この記事では腸脛靭帯炎についてのリハビリ(理学療法)についてまとめている。
腸脛靭帯とは?
腸脛靭帯とは、大腿筋膜張筋の延長上に位置しており、脛骨の外側顆ガーディー結節に停止する靭帯である。
腸脛靭帯炎の概要
ここからは、腸脛靭帯炎の概要を記載していく。
腸脛靭帯炎とは
膝の屈伸を繰り返すスポーツにおいて、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との間の機械適刺激により腸脛靭帯炎が生じると考えられている。
腸脛靭帯炎が発症しやすいスポーツとしては以下が挙げられる。
- 陸上長距離走
- 自転車競技
・・・・・・・・・・・など
特にランニングによって腸脛靭帯炎が生じやすく、自覚症状としては『ランニングによる膝外側の疼痛』が特徴である。
また、通常は「走行開始時には無く、距離の増加とともに痛みが出現する」といった点が特徴と言え、症状は走行立脚相で出現することが多いとされている。
立脚相での疼痛は、膝関節屈曲角度を減少させることで、症状が緩和するとの報告があり、これは「膝関節屈曲の減少により、大腿筋膜張筋の活動の際に腸脛靭帯が伸張されることを抑制できるから」とされている。
腸脛靭帯炎による痛みを無視してランニングを続けていると、症状が悪化して「安静時痛」も生じてくる可能性がある点には注意が必要である。
また、路面の傾斜が走行時の下側の脚の腸脛靭帯への緊張を増強させ、この疾患を発生させる環境要因となる。
※なので、屋外のランニングでは傾斜の少ないフラットな道を選ぼう。
さらに、衝撃吸収不足の靴や外側が摩耗した靴も、腸傾靭帯への衝撃・緊張を増強させるため発生要因となる。
靴の外側がすり減る⇒足部の回外⇒下腿の外旋(相対的に股関節の内旋)⇒膝へ内反刺激⇒膝外側の安定機構にストレスが加わる。
※なので、靴が摩耗したらちゃんと買い換えよう。
ランニング以外では、「過度なknee-outアライメントが要求される動作を含むスポーツ」も挙げられる(こんなのを挙げだしたらキリが無い気もするが・・)。
スポーツ動作のなかで過度なknee-outアライメントが要求される場合、膝関節の動的安定には外側広筋の他に、腸脛靱帯を介した大腿筋膜張筋による制動が必要である。
腸脛靭帯炎の原因は、前述したように「スポーツなどによる腸脛靭帯への繰り返しの機械的刺激」であるが、O脚などのmalalignmentにより腸脛靭帯の緊張が増強することも影響していると言われることがある。
腸脛靭帯炎のリハビリ(理学療法)を実施するにあたってのポイント
腸脛靭帯炎の評価・治療を考えるうえでのポイントは以下となる。
- 中距離ランナーでよく発生する。
- 腸脛靭帯炎では膝外側部に疼痛を訴える。
- 膝関節内反あるいは内旋が強制された場合に、この動きの制御に腸脛靭帯が関与している。
- 内反膝(O脚)・ハイアーチなどのアライメント異常も発生要因の一つとなる(膝の内反ストレス)。
偏平足・足部の回内・過度の下腿内捻などのアライメント異常も発生要因となる(膝の内旋ストレス)。
※上記の「内反ストレス」も「内旋ストレス」も大腿筋膜張筋へストレスを与えてしまう。
腸脛靭帯炎の評価
ここから先は、リハビリ(理学療法)を実施すにあたっての評価について記載していく。
問診
問診では以下の点を確認する。
- 疼痛部位
- 疼痛の程度
- 疼痛を増強させる動作
- 練習環境(路面状態が凸凹したり左右傾斜がある走路ではないか、使用している靴の種類や底の摩耗)など
腸脛靭帯炎症に対する疼痛誘発テスト
腸脛靭帯炎に対する疼痛誘発テストは以下になる。
- 患者は背臥位+下肢屈曲位(膝を立てた状態)
- 療法士は腸脛靭帯を大腿骨外側上顆より近位部で両母指にて圧迫しておく。
- 患者は、下肢屈曲位から膝を伸展させる。
- 膝屈曲30°位付近で、療法士が圧迫している部位で疼痛を訴える。
オーバーテスト(腸脛靭帯の短縮テスト)
腸脛靭帯の緊張・短縮度のテストとして、『オーバーテスト』を記載していく。
- 側臥位(テスト側を天井側とする)
- 療法士は「テスト側の股関節伸展位・膝関節90°屈曲位」でキープしつつ、テスト側の股関節を内転するにまかせ下降させ、内転10°未満であれば「大腿筋膜張筋+腸脛靭帯の短縮あり」ということで陽性となる。
※腸脛靭帯自体は伸張性のない組織なため、結局は大腿筋膜張筋の伸張性を評価しているといった側面が大きい。
※骨盤が背側へ傾いてしまうと意味をなさないので、しっかりと固定する。
