この記事では、高齢者のバランストレーニングとしても重要なDYJOC(dynamic joint control training)について記載していく。
※この記事では、『DYCOC traning』を『DYCOJ』と略して記載。
目次
DYJOC(動的関節制動訓練)とは
『DYJOC(dynamic joint control training)』とは、日本語で『動的関節制御訓練』と訳されたり、そのまま『ダイナミック ジョイント コントロール トレーニング』と表現されたりする。
DYJOCは主に下肢の障害に対して実施されるアクティブなトレーニングだが、リハビリ(理学療法)として実施する筋力トレーニングとは異なった考えを持っており、以下を目的としたトレーニングとなる。
DYJOCの目的
DYJOCの目的は以下などが挙げられる。
- 地面からの情報に対する足指・足底機能改善
- 足指足底の把持機能運動による身体制動能改善
- 荷重下あるいは空間での関節からの情報に対する機能向上
- 四肢体幹の連携による立位平衡機能の改善
- 荷重下(CKC)での四肢体幹の多関節運動連鎖の筋力維持・増強機能向上
- 不意な外力への反応改善による予測制御の確立
- 全身的な神経一運動器協調性の改善
- 同一組織への持続的応力作用の回避
DYJOCの実際
DYJOCは、以下の2つに分けられる。
非荷重時期でのDYJOC:
非荷重期でのDYOCは臥位・座位にて以下などを実施する。
・足趾の運動(足趾ジャンケン・タオルギャザー・ビー玉拾い)
・壁蹴り運動
・座位でのトレーング
⇒不安定板運動(DYJOCボード)・スライドボードなどの運動
荷重時期でのDYJOCトレーニング:
荷重時期でのDYJOCトレーニングは立位にて以下などを実施する。
・スクワット
・ローラーチェアー運動
・バランス運動(不安定板、ロッカーバランス、エクササイズボール)
いずれのDYJOCでも、足底からの情報を確実にするために裸足でのトレーニングが基本となる。
非荷重時期でのDYJOCは『完全免荷時期』と『部分免荷時期』に細分類されることがある。
完全免荷時期におけるDYJOC
完全免荷時期のDYJOCは術直後、ギプス固定中でも実施出来る可能性のあるトレーニングを指す。
足底の固有受容器に早期より刺激を与え、荷重制限からくる「固有受容器の機能低下」や「足指による把握能力低下」を予防・改善させ、荷重時期におけるリハビリ(理学療法)に備えさせる意味合いがあり、具体的なDYJOCとしては以下などが該当する。
①臥位での足指自動運動:
臥位での自動運動として足指を使ったじゃんけん(グー・チョキ・パー)、足指の屈伸運動などが該当する。
足指の運動は、深部動脈血栓症の予防にも重要だが、DYJOCにもなっている。
足指の屈伸としては、「太めの紐とペン、タオルなどを前足部にてつかむ」などもアイデアとして活用できる。
②下肢に対する『関節運動覚-運動器フィードバック運動』:
臥位(あるいは座位)で療法士が急に上下・前後・左右方向に股関節・膝関節・足関節を動かそうとするのに対して、対象者はその動きに抗してもらう。
※臥位の場合は、「背臥位+下肢屈曲位(要は膝を立てる)」の状態で実施(タオル踏んずけてもらって、療法士がタオルを様々な方向へ動かそうとし、その動きに抗ってもらうという方法も)。
関節運動核と運動器の即応力の総合的な運動と言える。
このブログとの整合性をとるために別の表現をするならば、ダイナミックスタビライゼーション・スタビライジングリバーサル(の局所バージョン・難易度の低いバージョン)と言い換えると、PNFを学んでいる人は理解しやすいと思う。
関連記事⇒『PNFの拮抗筋テクニックを紹介!』
健側及び患側の運動が許可されている関節に対して療法士が僅かな外力を加え、それにできるだけ素早く対応させることで、「固有受容器を覚醒」「反応の速さをまず認識させること」を期待する。
また、背臥位にてバランスボールの上に下腿を乗せ、膝の屈伸運動(股関節も利用しながらの小さな円運動も含む)などもDYJOCとしておススメとなる。
具体的には以下の記事に記載されている動画も参照してもらいたい。
部分免荷時期におけるDYJOC
下肢筋群を抗重力位にて身体の機能的安定支持筋としてバランスよく作用させるためには荷重制限の時期でも、出来るだけ早期より足を床につけた状態での訓練が開始されることが望ましい。
部分荷重時期におけるDYJOCは、術後のみならず、様々な用途で活用される(DYJOCの適用については後述する)。
トレーニングは座位・立位で実施し、「立位での実施で尚且つ術後トレーニングの場合」は許可された負荷量を超えないよう十分に注意する必要がある。
①足指での把持練習:
例えば、座位にて、準備した箱の中に入れた形状の異なるゴルフボール・ガラス玉などをあしゆびで把持し、別の箱の中へ移動させる。
