この記事では、末梢神経障害(ニューロパチー)について解説している。
具体的な末梢神経障害の一例については記事最後のリンク先も観覧してみてほしい。
末梢神経障害(ニューロパチー)とは
ニューロパチー(neuropathy)とは以下を指す。
※神経徴候として筋力低下、感覚障害、腱反射低下・消失、自律神経障害などが生じる疾患の総称をニューロパチーと表現する。
ニューロパチーが疑われる場合は末梢神経の病理学的な変性度を詳細に検査し、
診断に基づいた適切な治療が必要となる。
治療に関しては、末梢神経における病変の状態よっては機能再建術や装具療法の適応まで考慮しなければならない。
また、以下などのリスク管理も大切となる。
過用症候群に注意
ギランバレー症候群の場合の筋力増強では「過用」にならないように配慮します。
誤用症候群に注意
例えばベル麻痺などでは神経の過誤再生による連合運動を避けた再教育が必要になる。
関連記事⇒『過用症候群・誤用症候群とは(+例・違い)』
末梢神経障害の分類
末梢神経障害の分類は「病因による分類」と「障害される神経の分布による分類」に分けられる
病因による分類
- 中毒性(金属、有機物、薬物など)
- 物理的原因(外傷・圧迫、絞扼性、火傷、放射線など)
- 欠乏状態や代謝異常(慢性アルコール中毒、脚気、糖尿病など)
- 非特異的炎症および感染(ギラン・バレー症候群、多発神経炎、ハンセン病など)
- 血管性疾忠(結節性多発血管炎など)
- 家族性多発性ニューロパチー(シヤルコー・マリー・トゥース病など)
中毒性のもの |
金属:砒素、鉛、水銀、ビスマス、銅、硫黄など |
有機物:一酸化炭素、メチルアルコール、ベンゼンおおびその誘導体 |
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薬物:バルビタール、イソニアジッド、ストレプトマイシン、ビンクリスチン、ニトロフラントインなど |
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物理的原因によるもの |
外傷、圧迫 |
絞扼(entrapment) |
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火傷、放射線など |
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欠乏状態および代謝異常 |
慢性アルコール中毒、脚気、ペラグラ、糖尿病、尿 |
毒症、ポルフィリアなど |
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非特異的炎症および感染 |
特発性多発性根神経炎(ギランバレー症候群) |
急性あるいは慢性感染に伴う多発性筋炎:ジフテリア、サルコイドーシス、感染単核症 |
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局所性感染:ハンセン病 |
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血管性疾患 |
結節性多発血管炎、動脈硬化 |
家族性多発性ニューロパチー |
進行性肥厚性ニューロパチー |
腓骨筋萎縮(シャルコー・マリー・トゥース病) |
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原因不明の多発性ニューロパチー |
慢性進行性あるいは反復性多発性ニューロパチー |
障害される神経の分布による分類
- 単神経炎(mononeuritis)
単一の神経が障害される:圧迫・絞扼・外傷・栄養血管の血栓・局所炎症
- 多発性単神経炎(mononeuritis multiplex)
単神経炎が多発する:非対称性、結節性多発動脈炎による
- 多発性神経炎(palyneuritis)
遠位優位の対称性運動障害および感覚障害、自律神経障害
上記いずれの分類においても、(医師による)確定診断のための確認項目としては以下が挙げられる。
- 運動麻痺の所見
- 感覚障害の種類と程度
- 神経学的所見
- 血液・尿検査
- 髄液検査(細胞蛋白解離など)
- 神経伝導検査・針筋電図
- 組織の生化学的検査(薬物等の検出)
- 神経生検
- 現在処方されている薬物の種類や量
- 内科的治療内容(血液浄化療法、免疫グロブリン静注療法、副腎皮質ステロイド療法など)
- 関連する呼吸・循環のリスク項目
外傷性末梢神経損傷
前述したように末梢神経は遺伝、感染、中毒、代謝障害、アレルギー、膠原病、癌、血管障害、外傷機械的圧迫、腫瘍など多種多様の要因で障害される。
でもって実際の障害発生には、これらの要因が組み合わさり、局所性と全身性の影響を受けて起こると考えられている。
ここから先は末梢神経損傷の中でも「外傷や機械的圧迫など外力による末梢神経損傷(peripheral nerve injury)」について解説していく。
※他の末梢神経障害(高齢・糖尿病・ギランバレーなど)に関しては記事の最後に記載しているので、そちらに興味がある方は読み飛ばしてリンク先を観覧してほしい。
