この記事では、『関節可動域訓練(ROMエクササイズ:range of motion exercise)』について記載していく。
リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)や看護師さんは是非一度観覧してみてほしい。
目次
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは、リハビリ(理学療法・作業療法)の中で使用頻度の高いエクササイズであり、リハビリ従事者(理学療法士・作業療法士)にとって必修の知識と技術である。
すべての動作は、筋肉や外力の働きによって行われ、その運動は関節を軸として行われている。
なので、この『関節』が種々の原因によって障害を受けると、四肢や体幹の可動性が制限され、日常生活に障害を与える。
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは、この『関節可動域』の制限を予防・改善することである。
関節は、2~多数の骨と筋肉・筋膜・皮膚・靭帯・関節包・血管・神経などで構成され、いずれの構成要素が障害を受けても可動域が制限される。
でもって、制限因子の発見は関節可動域訓練を行う上での重要なポイントである。
関節可動域とは
関節運動によって動く範囲を『関節可動域(ROM:range of motion)』と呼ぶ。
運動の種類は解剖学的肢位からの運動方向により屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋・回内・回外・内がえし・外がえしなどに定義され、運動範囲の正常値・記録法は、日本理学療法士協会や日本リハビリテーション医学会によって標準化されている。
もう少し具体的な関節可動域の定義は以下の通り。
①他動運動と他動関節可動域
関節の主動作筋や共同筋などの筋収縮を起こさず、外力によって関節を動かすことを他動運動といい、その運動範囲を他動関節可動域という。
②自動運動と自動関節可動域
関節の主動作筋や共同筋などの随意的筋収縮で得られる運動を自動運動といい、その運動範囲を自動関節可動域という。
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)の種類
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)の種類は以下の通り。
・他動関節可動域訓練
・自動関節可動域訓練
・自動介助関節可動域訓練
※関節可動域訓練とう表現は最近用いられなくなっており、関節可動域運動・ROMex(ROMエクササイズ)などと表現されることが多いが、この記事では『訓練』というワードを用いている点に注意してほしい。
他動関節可動域訓練(passive ROM exercise)
患者が、昏睡・麻痺・全身状態の著しい低下などで、動くことも、動かすこともできない状態、あるいは自動運動で疼痛が増強する場合に他動関節可動域運動が適応される。
他動関節可動域運動の目的は以下の通り。
- 現存する関節や軟部組織の可動性を維持する
- 拘縮の形成を予防する
- 筋肉の機械的弾性を維持する
- 循環を援助する
- 運動知覚を維持する
他動関節可動域運動の適応例としては以下などが挙げられる(あくまで一例)。
- 弛緩性麻麻痺:
筋緊張が低下しているときは、関節の不安定性が強いので、関節周囲の軟部組織を傷つけないように細心の注意を払うこと(脳卒中患者の急性期は筋緊張が低下しているので、肩関節可動域運動では屈曲90°程度の保持でよい)。
- 自動運動が困難である(と本人が言っている)関節を評価する際:
例えば痛みで自動運動が困難だが、他動運動であれば可能だという所見が得られた患者に対して、リハビリとしての最初の手段として用いる(徐々に、他の運動も適用していく)。
- 自動運動を行う際のデモンストレーション運動として
他動運動の動画を以下に掲載しておくので興味がある方は観覧してみてほしい。
肩関節の他動関節可動域運動:
肘関節・前腕の他動関節可動域運動:
手関節・手指の他動関節可動域運動:
股関節の他動可動域運動:
膝関節の他動関節可動域運動(膝蓋大腿関節も含む):
足関節・足趾の他動関節可動域運動:
自動関節可動域運動(active ROM exercise)
患者が随意的な筋収縮(随意運動)ができる際は、自動関節可動域運動が適用となる場合が多い。
自動関節可動域運動の目的としては以下などが挙げられる。
・他動運動に加えて、筋収縮から得られる効果もある。
・筋の生理的弾性と収縮の維持ができる。
・収縮筋からの感覚フィードバックが得られる。
・関節運動感覚が得られる。
・循環を促進し、血栓を予防する
(関連記事⇒『深部静脈血栓症の意味・予防・治療・禁忌を整理』)。
適応例は、以下などが挙げられる。
・自動関節可動域運動でも疼痛が出現しない。
・筋力がMMT(徒手筋力テスト)でF(抗重力運動が可能)以上