※この訓練は、足指に浮腫があったり、長・短指屈筋、長・短母指屈筋の筋力低下が生じている場合も把持困難となる。
※足指把持機能は、前足部での支持形成と感覚入力のために重要な機能の一つと言える。
足指での把持練習として有名なトレーニングとしては『タオルギャザー(床上でタオルに重錘などを乗せ、足指でつかみ、たぐり寄せる訓練)』がある。
具体的な方法は以下の記事で解説しているので、こちらを参照してもらいたい。
⇒『タオルギャザーを解説!』
②座位でバランスボード・キャスターを用いる:
例えば「端坐位でバランスボードに両足を置いた状態」で、数十秒間キープさせたり、足関節の動きによってバランスボードを動かしてみたりする。
あるいは「端坐位でキャスター(付きバランスボード)に両足を置いた状態」で板を前後移動させたり、円運動を実施したりする。
いずれにしても、最初は遅い速度で動かせる可動範囲で行い、徐々に運動速度を速めながら運動範囲を拡大させていく。
※原則としては踵を浮かさない。
③座位での『関節運動覚-運動器フィードバック運動』:
坐位にて、下垂した下肢にセラピストが種々の方向より等尺性外力を加え、それに即座に対抗させ保持させるようする。
膝や足関節の角度も変化させる。
また、前述したバランスボードや不安定板で静的姿勢を保持をした状態から、療法士が種々の方向に膝や下腿部より外力を加え、それに対抗させるトレーニングも「関節運動覚-運動器フィードバック運動」となる。
これらによって、股関節・膝関節・足関節の関節運動覚と運動器の即応力の総合的運動となる。
④座位での『足底覚-運動器フィードバック運動』:
足底に敷いたタオルを療法士が不意に前後左右方向へ引き、対象者はタオルが動かないよう抵抗してもらう。
足底感覚と運動器の即応力の総合的運動となる。
ちなみに、『フィードバック』という用語についてピンとこない方・詳しく知りたい方は以下で解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
(全)荷重時期におけるDYJOC
日常生活やスポーツ活動においての不意の外力や状況変化に対応させるためには、この全荷重位での地面との相対的関係があって初めて、下肢筋相互の機能的、実際的役割が学習され、下肢の動的制御が可能となる。
全荷重時期に原則として立位での運動を行い、バランス能力が向上するにしたがって、比較的安定した不安定版から、より難易度の高い不安定版に変更しつつ実施する。
一方で、立位でのDYJOCは病院・施設で高齢者に実施するには難易度が高いものが多く、(平行棒・歩行器・松葉杖などを使用して十分なリスク管理課の下で実施すると仮定しても)非適用なものが多い。
※どちらかと言うと(後述するDYJOCの適用にも記載するが、アスリートや若年者のコンディショニング)としての活用に向いている。
そんな中で、ここでは比較的難易度が低く、リスク管理もし易いDYJOCを記載していく。
①スクワット:
両下肢で支持し、ゆっくりと重心を下げる。
最初は、ゆっくりとした速さで開始し、屈曲角度を少なくして行うが、慣れたらはすくどや屈曲角度に変化をつける。
可能なら膝屈曲角度を深くするスクワットや片脚でのスクワットを行う。
スクワットの詳細は、以下の記事でも解説しているので参考にしてみてほしい。
②起立・着座運動:
両下肢で支持し、ゆっくりとした動作で起立・着座する。
立位バランス不良・筋力低下顕著の場合には転倒に注意する。
最初はゆっくりした速度で体重移動を繰り返すが、慣れたら速度を上げ椅子を低くして難易度を挙げる。
可能なら起立・着座運動を低い椅子や片脚で行う。
スクワットに比べて「安全に実施できる」・「正しいフォームからの逸脱が少ない」といった点で、高齢者にもおススメのトレーニングとなる。
また、(スクワットにも言えることだが)ゆっくりとした動作でトレーニングすることはDYJOCというだけでなく、スロートレーニングと言った観点でも高齢者におススメできる。
スロートレーニングに関しては以下の記事で深堀しているので、こちらも参照してみてほしい。
③外乱に対する身体平衡バランス:
前述した『座位での足底覚-運動器フィードバック運動』『座位での関節運動覚-運動器フィードバック運動』を立位で実施するという事になる。
身体応答を高める目的で、療法士が対象者の肩・腰・骨盤部に前後・左右(あるいは対角線上に)不意な外力を加え、その外乱に対応させる。
強度・タイミング・部位などに変化をつけ、より難しい外乱となるようにする。
これはPNFでいうところのダイナミックススタビライゼーションであり、以下の記事も併せて観覧してみてもらいたい。
