この記事では、適切な運動療法を実施していくうえで理解しておく必要のある「筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性・等尺性・等張性収縮)」に関して、それぞれの違いを記載していく。
また、これらの収縮様式の中で、PNF(固有受容性神経筋促通法)を含めた多くの運動療法で用いられる「等張性収縮」へフォーカスを当てて内容を補足していく。
目次
筋の収縮様式
筋収縮とは、緊張力(tension)が発生する意味であり、必ずしも短縮(shortening)を意味しない。
筋収縮は、それらを捉える立場により以下の3通りに分類される。
求心性収縮・遠心性収縮・静止性収縮
- 求心性⇒concentric・shortening(縮まり)
- 遠心性⇒eccentric・lengthening(伸び)
- 静止性⇒static
等尺性収縮・等張性収縮・等速性収縮
- 等尺性⇒isometric
- 等張性⇒isotonic
- 等速性⇒isokinetic
相動性収縮・持続性(緊張性)収縮
- 相動性⇒phasic
- 持続性(緊張性)⇒tonic
求心性収縮
求心性収縮(concentric contraction)は、
短縮性収縮(shortening contraction)とも呼ばれる。
筋は抵抗に打ち勝つだけの張力を発生して、筋の短縮が起こる。
例えば、テーブルの上に乗っているコップを口へ持っていくときの上腕二頭筋は、この収縮をする(肘は屈曲する)。
※抵抗は前腕・コップ・水に加わる重力である。
日常生活においては、階段を上る際や椅子から立ち上がる時の大腿四頭筋の収縮が該当する。
遠心性収縮
遠心性収縮(eccentric contraction)は、
伸張性収縮(lengthening contraction)とも呼ばれる。
加えられた抵抗が緊張力より大であれば、筋収縮しても(筋は)伸びる。
これは最大抵抗と最大張力の場合だけでなく、種々の張力レベルで起こる。
例えば口へ持って行ったコップをテーブルへ戻す際、肘をゆっくりと伸ばすこととなる。
この時の上腕二頭筋の張力は、前腕やコップの重みによる抵抗よりもやや弱い。
私たちの日常でも、重力方向との関係によって様々な部分で遠心性収縮が起きている。
例えば、歩行の遊脚期に下肢を降り出している際のストリングスの収縮、階段を降りる際(の支持脚)や椅子に座るときの大腿四頭筋の収縮は、運動を調節する(ブレーキング)ために遠心性収縮を起こしている。
この例以外にも、私たちの日常生活では筋の遠心性収縮が求められる場面は多く、遠心性収縮によるトレーニングをもっと運動療法で活用すべきとの意見がある。
ちなみに、遠心性トレーニングは、求心性トレーニングよりも筋力増強・筋肥大効果が得られ易いとも言われている。
また、遠心性トレーニングは筋に対する負荷がより大きい事から、筋線維のリモデリングが促進されるという利点もある。
※これらの点から、運動動療法として用いられる筋力増強訓練では、積極的に遠心性収縮も活用するほうが「機能的な訓練」と言える。
一方で、高齢者に適用する場合は、負荷が強いからこそ安全性に留意する必要がある。
まとめとして、遠心性収縮の活用には十分な配慮が必要ではあるものの、機能的な収縮である場合が多く、効率的なトレーニングになり得る可能性がある。
遠心性収縮の場合は患者の出力より強い抵抗を加える。
このような抵抗は、特にセラピストの抵抗が強くないときは運動コントロールの向
上の運動学習になる。
例えば、コップをテーブルに静かに置くときの上腕二頭筋にこの機能が必要とされる。
一方、強い遠心性収縮は他の求心性・静止性収縮より効率のよい筋力強化訓練になる。
~アドバンス版 図解 理学療法技術ガイド(の実践PNF)より引用~
静止性収縮
静止性収縮(static contraction)は、筋が収縮しても筋の全長に変化のない状態である。
拮抗筋の間で同一の張力が発生した場合に、外部抵抗に抗して静止姿勢を保つ時などに起こる。
後述する「等尺性収縮」と同義として扱われることもある。
等尺性収縮
等尺性収縮(isometric contraction)と静止性収縮で何が違いが分からず混乱してしまう人がいるかもしれないが、違いは無い。
つまりは、静止性収縮と同義である(冒頭で示したように、分類の仕方によって表現が異なるだけである)。
静止性収縮は「求心性・遠心性収縮と同じカテゴリー」として分類され、等尺性収縮は「等張性収縮・等速性収縮と同じカテゴリー」として分類される。
ただし、等尺性収縮は最大抵抗とつり合いのとれた最大収縮を意味することもある。
※この意味で等尺性収縮をとらえた場合、静止性収縮の方が等尺性収縮よりも広い意味を持つこととなる。
この解釈の上に立つと、「立位を保持している」という状態は抗重力筋が常に『(等尺性収縮ではなく)静止性収縮している』という表現が正しいという事になる(立位を保持するのに抗重力筋の最大収縮は必要無い)。
日常生活においては、重たい荷物を胸の前で抱えて運ぶ際の上腕二頭筋の収縮などが該当する。
