この記事では膝関節における正常アライメントと『外反膝(X脚)』・『内反膝(O脚)』について、これらと関連した用語でもある『FTA』・『Mikulicz線』なども含めて解説していく。

 

また、変形性膝関節症の動作分析の対象となる『スラスト現象』についても補足解説している。

 

目次

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膝関節の正常アライメントと外反膝(X脚)・内反膝(O脚)

 

以下のイラストが正常アライメントと外反膝(X脚)・内反膝(O脚)になる。

 

下肢荷重軸(大腿骨頭と距骨中心を結んだ線)が膝関節より外側にあるか内側にあるで判断する。

 

  • 正常⇒下肢荷重軸は、大よそ膝関節の中央を通る。
  • 外反膝(X脚)⇒下肢荷重軸は膝関節の外側を通る
  • 内反膝(O脚)⇒下肢荷重軸は膝関節の内側を通る。

 

実際の臨床においては大腿骨頭を厳密な特定は困難だが、上記イラストの下肢荷重軸が何となくでもイメージできていれば、視診で外反膝(X脚)なのか内反膝(O脚)なのか把握できるようになる。

 

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内反膝O脚)外反膝(X脚)の計測方法

 

ザックリと内反膝(O脚)と外膝(X脚)を把握する方法ではなく、両膝関節や両足関節(内果)の距離を指幅(例:2横指・握りこぶし3つ分など)あるいはcmで計測するという方法もあり、具体的には以下の通り。

 

内反膝(O脚):

大腿骨内側顆の顆間距離を計測

姿勢:立位

肢位:膝蓋骨を前面に向けて足部内側をつけて揃える

両膝(大腿内側顆)間の距離が2横指以上離れている場合に内反膝(O脚)と判断。

 

外反膝(X脚):

脛骨内果の果間距離を計測

姿勢:立位

肢位:両膝をつけた状態

両内くるぶし(両内果)間の距離が2横指以上離れている場合外反膝(X脚)と判断。

 

※注意点として両内果間の距離が9cm~10cmで外反膝と判断するなど、文献によって判定基準はマチマチ。

 

以下はO脚(左イラスト)とX脚(右イラスト)を大げさに分かり易く表現している。

 

 

内反膝(O脚)のX線所見の一例

 

内反膝・外反膝のX線所見はどうなっているのだろうか?

 

例えば内反膝(O脚)では以下の様なX線所見が認められる。

※「文献:運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹(第1版)」より引用

 

 

『内反膝(O脚)』と『外反膝(X脚)』が生じる様々な要因

 

内反膝(O脚)や外反膝(X脚)が生じる要因として様々な要因が言われており、具体的には以下の通り。

 

  • 股関節内転筋群の筋力による下肢アライメントの影響
  • Q角と性差
  • 大腿骨脛体角(FTA)による膝関節の影響(Mikulicz線の変位)
  • 脊柱・骨盤と膝関節の運動連鎖

 

 

股関節内転筋力群の筋力による下肢アライメントへの影響

 

股関節内転筋力と下肢アライメントの因果関係については以下などと言われている。

 

  • 内転筋群の低下:

    膝内側部に荷重(負荷)⇒下腿内反(O脚)の傾向

 

  • 内転筋群の緊張亢進:

    膝外側部に荷重(負荷)⇒下腿外反(X脚)の傾向

 

  1. 膝関節がO脚傾向な時、体重が膝内側に多くかかるため、次第に変形性膝関節症を引き起こしやすい
  2. 下肢アライメントは正常であっても、股関節内転筋群の緊張が強いと、膝外側部により強い荷重がかかることになる。
  3. 下肢アライメントが正常であっても、股関節内転筋群の緊張が弱くなっていると、機能的に膝は内反(O脚)の傾向をきたし、①と同じように膝内側部が変形しやすくなる。

 

 

なので、(内反膝)O脚に対するリハビリ(理学療法)として『膝内側部への負荷を軽減する目的』で股関節内転筋群の強化が推奨される場合がある。

 

股関節内転勤の筋力増強として簡単に出来る方法としてはゴムボールを使用した方法が紹介されることが多く、具体的には以下の通り。

 

方法①:

座位でゴムボールを両膝に挟み、そのゴムボールをつぶす方向に力を入れる

※この際に股関節内転筋群が収縮する

 

方法②:

座位でゴムボールを両膝に挟み、そのゴムボールを落とさないようにしながら一側の膝を伸ばす。

※ゴムボールを落とさないようにすることで股関節内転筋群の収縮を維持しつつ、膝伸展により大腿四頭筋を収縮させる。

※これにより(後述する)Q角の増大を抑制させながらの膝伸展運動の効果もあるとされる)。

 

股関節内転筋群の詳細に関しては以下の記事も作成しているので合わせて観覧することで理解が深まると思う。

⇒『股関節内転筋群(長内転筋・大内転筋・恥骨筋・薄筋)の選択的ストレッチを紹介

 

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Q角と性差

 

大腿四頭筋の外側方向への牽引力を算出するための指標としては「Q角(Qangle)」というものがあり以下の2つの交点で形成される

 

  • 上前腸骨棘(ASIS)と膝蓋骨中央を結ぶ線
  • 膝蓋骨中央と脛骨粗面を結ぶ線

 

女性は骨盤が広く、大腿骨が急な角度で内方に向かっているので大腿四頭筋の収縮により膝関節は外側ベクトルの影響をより強く受けると言われている。

 

 

※「女性はQ角が大きい・女性はX脚になる」と言われている(しかし実際は、女性でもO脚の変形性膝関節症が多い印象を受ける)。

 

でもって(O脚・X脚以外の)Q角に関する重要なトピックスは以下の通り。

 

  • Q角が大きいと膝蓋骨の安定性を減少させ、膝蓋骨が外側変位を起こし、膝蓋大腿関節の疼痛として現れることがる。

 

  • Q角の増大を抑制する(膝蓋大腿関節の外側変位を改善させ、膝蓋骨の安定性を高める)方法の一つとして大腿内側広筋斜頭の筋力強化」が言われている。

 

Q角

 

Q角

 

 

具体的な大腿内側広筋斜頭も含めた筋力増強訓練の例としては以下などがある。

 

股関節内転による内側広筋の収縮1
股関節内転による内側広筋の収縮2
  1. 対象者は側臥位で、患側下肢(左下肢)の股関節45°屈曲位とする。
  2. 療法士は健側下肢(右下肢)を外転位に保持する。
  3. 患側下肢を(股関節内外旋中間位にしたまま)、健側下肢に近づけるよう股関節内転・伸展してもらう。

 

上記の「股関節45°屈曲位からの伸展・内転」では内転筋群が収縮するが、その中で『大内転筋』の腱性部は内側広筋の起始としての役割をもち、大内転筋の活動は内側広筋の収縮効率も影響を及ぼすとされており、この点を活用した手法となる。

 

この点に関して、詳しくは以下の記事の「大内転筋」のコーナーも観覧してみてほしい

関連記事⇒『股関節内転筋群(長/短/大内転筋・恥骨筋・薄筋)を解説!

 

また、大腿内側広筋斜頭の詳細やトレーニング方法に関しては以下の記事も合わせて観覧してもらうと理解が深まると思う。

⇒『エクステンションラグ(extension lag)と内側広筋は関係ないよ

 

 

大腿骨頸体角(FTA)による膝関節への影響(Mikulicz線の変位)

 

下肢の内反・外反変形の評価には以下の2つが使用される。

 

・立位荷重線(Mikulicz線)

・大腿脛骨角(FTA)

 

  • 立位荷重線(Mikulicz線):

    大腿骨頭中心と足関節中心(距骨中心)を結んだ線Mikulicz線は『下肢機能軸』と呼ばれることもあり、荷重線が膝関節を通過することを表すことが出来る(この点に関しては記事の冒頭でも示した通り)。

    変形性膝関節症では、荷重線は、膝関節内側を通過することが多い(いわゆるO脚)。

    荷重線(Mikulicz線)

 

  • 大腿脛骨角(FTA):

    FTAは大腿骨と脛骨骨幹部の長軸のなす膝外側角である。

    正常成人のFTAの正常値は男子で175~178、女子で172~176の範囲だと言われており、変形性膝関節症では大腿脛骨角は大きくなる(いわゆるO脚)

    大腿脛骨角(FTA)

     

    FTAは左イラストの様に膝X線写真正面像における「大腿骨長軸と脛骨骨長軸の交点の外側の角」をいう。

    通常X線写真は下肢全長片脚起立で撮影したものを用いる。

     

    イラストは以下を示している。

    ①は正常(174~178°)

    ②は内反変形(180°以上⇒O脚)

 

 

脊柱、骨盤と膝関節の運動連鎖

 

以下のイラストは脊柱、骨盤と膝関節の運動連鎖を示している。

 