※ただし、10°未満というのはやや厳しい判断基準と言える。腸脛靭帯の機能異常がある場合においても内転10°くらい下降するケースは多い。つまり、Ober’s testが陽性か陰性かだけでなく、抵抗感や症状、代償運動の種類と程度など、付随して現れる所見の方が重要であったりする。
※非テスト側の下肢を屈曲させておくことで支持基底面が広くなり側臥位が安定する。
ちなみに『運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹』では、Ober’s testをアレンジしたテストとしして、非テスト側の下肢を「最大屈曲位(=膝を抱える感じ)」にすることで骨盤を後傾位置に固定した肢位での評価方法が記載されている(この方法だと、通常のOber’s testで陰性となるケースでも陽性となる場合がある)。
※後述するリハビリ(理学療法)における大腿筋膜筋のストレッチングとして、そのまま活用できるので、しっかり覚えておこう(この場合も「Ober’s testをアレンジした方法」でのストレッチングがおススメ!)。
※この変法を「Ober’s test」として記載しているテキストも多いが、いずれも正しい。
以下の記事では、2つのオーバーテストを両方とも記載しているので、興味がある方はどうぞ。
⇒『“オーバーテスト”って膝屈曲 or 伸展どっち?解説します』
アライメントの評価
また、静的・動的な下肢アライメントのチェックも行う。
- 腸脛靭帯炎を発症させ易い内的要因としては、内反膝、回内足、脚長差が挙げられている。
- 内反膝は、膝関節の内反トルクを増大させ腸脛靭帯に負担をかけ、膝外側支持機構に負担がかかり、腸脛靭帯炎症を生じやすいと言われている。
- 一方で、膝の内旋(下腿の内旋)も腸脛靭帯に負担をかけるとされており、回内足が問題となる場合もある。
- 中殿筋の筋力低下はその代償として、大臀筋と大腿筋膜張筋の同時収縮を引き起こすことにより、腸脛靭帯の緊張を増加させることがある。
※後述するリハビリ(理学療法)として中殿筋の筋力強化は重要となる。
足部からの上行性運動連鎖を補足:
例えば、立位姿勢で足関節(距骨下関節)を回内(外反)位な場合、脛骨と大腿骨はともに前方・内側・内旋方向へ動く。
そして、上行性運動連鎖として働く力は「脛骨>大腿骨」なので、結果として以下が連鎖的に起こる。
- 膝関節屈曲・外転(外反)・内旋
- 股関節屈曲・内転・内旋
- 骨盤前傾・前方回旋
- 体幹は同側側屈+回旋
あるいは、立位姿勢で足関節(距骨下関節)を回外(内反)位な場合、脛骨と大腿骨はともに後方・外側・外旋方向へ動く。
そして、上行性運動連鎖として働く力は「脛骨>大腿骨」なので、結果として以下が連鎖的に起こる。
- 膝関節伸展・内転(内反)・外旋
- 股関節伸展・外転・外旋
- 骨盤後傾・後方回旋
- 体幹は反対側側屈+反対側回旋
※運動連鎖に関しては『運動連鎖を臨床活用してみよう』も参照
腸脛靭帯炎の観点からは、
- 「距骨下関節の回内」は「膝の内旋(下腿の内旋)」という刺激が機械的ストレスに結びつく。
- 「足部の回外」は「膝の内反」という刺激が機械的ストレスに結びつく。
同じことを延々と記載している気もするが距骨下関節の回内・回外ともに、過度であれば腸脛靭帯へ機械的ストレスを強めてしまう可能性がある。
腸脛靭帯炎症に対するリハビリ(理学療法)
ここから先は、腸脛靭帯炎に対するリハビリ(理学療法)について記載していく。
以下は、膝関節外の腱を起因とする傷害(腸脛靭帯炎、鵞足炎症)の理学療法プロトコルとなる。
参照:疾患別・理学療法基本プログラム(理学療法ハンドブック 改訂第4版)
※以下は、腸脛靭帯炎だけでなく、鵞足炎も含んだプロトコルになる点には注意が必要。
※多くは共通しているが、ストレッチの部分が多少異なる。
病期 | ストレッチ | 筋力強化 | 物理療法 |
急性期 (~1週間) |
ーーーー | ーーーー |
・ランニング中止 |
亞急性期 (1~2週間) |
・大腿筋膜張筋~腸脛靭帯 (腸脛靭帯炎の場合)
(鷲足炎の場合) |
・水治療法 ・超音波 ・テーピング ・インソール |
|
スポーツ動作開始 (2・3週間~) |
・ジョギング ・ランニング(ストライドを小さく・コーナー走に注意) ・競技復帰 ・ウォームアップ・ストレッチの励行 |
急性期における腸脛靭帯炎のリハビリ(理学療法)
腸脛靭帯炎の急性期においては、以下が重要となる。
- 疼痛の強い急性期は、ランニングを休止させ安静を取らせる。
