この記事では、「脊椎安定化運動」で「ドローイン(ホローイングとも呼ばれる)と同様に登場し易い用語である『ブレーシング』について記載していく。
ブレーシングとホローイング
ブレーシングに関して、ホローイング(ドローインとも呼ばれる)も対比させながら記載していく。
ブレーシングとホローイング
ブレーシング・ホローイングとは以下を指す。
ホローイング(Harrowing):
・Paul Hodgesらのグループが提唱
・腹横筋を選択的に収縮させるエクササイズである。
ブレーシング(Bracing):
・Stuart McGillらのグループが提唱
・腹横筋のみならず、腹直筋群(腹直筋・外腹斜筋・内斜筋など)全体を収縮させるエクササイズである。
※ホローイングはドローインとも呼ばれ、ドローインに関しては腹横筋とともに以下の記事で深堀しているので、興味がある方は合わせて観覧してみてほしい。
⇒『腹横筋トレーニングの鍛え方!ドローインを中心に解説します』
ブレーシング vs ホローイング
Hodgesらは『腹部の引っ込め(ホローイング)』が腹横筋の活動を増加させるのを確認している。
でもって「傷害の後は腹横筋の動員が不完全になること」が認められたことから、Hodgesらは「腰痛患者における運動系の再訓練をして正常に腹横筋を活動させるようにする治療プログラム」を考案した。
そんな治療プログラムの中でも、『ホローイング』は重要な位置づけとなっている。
しかし、この『ホローイング』という運動は、あくまで「腹横筋の再教育エクササイズとして考案されたもの」であって、必ずしも日常生活活動の実行のために必要な「安定性向上」を目的にホローイングに終始すべきでなはない点には注意が必要だ。
でもって日常生活活動、あるいは不慮な外乱刺激に耐え得るためには、
『むしろ引き入れ(ホローイング)をしないで腹壁の3層の筋(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)を活動させる腹部ブレーシングの方が、脊椎の安定性にはずっと効果がある。』
と主張したのがMcGillらである。
つまりMcGillらの主張は「引っ込め(ホローイング)は腹横筋の再教育に用いられるかもしれないが、引っ込め(ホローイング)によって脊柱の安定性を獲得したり増強したりはできない」というものだ(McGill 2002:Grenier and McGill2007)。
まとめとして、腹横筋は、腹壁内の動的ホローイング(引っ込め)によって選択的に活動させることができるが、等尺性の腹部ブレーシング(引き締め)では腹横筋を外および内腹斜筋と同時に活動させて、実質的にすべてのありうる不安定性に対し安定性を確保することができる。
日常生活に必要なブレーシングの収縮力
体幹(とくに腰部)は、日常生活におけ負荷(屈曲と伸展、側屈、軸性の回旋運動が複雑に組み合わさっていることもある)に耐えるだけでなく、突然の予期しない複雑な負荷にも耐える準備をしておく必要がある。
でもってブレーシングは、「腹部全体をカチカチに固める」といった表現をするとイメージしやすいが、実際の日常生活に必要なブレーシング力に大した収縮力は必要ない(ただし、一定の筋緊張を保ち続けるだけの持続力は必要⇒後述する)。
※重複するがブレーシングに関して、(予期せぬ負荷に耐えうる際は別として)日常生活活動に必要なブレーシングの習得に必要な収縮力はたかが知れている。
例えば前述したシチュエーションにおいて、腹直筋群に強力な同時収縮が必要となることはめったになく、要求される腹壁の収縮はおそらく、日常生活動作の実行のときにはMVCの約5%(最大収縮の5%)、激しい活動のときにはMVCの10%までだと言われてる。
※もちろん、難易度の高い日常生活活動をこなしていくには、もっと柔軟な『バランス能力全般』にも視野を広げる必要があるのだが、そこまで内容を拡大しているとキリが無いので、この記事では「ブレーシング」までにとどめている。
バランス能力に関しては以下の記事も参照してもらいたい。
バランストレー二ングを総まとめ!高齢者の転倒予防に効く!