外傷や外力によって生じた末梢神経損傷
外傷や外力によって生じた末梢神経損傷は、二次的合併症の予防と神経の回復時期に応じて介入法を変更していくことが、重要なポイントとなる。
でもって、そのために必要な知識としては「神経線維の再生期間」や「神経損傷の分類と回復の可能性」が挙げられる。
神経線維の再生期間
神経が損傷を受けた後、中枢側から再生軸索が発芽し損傷部あるいは縫合部を越えるまでに要する期間は初期遅延(initial delay)、再生軸索が終末部に到達し筋収縮が開始するまでに要する期間は終末遅延(terminal delay)と呼ばれ一般にそれぞれ3~4週間を要するとされている。
神経の再生速度は1日3~4mmと言われており、初期遅延期間と終末遅延期間を加えて平均すると、1日に約1mmと言われている。
神経損傷の分類(Seddon)と回復の可能性
損傷後2週間で神経障害の範囲と程度が決定され、予後の推定が可能となってくる。
回復の可能性に関しては以下を参照。
一過性神経伝導障害 (neurapracia) |
神経伝導に一部障害が認められるが、器質的にはまったく異常がないか、あるいは髄鞘の一部にごく軽度の異常が認められる状態。
軸索には異常がないものを指す。
神経回復には損傷部からの再生神経の伸長を必要としないため、麻痺筋は損傷部からの距離とは無関係にほぼ同時に完全回復する。 |
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軸索断裂 (axonotmesis) |
長時間の圧迫・牽引などによる軸索断裂で、損傷部以遠で、Waller変性が生じている。
神経内膜には損傷がないため損傷部近位から速やかに再生軸索の伸張が始まり、温存された神経内膜の道筋をたどって、元来の終末目的器官に正しく到達する。
感覚神経、運動神維の機能は元に近い状態まで回復しうる。
回復が遅い場合には神経剥離術が行われる。 |
神経断裂 (neurotmesis) |
軸索、髄鞘、Schwann細胞すべての構造体の連続性が断たれた状態で、肉眼的には神経幹ないしは神経束の断裂であり開放性損傷であることが多い。
近位断端から神経の伸長が起こるが遠位断端までに大きな間隙があれば再生軸索は遠位端に到達せず、神経回復は望めない。
神経縫合術、神経移植術などの観血療法が行われる。 |
外傷による切断により末梢神経の実質であるニューロン、Schwann細胞、軸索の切断、遠位部が全長に渡って変性を起こしたもの
末梢神経障害に対する介入のポイント
介入の目的と構造の明確化
- 受傷からの経過期間と麻痺の程度によって介入手段や項目の重要度が変化する。
- 具体的な介入手段の優先順位を定め、介入項目の時間配分を変える。
- 保存療法の場合、初期は損傷神経の回復・再生を待ちながら、筋萎縮・関節拘縮を予防する。
- 回復期になると筋力増強運動、神経一運動器協調運動、感覚再教育、場合によってはADLを通して運動機能の低下を予防する。
- 絞扼神経損傷では神経圧迫を増悪させない指導、歩行改善として装具を検討する。
具体的なブロクラムの作成
~機能障害に対する介入~
筋力維持・増強運動
電気刺激療法(低周波治療・経皮的電気刺激法)
随意性筋収縮が認められない脱神経筋レベルでは電気刺激法による筋収縮が中心となる。
廃用性筋萎縮を予防し、麻痺筋の筋活動を促す目的で、低周波刺激装置などを用いて末梢神経・筋に通電刺激する。
手根管症候群、浅僥骨神経損傷、脛骨神経損傷の頑固な異常感覚や疼痛には経皮的電気刺激法(TENS)を用いる。
⇒『電気刺激療法(TENS・TES・FESなど)とは?目的・適応・禁忌も解説!』
EMGバイオフィードバック
随意性収縮の出現(MMT1~2)が認められると、バイオフィードバック運動が可能となり、聴覚や視覚情報に置き換えることで、神経ー筋の再教育を図る。
随意運動
随意性収縮が大きく現れるようになったら、その筋力の回復に応じて自動介助運動の介助量を減らし、徐々に自動運動に切り替える。
時期や回復程度に応じて効果的方法を選択し、運動内容を変更していく。
ROM・筋伸張運動
筋の随意性低下に伴い、二次的に筋の伸張性が低下するので、ROM維持と同時に筋の短縮に注意する。
神経ー運動器協調運動
不安定板などを用い感覚受容器を刺激し、総合的な上肢筋・下肢筋群の協調性および筋力増強運動を行う。
感覚再教育
感覚の回復段階に沿って動的刺激から開始。
弁別が可能になれば、静的な粗いものから滑らかで細かな素材を用いての弁別練習を行う。
その他:浮腫への対策
浮腫に関しては、「患肢の挙上などのポジショニング」「弾性包帯などによる持続的圧迫」「マッサージ」「機器あるいは他動運動によるポンピング」などが挙げられる。
~活動制限参加制約への介入~
残存筋を最大限に利用した基本動作、ADLを計画する。
対象者によっては安定した運動を実施パフォーマンスを向上させるために、装具・スプリントを着用も考慮する。
関連記事
⇒『糖尿病性ニューロパチ―(糖尿病3大合併症の一つ)を解説!』
⇒『ギランバレー症候群(末梢神経障害の一つ)を解説するよ!』