- 炎症症状が認められればアイシングを主体に物理療法を行う
※アイシングに関しては以下を参照
⇒『アイシングの作用まとめ』
また、ランニングなど疼痛を誘発させる競技をを休んだうえで、日常生活ではインソールなどを活用することで腸脛靭帯に無理な負荷が加わらないようにする(インソールなどは後述)。
炎症が治まってすぐの段階であっても疼痛閾値は低下していたりするので、ランニングを再開することによる軽微なストレスで症状が再燃することも多い点は注意する。
痛みのない生活を送っていれば疼痛閾値は上昇する。
※一方で、刺激が少なすぎても廃用性の感作を起こすので痛みのない範囲でのウォーキングなどは積極的に取り入れても良いかもしれない。
亜急性期における腸脛靭帯炎のリハビリ(理学療法)
亜急性期からは、物理療法も併用しながら、少しずつ積極的なリハビリも取り入れていく。
- 炎症症状が沈静化すれば、温熱療法、水治療法、超音波などを試み、効果的なものを選択する。
- 緊張緩和を目的に、腸脛靭帯炎では大腿筋膜張筋から腸脛靭帯のストレッチングを主体的に実施する。
※ストレッチングに関しては、前述したOber’s testも参照
また、以下の様なセルフストレッチングも可能であり、ランニングを再開した際などは、柔軟体操として実施しても良いかもしれない。
※イラストは、左大腿筋膜張筋をストレッチしている。
※左股関節を伸展・内転・外旋位にする。
※更に、体幹を右側屈させることで起始部を停止部から引き離すことで、伸長刺激を増やす。 - 疼痛が出現しない範囲での抵抗で、中殿筋の筋力強化練習も開始する。
これは、歩行や走行の立脚期における股関節の安定性に大腿筋膜張筋も関与している。なので、中殿筋が弱化していると大殿筋や大腿筋膜張筋への負荷が強まってしまうことが理由である。
もっと詳しい理由は⇒『大腿筋膜張筋の特徴』を参照
中殿筋のトレーニングは⇒『中殿筋の筋トレ・ストレッチング』を参照 - 腸脛靭帯炎のテーピングは以下を参照
- 伸張ストレス減少を目的に、腸脛靭帯炎には外側ヒールウェッジの着用も考慮する。
※以下にインソールをリンクしておく。
※必ずしもスポーツ用ではなく、走り難ければ意味が無いのだが、試してみる価値はあるかもしれない。外側ヒールウェッジを使用することで、以下が起こる可能性がある。
内側ハイアーチの改善(過度な足部回外などが改善)
↓
運動連鎖によって、
動的アライメントの改善・内反ストレスの軽減↓
大腿筋膜張筋への負担が軽減。
あるいは偏平足・足部回内が腸脛靭帯炎に関与している場合はインソールで内側アーチを形成してあげることで症状が改善することもある。
ハイアーチな場合は別として、「腸脛靭帯炎」を訴える場合に、通常のインソールを使用することで症状が改善することもある。インソールにより内側アーチが形成されることで、以下が起こる可能性がある。
偏平足などの改善(過度な足部回内が改善)
↓
運動連鎖によって、動的アライメントの改善・脛骨内旋が改善
↓
大腿筋膜張筋への負担が軽減。
・また、直接の膝保護を目的にサポーターも有効である。
安価で高評価なスポーツ用サポーターは以下を参照。
※サポーター購入時は、サイズに注意すること!
スポーツ動作開始期
ランニングを開始する際は、ゆっくりとした速度でストライドを小さくし、平坦な路面で行うように指導する。
例えば凸凹したり、左右傾斜の多い走路でランニングをすると、膝の内外反を制御する支持機構にストレスが加わりやすいので注意する。
最初はコンクリートよりも、柔らかい走路でのトレーニングから始めたほうが『段階的なトレーニング』と言える。
腸脛靭帯炎の関連記事
腸脛靭帯炎を考えるにあたって、大腿筋膜張筋の役割を知っているほうが理解が深まる。
そんな『大腿筋膜張筋』に関する詳細は以下を参照。
大腿筋膜張筋ってどんな作用があるの?
腸脛靭帯(大腿筋張筋)の様に「膝関節の動的安定性に寄与する筋腱』で、尚且つ炎症を起こすものとしては以下がある。
こちらも参考にしていただければ、各々の疾患を通して相互理解が深まると思うので、是非観覧してみてほしい。
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この記事には「ある関節の影響が、他の関節へも連鎖する」といった『運動連鎖』の考えを記載している。
そんな運動連鎖についての詳細は、以下でも言及しているので興味がある方は観覧してみてほしい。
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