この記事では『ミラーニューロン』について解説していく
ミラーニューロンとは
人間の脳には「ミラーニューロン」という神経細胞があると言われている。
※ミラーニューロンは「モノマネ脳」「共感脳」などとも呼ばれることがある。
「他者が何らかの動作をしているのを見た際」に「自分が同じ動作をした時に反応するのと同じ脳の部位が反応していること」が実験で観察されている。
つまり私たちの脳は「他者の動作を、まるで自分がしているかのように認識している」ということになる。
また、「動作」のみならず、痛み・温かみといった「感覚」や、嬉しい・悲しいといった「感情」も、「まるで自分のことのように感じてしまう」ことがある。
でもって、この様な現象が起こるのは、脳内にミラーニューロンシステムが存在するからだと言われている。
ミラーニューロンはサルから発見された
ミラーニューロンは、1996年にサルの脳で発見された。
その際の実験内容は以下になる。
※要するに、「サルが飲み物を飲んだわけではないのに、飲んだ際に活動する神経細胞が活性化した」ということ。
※多くの実験が繰り返されるなかで、サルの下前頭皮質と、下頭頂皮質のほぼ1割にあたる神経細胞に、こうした「他者の能力を写しとる能力があること」が明らかになったと言われている。
ミラーニューロンシステムの具体例
具体的なミラーニューロンシステムの例としては以下などが挙げられる。
- 自身が好きな芸能人が温泉につかって気持ちよさそうな表情をしているポスターを見ると、自分が湯船に入っているわけでもないのに、なんとなくリラックスして良い気分になる
- TV番組の罰ゲームで「真冬に裸姿のまま、氷水の中に飛び込まなければならない」という場面を観ているだけで、自身も寒気を催してしまう。
- スピーチの際に、相手が非常に緊張しているのを察知した。すると今まで緊張していなかったにも関わらず、次にスピーチする自分まで緊張し始めた(まぁ、相手が緊張しているのを見て、逆に落ち着くというパータンもあるが、これは割愛する)
- 親友が一生懸命勉強して、受験をした。合格発表の当日、努力が報われて安堵の表情を浮かべる親友の顔を見て、自分まで同じ気持ちになった。
思考は現実化する??
先ほど、サルを用いた以下の実験を記載した。
で、同様なことは人間にも起こる。
少し応用した考えになるのだが、例えば以下などはミラーニューロンの影響を多少受けている可能性がある。
- 成功者の考え方や生き方を目の当たりにすると、それが勝手に脳にコピーされる。
↓
- そうすると、成功者の自己イメージが、自分の自己イメージと重なって、自然に行動に移すことが出来る
例えば自己啓発本で知らない人はいないであろう書籍の一つに、ナポレオンヒルの『思考は現実化する』というのがある。
で、この書籍には多くの成功者のエピソードが出てくるが、これらのエピソードを読み進めてくと、ミラーニューロンの働きも後押しして自分にも何か出来そうな気にさせてくれる。
この様な作用は、理学療法の研修会にも当てはまるのではと感じるが、ここから先はクドクドと記載せずにスルーしておく。
痛みとミラーニューロン
以下は『ペインリハビリテーション』からの引用だが、痛みが「単に感覚としてだけでなく、情動体験も付随して認知されている」というのが分かる興味深い記述だ。
慢性痛患者の顔の表情から、その痛みの程度を読み取る課題において、観察者側においても島皮質・前帯状回・下頭頂小葉に活動がみられることがわかっているとともに、観察した痛みの強さと相関が認められる領域は島皮質・下前頭回であることがわかった。島皮質はこのように痛みの強さと関係があることから、観察者が痛みの強度の査定をしていると想定される。一方、下前頭回はミラーニューロン(mirror neuron)活動の際に働く領域であることから、他者の痛みを共感していると考えられる。
つまり、他人の痛みを評価する際、観察者自身もミラーニューロンによって他者の痛みを知らず知らずに共感している。
また、上記の続きとしての以下の記述も興味深い(ミラーニューロンとは全く異なる余談になるが。。)。
