この記事では『肘頭骨折』についてクリニカルパスも含めて記載していく。
骨折後のリハビリ(理学療法)に関するクリニカルパスも掲載しているので、リハビリの参考にしてみてほしい。
※ただし、あくまで参考・目安であり、必ず医師の指示に従うこと。
肘頭って、どこだ?
肘頭とは、尺骨の近位端にある鉤状の骨隆起であり、上腕三頭筋の付着部でもある。
でもって、肘頭の掌側面は「滑車切痕」と呼ばれる関節軟骨となっている。
※この「(尺骨の)滑車切痕」と「(上腕骨の)上腕骨滑車」によって腕尺関節を形成する。
※腕尺関節に腕橈関節を含めたものが、いわゆる「肘関節」と呼ばれるものである。
上腕骨滑車は上腕骨長軸に対し約45°前方に傾斜している。また、尺骨滑車切痕の関節面の向きは約45°前上方に開いている。そのため腕尺関節は理論上、0~180°の可動範囲をもっている。
※肘関節屈曲では「(尺骨の)鉤状突起」が「(上腕骨の)鉤状突窩」に衝突する180°まで可能。
※肘関節伸展では「(尺骨の)肘頭」が「(上腕骨の)肘頭窩」に衝突するため、0°以上の伸展は出来ない。
この記事は、上腕骨遠位端骨折について記載している。
肘頭骨折とは?
肘頭骨折とは、尺骨の近位端の骨折で、近位骨片には上腕三頭筋が付着しているため、骨折部に離開を生じることが多い。
肘頭骨折は以下などに分類される。
- 横骨折
- 斜骨折
- 粉砕骨折
・・・など。
※また、安定型 or 不安定型といった分類が為される場合もある。
肘頭骨折は肘関節伸展機構の破綻を生じる。
受傷機序
直達外力によるものが多いが、肘屈曲位のまま転倒し、上腕三頭筋の収縮による介達外力でも生じる。
外力が強い場合は、橈骨頭骨折や肘関節脱臼の合併も生じる可能性がある。
肘頭骨折の治療ゴール
ここでは、肘頭骨折における「整形外科的治療目標」と「リハビリ的治療目標」をザックリと記載していく。
整形外科的目標:
アライメント:
関節面の解剖学的修復
安定性:
肘頭は上腕骨滑車と関節を形成し、その構造は安定化に寄与する。
リハビリテーション的目標:
関節可動域:
肘関節の可動域を回復し、手と肩関節の可動域を維持する。
筋力:
肘伸展筋(上腕三頭筋)・肘屈筋(上腕二頭筋)の筋力向上を図る。
また、以下などの二次的筋群の回復も同様に重要となる。
・前腕回外・回内筋群
・手関節背屈筋(長短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、総指伸筋)
・手関節掌屈筋(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、浅・深指屈筋)
・三角筋
機能的ゴール:
食事、入浴、トイレ、更衣、整容といった日常生活動作を回復する。
ある程度伸展制限が残存しても、身辺動作に大きな機能障害は認められない。
肘頭骨折のクリニカルパス
肘頭骨折のリハビリ(理学療法)を実施するにあたって、以下のクリニカルパスは一つの目安になる。~『理学療法ハンドブック改訂第4版 4巻セット』より引用~
※ただし、あくまで一例であり、必ず医師の指示に従うこと。
~1W | 1~2W | 4~6W | 6~8W | |
---|---|---|---|---|
ROM運動 | 手術による固定があれば可動関節の自動運動を開始。 |
可動関節の自動運動。 CPM。 |
ギプスが除去されると肘関節の自動運動開始 | 全可動域の自動運動。 |
筋力トレーニング | ギプス固定であれば等尺性運動。 | 握力練習。 | 肘の等尺性トレーニング。 | 徐々に抵抗運動へ移行。 |
荷重 | ---------- | ----------- | ---------- | X線画像所見により許可。 |
注意点 | 浮腫と疼痛への対応。 | 肘を90°より伸展しない。 |
荷重しない範囲で日常使用許可。 肘後面の癒着を治療。 |
---------- |
リハビリ(理学療法)の注意点
1~2週くらいまでは、CRPSのチェックも行う。
CRPSは、骨折治癒の段階では見られないような圧痛・疼痛・知覚過敏・循環障害が特徴である。
関連記事⇒『CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは?「タイプⅠ・Ⅱの違い」や「RSD・カウザルギーとの関連」も解説』
肘関節は、伸展動作よりも屈曲動作のほうが日常動作に影響する。
そのため、伸展制限が問題となることは(屈曲制限に比べて)少ない。
異所性骨化は可動域制限の原因となるため、X線像で異所性骨化を確認した場合は、過度の運動や損傷部位を不用意にマッサージしたりすることは控える。
オススメ書籍
骨折のリハビリ(理学療法)をするにあたって、以下の書籍を一通りそろえておくと、非常に心強いと思う。
是非参考にしてみてほしい。
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