この記事では、運動失調(失調症)の評価法のまとめ一覧となる。

 

目次

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失調症における症状の種類

 

失調症状は、四肢の運動調整障害、姿勢保持の困難、歩行バランスの低下など様々な形で出現する。

 

でもって失調症状は、以下などの要素から構成される。

 

・距離測定障害(dysmetria)

・変換(反復)運動障害

・共同運動障害

・振戦

・時間測定障害

 

 

障害の種類 障害の内容
距離測定障害 随意運動を目的の所で止めることが出来ない現象。目的まで達しないものを『測定過少』、いきすぎてしまうものを『測定過大』という。
変換(反復)運動障害 関節運動の切り替えが迅速かつ正確に出来なくなる
共同運動障害

運動の順序、組み合わせの調和が障害されたもの。これが消失することである動作が全く遂行できなくなったものを『共同運動不能asynergia)』と呼ぶ。

振戦 運動軌道が揺れて一定しない状態を指す。目標に到達する前にそれが激しくなるものを『企図振戦(きとしんせん)』と呼ぶ。小脳失調に特徴的な症状である。
時間測定障害 動作開始時、あるいは停止時に運動が遅れる。

 

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運動失調(失調症)に対する評価一覧

 

前述した症状を踏まえた上での運動失調の評価としては以下などが挙げられる。

 

①測定異常の検査

・鼻指鼻試験

・指鼻試験

・足指手指試験

・踵膝試験験

・線引き試験

 

②変換運動障害の検査

・回内・回外試験

 

③共同運動障害の検査

 

④立位・歩行の平衡機能検査

 

 

①測定異常の検査

 

測定異常の検査としては以下が挙げられる。

・鼻指鼻試験

・指鼻試験

・足指手指試験

 

・踵膝試験験

・線引き試験

 

鼻指鼻試験(nose-finger-nose test):

被検者の示指先端で自分の鼻先と検査者の示指先端を交互にさわるように指示する。

検査者の示指先端は被検者の肘関節伸展位で届くところに置き、1回ごとに検者の示指の位置と動作のスピードを変化させて観察する。判定には、示指の動きかた、振戦の出現、鼻先に正確に達するかどうかをみる。指先に振戦があり.目標物にに近づくと振戦が著明になる症状を『企図振戦(きとしんせん)』という。

 

 

以下の動画は、実際の運動失調患者さんにテストをしている場面なので、学生さんなどには非常に参考になると思う(冒頭は解説が続き、55秒くらいからテストが始まる)。

※動画の中では、企図振戦も確認できる。

 

 

 

指鼻試験(finger-nose test):

指先で自分の鼻先に触るよう指示する。

これを開眼と閉眼で行う。

鼻指鼻試験との違いは、指の到達目標が自分の身体の一部であることから、(開眼と閉眼での試験結果を比較することで)視覚情報の有無による運動調節能力の差を確認できることにある。

※このテストは鼻指鼻試験とセットで行う。

 

以下は「閉眼で鼻指試験を実施している動画」である。セラピストが手指に触れるのを合図に、自身の指を鼻に触れるように動かしている。

 

 

 

足指手指試験(toe-finger test):

被検者を背臥位にし、足の母趾を検査者の示指につけるように指示する。検査者の示指は、被検者が膝を曲げて到達できるような位置に置く。次に検査者は示指をすばやく、15~45cm動かして、被検者に足の母趾でこれを追うように指示する。小脳障害があるとうまく追えない。

 

 

踵膝試験験(heel-knee test):

指鼻試験と同じ概念の検査を下肢に行うものである。被検者を背臥位にして、一側の踵を反対側の膝につけるよう指示する。続いて、下腿に沿って下行させ、最後に元に戻させる。最初は開眼で行わせ、動作が理解できたら閉眼でも行わせる。小脳障害では、踵はうまく膝にのらず、向こう脛に沿って真っ直ぐ、にまた円滑に動かすことができない。

 

以下の動画も、実際の運動失調患者さんにテストをしている場面なので、学生さんなどには非常に参考になると思う。

一見簡単そうに見えるテストでも、運動失調を有していると(運動失調の程度によっては)難しいことが理解できる。

 

 

 

線引き試験(line drawing test):

紙に10cm離した2本の平行な縦線を引き、患者に右の線からスタートし左の線で止める横線を引いてもらう。距離測定障害をみる検査であるが、失調症患者では目標を通りすぎたり(測定過大)、到達しなかったり(測定過小)する。

 

 

②変換運動障害の検査

 

回内・回外試験(pronation spination test):

両前腕をできるだけ早い速度で回内・回外させることで変換運動障害をみる。

失調症患者では速度が遅く、運動方向の切り替えが不規則になる。

注意すべき点としては、正常でも利き腕の運動の方が、非利き腕よりも速い。

 

 

