この記事では、『パーキンソン病』と類似した用語である『パーキンソニズム』・『パーキンソン症候群』について解説している。
パーキンソニズムの定義
パーキンソニズムの定義は以下となる。
パーキンソン病では「固縮」「振戦」「無動」「姿勢反射障害」といった特徴的な徴候を示すが、これらの徴候はパーキンソン病以外の疾患でも生じる。
でもって、「パーキンソン病も含めた上記の特徴的徴候を示す様々な疾患」をパーキンソニズムと呼ぶ。
ホーエン・ヤールの重症度分類(modified Hoehn & Yahr)をパーキンソニズムで表現しているものも
パーキンソン病の重症度分類として有名なものに、ホーン・ヤールの重症度分類(modified Hoehn & Yahr)があるが、これも、それぞれのステージを以下のようにパーキンソニズムに置き換えて簡便に表現している文献もある。
StageⅠ | 一側性パーキンソニズム |
---|---|
StageⅡ | 両側性パーキソニズムだが平衡障害なし |
StageⅢ | 軽度~中等度パーキンソニズム+平衡障害、肉体的には介助不要 |
StageⅣ | 高度のパーキンソニズム。歩行は介助なしでどうにか可能 |
StageⅤ | 介助なしでは、車椅子またはベッドに寝たきり(介助でも歩行は困難) |
ホーン・ヤールの重症度分類(modified Hoehn & Yahr)については以下も参照してみてほしい。
⇒『ホーン・ヤール(+modified Hoehn & Yahr)の重症度分類を解説』
じゃあ、パーキンソン症候群って何だ?
パーキンソニズムは以下であると解説した。
『パーキンソン病に特徴的な徴候(固縮・振戦・無動、姿勢反射障害)を示す、パーキンソン病も含めた様々な疾患』
でもって、パーキンソン症候群は以下を指す。
『パーキンソン病に特徴的な徴候(固縮・振戦・無動、姿勢反射障害)を示す、パーキンソン病を除いた様々な疾患』
つまり「パーキンソニズムから、パーキンソン病を除外した疾患の総称がパーキンソン症候群」ということになる。
パーキンソン症候群を起こす原因は、脳腫瘍、正常圧水頭症、脳血管障害、脳損傷、脊髄小脳変性症、有害物質による中毒、薬によって引き起こされるものなど多岐に渡る。
これらは一見すると(パーキンソン病に特徴的な徴候を示すため)間違われやすいが、抗パーキンソン病薬が無効であったり、症状が逆に悪化したりするばあいもあるので、パーキンソン病と診断する上では、必ずこうした病気との区別が重要となる。
パーキンソニズム(パーキンソン症候群も含む)の一覧表
以下がパーキンソニズム、つまり「パーキンソン病」と「パーキンソン症候群」を合体させた一覧表になる。
本態性パーキンソニズム |
1)パーキンソン病 2)若年性パーキンソン病 |
---|---|
二次性パーキンソニズム (パーキンソン症候群) |
1)中枢神経変性疾患 ・進行性核上性麻痺 ・多系統萎縮症 ・大脳皮質基底核病変症 ・汎発性レビィ小体病 ・アルツハイマー病 ・ピック病 2)脳血管性パーキンソニズム 3)薬剤性パーキンソニズム ・抗精神病薬・抗うつ薬・制吐薬など 4)中毒性パーキンソニズム ・一酸化炭素中毒・マンガン中毒・水銀中毒など 5)脳炎後パーキンソニズム 6)その他中枢神経疾患によるパーキンソニズム ・正常圧水頭症・頭部外傷・脳腫瘍など
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上記のように、「パーキンソン病はパーキンソニズムに含まれる」が、他のパーキンソニズムと区別するために「パーキンソン病=本態性パーキンソニズム」と表現する。
※これにより別のパーキンソニズムと区別する。
でもって、「パーキンソン病以外のパーキンソニズム」を『パーキンソン症候群』と表現すると記載したが、この用語は『(本態性パーキンソニズムに対する用語として)二次性パーキンソニズム』と表現されることもある。
補足① 臨床で遭遇しやすいパーキンソン症候群
