この記事では『下降伝導路(の中で主に皮質脊髄路)』について解説していく。
目次
下降伝導路とは
運動ニューロンは脊髄前角や脳幹(中脳・橋・延髄)の脳神経核などで、より上位のニューロンから指令を受けるため、下位運動ニューロンと呼ばれることがある。
その場合、運動指令を伝える為に大脳皮質から軸索を伸ばし、下位運動ニューロンとシナプスを形成するニューロンを上位運動ニューロンという。
でもって上位運動ニューロンが通る経路を『下降伝導路』と呼び、
代表的なものに『錐体路(皮質脊髄路)』『皮質核路(皮質延髄路)』『錐体外路(前庭脊髄路・網様体脊髄路・視蓋脊髄路など)』がある。
※下位運動ニューロンは、下降伝導路に含まれない。
関連記事⇒『上位運動ニューロンと下位運動ニューロン』
また、皮質脊髄路と皮質核路を合わせて「錐体路(広義の錐体路)」とよぶ場合もあるので混乱しないようにしよう(どちらも間違いではない)。
ちなみに上行性に関しては以下の記事でまとめているので、興味がある方はどうぞ。
⇒『上行性伝導路(脊髄視床路・後索内側毛帯路)を解説するよ』
ここから先は、各々の下降伝導路の特徴をザックリと解説していく。
錐体路(皮質脊髄路+皮質延髄路)・錐体外路をザックリ紹介
中枢神経には、大脳皮質運動野の運動神経細胞からの刺激を伝達する『運動(遠心性)線維』と、皮膚組織の固有感覚からの刺激を伝達する『感覚(求心性)線維』がある。
※運動線維(遠心性線維)に「下行伝導路」が含まれる
※感覚線維(求心性線維)に「上行伝導路」が含まれる
でもって、下降伝導路には錐体路(皮質脊髄路・皮質延髄路)や錐体外路(前庭脊髄路・網様体脊髄路・視蓋脊髄路など)が該当するのは前述したとおり。
錐体路(皮質脊髄路):
皮質脊髄路は、大脳皮質に起こり延髄にある錐体を通過後左右の経路が交叉⇒体側の脊髄を下降⇒赤核脊髄路(錐体外路に該当)とともに脊髄前角内で運動神経の細胞体である前角細胞(運動ニューロン)のうち遠位筋の背側運動ニューロンを支配する随意運動に関与する。
錐体交叉までの障害では反対側、錐体交叉後の障害では同側に運動麻痺が生じる。
※厳密には「内側皮質脊髄路(頸部体幹筋に関与・内側下降路系に該当)」と「外側皮質脊髄路(四肢の遠位近位関与・外側下降路系に該当)」に分けられたり、「錐体で交叉しない神経もある(全てが錐体交叉しない)」など色々ある。
錐体路(皮質延髄路):
皮質延髄路は、脳幹で皮質脊髄路と分かれ、運動神経は反対側の脳神経核へ入る。
顔面舌、咽喉頭眼球などへ運動指令を伝達する。
錐体外路(系):
「錐体外路」という用語は、臨床上の記述として用いられるが、錐体路に対する用語としての意味はうすく、「錐体路以外の総称」という意味で「錐体外路系」と呼ばれることもある。
錐体外路系は「延髄(の錐体)を通過しない経路の総称」であり、線状体や淡蒼球などの大脳基底核、小脳などが関与する。
錐体外路系(前庭脊髄路、網様体脊髄路、視蓋脊髄路・赤核脊髄路など色々)は、「体幹筋」や「近位筋」を支配する腹内側運動ニューロンを支配していたり、無意識下の運動調整にかかわる。これらは脊髄の前根となり、身体(筋)に分布する。
錐体外路が障害されると、不随意運動や筋緊張障害が生じる。
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⇒『パーキンソン病とは?症状・診断基準・治療など徹底解説!』
ここから先は、錐体路(の皮質脊髄路)だけにフォーカスして解説していく。
内側皮質脊髄路と外側皮質脊髄路
前述したように、皮質脊髄路は(前皮質脊髄路のほかに)以下の2つに分類される。
- 内側皮質脊髄路
- 外側皮質脊髄路
ちなみに「皮質脊髄路=外側皮質脊髄路(+後述する前皮質脊髄路)」っといった感じで記述されていることが多く、「内側皮質脊髄路」に関しては記述されている書籍が少ない。
ただ存在するようなので、ここで記載しておく。
『書籍:運動療法学―障害別アプローチの理論と実際』によれば、外側・内側皮質脊髄路について以下の様に記載れている。
外側皮質脊髄路:
一次運動野および運動前野から起こり、内包中脳大脳脚、橋を下行、延髄錐体で対側へ交叉し、脊髄の運動ニューロンに連絡する。
四肢の巧綴性の高い運動に関与している。
内側皮質脊髄路:
大脳皮質から直接に胸髄へ連絡しており、運動ニューロンを介して頚部・肩・体幹の筋群を制御している。
外側下降路系・内側下降路系
「外側皮質脊髄路・内側皮質脊髄路」の補足として
「外側下降路系・内側下降路系」という用語も解説しておく。
「外側運動制御系・内側運動制御系」や
「外側活性化システム・内側活性化システム」と呼ばれることもある。
