この記事では『慢性腎臓病』について解説していく。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病とは以下を指す。
この慢性腎臓病が進行すると『慢性腎不全』になる。
※慢性腎不全になると、腎機能の回復は見込めず、高度な腎機能の低下では多くが末梢腎不全へと進行する。そして最終的には、透析や腎移植をする必要が出てくる。
慢性腎臓病とは、1つの病気を指すのではなく、腎臓の働きが低下したり、腎臓に障害が起こった状態の総称だ。
「腎臓の役割」と「慢性腎臓病によって腎臓に起こること」
腎臓の働きは、糖尿病や高血圧、また加齢に伴って低下していくため、多くの人が慢性腎臓病となるリスクをもっている。
腎臓の役割
腎臓は、握り拳ほどの大きさの臓器で、体の左右に1つずつある。
尿をつくるのが主な働きで、全身の血液が大量に流れ込む。
でもって血液には、体内でできた老廃物が多く含まれており、腎臓はこの老廃物を尿中に排泄して取り除くのだ。
腎臓に流れ込んだ血液は、血管が無数に枝分かれして最終的に非常に細い血管が毛玉のようになった糸球体に送られる。
この糸球体で血液がろ過され、老廃物が取り除かれる。
きれいになった血液は、腎臓から全身に戻され、老廃物は尿として体の外に排泄される。
※体の中で不要になった塩分や水分も、同様に排泄される(体内の塩分や水分の量も、腎臓が調節しているのだ)。
腎臓の役割に関する詳細は以下の記事でも深堀解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
慢性腎臓病によって腎臓に起こること
慢性腎臓病になると、糸球体の非常に細い血管が障害されて壊れていき、体内の老廃物を十分に取り除けなくなる。
糸球体は、大きさが0.1~0.2mmで、左右で合わせて約200万個ある。
そのため、少々壊れたとしても、残っている糸球体の働きによって老廃物を取り除くことが可能だ。
しかし、糸球体の破壊が進むと、老廃物を十分除去できなくなり、血液は老廃物を含んだまま腎臓から全身に戻る。
その結果、体内に老廃物が蓄積していくことになる。
また、たんぱくが尿に混じるようになる。
腎臓に流れ込む血液には、老廃物の他に、たんぱくや赤血球などさまざまな物質が含まれている。
でもって(腎臓の働きが正常な場合、体に必要なたんぱくは尿中に漏れないが)慢性腎臓病になって糸球体が壊れると、尿の中に漏れ出るようになってしまう。
慢性腎臓病の原因
慢性腎臓病に含まれる代表的としては以下などが挙げられる。
・腎硬化症
・慢性糸球体腎炎
・・・・・・・など。
このうち、慢性糸球体腎炎は年齢にかかわらずみられるものだが、糖尿病性腎症は糖尿病、腎硬化症は主に高血圧という、いずれも加齢と関わりがある『生活習慣病』が原因となって発症するため、社会の高齢化に伴って非常に増えてきている。
※重複するが、慢性腎臓病には糖尿病と高血圧が大きく関わっている。
糖尿病:
糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高い状態が続く病気である。
糖尿病になると、全身の血管が障害されて、臓器にさまざまな合併症を引き起こすことが知られている。
腎臓が障害されて起こる糖尿病性腎症では、糸球体の血流が悪くなったり、糸球体が硬くなるなどの異常が起こる。
糖尿病性腎症は、腎機能がさらに悪化して透析療法を開始する要因として、最も多くなっています。
⇒『糖尿病はサイレントキラー!重症化する前からの対策が必須な件!(糖尿病まとめ)』
高血圧:
高血圧によって血圧の高い状態が続くと、全身の血管に動脈硬化が起こって、血管が障害される。
特に腎臓は、太い血管から糸球体の非常に細い血管まで多くの血管が集まっているため、高血圧の影響を強く受ける。
高血圧が原因となって腎硬化症が起こると、腎臓の糸球体などの血管が狭くなったり詰まったりして、血流が低下する。そして腎臓全体が硬くなり萎縮して、十分に機能しなくなる。
また、高血圧が慢性腎臓病を引き起こすだけでなく、慢性腎臓病によって高血圧がより悪化する、という悪循環が起こる。
腎臓は血圧を調節する働きを担っており、その腎臓の機能が低下することで、血圧の調節が難しくなるからです。
