この記事は、上腕骨遠位端骨折について記載している。
上腕骨遠位端骨折とは?
上腕骨遠位端骨折は、文字通り「上腕骨の遠位端に生じた骨折」を指す。
でもって、一概に「上腕骨の遠位端に生じた骨折」といっても様々なパターンがあり、以下の様にいくつかの分類があります。
- 骨折が関節面にまで及ぶ場合(=関節内骨折)
- 骨折が関節面にまで及ばない場合(=関節外骨折)
骨折が関節面にまで及ぶ場合(=関節内骨折):
関節内骨折は、T字型やY字型の顆間骨折(両側の縦構造に及ぶ)とともに、内・外顆骨折(一側の縦構造にとどまる)も含む。
関節面は互いに開いてしまうが、単顆骨折では一側の縦構造は骨幹部とつながっている。両顆骨折では両側の縦構造が骨折しており、関節面を含む骨片は上腕骨骨幹部から離れている。
上腕骨遠位関節内骨折は治療にあたる医師にとって、大きな課題である。
骨折が関節面にまで及ばない場合(=関節外骨折):
関節外骨折は、顆上骨折(関節包外)と通顆骨折(関節包内)、そして内・外上顆骨折(関節包外)を含む。
顆上骨折と通顆骨折は、受傷機序と遠位骨片の位置により、さらに「伸展型」と「屈曲型」に分類される。
・伸展型の骨折では上腕骨遠位端の後方転位を生じる。
・屈曲型の受傷では遠位骨片と肘関節の前方転位を生じる。
上記の「関節内骨折」と「関節外骨折」を分かり易く分類した表が以下になる。
関節内骨折 |
関節外骨折 |
||
縦構造1つ ・内顆骨折 ・外顆骨折 |
縦構造2つ ・T字顆間骨折 ・Y字顆間骨折 |
関節包外 ・顆上骨折 ・内外上顆骨折 |
関節包内 ・通顆骨折 |
受傷機序
上腕骨遠位端骨折のうち、関節内骨折は肘に加わった圧迫力によって引き起こされる。
内外反ストレスとともに加わった力の作用点と方向は、上腕骨遠位の内外縦構造に集中して、尺骨による直接の衝撃が滑車溝に加わり、顆部を内外に割ってしまう。
伸展型の顆上骨折や通顆骨折は、一般に伸ばした手をつく形での転倒か、肘への直達外力の結果であり、屈曲型の骨折は肘後面への直達外力の結果として生じる。
伸展型の上腕骨顆上骨折は最も多い関節外損傷であり、以下の記事で深堀り解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
⇒『上腕骨顆上骨折は、後遺症でヤバいことが起こるかも? 解説するよ!』
治療のゴール
ここでは、上腕骨遠位端骨折における「整形外科的治療目標」と「リハビリ的治療目標」をザックリと記載していく。
整形外科的な治療目標:
アライメント:
上腕骨遠位の正確なアライメントによって、肘外反角の異常による外見上の変形や機能障害を避けるとともに、外傷後関節症の危険を減らすためにも、関節包内の関節面の正確な整復が必要である。
安定性:
転位のある上腕骨遠位端骨折は不安定骨折である。
手術による安定化は早期のリハビリテーションと機能回復を可能にする。治癒後、上腕骨遠位は荷重に安定でなければならない。
リハビリ的な治療目標:
関節可動域:
肘関節の完全な可動域を回復・維持し、正常な肘外反角を保ち、肩関節の完全可動域を再獲得すること。
筋力:
肘伸展筋(上腕三頭筋)・肘屈筋(上腕二頭筋)の筋力向上を図る。
また、以下などの二次的筋群の回復も同様に重要となる。
・前腕回外・回内筋
・手関節背屈筋(長短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋)
・手関節掌屈筋(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋)
・三角筋
機能的ゴール:
食事、入浴、トイレ、更衣、整容といった肘関節屈伸・前腕回内外を必要とする活動性を取り戻す。
標準的な骨癒合期間・リハビリテーション期間
標準的な骨癒合期間は、8~12週が目安となる。
※開放骨折や固定のために骨膜剥離を必要とする場合には、骨癒合が遅延する場合がる。
でもって、標準的なリハビリテーション期間は、12~24週が目安。
以下のプロトコルも、あくまでも「ザックリとした目安の一つ」として観覧してみてほしい。
治療:受傷日から1週まで
注意点:
肩関節の内外旋を避ける。
肘関節の他動可動域運動を避ける。
可動域:
観血的整復内固定術を受けた安定した骨折には、適度な自動屈伸運動を行わせる。
他の方法で治療された肘には関節可動域訓練は行わない。
筋力:
肘の筋力増強訓練は行わない。
