この記事では『大腿骨骨幹部骨折』について解説している。
骨折後のリハビリ(理学療法)に関するクリニカルパスも掲載しているので、リハビリの参考にしてみてほしい。
※ただし、あくまで参考・目安であり、必ず医師の指示に従うこと。
大腿骨骨幹部骨折とは
大腿骨骨幹部骨折は、「転子下部より遠位で~顆上部より近位の(骨皮質が厚く、骨髄部が最も少ない部分の)骨折である。
交通事故などの直達外力で起こり、短縮転位をきたす。
内転筋の付着がどちらの骨片についているかにより転位方向が異なる。
内転筋が遠位骨片に付いている場合には、近位骨片が外側に、遠位骨片が内側に転位する。
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受傷機転
交通事故や高所からの転落などのような、通常強大な外力で生じる。
しばしば顕著な軟部組織損傷を伴い、ときに開放骨折も見られる。
また、最近では高齢社会になっていることから「骨粗鬆症を基盤とした脆弱性骨折」が増え、軽微な外傷や介達力で大腿骨骨幹部骨折が生じることもある。
大腿骨骨幹部骨折の治療(保存的治療法・手術的療法)
若年者の骨折では、ほとんどが保存療法の適応となり、3~4歳ではオーバーヘッドフ
レームを使用した垂直介達牽引療法、5~10歳では90°-90°牽引法やWeber牽引法が
行われることが多い。
成人では、骨癒合が得られるまでに長期間を要し、拘縮の発生や廃用性の筋力低下が懸念されるため、手術療法が選択されることがほとんどである。
手術療法は、髄内釘やプレートによる固定が行われる。
※以下の画像左が「髄内釘」、右がプレート固定
プレートによる固定では手術侵襲が大きくなる傾向にあり、拘縮が重篤化しやすい。
また、骨膜を剥離して固定した場合は、骨癒合が得られにくくプレート除去後の再骨折が懸念される。
そのため近年では、髄内釘を推奨する報告が多い。
大腿骨骨幹部骨折の治療ゴール
「整形外科的治療ゴール」と「リハビリの治療ゴール」は以下の通り。
整形外科的治療ゴール
アライメント:
単純骨折の場合、出来るだけ回旋変形や短縮転位を残さないように修復する。
粉砕骨折の場合、厳密な修復にこだわるより全体の回旋アライメント獲得に努める。
安定性:
可能な限り皮質骨を接触させ、軸圧に対する安定性を獲得する。
リハビリの治療ゴール
関節可動域:
股関節・膝関節の正常可動域獲得を目指す。
筋力:
大腿骨骨幹部骨折で障害されやすい膝伸筋(大腿四頭筋)、膝屈筋(ハムストリングス)の筋力回復を目指す。
機能的ゴール:
股関節・膝関節の十分な可動域を獲得し、破行のない正常歩行パターンを獲得する。
大腿骨骨幹部骨折のクリニカルパス
以下が大腿骨骨幹部骨折後のクリニカルパスの一例となる。
~『理学療法ハンドブック改訂第4版 4巻セット』より引用~
~1W | 1~2W | 4~6W | 8~12W | 12W~ | |
---|---|---|---|---|---|
ROM運動 | 動許可部位(股・膝関節)の自動運動。 | 股・膝関節の自動運動と愛護的な他動運動。 | 股・膝関節の他動運動。 | ------------ | ---------- |
筋力トレーニング |
大腿四頭筋、大殿筋の等尺性収縮。 足関節の底背屈運動。 |
SLR 松葉杖に備えた上肢トレーニング。 |
大腿四頭筋・殿筋ハムストリングスの等張性抵抗運動、等尺性運動。 開放性運動連鎖トレーニング。 |
漸増抵抗運動。 閉鎖運動連鎖トレーニング。 |
---------- |
荷重 + 日常生活動作訓練 |
通常は完全免かまたはつま先荷重。 安定型骨折、荷重許可の場合は疼痛自制内で荷重。 車椅子、トイレへの移動練習。 |
完全免荷。 松葉杖歩行練習。 |
完全免荷。 松葉杖の階段、応用歩行練習。 退院日程に合わせて、自宅と周辺環境に合わせたADL練習。 |
安定型は全荷重または可能な限りの部分荷重。 不安定型骨折の場合は部分荷重。 荷重量に合わせて片松葉杖歩行練習。 |
全荷重許可 |
注意点 |
浮腫の変化、足部の知覚障害の有無には注意。 健側下肢の筋力は十分か、禁忌事項への理解力、移乗動作の安定性などを確認する。 |
転倒リスク(血圧、眠剤、病棟環境など)の把握と転倒予防指導。 足部の浮腫や知覚に注意。 |
局所熱感、皮膚色調を観察。 | ---------- | ------------ |
治癒過程 |
炎症期。 骨折部分の血腫に炎症性細胞が増殖し、骨折部の吸収が始まる |
修復期の始まり。 骨形成系細胞が骨が細胞に分化し、線維骨を形成する。 |
修復期。 架橋性仮骨が観察されたならば、骨折は通常安定である。 しかし、正常に比べ、捻じり負荷に対して優位に弱い。 |
早期再生期。 線維骨は層板骨によって置換される。 完了前に数か月から数年かかる。 |
再生期 |
※あくまでも一例であり、主治医の指示に従うこと。
リハビリ(理学療法)の補足
- 可動域制限に関しては、エンドフィールなどを評価し、制限因子を推察することが大切となる
- 膝関節可動域獲得に関しては、愛護的かつ持続的伸張手技を主体とする(大腿四頭筋・内転筋群・ハムストリングスなどの筋・筋膜性因子が制限な場合)。十分な筋のリラクセーションが得られれば、順調に可動域は獲得される場合が多い。そのため、無理な他動運動は疼痛を増幅させるため注意する。大腿四頭筋をはじめとして圧痛を認める筋に対し筋収縮練習やストレッチングを適宜行い、屈曲可動域の獲得を試みる。筋へのストレッチングは、骨折部より遠位から開始し、早期には損傷部に過度な伸張刺激が加わらないように配慮する。
- 関節モビライゼーションによって関節包内運動を促進する
- 筋力増強は固定力および仮骨形成をみながら行う
術後はエクステンションラグが生じるほど大腿四頭筋の弱化が認められることもあり強化する。また、中殿筋なども同様に強化する。
- 荷重に関しては保存療法の場合、仮骨形成を観察しながら部分的荷重から開始するが、手術療法の場合には内固定の状況から判断しなければならない。
保存的治療の場合:
転位のない横骨折の場合には保存療法の適応になる場合がある。
その場合は、仮骨形成が認められるまで、二関節固定の原理にて骨盤から膝関節までの外固定を行う。
外固定中は膝蓋骨部にギプス窓を開け、パテラセッティング(クアドセッティング)を行う。パテラセッティングの目的は以下などが挙げられる。
・筋肉の過度な緊張を軽減する。
・筋膜内浮腫を軽減する
・筋膜の滑走を促進し癒着を防止する
・骨膜経由の循環を促進する
外固定除去後より膝関節自動介助運動、自動運動より開始する。
オススメ書籍
骨折のリハビリ(理学療法)をするにあたって、以下の書籍を一通りそろえておくと、非常に心強いと思う。
是非参考にしてみてほしい。
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