※今回の『報酬系その②:ドーパミン』はシリーズとして掲載している。
※はじめて観覧する方は『報酬系その①:すべてはこの実験から始まった』から観覧することをお勧めする。
目次
ドーパミンについてザックリ解説
ドーパミンは脳内で、快情動・運動調節・ホルモン調節・意欲・学習などに関わる神経伝達物質である。
古くからアドレナリン・ノルアドレナリンの前駆体であることが知られていたが、ドーパミン自体も神経伝達物質であることを発見したのは、スウェーデンの神経精神薬理学者アルビド・カールソンであった。
でもって、ドーパミンは報酬系においてアクセルの役割を果たすことになる。
でもって、ドーパミンは運動調節においてブレーキ(抑制)の役割を果たすことになる。
で、運動調節システムの破綻が、パーキンソン病などに繋がってしまうことになる。
※ちなみに、前述したカールソンはドーパミンのパーキンソン病における働きを研究しており、他の科学者とともに2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
※また、パーキンソン病の治療のために使われることのある『Lドーパ』はドーパミンの前駆体である。
関連記事⇒『パーキンソン病とは?症状・診断基準(評価)・進行(stage)・治療(薬・リハビリなど)徹底解説!』
ドーパミンが体に与える影響
前述したドーパミンが過剰・不足することにより下記の様な症状が出てくる。
ドーパミンが過剰な場合:
- 興奮状態になり・時には攻撃的になる
- アルコールやタバコの依存症や過食など、ある種の行動がやめられなくなる。
- 幻覚を見たり、妄想を抱いたりする(統合失調症)
ドーパミン不足な場合:
- 意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になる
- パーキンソン症状
パーキンソン症状(パーキンソニズム)
パーキンソニズム(parkinsonism)とは「パーキンソン症候群」を指すこともあるが、「パーキンソン症状」という意味で使用される場合もある。
臨床的にパーキンソニズムの中核をなすのは、動作緩慢と歩行障害を中核症状とする運動障害(無動)で、様々な程度に筋強剛や振戦を伴う。
パーキンソニズムの原因には、神経変性疾患・薬物・脳血管障害・感染・外傷・代謝疾患などがある。
神経変性疾患の中で際立って頻度が高いのがパーキンソン病であり、特発性パーキンソニズムとも呼ばれる。
~南山堂辞典より~
パーキンソン病について
パーキンソン病は神経変性疾患の一種である。
でもって、中脳黒質のドーパミン作動性神経細胞の変性脱落によって、その神経終末がシナプスをつくる線条体でドーパミン不足をきたし、錐体外路性運動障害が出現するのが特徴だ。
つまりパーキンソン病は、神経の異常によって運動神経の興奮を調節する神経伝達物質のバランスが崩れた状態と言える。
運動神経の興奮に関する神経伝達物質としてはアセチルコリンが促進(アクセル)、ドーパミンがブレーキ(抑制)の役割を果たしているが、パーキンソン病では「ドーパミンの不足によりブレーキが利かず、アセチルコリンによるアクセルばかりが利いている状態」と言える。
そして、この状態が、パーキンソン病独特な動作の滑らかさを失わせ、静止時振戦・筋強剛・動作緩慢・無動・姿勢反射障害などを生む。
また、パーキンソン病を有したクライアントは、「ドーパミンが身体に与える影響」の項目で記載した「意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になる」という抑うつ傾向も随伴症状として有していることが多く、運動機能のみならず、報酬系にも影響を及ぼしている可能性がある。
薬剤性パーキンソニズム
「薬剤性パーキンソニズム」とは、薬の副作用として生じるパーキンソニズムのことを指す。
薬剤性パーキンソニズムが生じる可能性のある薬品は下記のように多くのタイプが知られている。
- ドーパミンの働きを妨げる抗精神病薬・抗うつ薬など
- カルシウムの働きを妨げる薬品
- 抗ガン剤
- 血圧降下剤
- 頻尿治療薬
- 免疫抑制剤
- 認知症薬
- 抗てんかん薬
でもって、この中には明らかにドーパミンの働きを妨げアセチルコリンを増加させることが分かっている薬品がある一方で、パーキンソニズムが生じる機序が十分解明されていないものも含まれる。