イラスト左は骨盤前傾(膝関節には内側方向への力が加わり易い:X脚)

イラスト右は骨盤後傾(膝関節には外側方向への力が加わり易い:O脚)

 

変形性膝関節症と運動連鎖

  • 骨盤後傾の運動連鎖(X脚になりやすい)

    股関節:屈曲・内旋

    膝関節:伸展・外反・外旋

    この時、膝関節には内側方向への力が加わる。

 

  • 骨盤後傾の運動連鎖(O脚になりやすい)

    股関節:伸展・外旋

    膝関節:屈曲・内反・内旋

    この時、膝関節には外側方向への力が加わる。

 

 

これらは、骨盤帯から膝関節への『下降性運動連鎖』を表現しているが、当然ながら足部から膝関節への『上行性運動連鎖』も存在する。

 

また、膝関節の変形が重度であったり、他部位の機能障害の存在・程度によって異なった運動連鎖が起こる可能性も十分にある点は補足しておく。

 

これら運動連鎖の総論的内容としては以下も参照してみてほしい。

 

⇒『運動連鎖による理学療法 、これさえ読めばイメージ出来るよ!

 

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スラスト現象とは

 

ついでに変形性膝関節症で起こり易い『スラスト現象』についても解説しておく。

 

トラスト現象とは以下を指す。

 

歩行荷重足の脛骨が大腿骨に対して内側または外側へぶれること。

 

以下は、
O脚(内反膝)に起こり易い『ラテラルスラストlateral thrust)』

X脚(外反膝)に起こり易い『メディアルスラストmedial thrust)』
を示している。

スラスト現象

 

変形性膝関節症はO脚(内反膝)が多いので、臨床においてもラテラルスラスト(lateral thrust)が観察される機会の方が多い(特に立脚初期~中期にかけて)。

 

でもって、ラテラルスラストによりイラストの様に「膝関節内側の圧迫が強くなる」や「膝関節外側の軟部組織(靭帯・筋腱)」に伸張ストレスが加わり易くなり、それが痛みに繋がることも考えられる。

 

 

 

 

楔状足底板の効果

 

変形性膝関節症に対する楔状足底板の効果としては、ここまで述べてきたO脚(内反膝)やX脚(外反膝)によって一部に加わり続けているメカニカルストレスを他にも分散させる形で逃がしてあげる効果があると言われている。

 

 

 

(初期の)変形性膝関節症に対するセルフエクササイズの一例

 

初期の変形性膝関節症に対してセルフエクササイズ(自身で可能なリハビリ)の一例としては、ここまで記載した内反ストレスあるいは外反ストレスを矯正させるような刺激を加えてあげる手法が有効なケースがある。

 

具体的には以下の肢位にてセルフエクササイズを行う。

 

※変形性膝関節症の初期には、O脚・X脚に関わらず両方のエクササイズを試して反応の良いエクササイズを選択するという考えもアリ(もしかすると、一方のエクササイズでは症状が軽くなり、もう一方のエクササイズでは症状が悪化するかもしれない)。

 

※この記事ではO脚・X脚といった『構造的な問題』を『症状』と結びつけているが、実際は必ずしも一致しないので、両方を試してみることをお勧めする。

 

※「変形性膝関節症の初期」に限定したのは、「中期~末期」であったり高齢者であったりは、そもそもこの肢位自体が取れないこともあるからである。

 

※このセルフエクササイズは『マリガンコンセプト(の運動併用モビライゼーション)』を応用した考えであり、中期~末期の変形性膝関節症に対してはセラピストと一緒に荷重下での膝関節の運動併用モビライゼーション(MWMS)を試験的に試してみるのも良いと思う。

 

 

O脚(内反膝)の矯正

 

①両膝を近づけたままで床に両膝をつく。

 

②手を膝下の下腿外側におく。

 

③お尻を床に降ろしていくに従って、両手で下腿を内側方向に5秒間押す。

 

④10回を1セットとして3セット行う(あくまで目安)。

 

 

 

 

 

 

X脚(外反膝)の矯正

 

①座位で両足底をくっつける。

 

②手を膝下の下腿内側に置く。

 

③両手で下腿を外側方向に5秒間押して、外反膝を矯正していく。

 

④10回を1セットとして3セット行います(あくまで目安)。

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

この記事の主な参考文献は以下の通り。

 

・オーチスのキネシオロジー

・運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹(第1版)

・姿勢の教科書

・理学療法評価学