H29年10月に理学療法士協会より『理学療法士の生涯学習制度(現在の新人教育プログラム・認定理学療法士制度が該当)がH33年4月より大幅に変更される』との通達がなされた(JPTA NEWS 2017,8,No308)。
メチャクチャ大幅な制度変更がなされる予定なので、「いずれ認定理学療法士を取得したい」と考えている理学療法士は戸惑っているに違いない。
今回は、そんな「新たな生涯学習制度の詳細」と「私見」を記載していく。
現在の生涯学習制度をザックリと復習
現在、生涯学習制度として新人教育プログラムや認定理学療法士プログラム(+専門理学療法士プログラムなど)が存在する。
でもって、以下の順で生涯学習制度をこなしていくことでスキルアップを図ることになっている。
①理学療法士の国家試験に合格。
↓
②理学療法士協会に登録
↓
③新人教育プログラムを修了
↓
④認定理学療法士・専門理学療法士の資格を取得
これらは全て任意であり、各々のメリット(やデメリット)は以下の記事で解説している。
⇒『考えろ!理学・作業療法士協会の新人教育プログラムを修了するメリット』
⇒『メリットは?専門・認定理学療法士(作業療法士)を考察する』
でもって、現行の「新人教育プログラム」と「認定理学療法士プログラム」が大幅に変更される。
一目瞭然!どのくらい生涯学習制度が変わるのか?
理学療法士の生涯学習制度がどの程度に変更されるかは、以下の時間対比を観覧してもらえば一目瞭然である。
~画像引用『JPTA NEWS 2017,8,No308』~
- 現在の生涯学習制度は37時間で修了可能
↓
- 変更後の生涯学習制度675時間で修了可能
※つまり、現在の18.2倍も費やさなければ認定療法士の取得までたどり着けない(試験にも合格する必要がある)。
その他の変更点としては以下などが挙げられる。
- 新人教育プログラムが研修理学療法士プログラムへ名称変更
- 登録理学療法士プログラムなるものが追加される。
- (新たに制定される登録理学療法士プログラムと)認定療法士プログラムが更新性になる。
新人教育プログラムが研修理学療法士プログラムへ名称変更
まぁ、どうでも良い話ではあるが「新人教育プログラム⇒研修理学療法士プログラム」へ名称が変更される。
ただ、(名称変更はどうでも良いとして)修了までに要す時間が大幅に増えている点は注目すべき点だ。
- 新人教育プログラム:13時間
↓
- 研修理学療法士プログラム:91.5時間(座学研修43.5時間・臨床研修48時間)
すでに新人教育プログラムを修了した人はご存じだと思うが、現制度は「座学研修」しかない(しかも、まとめて複数のカリキュラムを取得できるので、数日我慢して話を聞いていれば新人教育プログラムは修了できる)。
それが座学43.5時間に増えるどころが、臨床研修なるものが追加されている。
「臨床研修って何するんだ?しかも48時間って」っと思った人もいると思うが「JPTA NEWS 2017,8,No308」には以下の様に記述してある。
臨床能力の底上げについては、現行の新人教育プログラムの13時間の講義から、研修理学療法士プログラムと名称変更を行い、43.5時間の講義に48時間のOJTを加えた計91.5時間とし、2年間の研修期間を設けた。
研修理学療法士プログラムでのOJTは原則的に自施設での研修を予定しているが、困難な場合は他施設での研修を受講することになる。
OJTは「on the Job Training」の略だそうで、ググってみたらウィキペディアに以下の様な記述があった。
OJTとは、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対し具体的な仕事を与えて、その仕事を通して、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを意図的・計画的・継続的に指導し、修得させることによって全体的な業務処理能力や力量を育成する活動である。
