この記事では、『捻挫』と『靭帯損傷』という用語について、「果たして違いはあるのか?」も含めて整理していく。

 

目次

閉じる

捻挫とは

 

捻挫は以下のように定義されている。

 

関節に生理的可動域を超えた運動が矯正されて起こる靭帯損傷で解剖学的乱れの無いもの。

 

具体的な捻挫の分類は以下の通り。

 

Ⅰ度:靭帯部分断裂

Ⅱ度:靭帯部分断裂と関節包の損傷

Ⅲ度:靭帯完全断裂と関節包の損傷

 

スポンサーリンク

 

捻挫は靭帯損傷も含まれている

 

上記の定義から、『捻挫』という用語は「靭帯損傷(部分断裂や完全断裂)を伴った傷害」を示していることが分かる。

 

また、捻挫の分類でも『捻挫』という用語は靭帯損傷を伴っていることが分かる。

 

にも関わらず、『捻挫』という用語は、『靭帯損傷』という用語とは異なったイメージを世間一般に与えている場合も多い。

 

その理由としては、以下の様な意見があるためだとされている。

 

『関節の安定性に関与する重要な靭帯の損傷を伴う場合には靭帯損傷として別に扱う』

 

 

この様な意見があるために、
「捻挫=靭帯が軽微に傷んでいる」
「靭帯損傷=靭帯が重度に損傷されている」

といったイメージを世間一般に植え込んでいる側面がある。

 

従って、例えば「足関節捻挫(主には足関節外側靭帯損傷)」などの用語は、軽微な外傷として扱われることがある。

 

あるいは「腰椎捻挫(ぎっくり腰)」という言葉も、「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」などの用語と比べれば予後が良いイメージある。

関連記事⇒『急性腰痛(ぎっくり腰)の激痛対処法とは?

 

ただし、前述したように『捻挫』という用語は『靭帯の軽微な損傷から重度な損傷まで幅広く捉えた概念』であるため、捻挫を「軽い外傷」と軽視して理学療法を含む適切なアプローチが成されなければ、後遺症が残存してしまう可能性がある点には注意しなければならない。

 

※例えば足関節捻挫であれば「痛み」「不安感」「易捻挫性(繰り返し捻挫をしてしまうこと」などが後遺症として起こる可能性がある。

 

 

捻挫・靭帯損傷の分類は「概念的な分類」である。

 

冒頭で、以下の『捻挫の分類』を紹介したが、これは『靭帯損傷の分類』としても多くの文献で紹介されているものである。

 

Ⅰ度:靭帯部分断裂

Ⅱ度:靭帯部分断裂と関節包の損傷

Ⅲ度:靭帯完全断裂と関節包の損傷

 

でもって、上記の様な分類表は存在するものの、観血的検査を行わない限りこの明確な区別はできない(なので概念的な分類と言える)。

 

※実際の臨床では、上記のグレードを明確に判定することは不可能。

 

さらに単なる靭帯損傷のみであっても、骨膜に影響が必ず出ると考えたほうが良い。

※重症の場合は骨そのものにも損傷が及んでいるでいる可能性もある。

 

従って、捻挫・靭帯損傷の定義にこだわらず、患者のありのままを診たほうが良い(捻挫に類似した症状を呈していても、靱帯・関節包以外に問題がある場合もあるだろう)。

 

関連記事

⇒『理学療法士は機能不全(機能異常・機能障害)に着目すべき!

⇒『(HP)徒手理学療法におけるクリニカルリーズニングの前提要件

 

骨膜や骨の損傷がある場合、その修復には時間がかかる。

 

また、靱帯の再生自体も非常に悪い(靭帯や関節包の形態と機能を決定するのは靱帯や関節包が存在する位置の骨の形態なので)。

 

骨にまで損傷が及んで剥離骨折などをしている場合は治療期間が1年を超える場合もあるかもしれない。

 

 

靭帯損傷の修復過程

 

  1. 炎症期:

    断裂部が血腫で充満され、周囲組織から炎症性細胞が増殖する。

    血餅(けっぺい:血液の凝固部分)が肉芽組織に置換され、コラーゲンが新しくつくられる。

    断端から、細胞成分とコラーゲン原線維が肉芽組織に遊走し、断端間隙が新しいコラーゲンで埋められる。

    数週間(靱帯の種類によって異なる)後、肉芽組織はもともとあった靱帯織惟と連続した平行配列のコラーゲン線維により置換される。

    炎症期の末期まで瘢痕中央部は線維芽細胞に無秩序に占められ、細胞外基質を形成していく。

  2. 増殖期:

    断端の認識が困難になり、線維芽細胞と炎症細胞が減少する。

    コラーゲンは太さと強度を増し、線維束としてまとまる。

  3. リモデリング期:

    数か月にわたりコラーゲンはストレスに抗するように再配列する。

    修復組織は徐々に成熟し、正常組織に近づく。

    しかし、1年後になっても修復したはずの靭帯はもともとの靭帯とは異なった状態を呈する。

    完全な元どおりの正常な靱帯と呼べるまでには数年を要するといわれるが、損傷の程度、治療法や部位などによりその期間は異なる。

 

一見完治したように見える靭帯も、じつは完全に元に戻ったわけではなく、数年の要す点は重要だ。

 

どうしても一見完治したように感じた場合、損傷前の活動を開始して今いがちだが、この点を頭に入れてだけでも靭帯損傷の再発を多少は防げる可能性がある(要は、完治したように見えても無茶はするなという事)。

 

 

不必要な固定(不活動)は正常な靭帯修復を阻害する

 

 

関節運動による力学的刺激が損傷された靭帯や関節包に早期から加わると、その力学的要請に見合う形で線維の構成が誘導されていく。

 

※関節運動に対して、骨形態からみて運動を制限するような形で線維が誘導されてリモデリングされていく。

 

なので、早期の(治癒を阻害しない程度の軽微な)関節運動を通して、靱帯や関節包の機能的な瘢痕組織形成が促進される。

 

※動物実験においても、運動負荷を加えた状態のほうが靱帯と骨の複合体による関節の強度が増すことがわかってきている。

 

 

逆の視点で考えた場合、関節固定は関節に必要な力学的情報を遮断するため、その様な状態ではコラーゲンは無秩序に配列されてしまうことになる。

 

※無秩序な配列(コラーゲンは平行に配列するものと交叉上に配列するものが互いに絡み合った状態)では関節の自由度が減少し、関節可動域が低下する。

 

更に、この状態にコラーゲン同士の架橋形成も加わって、拘縮(不可逆性の、非機能的瘢痕形成)に至る。

 

※拘縮に関しては以下も参照

⇒『関節拘縮って何だ?(廃用症候群シリーズ)

 

 

関節運動が制限された靱帯では、コラーケンの規則的配列の喪失のほかに、細胞配列の歪み、基質形成の無秩序化も起こると言われている。

 

なので、力学的特性(運動負荷耐久能・エネルギー吸収能など)の低下が起こる可能性もある。

 

その他にも不動が起こすデメリットとしては『痛みの中枢感作』があり、この点も含めて「不動(生活不活発)の弊害を解説しているので合わせて観覧してみてほしい。

 

⇒『生活不活発病って何?廃用症候群と違うの? 徹底解説します!

 

 

捻挫と靭帯損傷(+違い) 関連記事

 

捻挫と靭帯損傷(+違い)の参考文献は以下になる。

 

 

捻挫・靭帯損傷の関連記事は以下がある。

 

⇒『アキレス腱損傷の原因・症状・治療法を解説

 

⇒『アキレス腱炎の原因・症状・治療法を解説