活動性:
日常生活動作・活動や身辺動作には健側上肢を用いる。
荷重:
患側上肢での荷重は避ける。
1~2週まで
注意点:
肘にかかる回旋ストレス(肩関節内外旋・前腕回内外)を避ける。
肘関節他動運動訓練を避ける。
可動域:
観血的整復内固定術を受けた骨折のみに、適度な肘の自動屈伸運動を行わせる。
転位の無い安定した骨折には、監視下での適度な自動介助屈伸運動を行う。
筋力:
肘の筋力増強訓練は行わない。
活動性:
日常生活動作・活動や身辺動作には健側上肢を用いる。
荷重:
患側上肢での荷重は避ける。
4~6週まで
注意点:
肘にかかる回旋ストレスを避ける。
可動域:
肘の自動屈伸運動、自動介助可動域訓練を行う。
筋力:
肘の筋力増強は行わない。
活動性:
日常生活動作・活動や身辺動作には健側上肢を用いる。
荷重:
患側上肢での荷重は避ける。
6~8週まで
注意点:
重量物を持ち上げたり、押したりすることを避ける。
可動域:
肘関節の自動・他動可動域訓練を行う。
筋力:
肘筋力の漸増抵抗運動を行う。
活動性:
身辺動作や入浴・トイレに患側上肢を用いる。
荷重:
関節内粉砕骨折を除き徐々に疼痛に応じて患肢での荷重を開始する。
8~12週まで
注意点:
重量物を持ち上げたり、押したりすることを避ける。
可動域:
肘関節の自動・他動可動域運動を行う。
筋力:
肘筋力の漸増抵抗運動を行う。
活動性:
身辺動作や入浴・トイレに患側上肢を用いる。
荷重:
12週までに患側上肢での全荷重を行う。
後遺症に関して
上腕骨遠位端骨折は、後遺症が残り易い骨折の一つであり、そんな『後遺症』について最後に記載して終わりにする。
関節可動域制限の残存
肘周辺骨折の最も多い合併症は可動域制限である。
不十分な骨折治療、手術後の搬痕、変形癒合、骨化性筋炎、過剰仮骨形成などの結果による。肘の完全伸展はなかなか得られない。
大部分の肘機能は屈曲30~130度までを必要とするので、30度の伸展不全はほとんど機能的意義をもたない。自動可動域運動を早期から行うことが必須である。
骨化性筋炎は、肘脱臼や橈骨頭骨折後によく発生する。また他動可動域運動によっても引き起こされるので、こうした運動は避けるべきである。
肘関節脱臼・靭帯損傷
骨折と肘関節脱臼の合併は初診時に判明する。
顆部骨折線と外側滑車稜の関係が肘の安定性にとって重要である。
外側滑車稜が顆部骨折線に含まれると、脱臼骨折とみなされる。
顆部骨折は靭帯や関節包の損傷を伴うことがある。
変形癒合・偽関節
上腕骨遠位端骨折の変形癒合は一般に外見上の変形をきたす。
肘外反変形を伴った外顆骨折の変形癒合は遅発性尺骨神経麻痺を生じやすい。
上腕骨遠位端骨折が偽関節になりやすいのは、高度の粉砕骨折、不十分な固定、開放骨折や感染などが挙げられる。
尺骨神経は内上顆の近くを走り、上腕骨遠位端骨折、特にT字型顆間骨折で最も障害を受けやすい神経となる。
上腕骨遠位端骨折の変形癒合はまた、遅発性尺骨神経麻痺を引き起こす。
橈骨神経および正中神経もまた、上腕骨遠位端骨折で障害を受けることがある。
神経損傷に関する注意深い評価を骨折時と治療直後に行うことが最も重要である。
神経損傷は、徒手整復、経皮的ピン固定、手術でも生じる。
コンパ―メント症候群
上腕動脈への損傷はどの上腕骨折でも起こりうるが、通常は顆上骨折かT字型やY字型の顆間骨折で生じやすい。
一般に神経損傷を合併しやすく、コンパートメント症候群が生じる。
もし上腕動脈損傷が疑われたならば、動脈撮影を速やかに行い、もし損傷が確認されたならば緊急の血管修復を行う。
もし、何らかのコンパートメント症候群の所見があれば、筋内圧を測定し適切な処置を行う。
見逃されたコンパートメント症候群の後遺症は深刻なものであり、フォルクマン阻血性拘縮や場合によっては上肢を失う結果となる。
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上腕骨顆上骨折
以下は、上腕骨遠位端骨折の中でも発生頻度の高い「上腕骨顆上骨折」について記載している。
⇒『上腕骨顆上骨折は、後遺症でヤバいことが起こるかも? 解説するよ!』
オススメ書籍
骨折のリハビリ(理学療法)をするにあたって、以下の書籍を一通りそろえておくと、非常に心強いと思う。
是非参考にしてみてほしい。
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