これに対し、職場を離れての訓練はOff-JT(Off the Job Training オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)と呼ばれる。
OJTという言葉は1935 - 1940年頃の辞書(Webster等)に採録されたが、アメリカで第一次世界大戦中にできた手法とされる。
~『ウィキペディア:OJT』より引用~
先ほどの記載通り、一人職場(あるいは、それに近い職場)の理学療法士は、OJT(知識・技術・技能・態度など)の指導を仰ぐために、わざわざ他施設へ出向く必要が出てくる可能性があるらしい。
※ってか、いつ出向くんだ?平日の日中は無理だろ?平日の仕事終わりか?休日か?いずれにしても面倒くさいな。。。
先ほど「現制度は座学研修だけで新人教育プログラムが修了出来る」と記載したが、数年前(少なくとも私が理学療法士を取得した10年前)は、新人教育プログラムを修了する為には「症例報告(学会発表でも良いし、地域の支部会でも良いで)」が必須であった。
でもって、この「症例報告」がネックで新人教育プログラムを修了していない理学療法士が多く存在した。
※なので当然、その先にある「認定理学療法士」の取得者も非常に少なかった。
そんな状態(生涯学習制度が新人教育プログラムの段階で既に停滞してしまっている状態)を危惧した理学療法士協会が出した結論が以下になる。
で、その結果、協会の思惑通り(修了への敷居が低くなったので)「新人教育プログラムくらいは、とりあえず修了させておこう」という理学療法士が急増した。
・・・話を今回の「新人教育プログラム⇒研修理学療法士プログラム」に戻すと、一度低くした敷居を、再度高くする(っていうか激高にする)という風に舵を切る訳だ。
数年のうちに、この様にコロコロと変更する辺り、理学療法士協会の迷走っぷりがうかがえる。
※っていうか、以前敷居を低くした理由は「新人教育プログラム修了の促進」が目的であったので、その逆をするということは(以前のように)「新人教育プログラムを修了させることにすら興味を失う理学療法士」が増えるということも織り込んでいるのだろうか?
「JPTA NEWS 2017,8,No308」には以下の様な記述がある。
日本理学療法士協会(以下、協会)における生涯学習の制度化は、平成6年に新人教育プログラムが開始されたことにより始まった。その後、平成9年に生涯学習システムの専門理学療法士制度が導入され、現在に至っている。
新制度は平成33年4月の開始を目指して準備を進めており、およそ四半世紀ぶりの大きな改定となる。準備を進めており、およそ四半世紀ぶりの大きな改定となる。
今回の改定の目的を端的に表わせば、「理学療法士の臨床能力の底上げ」と『努力(研鑽)をした会員が正当に評価される」ということである。
そのためには、新人からの系統だった生涯学習プログラムの整備と社会からの評価が得られる制度設計が必要となり、大幅な学習時間増加が必然的に求められる。
「努力(研鑽)をした会員が正当に評価される」という目的には同意だが、あまりに敷居を高くしすぎると「目標に向かって努力する前にさじを投げてしまう会員」も現れるだろう。
※そういう会員がいたから、敷居を下げたのだろう。
「努力する前にさじを投げるてしまう人が増える」っといことは「理学療法士の臨床能力の底上げ(つまり、全ての理学療法士が一定水準以上の能力を獲得させるということ)」とは真逆に向かう可能性がある。
※益々、「努力する人」と「しない人」の二極化が進む(臨床能力の底上げが出来ない)ということ。
とにかく、理学療法士でまだ新人教育プログラムを修了していない(でなおかつ、今後も理学療法士協会に所属し続けようと思っている人)であれば、H33年4月までに修了しておかなければ絶対に損だということは断言できる。
※認定理学療法士は、取得しようにも少し敷居が高いと思っている(あるいは一定の経験年数も条件になるため取得不可能な)人も存在すると思う。
※一方で、現在の新人教育プログラムは少し時間を費やせば誰でも取得できる(数日間、我慢して座っておくことができる人は全員修了できる。まぁ、よく考えてみると、そんなプログラムもどうかとは思うが、、、)。
