この記事では、肩鎖関節障害に対する整形外科的テストである『ハイアーク(high arc test)』と『ホリゾンタルアーチテスト(horizontal arch test)』と『(肩の)ディストラクションテスト(distruction test)』について記載していく。
目次
ハイアークテスト(high arc test)
『ハイアークテスト(high arc test)』は、教本によっては『ハイアーチテスト(high arch test)』と記載されていたりもする。
ハイアークテストの方法は以下の通り。
肩鎖関節部に疼痛が誘発される場合は、肩鎖関節内の損傷が疑われる。
ちなみに、前述した「肩鎖関節内の損傷」というのは、関節円板の損傷などが該当する。
でもって、関節円板の炎症などが起こると、テストによる機械的刺激により疼痛が誘発される。
ハイアークテストに一手間かける
肩関節の動きは「肩甲上腕関節の動き」だけでなく、肩甲胸郭関節・肩鎖関節・胸鎖関節・(第2肩関節)などの肩関節複合体によって成り立っている。
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でもって、上肢挙上に伴い肩鎖関節にも捻じれ(回旋)刺激が生じる。
ただし、肩鎖関節の機能障害によって鎖骨の後方回旋が最初から生じてしまっている場合がある。
その場合は、ハイアークテストによって(最初から後方回旋していたものが)更に後方回旋方向へ刺激が加わることで痛みが生じる場合がある。
上記の考えをハイアークテストと組み合わせることで「本当に肩鎖関節由来の疼痛かどうか」の確度を高めることが出来る。
具体的な操作、および解釈は以下の通り。
- 鎖骨の後方回旋(上方回旋)を強要させる方向へ操作した状態で、ハイアークテストを実施。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、この操作で疼痛増悪・あるいは浅い挙上角度でと痛出現。
- 鎖骨の後方回旋(上方回旋)を修正する方向へ操作した状態で、ハイアークテストを実施。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、この操作で疼痛が緩和・消失する。
※これは、既に回旋している鎖骨を一旦もとの位置に戻す(鎖骨を腹・尾側へ押すように操作)ことで、肩鎖関節への過剰な回旋ストレスを抑制できるため
もし、このテストで肩鎖関節由来の疼痛が誘発されるようなら、鎖骨を下制・前方回旋(下方回旋)位に保持した状態で、背側から腹側へ向かって鎖骨遠位部へテーピングを施すことで、疼痛閾値の上昇や、炎症の早期解消に貢献できる可能性がある(テーピングが効果がある場合は、短期間のみ施行する)。
※関節円板の炎症は2週間程度で落ち着くと言われているので、疼痛を誘発する動作(どんな動作かは、ここに記載している整形外科的テストがヒントになる)を控えたり、一時的なテーピングが補助的に役立つことがある。
※ちなみにテープはカブレを引き起こすことがあるので、事前にパッチテストしておくことが理想である。
ホリゾンタルアーチテスト(horizontal arc test)
『ホリゾンタルアークテスト(horizontal arc test)』は、教本によっては『ホリゾンタールアーチテスト(horizontal arch test)』と記載されていたりもする。
ホリゾンタルアークテストの方法は以下の通り。
肩鎖関節部で疼痛が誘発される場合は、肩鎖関節内の損傷が疑われる。
ホリゾンタルアークテストに一手間かける
ホリゾンタルアークテストは、肩鎖関節へ背腹側方向へのメカニカルストレスが加わる。
で、ホリゾンタルアークテストによって「肩甲骨(肩峰)に対して鎖骨が後方へ逸脱する方向への刺激が加わった場合、肩鎖関節に機能障害や炎症を有している場合は疼痛が誘発される。
※少し表現を変えると、肩鎖関節機能障害によって「ホリゾンタルアークテストを施行した際、鎖骨が残ったまま、肩甲骨のみ前方へ移動する(=肩鎖関節へ背腹側への機械的刺激が加わる)ことで疼痛が誘発される。
上記の考えから、以下の操作を加えることで「本当に肩鎖関節由来の疼痛かどうか」の確度を高めることが出来る。
- 鎖骨の後方逸脱を増強させるような刺激を加えながら(鎖骨を腹側から背側へ押しながら)ホリゾンタルアークテストを施行する。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、症状は増強する。
- 鎖骨の後方逸脱を抑制するよう保持しながらホリゾンタルアークテストを施行する(少し難しいが鎖骨を腹側へ押してあげながらホリゾンタルアークテストを施行する)。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、症状は緩和・消失する。
肩鎖関節に対する背腹側方向へのメカニカルストレスが疼痛を誘発している場合、肩甲骨の棘上窩(で尚且つ、鎖骨遠位部の後方)にパットを当てて鎖骨が後方へ移動するのを阻害するようにしてあげると、疼痛が改善し、炎症を有している場合も治癒を早める効果がある(一度炎症が治まれば、そうそうホリゾンタルアークテストを施行しても疼痛は誘発されれない)。
肩のディストラクションテスト(distruction test)
『(肩の)ディストラクションテスト(distruction test)』の方法は以下の通り。
肩鎖関節部で疼痛が誘発される場合には、肩鎖関節内の損傷が疑われる。
ディストラクションテストは、「上肢を尾側へ引くこと」で「肩甲骨の下制」も起こり(鎖骨は残っているので)、肩鎖関節に頭・尾側方向へのメカニカルストレスが加わり、(肩鎖関節に機能障害や炎症があれば)疼痛が誘発される。
ディストラクションテストに一手間かける
ディストラクションテストも、ここまで記載してきた『ハイアークテスト』や『ホライゾナルアークテスト』と同様に、他の操作も加え疼痛の程度が変化するかを確認することで、「肩鎖関節由来の疼痛かどうか」の検査確度を高めることが出来る。
でもって、具体的な操作法と、その解釈は以下になる。
- ディストラクションテストと同時に、鎖骨(遠位)を下制しないよう(動かないよう)止めておく。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、症状の増悪が起こる。
- ディストラクションテストと同時に、鎖骨(遠位)にも下制方向(尾側方向)へ押すような操作を加える。
⇒肩鎖関節由来の疼痛であれば、症状の緩和・消失が起こる
※肩甲骨の下制の際に、肩鎖関節へ剪断力が加わらないように操作するということ。
肩鎖関節に対する頭尾側方向へのメカニカルストレスが疼痛を誘発している場合、肩鎖関節上部にテーピングパットを当てがいテープを貼ると症状の緩和、治癒の促進が期待できる場合がある。
※肩甲骨と一緒に鎖骨も押し下げる(下制させる)作用があるので、一時的な志向がに伴い鎖骨が(下制せずに残存してしまう)のを防ぐことが出来るため。
参考・オススメ書籍
ここに記載したテーピングに関しては、以下の書籍を参考にしている。
文章だけではピンとこない場合は、以下の書籍も合わせて観覧してみてほしい。
併せて読みたい関連記事
ここで記載してきたように、肩鎖関節の機能障害と言っても、肩鎖関節のどちらの方向の負荷が原因で疼痛が誘発されるのかが分かれば、対策が可能な場合もある。
また、疼痛誘発テストに一手間加えることで「実は肩鎖関節由来の疼痛ではない」ということが判明することもある。
なので、疼痛誘発テストをベースに「痛みが和らぐ操作、痛みが増強する操作」も加えつつ臨床推論することで、様々なリハビリ(理学療法・作業療法)のヒントが得られることがある。
この様な『臨床推論』に関しては、以下の記事も合わせて観覧することで理解が深まるかもしえない。