外側皮質脊髄路は「外側下降路系」に、
内側皮質脊髄路は「内側下降路系」に含まれる。
外側下降路系とは
外側下降路系とは以下を指す。
でもって、外側下降路系には以下が含まれる。
外側皮質脊髄路:
一次運動野および運動前野から起こり、内包中脳大脳脚、橋を下行、延髄錐体で対側へ交叉し、脊髄の運動ニューロンに連絡する。四肢の巧緻性の高い運動に関与している。
赤核脊髄路:
中脳赤核から起こり、中脳で対側へ交叉する原則として上肢の屈筋群を支配する運動ニューロンへ連絡する。
外側網様体脊髄路:
延髄網様体より脊髄へ延髄網様体から起き、同側を下行して屈筋群を支配している運動ニューロンを促通し、伸筋群を支配している運動ニューロンを抑制する。
※網様体脊髄路は(「外側・内側」といった分け方をせず)内側下降路系に分類されている文献も多いが、ここでは分けて記載された文献を採用。
内側下降路系とは
内側下降路系とは以下を指す。
でもって、内側下降路系には以下が含まれる。
内側皮質脊髄路:
大脳皮質から直接に胸髄へ連絡しており、運動ニューロンを介して頚部・肩・体幹の筋群を制御している。
視蓋脊髄路:
中脳上丘から脊髄へ音源に対する頚部の反射的な回旋など、視覚聴覚・体性感覚の刺激に対して上丘から脊髄の運動ニューロンへ連絡している。
内側網様体脊髄路:
橋網様体から同側の姿勢筋および四肢の伸筋群を制御している運動ニューロンへ連絡している。
内側前庭脊髄路:
前庭系から頭部の運動や位置情報を受けている内側前庭神経核から起き、対側の頸髄および胸髄のレベルの運動ニューロンに連絡している頚部と上部背筋を制御する。
外側前庭脊髄路:
同側の伸筋群を制御する運動ニューロンを促通し、屈筋群を制御する運動ニューロンを抑制する。
錐体交叉しない「前皮質脊髄路」と「外側皮質脊髄路」
皮質脊髄路は「大脳皮質から脊髄に至る下降性伝導路」であり、多くは錐体で経路が交叉する(錐体交叉)。
だたし、一部は錐体交叉することなく同側を下降する(皮質脊髄路のうち約20%は錐体交叉しないと言われている)。
でもって、「錐体で交叉することなく同側を下降する皮質脊髄路」は以下の2つに分けれられる。
- 同側の外側皮質脊髄路を通る(10%)。
- 同側の『前皮質脊髄路』を通る(10%)。
上記も踏まえて「錐体交叉して対側を下降する外側皮質脊髄路」と「錐体交叉せず同側を下降する前皮質脊髄路」をイラスト化したものが以下になる。
ちなみに、
「外側脊髄路」が四肢の近位筋の動きに関与しているのに対して、
「前皮質脊髄路」は頸・体幹・四肢の近位部の動きに関与していると言われている。
錐体交叉せず「同側を下降する外側皮質脊髄路」について +非麻痺側・健側の違い
先ほど以下の様に記載した。
なので、以下の様に言いかえることが出来る。
昔は、脳卒中片麻痺における「麻痺側とは反対の上下肢(右片麻痺であれば、左上下肢)のことを以下の様に読んでいた。
健側(の上肢・下肢)
ただし、前述したように「麻痺側とは反対の上下肢」も脳障害による運動麻痺の影響を10%受けている可能性があるため、必ずしも健康な上下肢とは言えない。
なので現在では以下の様に言われる。
非麻痺側(の上下肢)
上記は、以下を表した表現ということにある。
なぜ、遠位筋より遠位筋の方が「回復が良好」と言われるのか
一般的に脳卒中による運動麻痺は、
『中枢部(体幹および上下肢近位筋)のほうが末梢部(上下肢遠位筋)よりも回復が良好』
っと考えられている。
でもって、その根拠としては以下の通り。
末梢部の運動を担う外側下降路系(外側皮質脊髄路など)は対側性支配の経路であるのに対し、中枢部の運動を担う内側下降路系(前皮質脊髄路・網様体脊髄路など)は両側性支配の経路があるため、残存している非損傷半球からの経路による代償が可能であることがあげられている。
※前述したように、外側皮質脊髄路も「完全な対側性支配ではない=少しは代償可能」だが、ザックリと表現すると上記になる。
※ただし、「両半球損傷」であったり「前大脳動脈領域の脳梗塞」を有しているなど、必ずしも上記の運動麻痺が当てはまらない場合もある。
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ニューロンによる情報伝達路を『神経路』という。
でもって神経路は、末梢神経系ではいわゆる『神経』、中枢神経系では『伝導路』を指す。
伝導路に関しては、末梢から上位中枢へ情報を送る『上行性伝導路(感覚路)』と、中枢から末梢に信号を送る『下行性伝導路(運動路)』に大別される。
この記事では「上行性伝導路」を解説してきたが、以下の記事では「下降性伝導路」を解説しているので一緒に観覧すると理解が深まるかもしれない。