登録理学療法士プログラムなるものが追加されている。
前述したイラストにおいて、現在の生涯学習制度は以下で構成されている。
- 新人教育プログラム
- 認定理学療法士プログラム
※厳密には専門理学療法士プログラムもある(取得要件は認定理学療法士とかぶる部分も多々ある)。
でもって、変更後は上記プログラムの間に「登録理学療法士プログラム」なるものが追加されている。
でもって、この「登録理学療法士プログラム」も含めた生涯学習制度に関して、以下の様なステップアップを想定しているらしい。
新制度におけるステップアップは、研修理学療法士プログラム(卒後2年間を想定)の受講、登録理学療法士制度(修了は卒後5年を想定)の受講後に認定理学療法士プログラムを履修し試験を合格した者に認定理学療法士の資格を授与する。
新制度では、「研修理学療法士プログラム+登録理学療法士制度=5年」を想定しており、卒後5年経過した後に、認定理学療法士プログラム514.5時間(座学274.5時間、臨床研修240時間)が待ち受けており、その後の試験に合格したら認定理学療法士ということになる。
この『登録理学療法士プログラム』に関しては「JPTA NEWS 2017,8,No308」では以下の様に記述されている。
登録理学療法士制度は、「(仮)日本理学療法士協会 基本理学療法士技能取得者名簿登録制度」を策定し、プログラム修了者が名簿登録することで登録理学療法士と名乗ることを許可する制度であり、5年毎の更新を義務付ける。
研修理学療法士を卒業した会員の日常的な研讃を促す制度であり、基本的な理学療法が実践できることを協会として担保することが制度の目的であり、69時間のカリキュラムを準備している。
シラバスを公開し、各県士会主催の研修を励行していく予定である。
また業者参入によるe-Learningでの受講も認める方針で、競争原理も利用して質の向上を期待するものである。
登録理学療法士については協会広報に注力し、施設経営者や事務方に啓発を行う予定である。
それに伴い、人事考課や採用にまで影響が及べば実質的な免許更新制としての効力を持つと考えている。
国民の負託に応えられる理学療法士とは、常に学び自己研鐙を続けることだと示す制度にしたいと考えている。
成果に対する正当な評価の1つに、診療報酬に反映され、その結果として待遇改善に繋がるような医療広告ガイドラインのクリアが挙げられる。
この「登録理学療法士」も、認定理学療法士と同様に5年の更新性らしい。
う~ん。
認定理学療法士を目指す人の通過点としては取得が必須だが、「登録理学療法士」にとどまるくらいなら、何とも中途半端な資格と言わざるを得ない。
一番最後の「診療報酬に反映され処遇改善に」っていうのは、まず無理だろう。
※認定理学療法士であったとしても。
むしろ「登録理学療法士」の位置づけを、協会は「基本的な理学療法が実践できることを証明するための資格」としているため、登録理学療法士を国へアピールすることで逆手に取られるかのうせいがある。
つまり「登録理学療法士でなければ一人前ではない。登録理学療法士でない者(単なる理学療法士)は診療報酬を減算する」というマイナスな方向に持っていかれないか心配なくらいだ。
関連記事⇒『メリットは?専門・認定理学療法士(作業療法士)を考察する』
「業者参入によるe-Learningでの受講も認める方針」というのは、見方によってはチャンスと捉える人がいるかもしれない。
ユーチューブで動画配信している理学療法士も見かけるので、動画を作るのが得意で一定の情報発信能力がある場合、業者として算入できる可能性もある。
「競争原理も利用する」との記載があるので、敷居はそんなに高くしない可能性もある。
でもって、動画を観覧した理学療法士たちに評価(☆5つなど)やレビューなんかも出来るようにしたら、人気な動画を初っ端から作成したセラピストは収益が(永久とは言わないが)ある程度持続的にもたらされる可能性もある。
