この記事では大殿筋について、筋力トレーニング・ストレッチングなどのリハビリ(理学療法)も含めて記載していく。
目次
大殿筋の基礎情報
大殿筋の基礎情報は以下となる。
起始 |
腸骨の恥骨翼の外面で後殿筋線の後方 仙骨の外側縁 尾骨の外側縁 胸腰筋膜 仙結節靭帯 |
---|---|
停止 |
腸脛靭帯 大腿骨の殿筋粗面 |
作用 | 股関節の伸展、外旋、内転(下部)、外転(上部) |
神経 |
下殿神経 (L4~S2) |
筋連結 | 広背筋(筋膜)・多裂筋(筋膜)・最長筋(筋膜)・腸肋筋(筋膜)・中殿筋(筋膜)・外側広筋(腱膜)・中間広筋(腱膜)・大腿筋膜張筋(筋膜)・大腿二頭筋の短頭(筋間中隔)と連結。 |
大殿筋の特徴
大殿筋の作用が「股関節の伸展」であることは有名であるが、それ以外にも以下の特徴がある。
- 大殿筋は股関節伸展以外に、股関節外旋作用も有す。
- 大殿筋上方線維は股関節伸展以外に、股関節外転作用を有す。
- 大殿筋下方線維は股関節伸展以外に、股関節内転作用を有す。
- 大腿骨を固定した状態において、大殿筋は骨盤の後傾に作用
- 大殿筋は胸腰筋膜の緊張を調節し、間接的に腰部の安定化に関与。
歩行の安定性は大殿筋歩行を考えると分かりやすい
大殿筋のメジャーな作用である「股関節伸展」は、歩行の安定性や推進力に関与する。
大殿筋は踵接地期に最もよく活動し、この活動によって、骨盤・体幹の前方への屈曲力(慣性力による作用)に対抗することが出来る。
主要な股関節外転筋の補助として、歩行時の側方への安定性にも関与している。
関連記事
⇒『歩行時の側方安定性にも関与すると思われる大腿筋張筋を解説』
この「歩行の安定性」に関しては、極論として大殿筋の麻痺によって起こる『大殿筋歩行』という特異的な歩行を考えると重要性を理解しやすい。
~画像引用:運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹第1版~
- 左イラストが正常歩行。
大殿筋が十分に活動することで、踵接地時に生じる股関節・体幹の屈曲を支持し、円滑な前方移動を導くことが出来る。
- 右イラストが大殿筋の麻痺によって起こる「大殿筋歩行」。
踵接地時に重心を股関節の後方に落とすように体幹を反りらせ、靱帯性に股関節を安定させて歩行する。
重心を前方においてしまうと、(大殿筋が麻痺しているので)慣性力により生じる股関節屈曲を制動できないため。
ここまで大げさではないにしても、大殿筋の活動は、股関節・体幹も安定化(Stability)に重要なことが理解できる。
そして、「体幹のstability」という点にフォーカスした場合は、同じく腰背筋膜の緊張の調整により間接的にも体幹stabilityに関与する筋としては腹横筋が有名である。
※大殿筋が胸腰筋膜を尾側へ引くことで緊張を調整するのに対して、腹横筋は外腹側へ引くことで緊張を調節する。
関連記事⇒『腹横筋の特徴を解説』
あるいは、腸腰筋も脊柱を深部から安定させてくれることで、歩行時の動的安定性に貢献している。
また股関節に関しては、歩行時に大殿筋が推進力として作用する一方で、腸腰筋は遠心性に収縮して拮抗することで、推進力の微調整にも寄与している(これは大腿四頭筋とハムストリングスの関係と似ている)。
関連記事⇒『腸腰筋の特徴を解説』
そして、腹横筋・腸腰筋も含めた『体幹インナーマッスル』と協調して働くことで動的安定性を得ているという視点も持っておいた方が良いだろう。
関連記事⇒『体幹インナーマッスル(コアマッスル)を解説』
歩行の推進力にも関与
前述した「大殿筋歩行」では歩行の推進力が得られないため、極端に歩行スピードが遅くなるのが特徴である。
また、「活発でキビキビとした歩行」を展開するにためには、大殿筋の股関節伸展作用によって生じる推進力は欠かせない。
あるいは、スプリンターのスタートダッシュやダッシュ力アップにおいても、ハムストリングスと一緒に強化すべき筋の一つとして大殿筋が挙げられる。
バックブリッジ運動によるリハビリ(理学療法)
ここから先は、リハビリ(理学療法)として、バックブリッジ運動について記載していく。
※以降の記事は「バックブリッジ運動」を「ブリッジ」と略して記載。