⇒『高血圧に注意せよ!血圧(blood pressure)の基準値・測定ポイントを解説|バイタルサイン(リスク管理)シリーズ』
そのほかの危険因子:
肥満やメタボリックシンドローム、脂質異常症、高尿酸血症、加齢、喫煙なども慢性腎臓病と関係がある。
肥満、そして内臓の周りに脂肪がたまった状態のメタボリックシンドロームは動脈硬化を進行させ、糖尿病や高血圧を起こしやすくする。
脂質異常症も、動脈硬化を進行させ、腎臓の血管に影響を及ぼす。
高尿酸血症は血液中の尿酸が増える病気で、血管を傷つけることがわかっている。
腎臓の働きは、特に病気がなくても加齢に伴って徐々に低下していくため、高齢者は特に注意が必要だ。
また、喫煙は、慢性腎臓病の発症や悪化を促すと考えられている。
慢性腎臓病の進行と、危険性について
慢性腎臓病の原因となる糖尿病や高血圧を改善しないままでいると、腎臓の働きはますます低下していき、腎臓がほとんど働かなくなる『腎不全』という状態に至る。
さらに腎臓の働きが低下すると、透析療法を行わないと生命を維持することが難しくなってしまう。
しかし、慢性腎臓病は初期の段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行して初めて症状が現れる。
そのため、腎臓の働きが低下していても気づかなかったり、慢性腎臓病といわれても、治療をしないままにしてしまい、症状が進んでしまうことがある。
進行すると、塩分や水分の調節がうまくいかなくなって体内にたまるため、むくみや心不全の症状である動悸・息切れなどが起こってくる。
老廃物を取り除けなくなることで体内に有害な老廃物がたまり、だるさ、食欲不振、吐き気、手脚のしびれなどの症状も起こる。
また、腎臓は、赤血球を増やすホルモンをつくったり、カルシウムの吸収やリンの排泄に関わる調節も行っています。そのため、慢性腎臓病が進むと、貧血や骨の異常といった症状も現れてくる。
慢性腎臓病の危険性
慢性腎臓病は進行すると、脳卒中や心筋梗塞などのリスクも高める。
慢性腎臓病によって透析療法が必要になる人は多くいるが、その状態に至る前に脳卒中や心筋梗塞によって亡くなる人も多い。
その理由としては以下などが言われている。2つのことが考えられます。
- 糖尿病や高血圧があることで全身の動脈硬化が進行し、それが直接、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする。
- 慢性腎臓病そのものが動脈硬化をさらに進行させ、それによって脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする(これには、腎臓の働きが低下することで、血液中に増えた有害な老廃物が血管を傷つけたり、適切な血圧が維持できなくなったりすることなどが影響すると考えられている)。
慢性腎臓病は、腎臓の病気というだけでなく、糖尿病や高血圧のある人が、脳卒中や心筋梗塞を起こす前の「危険なサイン」として捉えることも出来る。
慢性腎臓病とわかったら、適切な治療を受け、進行を抑制することが重要だ。
慢性腎臓病の検査
前述したとおり、慢性腎臓病は初期の段階では自覚症状がない。
なので、早期発見には、血液検査と尿検査を毎年受けることが大切だ。
血液検査:
血液検査では、血清クレアチニン値という項目を調べる。
クレァチニンとは、体内でできる老廃物の1つ。
健康な腎臓は、血液中の老廃物を取り除き、尿として体の外に排泄する。しかし、腎臓の働きが低下すると、老廃物を十分に取り除けなくなり、血液中に老廃物がたまる。つまり、血清クレァチニン値が高くなると、慢性腎臓病が疑われるという解釈につながる。
※実際に慢性腎臓病かどうかを調べるには、血清クレァチニン値から、糸球体ろ過量(GFR)を推算する(この値はeGFRと呼ばれる)。
GFRとは、腎臓の糸球体が血液をどの程度ろ過できているのか、腎臓の働きを表すもので、eGFRの解釈は以下の通り。
・eGFRが60未満の場合、慢性腎臓病の疑いがある
・さらに60未満の状態が3か月間以上続くと慢性腎臓病と診断される
※eGFRの「60」という値は、腎臓の働きが正常時の60%程度であることを示している。