また、実際の方法に関しては、以下の記事における『フックライング』と同様なアプローチ(フックライングでの膝に対する抵抗か、立位での肩などに対する抵抗かの違いだけなので)を参考にしてみてほしい。
立位でのDYJOCは、もはや「通常の動的バランス練習をどの様な切り口で解釈するか」だけだとも言える。
すなわち、以下の記事に記載されている「動的バランスに対するリハビリ(理学療法)」は全てDYJOCと言えなくもない。
DYJOCのイラスト
ここまでに記載してきた様々なDYJOCのイラストを添付しておく。
何となくイメージしてもらえれば幸いである。
- 足指にてタオルを把持させたり、ペンなどを把持させたりしている。
- 足指にてタオルをたぐり寄せる運動(タオルギャザー)。重錘などの重りをのせることも。
- 座位で足をボールに乗せ、転がすようにする。さらにボールや下肢に外乱を加え、不安定な足を素早く制動させる。
- 平行棒内で不安定盤の上に足を乗せ水平を保つ(部分荷重期)。さらに不安定盤の軸中心から足の位置をずらした状態においても水平を保つ訓練や、外乱に対する制動の訓練を行う。
- 肩・骨盤・膝部に外乱を加えて、外乱に対する制動を促す(先ほども紹介しした記事になるが、各部位に対する外乱の加え方は『インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング』のフックライングの項目、『PNFテクニック(拮抗筋テクニック)を解説!』のリズミックスタビライゼーション・スタビライジングリバーサルの項目 も参考になると思う。)
- 各種不安定盤を食い合わせた状態でバランスを保つ訓練を行う
DYJOCに活用できるグッズを紹介
前述したイラストでも活用されているDYJOCに活用できるグッズを2点紹介してみる。
以下は木製の『バランスボード』となる。片脚を乗っけてボードを水平に保ったりなどのDJOCに活用できる。
以下はゴム製の『バランスクッション』になる。
閉眼立位や片脚立位でクッションにのってバランスを保つなどのDYJOCに活用できる。
DYJOCのセルフエクササイズ
DYJOCのセルフエクササイズも「立位でのDYJOC」として考えると無限に存在する。
例えば、もしかするとこの記事を通勤電車やバスの中で観覧している人も居るかもしれない。
であるならば、バスや電車などで立位姿勢を保持し、発車・停車などで起こる「加速・減速時の揺れ」に対抗することもDYJOCとして優秀である。
また、閉眼にしてみたり、(よっぽど身体能力が高いのであれば)片脚起立に挑戦してみても良い。
DYJOCの適用
ここまでDYJOCについて記載してきたが、最後に適用を列挙して終わりにする。
DYJOCの適用は、以下などが挙げられる。
整形外科的疾患
- 下肢疾患の保存的療法として(膝・足関節の捻挫や靭帯損傷、下肢の骨折後など)
- 下肢疾患の術後療法として(膝・足関節の靭帯修復、再建術、膝半月板切除術、人工股・膝関節置換術後、その他骨折などの術後)
- 長期臥床患者の下肢機能改善(老人の骨折など)
- 健側訓練、残存機能向上訓練(上肢疾患や片側下肢疾患など)
- 切断後の義足装着訓練の一還として
- 外反母趾、扁平足などや足部疾患
- 先天的または後天的に下肢の生力学的問題(股・膝・足関節)を有する場合
スポーツ関係
競技の準備と予防(スキー・トラック競技、フィールド競技など、ほとんどのプロスポーツ競技)
神経系疾患
- 中枢神経疾患などの平衡機能改善や下肢機能改善
- 前庭迷路機能障害の改善
DYJOCの適用には、バランス能力の低下した高齢者も含まれる。
DYJOC(動的関節制動訓練)は高齢者のバランス練習にも効果あり?
高齢者の関節運動覚や位置覚などの固有受容感覚は、中年者・若年者より明らかに低下していることが知られており、DYJOCの適用には高齢者も含まれる。
例えば、立位姿勢時の膝関節の関節位置覚を比較した結果、部分荷重時に高齢者ほど誤差が大きくなることが報告されいる。
私達の全身の固有受容覚からの入力のすべてが、安静立位の姿勢保持に重要な役割を果たしていると言え、この事実ひとつとっても、これら固有受容感覚を向上させることは重要であることが分かる。
簡単なDYJOCを動画で紹介
簡単なDYJOCの一例として以下の動画も観覧してみてほしい。
指の運動や、ゴルフボールでの足底刺激、爪先立ち⇔踵上げなどのCKCトレーニングなど、この記事でも記載した内容が観覧できる。
関連記事
以下記事は高齢者の転倒予防・バランストレーニングのまとめ記事になる。
併せて読むと理解が深まると思うので、是非観覧してみてほしい。
永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ
また、ここで記載てきたファンクショナルリーチテスト以外の『バランステスト』は以下でもたくさん紹介しているので、こちらも参考にしてみてほしい。