ブリッジのバリエーション
ブリッジのバリエーションには以下があり、上から下の順に股関節伸展筋群に加わる負荷が増えていく。
両脚ブリッジ
いわゆる「普通のブリッジ」となる。
両脚ブリッジの動画は以下も参照
クロスブリッジ
対側の足を組んだ状態でのブリッジ
片脚ブリッジ
イラストでは、かなり対側下肢を拳上させているので「片脚挙上ブリッジ」と呼ばれることもある。
単なる「片脚ブリッジ」であれば、下肢が床から少し浮いていれば良い。
以下は、片脚拳上ブリッジの動画となる。
番外編として、以下の様な方法もある。
ボールを膝に挟んだ状態でのブリッジ
ボールが落ちないように挟み込むことで「股関節内転筋群に抵抗を加えながらのブリッジ」となる。
大内転筋の下部線維の機能が低下すると、外転作用を有する伸展筋群の負担が高まりやすいとされている。
そしてこのブリッジは、「股関節内転筋群に抵抗をかけることで大内転筋下部線維の活動性を促した状態でのブリッジ」ということになる。
上記のバリエーションは、全て手を体の前面で組んでいる。
必ずしも組む必要はないが、ベッド上に上肢を置くと「ブリッジ時に手を押し付けて固定する」といった代償が働く場合がある。
つまり、広背筋の「体幹伸展作用(肩関節伸展の反作用)」を働かせてしまうという事になる。
その様な活動がみられたら、広背筋の筋活動を除外するうえでも手を組む。
※以下のイラストは、上肢をベッドに強く押し付ける(広背筋を活動させる)ことによ股関節伸展筋群の活動を代償している。
リハビリ(理学療法)で活用されるブリッジ運動の特徴
ブリッジは「CKCに近い」トレーニングであり、股関節伸展筋群を含めた「股関節周囲筋」の強化に加え、体幹筋群や他の下肢筋群との連動した筋収縮を促すことが出来る。
ブリッジによって股関節周囲筋(股関節伸展筋群など)が活動するが、体幹筋(背筋群・腹筋群)も活動する。
※特に、通常のブリッジでは背筋群は高い筋活動を示す。
※一方で、腹筋群の筋活動は低い
そして臨床では、骨盤後傾位をキープ(腹横筋を含めた腹筋群の収縮によって)しつつのブリッジも多用されることがあるが、これは「背筋群(の脊柱起立筋)の筋活動を抑制させつつ、腹筋群の筋活動を高めた上でのブリッジ」ということになる。
※この手法はブリッジによる「多裂筋の賦活」と、骨盤後傾位による「腹横筋の賦活」が可能な低負荷なトレーニングとしても重要となる。
ハムストリングスの筋活動を抑制した上でのブリッジ
ブリッジ運動は膝関節の屈曲角度によって、大殿筋とハムストリングスの筋活動が影響を受ける。
通常は膝関節90°屈曲位だが、この屈曲角度と筋活動の関係は以下の通り。
- 屈曲角度が深くなる⇒大殿筋が増大、ハムストリングスは低下
- 屈曲角度が浅くなる⇒大殿筋が低下、ハムストリングスが増大
従って、大殿筋を強化したいのであれば屈曲角度を深く、ハムストリングスを強化したいのであれば屈曲角度を浅くするほうが効果的となる。
また、その他の手法としては、ブリッジ時の足部の位置が低くするという方法があり、これによってハムストリングスの筋活動は低下する。
一方で、大殿筋の筋活動が増加することが分かっている。
従って、この手法によって「ハムストリングスの筋活動を抑制したうえでの大殿筋の筋活動を高めること」が可能となる。
以下がベッドより低い位置に足部を設置した状態でのブリッジとなる。
※膝関節の屈曲角度を90°以上にすると、さらにハムストリングスの活動は抑制される。
※あるいは、この状態で足踏みをすると、大殿筋の収縮をレシプロカルに促していることになり「機能的なエクササイズ」となり得る。
※この様な環境にセッティングするまでが煩わしいので、(個人的に)臨床ではあまり使わないが、一つのアイデアとして面白いとは感じる。
脊柱起立筋の筋活動を抑制したうえでのブリッジ
「脊柱起立筋の筋活動を抑制した上でのブリッジ運動」としては、前述したように「骨盤後傾位をキープしたままでのブリッジ」が臨床では多様される。
その他の手法としては、頭部挙上位(頭を浮かせた状態でお臍を見ながらの)ブリッジでも脊柱起立筋の筋活動を抑制できる。
いずれの手法も、「腹筋群の活動を高めることによる股関節伸展筋群の相反抑制」を狙っている。