ここまでは、このコラムのメインテーマである『報酬系』とは少し離れた内容が多かったが、ここから先は、「報酬系」のみにフォーカスしてドーパミンを記載していく。
私たちの脳にドーパミンが分泌する場面
ドーパミンは脳内において様々な役割を果たすが、ここでは報酬系における主要な役割にフォーカスして解説していく。
ドーパミンに関してまだ完全に解明されたわけではないが、以下などの場面において、脳の中分泌されていることが分かっている。
- 楽しいことをしているとき
- 目的を達成したとき
- 他人に褒められたとき
- 新しい行動を始めようとするとき
- 意欲的な、やる気が出た状態になっているとき
- 好奇心が働いているとき
- 恋愛感情やときめきを感じているとき
- セックスで興奮しているとき
- 美味しいものを食べているとき
つまりドーパミンは、私達が「人生を楽しんでいる際」や、「理想の状況に向かって励んでいる際」に分泌している言える。
報酬系とは
前回の記事でも解説したように、報酬系は私たちを(良くも悪くも)行動に駆り立てるために必要な回路のことを指す。
報酬系におけるドーパミンの作用は(ザックリ表現すると)以下の2つとなる。
- 快感・興奮する事象の最中に快感・興奮を引き起こす
- 快感・興奮する事象を予感している最中に快感・興奮を引き起こす
そして前述したオールズとルミナーの実験からも分かるように、当初は「快感・興奮する事象の最中」との関連が注目されていたが、現在では「快感・興奮する事象を予感している最中」との関連性の方が重要視されている。
報酬系の解剖・生理学
ここからは、「報酬系における解剖生理学」を解説していく。
少し難しい用語が出てくるので、興味がない方はスルーしてもらいたい。
ドーパミンはA8~A16神経核から分泌される神経伝達物質である
脳幹にある「神経核」とよばれる多数の神経細胞の集合体から伸びている軸索は、大脳の各部との情報交換をする上で重要な役割を持っており、神経核から分泌される神経伝達物質の種類によって分けられている。
例えば、脳の中に左右対称に分布している3系列(A・B・C)の神経核は、以下の神経伝達物質が分泌される。
※さらに別系統の縫線核というセロトニンを分泌する神経の集まりもある。
そして、今回のテーマである報酬系の中心となるのはドーパミンを分泌する『A10神経核』である。
A10は腹側被蓋野(VTA)という部分から出て、脳の以下の部分に伸びており、それぞれにドーパミンを放出する。
・前頭前野
・側坐核
・海馬
(+帯状回・視床下部・扁桃体など)
その中で脳の以下の部分は、VTAを刺激することでA10のドーパミン分泌を調整する役割を持っている
- 前頭前野(VTAにグルタミン酸を放出してA10を興奮させる)
- 側坐核(VTAにGABAを放出してA10を抑制させる)
つまり上記の部位は、「VTAからドーパミンを放出される部位」であり、なおかつ「VTAを刺激してドーパミン分泌を調整する役割も持っている部位」でもあるという事。
重複するが、
- 前頭前野はA10からドーパミンを受けとり、VTAへグルタミン酸を送り返すことで、A10を更に興奮させてドーパミン放出量を増やす
- 側坐核はA10からドーパミンを受けとり、(過剰にドーパミンが放出されているようであれば)VTAへGABAを送り返すことで、A10を抑制させドーパミン放出量を減らす
という働きにより、丁度良いドーパミン量になるよう調整されている。
ドーパミンの伝達経路をイラストで紹介
補足として、ドーパミンによる『運動調整系の作用』と『報酬系の作用』に関する伝導経路をザックリと示したイラストを掲載しておく。
※黒質から線条体に向かっている系(運動調節作用)と、腹側被蓋野から前方へ派生している系(報酬系)が(非常にザックリではあるが)何となくでもイメージできると思う。
※イラストの「黒質から線条体の経路」は線条体で矢印が止まっているが、そこから(ドーパミンによって調整されたアセチルコリンなどによって)大脳皮質の運動野が刺激され、その情報が脊髄に届き、筋を収縮させ、運動が起こる。
※ちなみに、イラストの「内側前脳束」は、『報酬系その①:すべてはこの実験から始まった』でも記載したように、オールズとルミナーが「誤って刺激した結果、報酬系を発見した部位」だとされている。
