この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)の専門用語であるGCE(general conditioning exercise)、すなわち全身調整運動(全身調整訓練)について記載していく。
GCE(全身調整運動・全身調整訓練)とは
全身調整運動(全身調整訓練)は、GCE(general conditioning exerxise)の訳である。
でもって少し古い文献になるのだが『書籍:運動療法』には、全身調整運動(全身調整訓練)に関して以下の記載がある。
また、『JF(SJFの前身)の冊子第3版』には全身調整運動に関して以下の記載がある。
全身調整運動 (generd condtiomng ex.)
目的:全身の機能低下(decnditioning)の再調整
方法:特殊な手技は不要 。寝返り、座位、立位、等張運動などを利用
補足:Andersonの判定基準を利用
いずれにしても、GCE(全身調整運動・全身調整訓練)は1950年代までに開発された『伝統的運動療法』に含まれ、1960年代に考案された『神経生理学的アプローチ(ファシリテーションテクニック』よりも古い概念のようだ。
GCE(全身調整運動・全身調整訓練)とは
GCE(全身調整運動・全身調整訓練)とは、
全身の機能(運動器系・呼吸器系・循環器系・その他の系)の一部または全部の系の機能低下により、日常の生活に支障をきたした場合、それを改善していくための運動(訓練)である。
これらの系の中で特に循環系機能の低下が大きな問題となる。
でもって、患者が日常の生活を営むためには個々の系だけでなく、それらを調整・統合することも重要である。
また、呼吸器・循環器との関連が深いことから、呼吸器・循環器の解剖学・生理学を十分理解しておくことも大切となる。
デコンディショニングとは
先ほど「デコンディショニング(deconditioning)」という用語が出てきたが、デコンディショニングとは以下を指す。
具体的には以下などがデコンディショニングに含まれる。
- 運動能力の低下
- 運動した場合の脈拍の反応や血圧調節の障害
- 呼吸器機能の障害
- 筋力低下
- 持久力低下
- 運動しようという気力の低下
- うつ状態
・・・・・などなど。
要は廃用症候群(生活不活発病)と置き換えてもらっても差し支えない。
廃用症候群を総まとめ! 高齢者の看護/介護/リハビリで必須な知識を復習しよう
デコンディショニングの状態
デコンディヨニングの状態とは以下を指す。
でもって、(廃用症候群と内容は重複するのだが)デコンディショニングの状態は以下の2つに分けられる。
・身体的デコンディショニング
・精神的デコンディショニング
~身体的デコンディショニング~
- 運動能力の低下:
関節可動域制限:長期臥床などにより関節可動域の制限が生じ、運動能力に以下などが生じる。
・筋力低下
・持久力低下
・運動に対する脳覚醒状態の低下
・巧綴性の低下(細かい動作を行う場合、どの筋にどのくらいの力を入れれば最も効率的に動作ができるかということは脳が学習し、プログラムされているが、長期間運動を行わないことにより、この学習されたプログラムが忘れ去られる)
・呼吸循環系機能の低下
・消化器系の機能低下(運動を行うためにはエネルギーが必要であるが、このエネルギーを供給するためには消化器系の機能が維持されていなければならない)
- 心拍数反応の増加:
長期臥床などにより、運動を行わないと安静時脈拍数の増加がおこり、低い強度の運動でも脈拍数が大幅に増加する。したがって、少しの運動でも疲労感を訴え十分な運動が行えない。血圧調節の障害・最も問題となるのは起立性低血圧であり、血管運動神経の調節障害である。
・・・・・・・などなど。
~精神的デコンディショニング~
- 情緒不安定
- うつ状態
・・・・・・・などなど。
GCE(全身調整運動)の目的と実際
前述したように、GCE(全身調整運動)の目的は「デコンディショニングの状態を改善すること」である。
でもって、GCEを実施する上での心構えは以下になる。
①関節可動域・筋力・持久力・運動学習理論などについて理解が必要となる。
②全身状態の許す限り臥床させない(しつこいようだが、廃用症候群の対策と一緒)。
③心理的サポートも必要となる。
GCE(全身調整運動)の実際
GCE(全身調整運動)として、前述した身体面・精神面に関するデコンディショニング対してアプローチしていく。
つまり、結局は以下の通り(まぁ、古典的運動療法として古くからある概念なので特殊なものは含まれていない)。
~身体面のデコンディショニングに対する全身調整運動~
- 関節可動域増大・筋力の向上、持久力改善
- 血圧調節の障害の改善具体的には、起立性低血圧への対策が主であり、具体的には以下などが実施される。
・ベッド上でのギャッジアップ・ベッド上坐位時間の延長(なるべく臥床を避ける)
・ティルトテーブルの利用(20度~30度の傾斜を目安に開始。
5分程度施行し、脈拍・血圧・顔色の変化・気分不良などがなければ5度程度角度を上昇させる)
血圧・脈拍の変化については、『アンダーソン・土肥の基準』を参考とすると記載されている文献が多い。
※起立性低血圧についての詳しい解説は以下を参照。
- 種々の機能統合のため、直接能力障害を改善するための理学療法を行う
例)長時間の立位保持、階段の昇降などの実際
~身体的GCE(全身調整運動)する際に、精神面のデコンディショニングにも配慮する~
- 患者に訓練の目的を十分にオリエンテーションし、不安などをなくす
- 患者への声かけを十分に行う
- 患者の状態を十分に観察する
GCE(全身調整運動)という略語を知らなかった件
GCE(全身調整運動)という用語は、ここまで記載してきたように『非常に幅広いアプローチを包括した都合の良い用語』だという事がわかる。
でもって私は新人の頃に、他院の医師(リハビリテーション医師)から受け取った診療情報提供書に『GCE』なる用語が記載されていたのだが、何の略語か全くわからず、先輩に聞いもわからず「どんな運動なんだ??」と意味が分からず困った記憶がある。
結局、自宅へ戻って学生時代の教科書を探しまくったら(扱い小さく、ここに記載されているような内容が)見つかった。
先ほども記載したが『GCE(全身調整運動)』とは、乱暴に言ってしまえば「理学療法士・作業療法士の裁量で実施される、何でもアリなリハビリ」といった印象を受ける。
まぁ、どの程度皆さんが、この用語に触れる機会があるか、活用する機会があるかは分からないが、何かの参考になれば幸いである。