この記事は筋・筋膜を伸張した際の比喩として用いられやすい『ダッシュポットモデル』について記載していく。
また、『エラスチン線維・コラーゲン線維』という組織や、『弾性・粘性・粘弾性』という表現も合わせて解説していく。
ダッシュポットモデルとは
ダッシュポットモデルは、「軟部組織(特に筋・筋膜)の伸張」を「ダッシュポットっという機械装置」に見立てて表現したものを指す。
そんなダッシュポットモデルは以下の通り。
筋・筋膜は他動的伸張により、以下が順番に起こる。
- 最初に弾性線維(エラスチン線維)が伸張される。
- 伸張を継続することにより膠原線維(コラーゲン線維)が伸張される。
- 筋の場合はアクチンとミオシンが重複している部分(架橋)が分離し、筋節が伸びる。
ここから先は、「エラスチン線維」「コラーゲン線維」について解説していく。
エラスチン線維・コラーゲン線維
ここから先は、筋膜の構成要素の中で、筋膜の可動性へ特に関与している『コラーゲン線維』『エラスチン線維』『基質』について記載する。
コラーゲン線維
コラーゲン線維は、筋膜において最も主要な成分である。
コラーゲン線維そのものに伸張性はないが、その一方で網目状の線維網を形成することでコラーゲン線維に配列変化が生じ、この変化によって可動性が生み出される。
具体的には、骨格筋が弛緩した状態において様々な方向に配列されているコラーゲン線維が、骨格筋の伸張に伴いその配列も伸張された方向にほぼ平行になり、この配列変化によって筋膜に可動性を生み出すという仕組みとなっている。
筋膜の中でも、特に筋内膜における個々のコラーゲン線維には十分な配列変化が生じること言われている。
筋膜におけるコラーゲンの分子と分子の端末には架橋(クロスリンク)が生成さており、これが筋膜を伸長した際の配列変化に対する抗張力となる。
そして、この架橋は成長とともに増加し、ある程度の強さ・硬さのコラーゲン線維に成熟する。
エラスチン線維
コラーゲン線維が伸張性の無い線維なのに対して、エラスチン線維は伸張性を有した線維である。
エラスチン線維はコラーゲン線維と組になって働いており、筋膜に伸張刺激が加わった際は、
まずエラスチン線維の弾力がこれに応じ、
さらに強く伸張された際にコラーゲン線維がゆっくりと配列変化を起こすことで伸張方向へ可動し、
最後にコラーゲン線維の抗張力によって止まる(筋内膜にはエラスチン線が含まれないとされている)。
基質(水・ヒアルロン酸・プロテオグリカンなど)
筋膜において、細胞成分や細胞外成分は、この基質内に存在する。
基質は粘性に富んだ成分であり、コラーゲン線維間の空間を保持する役割を果たし、コラーゲン線維が配列変化を起こす際の摩擦や摩耗を軽減させる滑剤として機能すると言われている。
そして、(仮に筋が完全に弛緩しており反射的短縮の要素が完全に除去された状態において)筋を伸長した際のファーストストップで保持すると、時間とともに徐々に筋膜が伸びてくる現象は、この基質による粘性の影響が大きい。
最後に補足として、「弾性」「粘性」「粘弾性」という用語に関して解説していく。
弾性・粘性・粘弾性
弾性・粘性とは以下を指す。
弾性(elasticity)
変位に比例する抗力のこと。
具体的には加えられた外力に応じて変形し、力を除けば元の形状に戻る性質。
バネの様なイメージ 筋収縮が全く起きていない状態の筋線維において、コネクチン(筋節のミオシンに入り込んでいくタンパク質)が弾性要素である。
粘性(viscosity)
速度に比例する抗力のこと。
流体の粘っこさを示す。
高い粘性の液体としては「ハチミツ」がイメージしやすく、ゆっくり流れる。
低い粘性の液体としては「水」がイメージしやすく、速く流れる。
筋膜においては、プロテオグリカンを主成分とする基質が粘性要素である。
粘弾性とは
『粘弾性(viscoelasticity)』とは、弾性・粘性が複合された性質のこと。
物体に外力を与えると時間経過に伴って変形し、外力を除くと原形付近まで回復してひずみが残る性質。
粘性要素は力学的モデルにおいて並列弾性要素に含まれ、その一部にダッシュポット(粘性要素を表す流体とピストンからなる系)を加えることにより表現される。
しかし、厳密には直列弾性要素にも少なからず粘性要素は含まれている。
したがって、骨格筋の伸張性に関しては、弾性要素に粘性要素を加えた粘弾性要素として考えていく必要がある。
具体例としては、以下が挙げられ、これらは速度に比例する粘性要素をよく表している。
そして、筋における粘性要素は筋膜に存在する液体成分、すなわちプロテオグリカンを主成分とする基質によって発揮されると考えられている。
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