ただし、前述した『他動関節可動域運動』や(後述する)『自動介助運動』と異なり、自動関節可動域運動の内容は非常に幅広い。
単関節における自動関節可動域訓練であれば、むしろ筋力増強訓練(筋力増強エクササイズ)などとも表現できる(自重を負荷と考えた場合)。
なので、循環改善目的な(筋のポンピング作用を意識した運動)であったりを除いて、あまり『自動関節可動域訓練』という用語は使用されない気がする。
でもって、自動運動を用いた関節可動域訓練として、以下の様に固有の名称で呼ばれることが多い。
・パテラセッティング(膝伸展による自動関節可動域運動)
・SLR運動(膝伸展位による股屈曲による自動関節可動域運動)
・タオルギャザー(足関節・足部の自動関節可動域運動)
(スキャプラプレーン上or肩屈曲や外転の自動関節可動域運動)
また、自動関節可動域訓練を、広義な表現として『自動運動を用いた訓練』としてしまった場合、以下なども(広義な意味では)自動関節可動域運動訓練と言えなくもない。
・歩行練習
・日常生活活動の練習
一方で、(エクササイズではなく)関節可動域の評価に関しては自動運動・他動運動ともに重要な指標であるため、『自動関節可動域』という表現は用いられることは多い。
関節可動域運動(自動運動・他動運動の違い+弾性域)
ROMテスト(関節可動域検査)まとめ / 測定のポイントも解説
自動介助運動(active assistive ex)
患者の筋収縮力が弱いかまたは自動運動で疼痛痛を伴う際に、自動介助運動が適用される場合がある。
あるいは、代償運動などを抑制し、正常な筋収縮や運動を引き出したい場合に、自動介助運動が適用される場合がある。
カルテなどでは略語でaaeと記載している理学療法士・作業療法士も多い。
※他動関節可動域訓練や自動関節可動域訓練と異なり自動介助運動(訓練)は「可動域」というワードがなぜか挟まっていない。
なので略語もaareではなく、aaeと表現される。
自動介助運動の目的は以下などが挙げられる。
・関節可動域の維持
・筋力増強
・正しい筋収縮・運動の学習
・・・・・・など。
適応例は、以下などが挙げられる。
・自動運動では痛みが強いが、自動介助運動は可能な場合
・筋力がMMT(徒手筋力テスト)でP(重力に抗じて動かす筋力がないレベル)
ちなみに、『プーリ運動(プーリーという機器を用いた運動)』なんかは、「機器を用いた肩関節の自動関節可動域介助運動」と表現することが出来る。
プーリー体操(プーリーという滑車機器を使用した体操)を解説
必要に応じて伸張運動(ストレッチング)も追加する
関節可動域の改善を考えた場合は、必要に応じて伸張運動(ストレッチング)も組み合わせる。
伸張運動(ストレッチング)は、すでに生じた関節可動域制限に対して可動性の改善をはかる訓練法である。
ストレッチングを関節可動域訓練に含むかどうかという考えについては、以下の様な意見がある。
ROMエクササイズとストレッチングは異なることを認識しよう:
関節運動は、大関節でも小さな関節でも必ず円運動です。
基本中の基本は、対象関節の1つ近位の分節をしっかりと固定し、円運動を心がけて他動的に最終可動域まで移動分節を誘導することです。
ストレッチングでは、必要に応じて直線運動となりますが、ROMエクササイズとストレッチングは異なります。
また、ROMエクササイズは全可動域を動かす手技です。
したがって、2関節筋弛緩位で筋伸張の影響を受けない関節肢位で実施する必要があります。
筋の短縮が認められる場合には、2関節筋伸張肢位での筋へのストレッチングを併用すべきです。
最終可動域まで達していない、直線的に動かしている、などが臨床場面でしばしばみられます。
常に基本を守り、安全で効果のあるROMエクササイズを心がけましょう。
~『書籍:“臨床思考”が身につく 運動療法Q&A 』より引用~
上記の考えからすると、伸張運動(ストレッチング)はROMエクササイズには該当しないという事になる。
※ちなみに、『ROMエクササイズ=他動関節可動域運動』とする考えもあるが、この記事では自動・自動介助な関節可動域運動も含めている点には注意してほしい。
・・話を伸張運動(ストレッチング)に戻す。
伸張運動の目的は以下などが挙げられる。
・比較的新しい癒着を剥離し、可動性を増大する。
・短縮あるいは拘縮のある筋、筋膜および腱などを伸張し、関節の可動性を改善する。
・関節内で骨の位置異常を矯正する。
・他動訓練法の目的も果たせる。
伸張運動(ストレッチング)についてもう少し詳しく知りたい方は以下も参照してみてほしい。
ちなみに、もっと厳密に言うならば伸張訓練とは関節の可動最終域において、エンドフィールを確認し、(可動域制限があるのであれば)エンドフィールに基づいた実施すべきであり、ストレッチング以外にも関節モビライゼーションなども治療選択に入ると思われる。
そんなエンドフィールや関節可動域に関しては以下も参照。
エンドフィール(end feel)で治療選択!関節可動域(ROM)を改善しよう
モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介
関節可動域の制限因子
関節可動域の制限因子は複数の切り口から分類することができる。
関節可動域を制限する因子①
①関節の外傷、疾患(一次障害)
例:骨折・変形性膝関節症
②関節外の障害に続発して起こるもの(二次障害)
例:麻痺・疼痛
関節可動域を制限する因子②
①筋力弱化:
自動的には正常域ではなく他動的に正常域に達する
②拘縮:
自動他動とも正常域に察せず、他動に正常域に達する。
③強直:
自動他動とも正常域に達せず、他動の方が大きい。
④骨化:
自動他動とも正常域に達しないが、自他ともにある範囲は働く。
関節可動域を制限する因子③
強直(ankylosis):
関節構成体である骨・軟骨・関節包・靭帯などの変化で起きる運動障害
→理学療法士の手技では困難
拘縮(contracture):
上記の皮膚・筋・腱・神経・血管などの変化に基づいて起こる運動障害
→理学療法士の治療対象
関節拘縮のメカニズム
①関節固定による局所の循環障害が発生する。
②局所循環障害が軟部組織の細胞浸潤を引き起こし、密な結合組織が増殖し、関節包の狭小化・関節軟骨の変性壊死が起こる。
③関節腔内の線維性癒着から関節強直へと進展する。
拘縮を促進する因子
①循環障害(浮腫)
②痙性
③外傷
・中枢性神経障害は痙性(痙直)が起こる場合があり、その際は関節の可動域制限を容易に引き起こす。
・末梢神経麻痺など弛緩性麻痺は、関節の可動域制限を起こしにくい。
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)の原則
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)の原則は以下の通り。
- 患者の機能レベルを評価する
患者のゴールを決定し、適用する関節可動域運動を選択する。
- 患者を快適肢位に置く
患者の許される体位変換の範囲内で、関節可動域運動が可能な快適肢位をとる。
- 治療者自身も快適肢位をとる
- 関節運動を阻害する着衣や補装具を取り除く
- リラクゼーションによって『異常な筋緊張や筋スパズム』を取り除く
- 固定や支持には、スムーズな関節運動を妨げない部位を選択する
- 運動によって、不安定性や瘤痛が増強する部位は、十分な支持をとる
- 運動は疼痛の生じない範囲で、過度に力を加えないこと
- 治療関節のアクセサリームーブメントを評価・治療した後に、各関節運動を5~10回、リズミカルにスムーズに行う
ただし、これはあくまで目安であり運動の回数は訓練目標や、患者の状態、治療に対する反応で決定する。
- 自動又は自動介助関節可動域運動についての原則:
①他動運動によってデモンストレーションを行う
②介助は関節運動の初期と終末に与える。
③介助は運動をスムーズにするために与えることがある。
- 治療中・後は全身状態を監視する。特にバイタルサイン、疼痛には注意を払う
- 治療反応は観察し、記録する。
- 必要であれば治療内容を変更あるいは修正する
拘縮予防目的の関節可動域訓練における治療順序
拘縮予防目的の関節可動域訓練における治療順序は以下の通り。
患者の状態 | 関節可動域運動の手技 |
---|---|
・意識障害(+) ・全身状態(↓) ・意欲(-) |
左記の状態では他動的(passive)が選択される。 ※例えば以下など。 ・体位変換 ・他動運動 |
・意識障害(-) ・意欲(+) |
左記の状態では以下などが選択される。 ・自動運動(active) ・自動介助運度(active assistive) |
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)と物理療法
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)に物理療法を併用することがある。
例えば、温熱療法の活用は、疼痛の緩和(それに付随する筋スパズムなども緩和)や軟部組織の柔軟性向上といった効果が期待できる。
なので、前処置として実施することにより、関節可動域運動を円滑に出来る可能性がある。
あるいはリラクゼーション効果もあるため、実施により意欲に変化が起こることもある(特に入院中の虚弱高齢者など冬場のリハビリなど)。
温熱療法の作用まとめ!『温熱の良し悪し』を把握して臨床に活かそう♪
関節可動域訓練(+可動域の制限因子)の関連記事
以下の記事でも、関節可動域の制限因子や関節可動域訓練のポイントを記載しているので、合わせて観覧してみてほしい。
ROM(関節可動域)の制限因子とROM exercise(関節可動域運動)の基礎知識
また、粗暴な関節可動域訓練はCRPS(複合性局所疼痛症候群)を招いてしまう可能性もあるので注意が必要である。
そんなCRPSに関しては以下の記事も参照してみてほしい。