この記事では、「神経損傷」についての分類として以下の2つを紹介していく。
- Seddonの分類
- Sunderlandの分類
※上記2つの分類は臨床的に多く使用されており、治療方針の決定にも参考とされる指標になる。
神経損傷分類① Seddonの分類
『Seddonの分類』は、神経損傷を以下の3つに分類している。
- 一過性不動化
- 軸索断裂
- 神経断裂
一過性不動化(neurapraxia):
神経幹の連続性は保たれ、ワーラー変性は生じていないのに、運動障害・知覚障害が生じているものを指す。
組織学的変化は認めない一過性の麻痺とされている。
通常、大径の線維のほうが損傷しやすく、小径の線維や自律神経は障害されにくい。
原因が除去されると数日から数週で自然治癒する。
軸索断裂(axonotmesis):
軸索と髄鞘は損傷し変性に陥るが、シュワン鞘や髄鞘は連続性を保ち変化を生じていない。損傷部より末梢ではワーラー変性を生じる。
神経断裂(neurotmesis):
軸索の連続性だけでなく、シュワン鞘や神経周膜、神経上膜、髄鞘など神経を構成する全組織が損傷され、組織学的な連続性が断たれた状態で、損傷部の末梢はワーラー変性を生じている。
上記で登場してた『ワーラー変性』という用語の意味は以下の通り。
~『リハビリテーション医学大辞典』より引用~
軸索や髄鞘といった用語に関しては以下の記事も参照してほしい。
⇒『』
⇒『』
Sunderlandの分類
Sunderlandの分類では、軸索、髄鞘、神経内膜、神経周膜、神経外膜など神経幹構成要素に基づいて、その連続性の有無、変化の有無に従って5項目に分類している。
第1度損傷:
損傷部における伝導障害で、すべての組織の連続性は保たれ、Waller変性は生じない。太い神経線維の運動神経、感覚神経が障害されるが一過性の障害で数日から数週の早期に完全に回復する。この病態は「Seddon分類の一過性不動化」に相当する。
第Ⅱ度損傷:
軸索および髄鞘が損傷されたもので、その他の神経構成要素は障害されていない。
損傷部位より末梢はWaller変性が生じるが、基底脱と神経内膜が残っているため神経再生は1~2mm/日程度で過誤神経支配は起こらず、完全な機能回復が得られる。
神経再生に伴いTinel徴候が遠位に進行する。
この損傷は、「Seddon分類の軸索断裂」に相当する。
第Ⅲ度損傷:
軸索、髄鞘の崩壊に加えて神経束の内部の組織の損傷を伴い、神経束内の瘢痕化・線維化が生じ、再生軸索の進行を阻害する。
神経周膜、神経上膜は保たれているが、神経内膜管の損傷により、再生軸索は本来の神経内膜管内に入ることができずに過誤神経支配が起こる可能性がある。
回復は第Ⅱ度損傷より遅れ、損傷部位が近位部であれば、神経線維が分散しているため回復を望むことは難しい。
第Ⅳ度損傷:
第Ⅲ度損傷に加えて神経周膜が損傷された状態で、神経幹の連続性は保たれているものの、損傷部には著しい瘢痕形成、偽性神経腫が形成される。
このため、有用な回復が得られることはきわめてまれであり、神経剥離や瘢痕組織の切除など外科的治療が必要となる。
第V度損傷:
神経上膜も含める神経幹の連続性が完全に断たれたもので、神経の断端は離開し、断端間に瘢痕組織が介入する。
中枢断端には神経腫が形成される。
この状態での自然治癒は全く望めず、神経縫合術、神経移植術を必要とする。
この損傷は「Seddon分類の神経断断裂」に相当する。
念のため、軸索、髄鞘、神経内膜、神経周膜、神経外膜などのイラストも掲載しておく。
Seddon分類・Sunderlandの分類を一覧表に
ここまで記載してきた「Sunderlandの分類」と「Sunderlandの分類」を統合した分かりやすい一覧表が以下になる。
Sunderland分類 |
Seddon分類 |
詳細 |
チネル徴候 |
末梢方向 への回復 |
回復 形式 |
回復率 |
治療法 |
Ⅰ |
一過性不動化 |
数週間で回復する脱髄 |
なし |
あり・ 早い |
完全 |
早い(数日から12週) |
保存的治療 |
Ⅱ |
軸索断裂 |
完全に回復する軸索損傷 |
あり |
あり・ 遅い |
完全 |
遅い(1~2mm/日) |
保存的治療 |
Ⅲ |
|
軸索と神経内膜損傷による乱雑な再生 |
あり |
あり・ 遅い |
さま ざま |
遅い(1mm/日以下) |
保存的治療・外科的治療 |
Ⅳ |
|
神経外膜損傷はないが、神経内膜と神経周膜は損傷し、再生を生じていない |
あり |
なし |
なし |
なし |
外科的治療 |
Ⅴ |
神経断裂 |
神経の断裂 |
あり |
なし |
なし |
なし |
外科的治療 |
神経損傷について
末梢神経損傷では神経幹内の有髄線維や無髄線維あるいは求心性神経や遠心性神経など、さまざまな種類の神経線維が損傷されるため、運動麻痺や感覚障害、痛み、しびれなど、多彩な臨床症状がみられる。
また、末梢神経は豊富な血液供給を受けており、神経上膜の内側には血管叢が形成されている。そめため、末梢神経損傷時には神経幹内で出血や炎症、瘢痕化が起こりやすい。
過誤神経支配について
近位部の軸索断端より再生した軸索は、末梢のシュワン管に無差別に進入する。
このときに、再生軸索が元のシュワン管に進入すれば機能回復は良好になるが、
他の機能をもつシュワン管に入りこみ、
再生、成熟することを『過誤神経支配』という。
要は、神経が混線状態に陥ってしまうという事だ。
過誤神経支配が起こると、軸索は再生しても本来の機能は失われてしまう。
でもって、触覚刺激であっても痛みを感じてしまうなどの『アロディニア』が生じてしまう可能性があったりもする。
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