この記事では『骨盤骨折』について解説している。
骨盤骨折は非常に強い外力が加わったときに発生するため、膀胱損傷や神経損傷を合併することも多い。
リハビリ(理学療法)としては、まず全身調整訓練や上肢の筋力訓練から開始し、荷重許可に応じて暫時立位・歩行訓練へと移行する。
骨盤の骨折と脱臼の分類
骨盤骨折は脱臼も伴うこともあり、以下の様に分類される。
・筋付着部の剥離骨折(avulsion of muscle insertions)
・骨盤環の単独骨折(isolate fracture of the pelvic ring)
・骨盤環の二重骨折(double fracture of the pelvicring)
筋付着部の剥離骨折:
筋付着部とは、主に以下を指す。
・下前腸骨棘(大腿直筋の起始部)
・上前腸骨棘(縫工筋の起始部)
・坐骨結節(ハムストリングスの起始部)。
※スポーツ中に急激な骨盤大腿筋の収縮により発生することが多い。
骨盤環の単独骨折:
骨盤環の1箇所のみの骨折では高度な骨片転位は起こらない。
・腸骨骨折(fracture of the ilium)
腸骨の単独骨折で垂直骨折である。
・恥骨枝骨折(fracture of the pubic rami)
恥骨枝の片側骨折で骨片の移動は軽度である。
・恥骨結合の不安定性(instability of the symphysis pubis)
荷重位でX線撮影し診断する。
・仙腸関節亜脱臼(sacro-iliac subluxation)
大きい転位がなくても持続性疼痛の原因となる。
上後腸骨棘の内側方突出で診断は容易である。
・仙骨骨折・尾骨骨折(fractures of the sacrum or coccyx)
仙骨骨折は後方からの直達外力により横骨折を起こす。
尾骨骨折は尻もちをついて起こすことが多い。
骨盤環二重骨折:
骨盤環は前方恥骨部では骨盤内臓器の保護と筋付着の機能を、後側方腸骨部では体重負荷の機能を有するので、この骨折は重篤な合併症を生ずる可能性がある。
骨盤環を圧迫する外力が大きいと、2箇所で骨折して環に歪みが生じる。
2箇所の骨折が恥骨部にあるものと、1箇所の骨折が恥骨部にほかの骨折が腸骨部にあるものとに分けられる。
・恥骨環二重骨折(double fracture of pubic segment of pelvic ring)
①上下両恥骨枝の両側性骨折
②恥骨結合の分離を合併した上下両恥骨枝の片側性骨折(転位は多数筋の付着により制限され、下肢短縮もない。会陰膜と膜性尿道の断裂が生じうる)
・腸骨・恥骨二重骨折(double fracture of iliac and pubic segment of pelvicring)
①最も普遍的なのは仙腸関節脱臼を伴う恥骨結合の脱臼、②まれには仙腸関節近くの腸骨骨折を伴う恥骨結合の脱臼、または③仙腸関節脱臼を伴う上下両恥骨枝骨折、である。
骨盤帯の1/2は下肢とともに大きく転位するので、変形と短縮が生じる。尿道または膀胱損傷を最も合併しやすい骨折である。この骨折は前後方向の圧迫により生じる。
診断
X線所見にて診断。
CTは仙腸関節脱臼、軟部組織損傷の診断や、損傷の立体的観察に有用。
治療
- 筋筋付着部の剥離骨折転位が軽度であれば2~3週間の安静でよいが、転位が高度であれば手術的治療が必要。
- 骨盤環の単独骨折各型の骨折ともに通常3~4週間の安静療法でよい。
腸骨骨折では時に安定性が悪ければ手術的に内固定術を行う。
また恥骨結合不安定の場合に時には骨移植術が必要なことがある。
- 骨盤環二重骨折
・牽引と骨盤懸垂法:
転位側下肢の牽引と骨盤懸垂により転位は整復される。
特に尿道や膀胱損傷の合併例や他の外傷合併例によい適応がある。
6週間の懸垂後2-3週間臥床、杖歩行(1カ月)とする。
・側臥位でのpostural reductionとギプス包帯:
これは合併症のない症例に有用である。
8週間のギプス包帯と2週間の床上運動の後に仙腸帯装着で杖歩行とする。
・恥骨結合の手術的整復と内固定:
恥骨結合の重なり合った転位は手術的整復が必要である。
また恥骨結合周辺の靭帯の完全断裂があると内固定術が必要である。
合併症
骨盤骨折の合併症としては以下などが挙げられる。
- 外傷性ショック
- 骨盤腔内出血(骨盤骨折の最大の合併症である。これは骨折面からの出血と骨盤壁大血管の裂傷からのものとがある)
- 血管損傷腸骨および内腸骨動脈、膀胱および痔静脈の損傷など(膀胱および尿道損傷骨盤環前方部骨折のときに損傷され、骨盤骨折の10~12%に生じ、恥骨枝の両側性骨折の場合は40%に生ずるといわれる)
- 腸管合併症(会陰部開放骨折のある場合にはまれに合併。緊急手術が必要)
- 横隔膜の断裂(胸部X線撮影が必要)
- 神経損傷(頻度は1%ぐらいであるが、腰仙神経叢、閉鎖神経および坐骨神経が損傷される)
評価のポイント
- 画像評価では受傷時の画像とその分類から、骨癒合の可能性や軟部組織の損傷部位を推察します。
※また、手術療法が行われた場合は、術中所見と術後画像より骨折部の安定性を推察する。
- 手術療法が選択された場合は内固定材料を挿入する際の皮膚切開とその展開を理解した上で、固定性や損傷組織を整形外科医に確認しておくこと。
※展開部は、その後の修復過程で癒着や瘢痕組織の形成を伴いやすく、可動域制限の要因となりやすい。
- 股関節の関節可動域測定時は、骨盤(+腰)の代償を伴いような工夫が必要。
- 筋力検査は単に筋力を検査するだけでなく、感覚検査とともに損傷された神経を同定するためにも用いられる。
※骨盤骨折は、(教科書的には)腰神経叢麻痺を起こしやすいと言われている
- 疼痛検査として、動作時痛は「寝返りをしたとき」や「荷重をしたとき」などに加わる機械的な刺激によるものが多く、安静時痛は局所炎症に起因することが多いので、どこが、どのような条件で、どの程度痛いかを評価することが重要。
- 浮腫は、骨折部より遠位で発生することが多く、その管理は運動療法を行う上で重要。周径の測定などを含めて継時的な観察しておく。
リハビリ(理学療法)の概要
重篤な合併症を伴わなくても骨盤骨折は、短くて3-4週間、長い場合には10-12週間のベッド上安静を要する。
この期間中は上肢や肩関節の拘縮防止のため、可動域訓練および筋力トレーニング(例えば重錘を使用した自主トレーニングなども含む)を行わせる。
下肢の運動に関しては、骨折部位・骨片の転位・整復・手術的治療の有無などにより大きく異なる。
基本的には、解剖学的整復位が得られ、他動運動(場合により自動運動)による骨折部への影響が無視できるなら、早期より可動域訓練や等尺性運動を行う。
部分荷重ができるようになれば、起立台での荷重、平行棒内歩行、松葉杖歩行、杖歩行、独歩などへと進めていく。
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オススメ書籍
骨折のリハビリ(理学療法)をするにあたって、以下の書籍を一通りそろえておくと、非常に心強いと思う。
是非参考にしてみてほしい。
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