ほかにも、手を机の上に置き母指から順番に指で机を叩かせる(finger wiggle)、いすで踵をつけたまま足関節の背屈・底屈をできるだけ早く繰り返す(foot pat)などの検査がある。

 

 

③共同運動障害の検査

 

背臥位で腕を組んだまま起き上がらせる。

失調症患者では、全身の筋を役割分担(固定-動き)して順序よく使うことができないため、下肢だけあるいは頚部・体幹だけを交互にあげるなど、うまく起き上がることができない。

 

立位で体幹を後方に反らせる健常者では膝を屈曲することでバランスをとるが、失調症患者ではそれができず後方に転倒しそうになる。

 

以下のイラスト上段は「正常(体幹屈伸の共同運動として下肢が協調して動くことで姿勢を制御するように働く)」、イラスト下段は「異常(運動の解体)」を示している。

 

検査時には、患者が実際に転倒しないよう注意する。

 

関連記事

⇒『共同運動と連合反応を解説(+ウェルニッケマン肢位)

 

 

④立位・歩行の平衡機能検査

 

安定した立位の保持や歩行も体幹や下肢の筋の合理的な共同収縮によって実現されている。

なので、その障害は立位や歩行時の平衡(バランス)障害となって現れる。

 

通常の立位、歩行が安定しているようにみえても、基底面積を狭くすると平衡障害が出現する場合がある。

なので、継ぎ足(tandem)での立位保持や歩行時の平衡度を確認しておく。

 

関連記事

⇒『タンデム肢位やタンデム歩行(継ぎ足歩行)をバランス練習に活用しよう

 

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小脳性失調と脊髄性失調の鑑別

 

以下は、小脳性と脊髄性運動失調を鑑別する際の表となる。

※参考:田崎義昭,斉藤佳雄(坂井文彦[改訂]):ベッドサイドの神経の診かた 改訂16版.南山堂,2004

 

症状 小脳性 脊髄性
深部感覚障害
閉眼の影響
測定異状
振戦 +(企図振戦) +(粗大振戦)
歩行 よろめき歩き 床をみながらバタンバタンと歩く
構音障害
腱反射 軽度低下 消失(後根障害があるとき)

 

ロンベルグテストとは:

ロンベルグテストとは開眼で閉脚立位での身体動揺を観察し、次いで閉眼したときの動揺の変化を観察する検査である(30秒性的立位を保持してもらう)。

閉眼にて動揺が増大する場合を陽性と判定する脊髄性失調(深部感覚性失調症)では陽性となり、小脳性失調症では陰性となる、つまり閉眼で視覚情報を遮断して、固有感覚に依存した平衡反応を観察することで、小脳性失調症と判別することができる。

言い方を変えれば、視覚代償をしているか否かを診ているともいえる。

 

以下は、開脚立位(両足内側縁を20cm離す)と閉脚立位(Romberg肢位)の2種類で、それを開眼および閉眼で行っているイラストである。

①開眼ー開脚

②閉眼ー開脚

③開眼ー閉脚(ロンベルグ徴候①)

②閉眼ー閉脚(ロンベルグ徴候②)

 

また、このテスト課題は段階的な静的立位保持の運動学習としても有用と考えられる。

※経験則として、「小脳性失調症の場合、閉眼閉脚立位で30秒保持可能であれば歩行可能な可能性が高い」と記述された文献もあるが、みなさんの経験則ではどうだろうか??

 

 

もう少し広い視野で見た際の、協調性障害の評価

 

もう少し宏視野で見た際の、協調性障害の検査を一覧表にしたら以下になる。

 

興味がある検査項目があれば、リンク先へジャンプしてみてほしい。

※『書籍:理学療法評価学―障害別・関節別評価のポイントと実際』より引用

 

障害分類・構成要素

主な検査方法・評価指標

検査の目的・項目

心身機能・身体構造

関節可動域

関節可動域測定

四肢・体幹の関節可動域

筋力・筋緊張

徒手筋力テスト

筋機能評価

振り子様運動

筋の不均衡、廃用性筋力低下

筋収縮様式別の機能

筋緊張低下

感覚

感覚検査

表在・深部感覚

運動失調

指鼻指試験、手回内・回外試験、踵膝試験など。躯体協調機能検査

四肢・体幹の運動失調、協調性

平衡機能

ロンベルグ検査・マン検査、BBSFRTTUG test、重心動揺検査

姿勢の安定性、バランス、平衡反応、平衡機能

活動

起居・移動動作能力

背臥位からの立ち上がり、運動年齢テスト(MAT)

発達学的視点から見た基本動作能力

歩行能力

10m歩行テスト歩行分析

歩行パフォーマンス、歩容

重症度

ICARSSARA

運動失調の重症度、自然経過、介入効果

ADL(日常生活活動)

バーセルインデックスFIM

ADLの自立度

 

 

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