ブレーシングのおさらい
脊柱の安定化は、腹部ブレーシング(abdominal bracing)により獲得することが
できる。
腹部ブレーシングは腹壁を引っ込めたり押し出したりすることではない。
どちらかといえば、腹壁の穏やかな等尺性収縮を維持する、もしくは腹壁全体の形態的な変化を伴わずに腹壁を硬くすることを必要とする(Juker et al.1998 ; McGill 2002)。
腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の共同活性化は、さまざまな不安定肢位において脊柱の安定性を確実にすることが実証されてきた(Lehman and McGill 2001 ; McGill 2002 ; Grenier and McGill2007)。
最大収縮のような同時収縮はまったく必要なく、McGill(2002)は、腹壁の最大同時収縮の10%かそれ以下で日常生活活動には十分であると述べている。
しかしながら、もし関節が外傷などで安定性を失ったならば(あるいは強い外力に対する姿勢制御が求められる場合においては)、より強い同時収縮が必要かもしれない。
ブレーシングの方法
ブレーシングについての方法を記載しておく。
※参考:脊椎のリハビリテーション [上]
ブレーシングの適応症
- 腰痛
- 体幹のあらゆるエクササイズや活動の安全限界を作る。
ブレーシングの手順
FRを探って、脊柱の「中間位」(やや前彎)を見つける。
※FRとは
患者の許容能力または機能的欠損を判定することであり、そのために行われるのが許容能力テストで、その能力を、患者の機能域(FR)という。
Dennis MorganはFRを「目前の作業を果たすための、無捕で適切な運動域」と定義づけた。
FRは、以下の2つの評価から得られる。
・患者がどのように感じるかという力学的感受性(MS)
・臨床家の観察にもとづく異常運動コントロール(AMC)
通常通りの呼吸をつづけながら、腰椎の全周囲の筋を緊張させる。
姿勢を変えて(背臥位、腹臥位、四つ這い姿勢、座位、立位)、ブレーシングを練習する。
ブレーシング時の評価
以下がブレーシング時のエラーであり、これらが発見された場合は修正する。
- 以下の原因によって、脊柱の「中間位」外で運動が行われている。
・骨盤が後方に傾いている
・腰椎が後湾している
・胸腰移行部が伸展している。
- 息を止めている。
ブレーシング時の患者が持つべき感想の例
- 「コア」が固まった
ブレーシングの応用
- 患者がブレーシングの運動学的能力を習得したら、別の面、とくに水平面での外的動揺(想定内/想定外、速い/遅い)を与えて難易度を上げる。
- 腹筋運動やサイド・ブリッジのようなエクササイズに、より強いブレースや難しい呼吸法を加える。
ブレーシングの応用は、コアエクササイズ全般に言えることなので以下の記事も合わせて観覧すると理解が深まると思う。
インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング
補足:息を止めてはいけません
理学療法士は『バルサルバ法(Valsalva maneuver)』のような過剰に腹壁を引っ込める運動や押し出す運動を見逃してはならない。
※筋出力を高めたい時に、一瞬だけ腹部をぎゅっと固くする方法を『バルサルバ法』と呼ぶ。いきむ(息む)動作で呼吸が止まり、筋緊張が起こることで普段より筋力が発揮できる。
※一方で、ブレーシングは一定の筋緊張を常に持続させる点が、バルサルバ法と異なる。
続いて、簡単な上肢や下肢の運動とともに腹部ブレーシングができるようにトレーニングの難易度を段階的に上げていき、最終的にはエクササイズのプログラムやADLでも腹部ブレーシングができるようにする。
コアトレーニング・腹横筋トレーニング関連記事
この記事内でもリンクを貼っているが、コアトレーニング・腹横筋トレーニング(ドローイン)に関する記事を再度掲載しておく。
インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング
腹横筋トレーニングの鍛え方!ドローインを中心に解説します。
また、体幹インナーマッスルとして腹横筋以外には以下の記事も作成しているので、合わせて観覧すると理解が深まると思う。