この記事では、頭頸部・頸胸移行部に対する『リトラクション』について解説していく。
徒手療法・セルフエクササイズを考える上で基本的、かつ劇的な効果を示す可能性があるため、ぜひ観覧してみてほしい。
リトラクションとは
頭頸部・頸胸移行部に対するリトラクションとは以下を指す。
イラストにすると以下になる。
また、自動運動ではエンドレンジまで十分なリトラクション刺激が入力されにくいので、リトラクションの可動域が十分であるなら以下の様なオーバープレシャーを加えると、一層効果的となる。
でもって「リトラクション」という用語は、一般的に「肩甲骨の内転」を意味する用語として使われやすいが、マッケンジー法では上記の運動を「リトラクション」と表現しているので、この記事でも便宜上使わせてもらっている。
なので、混乱しないよう注意してほしい。
リトラクションによって起こる運動学的影響
通常、頭頸部を伸展する(天井を向く)と、頸胸移行部(C7/Th1/TH2)は後湾したままで関節副運動が生じず、詰まってしまうことが多い。
一歩でリトラクションでは頸胸移行部には伸展刺激(前湾方向への刺激)が入力されるがめ、頸胸移行部で生じやすいコンバーゲンス障害の改善にも役立つ場合が多い。
ここまで整理として、「頭頸部の伸展」と「リトラクション」の違いは以下の通り。
リトラクション | 頭頸部の伸展 |
・頭部関節(C0/1/2)は屈曲 ・中部頸椎(C2-7)は屈曲 ・頸胸移行部(C7/Th1/Th2)は伸展 |
・頭部関節は伸展 ・中部頸椎は伸展 ・頸胸移行部は後湾のまま詰まり易い |
以下は、リトラクションの動画になる。やはり動画はピンときやすい。
リトラクションのエラーに注意
重複するが、エラーとして「頭頸部の伸展が入ってしまっていないか」に注意してほしい。
「ちゃんと頭部が平行に背側へスライドしているか」を確認するということだ。
これは、クライアント自身ではピンと来ていないことも多いため、最初はセラピストは自動介助でリトラクションを誘導したり、セルフエクササイズをチェックしてあげると良い。
※ちなみに、リトラクション運動により即自的に症状が改善した場合、マッケンジー法では「ディレンジメントシンドローム」に分類される。
リトラクションの誘導
トラクションをセラピストが誘導+オーバープレッシャーを加える手順は以下になる。
- 患者の側方に位置する。
- セラピストの前腕長軸を、「頭部の可動方向」と平行になるように意識。
- その様に意識した後、患者の顎に触れ、頭部を背側方向へ並行に誘導する。
「セラピストの前腕長軸を、頭部の可動方向と並行になるようポジショニングする」というのがポイントになる。
もしも前腕長軸が、可動方向と平行になっていなければ、正しい方向への軸がぶれてします。
軸を一致させれば、後は軽い体重移動で可動させるとともに、頸胸移行部の後湾部に伸展刺激(前湾方向へたわむようなイメージな刺激)が加わっていることをモニタリンスしつつ、自動介助運動を促す。
頚胸移行部のモビライゼーション
もう少し分節的な評価・治療をしたければ背臥位での徒手療法を加える。
※関節副運動は検査は、立位・座位、側臥位、背臥位での方法があるが割愛。
※ここでは、頸胸移行部伸展方向の関節モビライゼーションのみ記載。
※片側コンバーゲンス障害に対する、片側関節モビライゼーションは割愛。
関節モビライゼーションの方法
- ベッドの頭部を下げる(あるいはセラピストが頭部を支えた状態でベッドから出す)。
- 療法士の右手は後頭部を下から支え、軽く頭側へ牽引を加えて頚椎の靭帯を緊張させ固定する。
- 左手は前腕部を枕の上に置き、ノーズグリップで尾側の棘突起を掴む。
- セラピストは膝を屈曲させることにより体を沈め、枕部分が支持点となり尾側の脊椎を腹側(天井側)へと可動させる。
※この際、頭部も持ち上がるため、右手で支える。
得られた効果を持続するために
頚胸移行部の機能障害は、運動連鎖によって以下などの症状を引き起こす。
- 頭痛
- 頸部の痛みや可動域障害
- 肩甲上腕リズムの崩れ・肩関節のインピンジメント・可動域制限
- 上肢のデルマトームに沿わない異常感覚・疼痛
- 腰痛
・・・など。
でもってリトラクションを取り入れることで、でこれらの症状が改善される場合も多い。
しかし、仮に効果が得られても、普段の日常生活に注意しなければ症状が再発してしまう。
従って、いわゆる「不良姿勢」といわれる姿勢を控えるとともに、長時間の同一姿勢保持は避けて定期的な姿勢変換・休憩を取り入れるよう指導する。
⇒『“指そらしテスト”でメカニカルストレスの弊害を理解してもらおう』
参考書籍
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