ドーパミンの解剖生理学に関しては以下の記事でも詳しく解説しているので合わせて観覧してみて欲しい。
ドーパミンの作用である快感・興奮ついて
ここから先は、ドーパミンの作用である快感・興奮について解説していく。
ちなみに、ここでいう快感とはマッサージを受けた時の気持ちよさやお風呂に入った時の開放感とは異なり、何かに夢中になったり、何かを達成したときに生じる快情動のことを指す。
(例えば買い物・食事・ギャンブル・セックスなど)
そして、何か喜ばしい体験・経験があった時、それは前頭前野で受け取られ、その反応がVTAに伸びている神経を活動させ、VTAが活性化される。
VTAはA10神経を使って、前述した脳の各部分にドーパミンを送り、これが快感・興奮を生む。
※特に側坐核がドーパミンを受け取ることが快感の中心だと考えられている。
さらに、この好ましい経験はドーパミンを受けとって活性化された海馬に記憶として蓄えられ、次に同じような状況が来たときより速いドーパミン放出が起こるようになる。
これが「快感・興奮する行為を予感することで(ドーパミンが分泌し)、快感・興奮を引き起こす」という作用に結びついてくる。
この様に『報酬系』とは「脳の一つの部位」を指すものではなく、「脳の各部のネットワーク」を指していると言える。
※例えば、「ギャンブルを一切やったことが無かった青年」が友人に誘われて一度だけパチンコをしたとする。で、予想に反して大勝(大儲け)してしまったとする(これをビギナーズラックと呼ぶこともある)。
すると、次に同じような状況(暇だし何かすることないかな、簡単にお金儲けできないかななどと考えるような状況下)で大儲けした際の記憶が蘇り「ギャンブルをすれば再び大金を手にすることが出来るかもしれない」と予感することでドーパミンが分泌し、ギャンブルに再び足を踏み込んでしまいがちになる(ギャンブル依存症にならないよう気を付けよう)。
報酬系に関する他の特徴
報酬系の特徴としては例えば以下などがある。
- 報酬系が刺激され続けると、耐性が出来てくることがある
・つまり、同じ刺激では満足できなくなる
・例えば「薬物への依存が強くなる」「ギャンブル・投資につぎ込む金額が増す」など。
- 「報酬を得る際」よりも「報酬が確実に得られると分かった時点」のほうが多くドーパミンが分泌される。
①に関して、「人は幸福感(っというか興奮・快感)に慣れやすく、更に欲求が増してしまうこと」を『ヘッドニック・トレッドミル現象』と呼び、これもドーパミンの特性が深く関与している可能性がある。
で、ここから先は②に関して深堀して解説していく。
実験から分かった『報酬系と期待感の因果関係』
2001年に神経科学者のブライアン・クヌットンは実験により「ドーパミンは報酬を予感する際にこそ分泌される」と主張した。
その実験は以下の通り。
ただし、記号が現れた際に、被験者はボタンを押さなければ、お金は貰えないことも付け加えた。
すると「特殊な記号」がスクリーンに現れるやいなや、ドーパミンを放出する脳の報酬センターが作動し、被験者は報酬を得ようとしてボタンを押した。
すなわち「ボタンを押したら報酬がもらえる」という期待感がドーパミンを分泌させた。
では、実際にお金を受け取る際は、もっと多くのドーパミンが分泌されたのだろうか?
その様な期待に反して、被験者が実際にお金を受け取った時には、脳のこの領域の活動は沈静化していた。
この点から以下のことが確認された事になる。
- 「報酬はほぼ確実に得ることができると分かった時点」でドーパミンが分泌される。
- 「報酬を得る際」よりも「報酬が確実に得られると分かった時点」のほうが多くドーパミンが分泌される。
待つのが祭り
『待つのが祭り(まつのがまつり)』という諺があったりする。
意味は以下の通り(ヤフー知恵袋より)。
祭りは楽しいものだが、始まるとあっ気なく終わってしまうものなので、祭りの日を待つ間の方が、かえって楽しさが大きい。現実よりも夢を膨らませて期待する楽しさの方が、大きいものであるという意味。
これは、ここまで解説してきた報酬系を一言で言い表すのに非常に適した諺であると感じる。
「お祭りの当日」よりも、「お祭り当日の楽しさを想像して準備をしている時期」こそドーパミンは多量に分泌していると言える。
お正月に、子供へお年玉をあげて大喜びしてもらうコツとは?