ここでは、上記一覧表に記載されているパーキンソン症候群(二次性パーキンソニズム)のうち、臨床でも遭遇頻度が高いと思われるものを(独断と解釈で)ピックアップして解説する。
脳血管性パーキンソニズム:
動脈硬化からの脳血管障害によって、線状体から脳皮質に行く経路が損傷を受けることで生じる。多発性脳梗塞(小さな脳梗塞がたくさんできる)は大きな発作を起こさないので知らない間に損傷している場合が多い。ドーパミンの分泌は正常なので、抗パーキンソン病薬は効かない。
一般的なケース(症状)として、振戦は軽度、鉛管様固縮を示すことが多く、左右差がほとんどない両側性の無動、姿勢反射障害、歩行障害などを呈する。
薬物性パーキンソニズム:
医療用の薬剤がドーパミン受容体を遮断してドーパミンの働きを妨げることから起こる。
原因となる主な薬は、抗精神病薬、抗うつ薬、降圧薬、消化器系薬などがあげられる。
これらは高齢者であれば処方されている人も多いため、高齢者がパーキンソニズムを発症しても何ら不思議はないという事になる。
一般的なケース(症状)として、安静時振戦や歯車様固縮も認められないことが多く、最初から無動症状を呈することが特徴であり、精神症状を伴いうと言われている。
治療方法としては、原因薬物が疑われ確認されれば、早急にそれを減量、中止する必要がある(通常は薬物中止後、数週から数ヵ月で薬物性パーキンソニズムは改善の兆しを示すことが多いとされている)。
補足② 多系統萎縮症について
上記一覧表に記載されている『多系統萎縮症』について解説して、終わりにする。
多系統萎縮症は以下の3つを指す。
- 線条体黒質変性症
- オリーブ・橋・小脳萎縮症
- シャイ・ドレーガー症候群
上記は病理学的に、自律神経系・錐体外路系・小脳系などの多系統の萎縮を認める。
※自律神経障害が著明である症例の予後は相対的に悪いと言われている。
線条体黒質変性症(SND):
線条体黒質変性症は中高年に発症し、被殻の変性が最も強く黒質メラニン含有細胞の変性を認め、ついで尾状核・黒質の変性である。
パーキンソン症状は左右差の少ない無動が主体で、静止時振戦や歯車様固縮は出現しないことが多く、進行とともに便秘・起立性低血圧・排尿障害・発汗障害・陰萎などさまざまな自律神経障害が出現しやすい。
パーキンソン病より進行が速く、重篤化により早期に臥床状態となる。
薬物療法については線条体変性があるためドパミン補充療法はほぼ無効であり、早期からのリハビリテーション、進行期のケアが主体となる。
オリーブ・橋・小脳萎縮症:
オリーブ橘小脳萎縮症は40~50歳代で発症することが多く、主な症状は運動失調症状を中心に、パーキンソニズム、自律神経症状、錐体路症状を呈する。
病理学的変化としては小脳全体と橋・オリーブ核の萎縮に加え、線条体・黒質・自律神経系諸核の萎縮を認める。
オリーブ橋小脳萎縮症の初発症状は小脳失調であり、体幹失調と肢節失調の双方が認められ、眼振や構音障害を合併することも多い。
自律神経障害も高い頻度で認められ、起立性低血圧・排尿障害・発汗障害がみられ、進行すると筋固縮や無動などのパーキンソン症状が顕著に出現する。
シャイ・ドレーガー症候群:
シャイ・ドレーガー(Shy-Drager)症候群は1960年にシャイ・ドレガーによってはじめて報告された疾患である。
発症は50歳代に多く、男女比は3:1と男性に多く認められる疾患だと言われている。
病理学的変化としては青斑核、迷走神経背側運動核、脊髄中間側核、交感・副交感神経節、線条体、黒質、小脳の変性を認める。
シャイ・ドレーガー症候群は起立性低血圧を主症状に、パーキンソニズム、小脳症状を合併する。
起立性低血圧が高度になると失神を伴うことがあり、日常生活動作や基本動作に大きな支障をきたす。
いびき、嗄声、嚥下障害、失禁なども出現し、進行した症例では声帯麻痺による睡眠時無呼吸により突然死の原因になることもある。
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