片脚ブリッジによる筋活動の特徴
ブリッジのバリエーションでも記載した「片脚ブリッジ」の筋活動の特徴は以下となる。
- 両脚ブリッジと片脚ブリッジの比較では、片脚ブリッジと比較して股関節周囲筋の活動量は優位に高くなる。
- 両者の筋活動を測定した文献では、「片脚ブリッジ時の大殿筋・中殿筋・大腿筋膜張筋の筋活動量は、両脚ブリッジの3倍以上(内転筋群は2倍程度)であったと報告もある。
※股関節内外転筋群の筋活動が高まるのは、片脚支持によって支持基底面が狭くなり支持脚の内外動揺の制御が一層要求されるからである。
※もし内or外へ膝が傾いていたら、それらに対応するための筋活動が不十分な可能性もある。
- また、背筋群の筋活動も飛躍的に高まり、中でも多裂筋は強く収縮する(あくまで健常者の多裂筋の場合)
もっと厳密な意味でのCKCトレーニングは
厳密なCKCとしては、スクワットも大殿筋の活動性を高めることの出来る運動として重宝する。
関連記事⇒『高齢者のスクワットを解説』
あるいは、リハビリ(理学療法)とはかけ離れるが、ランジもCKCによる大殿筋の筋力増強効果が得られる
※CKCでのトレーニングなため、大殿筋のみならず様々な筋が活動する(特に大腿四頭筋と大殿筋)
関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)』
※コアマッスルも活動する⇒『関連記事:コアトレを解説!』
注意点として、トレーニング時には膝がニーインやニーアウトしないよう。
関連記事⇒『ニーインによる運動連鎖で起こる症状』
以下のランジ(ステッピング位で繰り返し体重を落としていく)のほうが、筋力増強効果が高い。
※バーベルを担げばもっと負荷量が高まる。
更に余談だが、ランジは骨盤底筋も強く収縮させる可能性があり、ピフィラティスの体操としても活用される。
⇒『ピフィラティスは頻尿・尿漏れ予防の救世主となり得るか?!』
⇒『骨盤底筋群を解説!』
大殿筋のストレッチング
最後に、大殿筋のストレッチングについて記載して終わりにする。
大殿筋のストレッチングは以下の通り。
- 対象者は背臥位
- 療法士は、ストレッチ側の股関節を屈曲・内転させていくことで大殿筋を伸張する(内転方向を意識しながら、最大屈曲させていく)。
分かりやすいイメージとしては、「反対側の腋窩(脇)に膝を近づけるように股関節を最大限に屈曲していく」と、屈曲・内転が自然と起こる。
※これに外旋を強調させると「梨状筋のストレッチング」となる。
関連記事⇒『梨状筋のストレッチングは、筋の特殊性も考慮せよ』
このストレッチングのポイントは、骨盤を後傾させないよう大腿長軸方向へ圧迫刺激を加えながら上記の操作を行うといった「微調整」を少し加えるとで伸張感が違ってきたりする。
一方で、臨床で遭遇する「大殿筋の機能障害を有している人」の中には「股関節の障害(例えば変形性股関節症)も合併している人」も多く、それらの人に考慮するとなると「股関節への圧迫刺激を加えることでの微調整」は関節痛を誘発させてしまうのでよろしくない。
なので、骨盤の固定が甘くとも軽微な伸張刺激を与えるにとどめ、「伸張強度」よりも「伸張時間」に重きをおくことで対処する。
※そもそも、極論として「伸張強度」と「伸張時間」を議論した場合、伸張時間の方が重要とされている。
関連記事⇒『スタティックストレッチングのポイントとは?!』
また、時間の短縮や筋スパズムにも考慮したければ『等尺性収縮後弛緩テクニックも併用しながらのストレッチング』という発想もアリである。
関連記事⇒『等尺性収縮後弛緩テクニックを解説』
ブリッジ関連記事
ブリッジ運動に類似した運動として『背臥位での骨盤後傾運動』がある。
これは狙っている目的(や賦活しようとしている筋)がブリッジ運動とは多少異なる。
そして、リハビリ(理学療法)としては、こちらの方が活用頻度が高い場合も多い。
そんな骨盤後傾運動に関しては以下を参照してみてほしい。
多裂筋を知らずして『コア』は語れない
ちなみに、記事の中で『大殿筋破行』を記載したが、それ以外の破行については以下の記事でもまとめているので、興味があればチェックしてみてほしい。