Oginoらは前腕に注射針が刺さった画像と恐怖画像を観察した際の脳活動をfMRIで検討しているが、恐怖画像の観察の際には前帯状回・扁桃体の活性化を、痛み画像を観察している時には前帯状回・島皮質・小脳・後頭頂葉・二次体性感覚野の活性化を認め、両者に共通している場所が前帯状回であることを明らかにした。
また「注射針で手をつく」という経験を被験者にさせた後「注射針で手をつく」動画を観察した際には痛みに関連する領域の神経活動が亢進することが明らかにされている。すなわち、情動体験や経験に伴う記憶の形成が神経活動を亢進させ、痛みの知覚を修飾させることがわかった。
痛みは主観的な情動体験であるために、物理的で同一な刺激に対しても痛みの知覚の大きさは変わる。Coghillらは同じ熱刺激であっても、痛みを強く感じる被験者では視床・前帯状回・一次体性感覚野に大きな活動がみられることを報告した。これに対して痛みをさほど感じない被験者では視床の活動は同様に認められるが、前帯状回や一次体性感覚野の活動の亢進は認めないことも明らかにされた。すなわち痛みの個人差は大脳皮質レベルの活動の差異に大きく関連することを示した。
とりたてて、前帯状回の活動は主観的な痛みの変化と一致することがわかっている。
したがって、この領域の神経活動の増加が痛みを増大させたり、自発痛を惹起させている可能性が示唆される。
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⇒『負の情動は生きていく上で必須だが、慢性的な痛みにも関与してしまう』
ミラーニューロンシステムには個人差があるよ
冒頭で以下の様に記載した。
また、「動作」のみならず、痛み・温かみといった「感覚」や、嬉しい・悲しいといった「感情」も、「まるで自分のことのように感じてしまう」ことがある。
でもって、これらの現象が起こるのは、脳内に『ミラーニューロンシステム』が存在するからだと言われている。
でもって、これらミラーニューロンシステムが強く作動する人、ほとんど作動しない人など個人差がある。
例えば、オリンピックで金メダルをとって感激の涙を流している選手をTVで観て、もらい泣きしている人がいるかと思えば、そうでもない人もいる。
ミラーニューロンの働きが欠如しているサイコパス
例えば(物騒な話だが)「ある人のことが嫌いだから、刺し殺してしまいたい」という衝動に駆られたとする。
ただし、そんな感情が芽生えた際にも「刺されたら痛いに違いない」「血が沢山出るだろうな」「殺されたら悔しいだろうな」といった共感脳(ミラーニューロンシステム)がブレーキ役となり、実際に殺してしまうことは無いだろう。
つまりは「刺された時の痛みを自分も感じてしまって、とても刺せない」という状態になるはずだ。
一方でサイコパスは、刺せる可能性が高い。
っというのも、彼らは「相手に対する共感性が乏しい」という特徴がるからだ。
だからこそ、感情に左右されずに即断即決、合理的な判断が出来るといった側面もあるのだが。。
サイコパスに関しては、以下の記事で深堀解説しているので興味がある方は是非。
⇒『サイコパスに注意せよ!!』
笑顔は、あなたを幸せにするだけでなく、相手も幸せに出来る
「笑い」には以下の様に様々な恩恵が得られることが分かっている。
- 免疫力を高める
- 痛みを和らげる
・・・など。
で、実際には「楽しくなくとも、笑顔の表情を作るだけで、上記の効果が期待できる」ということも分かってきている。
更にはミラーニューロンの働きによって「あなたの笑顔を見た相手も、笑顔になる(あるいは笑顔によって得られる効果が引き出される)可能性」を秘めている。
ピンと来ないかもしれないが、他人が笑っている声を聞くと、なんとなく、つられて笑ってしまうことがあるのではないだろうか?
あるいは、屈託のない満面の笑みで話しかけられると、(表情には出さないものの)内心は卑屈な心が溶かされて、穏やかな気持ちで対話が出来ることもあるのではないだろうか?
入院中の患者さんの中には、心を閉ざして卑屈になっている人も存在する。
でもって(表情には表れないかもしれないが)笑顔で穏やかに会話をしていくことで、ミラーニューロンが働き、リハビリ(理学療法・作業療法)における何らかの行動変容、好反応が得られることがあるかもしれない。
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