この記事では外傷性股関節脱臼に関して解説していく。
外傷性股関節脱臼とは
外傷性股関節脱臼は、股関節構造が深い寛骨臼および軟骨性関節唇に包まれていて靭帯も強固なため、比較的まれである。
しかし、以下などを呈する場合は脱臼しやすくなる。
- 臼蓋形成不全
- 大腿骨頚体角増大
- 前捻角増大
外傷性股関節脱臼は前方・後方・中心性脱臼があるが、後方脱臼が過半を占める。
外傷性股関節脱臼(後方脱臼)の原因
股関節屈曲位にあるときに、前方から強い外力が大腿骨軸の方向に加わると、大腿骨頭は関節包を破って後方に脱出する。
でもって、後方脱臼が生じる例として挙げられやすいのが『ダッシュボード インジュリー(dash-board injury)』である。
※ダッシュボード インジュリーとは、以下のイラストの様に後方衝突を受けた際にだっすボードが膝(大腿遠位)にぶつかり、その衝撃で大腿骨頭が後方へ脱臼してしまう現象を指す。
外傷性股関節脱臼(後方脱臼)の合併症
後方脱臼の合併症には以下が挙げられる。
- 坐骨神経損傷
- 阻血性大腿骨壊死
※坐骨神経損傷は骨折の合併がなければ自然に治癒するとされている。
※阻血性大腿骨骨頭壊死は、24時間以内の整復をしなければ高確率に生じるとされている。
ここから先は、外傷性股関節脱臼の中で後方脱臼のみにフォーカスを当てて記載していく。
外傷性股関節脱臼(後方脱臼)の症状
外傷性股関節脱臼(後方脱臼)の症状としては以下が挙げられる。
- 大腿部は短縮しているように見える。
- 股関節の自動運動は不能である。
- 他動運動に対して抵抗感がある(バネ様固定)
- 触診でScarpa(スカルパ)三角に骨頭を触れず、後方頭側に大腿骨頭を触れる。
- 股関節は内転、内旋、軽度屈曲位をとる。
外傷性股関節脱臼の治療
外傷性股関節脱臼の治療は「徒手整復」であり、整復手順は以下になる(理学療法士が実施することは無いが、念のため紹介しておく)。
- 全身麻酔
- ベルトや助手で骨盤をベッドへ固定
- 脱臼側の股・膝関節を90°屈曲(内旋)させる。
- 術者は前腕を膝の後方にまわし、大腿の長軸方向(垂直)に強く引き上げながら、外旋する。
- このとき整復感がある。
以下の動画30秒からが股関節脱臼を整復しているシーンである。
※患側下腿を、自身の両大腿で挟んで安定させた状態で、天井方向へ引き上げることで整復している。
脱臼整復後のプログラム
脱臼整復後のプログラムは以下となる。
- 約3週間、患肢を外転位で牽引する(この期間牽引することで軟部組織が治癒・安定する)
- 2週間目より耐えられる範囲で、股・膝・足関節の自動運動を開始する(運動する時間以外は3週目まで外転位で保持)。
余談+関連記事
合併症として「大腿骨頭壊死や坐骨神経損傷が挙げられる」と前述したが、それらが起こっていなくとも、関節唇損傷などなど他の軟部組織が完全に元の状態に戻らず(肩関節のように反復性亜脱臼に移行することは無いにしても)何らかの機能異常(不安定感)が残存する可能性もある(関節内が陰圧に保てないなど)。
⇒『外傷性股関節脱臼で生じる可能性のある「大腿骨頭壊死症」とは?』