅡ・Ⅲにおける「頸椎カラーの使用期間」や「マニピュレーション・ストレッチ・可動域訓練の開始時期(時期が幅広すぎる)」は議論が多い。

 

安静の回避と活動の継続は急性期であれ慢性期であれ必至とされ、運動療法やADLトレーニングによって徐々に機能障害を改善させていくプロセスが示され、物理療法や徒手療法は行わないとされている。

 

 

物理療法の一例

 

温熱療法

 

頸椎牽引

  • 急性期は禁忌。
  • 間欠牽引はマッサージ効果もあり循環改善に役立つとも言われている。
  • 牽引重量:通常3~4㎏よりはじめ7㎏を限度とする。(牽引重量は低すぎて支障が起こる訳ではないので軽めから始める。牽引重量を高くしてその場は良くても、後で症状が悪化するケースもある。まぁ、医師の指示通りの重量で牽引すれば良いだけの話だが。牽引療法自体のエビデンスも乏しい。患者の中には頭部重量感を訴え強めな牽引を訴える人もいるが単なる循環改善であれば1㎏でも十分である。ただ満足感の観点からはノーシーボ効果が生まれる可能性もあるので十分な説明が必要となる)。ケベックWAD重症度分類グレードⅡにも記載されているように、理学所見が無くとも顕微鏡レベルで軟部組織が損傷されていることも少なくなく、強い牽引はこれらの組織修復を阻害する可能性もあるので、この点も説明に加えてあげると良いかもしれない。
  • 持続効果なければ一定期間(期間に関しては文献で差があるが2週間など)を限度とする。
  • 関連記事⇒『牽引療法(腰椎牽引・頸椎牽引)って効果ある?適応・禁忌・徒手的な牽引法も紹介!

 

 

その他のリハビリ(理学療法)の一例

 

関節の自動運動:

急性期には、頸椎カラーによる肩こりに対する肩甲帯の運動を行う。肩甲帯の自動運動によって血行不良に伴う二次的な筋性疼痛・筋スパズムを予防する。

関連記事⇒『関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは?

 

 

筋の等尺性収縮:

頭部へ軽微な負荷を加えることで、頸部筋に対する等尺性収縮を起こす。リズミックスタビリゼーションを含む。頸椎を傷めないよう軽微な負荷から始める(深層筋の賦活であれば軽微な負荷で十分⇒『インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング』のフックライングを頸椎に応用するなど)。

筋の収縮後弛緩による筋スパズムの改善や、後述する軟部組織モビライゼーションによるリラクゼーション効果による交感神経の抑制による血流改善(発痛物質の除去)も期待できる。

関連記事⇒『求心性収縮・遠心性収縮・静止性収縮・等尺性収縮・等張性収縮の違い

 

 

軟部組織モビライゼーション:

時期や症状にもよるが、肩甲帯周囲筋(僧帽筋・肩甲挙筋など)や頭頸部筋(後頭下筋群・頸部深層筋群など)に対して注意深くマッサージストレッチングを加えていくこともある。

⇒『(HP)軟部組織モビライゼーションの種類を紹介

 

 

関節モビライゼーション:

時期や症状にもよるが、最初は神経生理学的効果を狙ったグレードの低い刺激を加えることで触圧覚刺激によるリラクゼーションを狙う。

時期や症状が軽くなって来れば静的なモビライゼーションから、動的なモビライゼーション(非特異的モビライゼーションなど)に移行するのも良い(このほうが機能的と言える)。

⇒『(HP)関節モビライゼーションの効果

⇒『モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介

 

 

症状が複雑化、難渋する原因に心理的要因の影響を指摘する人も

 

Barre-Lieou syndrome(バレー・リュウ症候群)の項目でも記載したように、頸椎捻挫(むち打ち損傷)の症状は多彩な場合もある。

 

でもって、これら症状が複雑化・長期化する要因の一つに「他人から生涯を受けたという被害者意識などの心理的要因」によって社会問題や賠償問題が絡んでくることも影響しているのではと指摘する人もいる。

 

この点に関して、あえて極論な例を提示するとすると「自分に非が無いにもかかわらず怪我をさせられたのであれば、せめて賠償金や治療費は大目にもらいたい」や「これを機に会社も少し休みたい」などといった感情が芽生えたとして、それが痛みを修飾する可能性もあるという事だ。

 

関連記事⇒『(HP)クリニカルリーズニングの前提条件とは?

 

子供のころに「学校に行きたくないから、もっとお腹が痛くなれば良いのに」と願い続けると本当に痛くなった気がした記憶はないだろうか?

 

心と体は繋がっているので、それと同様なことが頸椎捻挫(むち打ち損傷)と社会問題・賠償金の因果関係とも絡んでいる可能性がある。

 

急性期症状の平均治癒期間は32日で、1割程度が半年以上も症状が持続するという報告がある。

 

多くの症例で画像所見などの客観的所見は認められない交通事故や労災などの補償問題が関係する場合には、症状の持続、慢性化への移行に注意が必要である。

 

本症は病態が明らかにされておらず、そのうえ患者の性格やおかれた環境によっても症状の内容や程度が多彩に変化し、診断や治療に苦慮することが多い。

 

一般に症状は受傷の数時間から数日後に出現し頚椎椎間関節部の圧痛を高率で認める。

 

~『書籍:ペインリハビリテーション』より引用

 

心理・社会的要因が疼痛に影響することを、専門用語でイエローフラッグ・ブルーフラッグ・ブラッグフラッグなどと呼ぶことがある。

⇒『イエローフラッグ/ブルーフラッグ/ブラックフラッグ とは?

 

 

長期化した症状(不定愁訴含む)には認知行動療法が効果的な場合も

 

心理・社会的要因に損害賠償や休職の恩恵などが絡んでいると無意味な可能性もあるが、長期化した症状(不定愁訴も含む)に対して、痛みを正しく理解してもらうための情報提供(認知療法)は重要となり、例えば以下の様な動画も活用できなくはない。

 

⇒『認知行動療法に活用!「読書療法」と「動画(ドイツ子供痛みセンター作)」で分かる痛みの対処法

 

また、痛み日記を活用する(行動療法)などで過度な安静を予防出来ることがあるかもしれない。

⇒『痛み評価テスト(VASなどの疼痛スケール)の種類・特徴+臨床活用法

 

 

認知行動療法に興味がある方は、以下の記事も合わせて観覧すると理解が深まるかもしれない。

⇒『認知行動療法とは?痛みリハビリ(理学療法・作業療法)への活用法