尿検査:
たんぱく尿を調べる。
たんぱくは老廃物とは異なり、通常、尿には混じらないが、慢性腎臓病で糸球体が障害されると、尿に混じることがある。
たんぱく尿の検査結果は、「1+」「2+」で表され、「+」が大きいほどたんぱくの濃度が高いと解釈する。
「1+」以上であれば、慢性腎臓病の疑いがあり、この状態が3か月間以上続くと、慢性腎臓病と診断される。
「血液検査」と「尿検査」は、一方だけでは慢性腎臓病が見逃されることがあるので、必ず両方を受けるのが望ましい。
糖尿病の場合はアルブミン尿も
糖尿病が原因となる糖尿病性腎症では、早期の段階からアルブミンというたんぱくの一種がわずかに尿に漏れ出るようになる。
糖尿病性腎症の場合、たんぱく尿が出た段階ではすでに病気が進行していることが多いため、糖尿病のある人はアルブミン尿の検査を受ける必要がある。
アルブミン尿があると、脳卒中や心筋梗塞がより起こりやすいということもわかってきている。
アルブミン尿は、一般的な健診では検査されない。
なので糖尿病がある人は、病状に合わせて定期的にアルブミン尿の検査を受けよう。
特に糖尿病性網膜症のある人は、慢性腎臓病になっている可能性が高いので注意が必要となる。
尿検査と血液検査から重症度がわかる
eGFRは数値が低いほど腎臓の働きが低下し、重症度が高くなる。
たんぱく尿は「+」が多いほど、アルブミン尿は量が多いほど重症度が高くなる。
慢性腎臓病は自覚症状からは重症度がほとんどわからない。
- eGFRが45未満の人は注意が必要だ。
- さらに進んで15未満の人は腎不全と考えられ、さらに低下すると透析療法などの治療を検討する必要がある。
- eGFRが45未満の人は必ず腎臓内科などの医療機関を受診し、悪化の原因のチェックや適切な治療を受けよう。
慢性腎臓病の治療
慢性腎臓病のなかでも、糖尿病や高血圧の影響が大きいタイプの治療としては「生活習慣の改善」と「血圧・血糖・脂質のコントロール」となる(血尿やたんぱく尿が長期間にわたって現れる慢性糸球体腎炎の場合は、治療が異なる)。
生活習慣の改善:
塩分のとりすぎは、腎臓に負担をかける(1日60g未満を目標に減塩しするなどと記載された文献もあるので一つの目安になるかもしれない。医師に相談するのが間違いない)。
まずは1日にとっている塩分の量を知ることが大切だ。
その他、「肥満の予防」「喫煙」「運動」が大切となる。適度な運動をすることによって、腎臓の働きの低下を抑えられる。
※運動は、肥満の解消、血圧や血糖値の改善にも役立ちます。
血圧・血糖・脂質のコントロール:
慢性腎臓病の進行を抑えるには、医師の指導の下で血圧・血糖・脂質の数値を確実に改善することが必要となる。薬を処方されることが多いので、その場合は指示どおりに飲もう。
慢性腎臓病が進行した場合の治療
慢性腎臓病が進行すると、生活習慣の改善や血圧・血糖・脂質のコントロールに加えて、たんぱく質やカリウムを制限されるケースも出てくる。
たんぱく質の制限:
たんぱく質は、栄養素として使われたあとに老廃物が残り、それを腎臓が取り除いているので、たんぱく質をとりすぎると腎臓に負担をかける。
そのため、eGFRが60未満の場合はたんぱく質の制限が検討される。
高齢者ではサルコペニアやフレイルを予防するために積極的なたんぱく質の摂取が推奨されるが、腎臓病(慢性腎臓病・腎不全)を有している高齢者に対しては、むしろ制限しなければいけない点は覚えておこう。
※必ず医師や管理栄養士と相談しながら行う
カリウムの制限:
腎臓の働きが低下すると、体内にカリウムが過剰にたまることがあり、不整脈が起こりやすくなる。
「eGFRが60未満で、尚且つ高カリウム血症と診断された場合」は、カリウムの制限を行う。
※必ず医師や管理栄養士と相談しながら行う。
慢性腎臓病がかなり進行すると、むくみ、動悸・息切れ(心不全)、だるさ、食欲不振、吐き気、貧血、骨の異常、手脚のしびれなど、様々な症状が現れる。
その場合は、薬物療法を中心に、症状を軽減する治療が行われる。
こうした症状が多く現れるのは腎不全の段階で、さらに進むと透析療法などが必要になる。
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