もちろん、在り来たりな内容では直ぐに真似されてしまいそうだが、動画の質、内容で他者を寄せ付けない人は、ビッグチャンス到来かもしれない。
生涯学習制度の変更点まとめ
H33年からの生涯学習制度の変更点を、「JPTA NEWS 2017,8,No308」では以下の様にまとめている。
- 研修理学療法士プログラム(現新人教育プログラム)および認定理学療法士プログラムの大幅な時間増加
- 登録理学療法士制度の新設により実質的免許更新制を目指す
- 外部評価が得られる水準に進化させ、認定理学療法士制度を医療広告ガイドラインにも合致するものに
- OJT(on the Job Training)の導入
- e-Learningの積極的活用
- 外部評価機構の構築
でもって、この記事においては一切触れていない『専門理学療法士』に関しては「その領域における理学療法を学術的に追求するための、高度な専門的知識・技術を有する者を想定して、分科学会(専門領域)で検討中」とのこと。
認定理学療法士の資格更新の要件は厳しいものが予想される
ちなみに、新制度が開始される段階で既に認定理学療法士資格を有する会員は、新たに何らかの研修を受けずとも、資格の継続が可能らしい。
ただし、勝手な予想だが、認定理学療法士の資格更新の要件は厳しいものが予想され、その理由は以下の記述から伺える。
認定看護師の前例から600時間前後の研修時間が必要だということが推察できる。
そこで認定理学療法士プログラムは、計500時間(以上)のカリキュラムを設定し、現在各領域でのコンテンツ作成を始めている。
500時間のなかに240時間のOJTを規定して、専門領域での高い理学療法技術の修得を促すプログラムである。
※「認定看護師」は「(現行の)認定理学療法士」とは比べ物にならないくらい時間的・費用的に大変なのは知っていたが、アレの真似をしたいようだ。
でもって既に認定理学療法士を取得している人達は、上記の要件を全く満たしていない訳だが、だからと言って「今まで努力してきた人達から資格をはく奪する」っというのは気が引けるだろう(大クレームが起こるだろう)。
しかし、その後に必要な努力(更新に必要なための努力)は平等に課す必要があるのは当然のこととして、現在の資格取得者達は上記の水準を明らかに満たしていないので「資格は継続できるが、更新には+αの追加要件を満たしてもらう」などといった条件が加わるのではとも感じる。
でなければ不平等だし、その様な人たちが混じっていたら、認定理学療法士の対外的にアピールできない。
※重複するが、「ハードルが高くなった生涯学習制度」は最初(研修理学療法士プログラム)の段階から見向きもされなくなる可能性もあるため、そこから(登録理学療法士を経て)認定理学療法士にまでたどり着くことの出来る人達は、極少数だと思われる。
※っということは、圧倒的に「現在の(ぬるい要件で資格取得した)資格取得者が多数を占めるわけで、そんな集団を「専門領域での高い理学療法技術を修得した者たち」として一括りに対外アピールするには無理があるということ。
なので、更新時に何らかの措置を講じる必要がある
っという訳で、現認定理学療法士には何らかの措置を講じて「専門領域での高い理学療法技術を修得した者たち」とアピール出来る状態にすべく特別カリキュラムが組まれる可能性も否定できない。
いずれにしても、認定理学療法士の更新は大変になることは間違いない
現認定理学療法士の資格更新について予想してみたが、仮に特別カリキュラムが組まれなかったとしても、「質が担保し続けられていることを対外的にアピールすること」を前提としてカリキュラムを組みなおすのであれば、今後は「認定理学療法士の更新」は大変になることは間違いない。
以下の記事では認定理学療法士の更新性に関しては以下の記事でデメリットとして記載しているのだが、この『デメリット』が更に大きくなるという訳だ。
※ただし、以下で作成した記事よりも若干メリットも大きくはなるが。
是非とも合わせて観覧し、今後の生涯学習制度に自身がどう向き合っていくかの参考にしてみてほしい。