お正月に「お年玉」を子供にあげる場面を想定してみよう。
子供は、「お正月に(お年玉という)お金」が確実に手に入ることを知っている。
なので、毎年同じ額のお金をあげていれば「報酬が予測できる」ので受け取った際も報酬系はあまり活性化しない(もらえて当たり前なので、喜ばない)。
ただし、以下を組み合わせてた手法で渡すと報酬系は活性化される。
- 毎年渡す金額を増やしていく
- 尚且つ増やす金額はランダム(500円増やすこともあれば、2000円増やすこともある)
上記を毎年繰り返すと、子供は「今年はどれだけお年玉がもらえるのだろう」と期待を膨らまし、もらう前から報酬系が活性化される。
で、実際にもらえる額が期待以上なら、さらに強く報酬系は活性化するかもしれない。
※ただし、貰える額が期待以下なら(ガッカリしてしまい)報酬系は全く活性化しないので注意しよう。
※まだ私の姪や甥は3歳児なのでお年玉すらあげておらず検証は出来ていないが、自分が子供のころの体験談として、そう思う。
で、本当に実践するとなると以下が現実的な方法かもしれない。
私たちの日常における報酬系
もう一つ、私の体験談を踏まえて報酬系について解説して終わりにする。
※「私」を「あなた」に置き換えて解説していく。
例えば、あなたが友人から食事に誘われたとする。
友人は、おススメのラーメン屋を、どうしてもあなたに紹介したいらしい。
しかし(残念ながら)友人とあなたでは、味の好みが全く異なる。
あなたは「どうせ口に合わないだろうな」と思いつつも、渋々、友人につき合うことにした。
この際にあなたの脳内の報酬系は活性化していないと思われる(ラーメンに期待していないので)。
そして当日、実際にラーメンを食べてみると、予想をはるかに超える美味しさに驚くこととなる。
つまり、あなたの予想は見事に裏切られことになる。
この際にあなたの脳内の報酬系は強く活性化していると思われる。
※活性化の条件が「期待が実際をどの程度上回っているか」だとするならば、この瞬間に多量のドーパミンが分泌していたと思われる。
あなたは、そのラーメンの虜になり、再び来店することを決めた。
来店の当日、あなたはラーメンを食べることが楽しみでならない。
この際に、あなたの脳内の報酬系は活性化していると思われる(期待しているわけなので)。
そして、待ちに待ったラーメンを食べる瞬間がやってきた。
あなたは、期待通りの美味しさに満足することだろう。
この際も、あなたの脳内の報酬系は活性化していると思われる。
ただし、最初に来店した際の「予想外の裏切り」は無い為、「期待値から乖離した感動」は生まれず、初回と比べてドーパミンの量は少ないかもしれない。
あなたは、そのラーメンの虜になり、毎日のように通うようになった。
しかし、徐々に飽きて、結局は毎日通うのを辞めてしまう。
これは、ラーメンを繰り返し食べることであなたの「実際の味が期待値を下回ってしまう」あるいは「飽きたので期待しなくなった」ということが関係しているかもしれない。
「飽きた」のか「他に美味しいお店を見つけた」のか定かではないが、あなたはラーメン屋への足が遠のき、ついには行かなくなって1年も経過してしまう。
そして、ある日、ふと「久々に、あのラーメンが食べてみたい」と思い立つ。
久々に食べるラーメンの味は薄っすらとしか記憶に無いが、「最初に食べた時に感動した」という感情はしっかりと覚えている。
その時の記憶から生まれた期待値は、当時と同じくらいのドーパミンを放出してくれていることだろう。
そして、ドーパミンに突き動かされて食べたラーメンは格別で、この時も報酬系は活性化していると思われる。
・・・・何となく、報酬系やドーパミンに関して理解してもらえただろうか?
ドーパミン・依存症に関する分かり易い動画
以下の動画は、メンタリストDaigo氏が分かり易くドーパミンや依存症について解説している動画になる。
最初は前置きなので、興味がある方は2分~で観覧してみてほしい。
次の記事はこちらから
この記事はシリーズで掲載しており、次の記事は以下になります。
報酬系その③ 幸せと興奮は異なることを理解しよう
※このシリーズの記事一覧は以下でまとめています。