ただし、理学療法・作業療法の目的となる日常生活動作や応用動作の遂行には、どちらかというと求心性・遠心性収縮が多用される。
従って、「筋の収縮様式における特異性」も考慮しながら、求心性・遠心性・静止性(等尺性)収縮を選択する(あるいは段階的に変えていく)ことも大切となる。
※ちなみに、PNFのリズミックスタビライゼーションは「等尺性収縮(静止性収縮)を用いたテクニック」となる。
関連記事⇒『PNFテクニック(拮抗筋テクニック)を解説』
等尺性収縮を実施する際の注意点
等尺性運動では筋収縮による末梢血管抵抗の増大によって血圧が上昇しやすいことに注意が必要である。
血圧上昇を低く抑えるための方法としては以下などが挙げられる。
・収縮強度は中等度(最大筋力の40~60%)にすること収縮時間を短くすること、
・1セットの反復回数を少なくすること
・反復間の休止時間を長くとること
・息こらえ(バルサルバ)を避ける
特に運動療法中はバルサルバ法を(無意識にでも)患者が実施していないかモニタリングしながら実施するのが望ましい。
バルサルバ法に関しては以下で詳しく解説しているので、合わせて観覧することでリスク管理への理解を深めてみてほしい。
関連記事⇒『バルサルバ法( Valsalva maneuver)に注意せよ(リスク管理)』
等張性収縮
等張性収縮(isotonic contraction)とは筋張力が変化せずに収縮する状態を指し、筋自身は縮まり・伸びのいずれの状態でも起こり得る。
そうなると「求心性収縮+遠心性収縮=等張性収縮」という方程式が成り立ちそうである。
ただし、求心性収縮では短縮時に張力が変化することがあるので、厳密には違う。
っというより、筋収縮を伴いながらの筋短縮・筋伸張ともに、緊張力が変化しないことなどはあり得ないため、「等張性収縮」という表現は不適切であるとの意見もある。
ちなみに、「スタビライジングリバーサル」は「等張性収縮を用いたテクニック」に該当する。
※特にスタビライジングリバーサルは(前述した)リズミックスタビライゼーションとの違いが分かり難く、混乱することが多いので、興味がある人は、以下のリンク先で整理してみてほしい(個人的には、そんなに区別しなくてよいとは思うが・・・)
関連記事⇒『PNFテクニック(拮抗筋テクニック)を解説』
等尺性収縮の一例
等尺性収縮の一例として、頭頸部周囲筋の等尺性収縮を掲載しておく。
※上左の画像⇒頸部屈筋群に対する等尺性収縮
※上右の画像⇒頸部伸筋群に対する等尺性収縮
※下 の画像⇒頸部側屈筋に対する等尺性収縮
等尺性収縮は、骨運動を伴わない筋収縮(厳密には最小限に留めた筋収縮)が可能なため、(一般的には)「骨運動を伴う筋収縮では疼痛が誘発されるが、伴わない筋収縮では誘発されない」といったメリットがある。
例えば、パテラセッティングなんかが、このメリットを活かした運動療法となる。
⇒『パテラセッティングとは?目的・効果・方法・工夫などを徹底解説!!』
例えば疾患で言えば『後縦靭帯骨化症』などは骨運動が疼痛を誘発させる可能性があるため、上記イラストなどの等尺性収縮が採用される場合がある。
ただし、徒手抵抗に抗しながらの等尺性収縮に関しては、関節包内運動(関節副運動1型)が起こるので「等尺性収縮は関節に負担がかからない」という訳ではない。
⇒『関節副運動を補足します』
等速性収縮
等速性収縮(isokinetic contraction)とは筋の収縮速度が一定となるような関節運動時の筋収縮を指す。
等張性収縮と同様に、厳密な等速性収縮が日常生活で起こることは無い。
従って、等速性で運動が可能な機械を使用した時のみに再現可能な収縮様式と言える。
強いて等速性収縮に近い場面を挙げるとすると、水中での運動(ウォーキングや水泳)などがイメージしやすいのではないだろうか?(そこそこな筋収縮で動いても、最大努力(収縮)で動いても、生じる関節運動における速度の差が小さいという意味で)。
また、PNFを含めた徒手抵抗を用いた運動療法は、可能な限り等速性収縮に近づけることが可能となる。
つまり、水泳と同じように「対象者に合った負荷(筋力が弱い人には、それに見合った負荷を。筋力が強い人には、それに見合った負荷)をかけることが可能」といったメリットがある。
※徒手抵抗を用いた運動療法のメリットは、後述する「厳密な等張性収縮は起こり得ない」でも記載している。
相動性収縮と持続性収縮(緊張性収縮)
相動性収縮(phasic contraction)とは、速い動きを伴う収縮である。
求心性収縮に多いが、遠心性収縮がないわけではない。
持続性収縮(緊張性収縮:tonic contraction)とは、ザックリ言ってしまうと静止性収縮と同じである。
※単に相動性収縮の対比として用いられているため名称が異なるだけ
(ちょっと乱暴な解釈かも・・・・・間違っていたら申し訳ない・・)。
ヤンダは「相動性収縮が得意な筋」を『相動性な筋』、「持続(緊張)性収縮が得意な筋を『緊張性な筋』と分類している。
※ザックリと要約すると、「速筋要素が強いか」「白筋要素が強いか」による分類。
※そして、不良姿勢などにより、これらの筋にアンバランスが生じてしまい、これを「マッスルインバランス」と表現している。
関連記事⇒『理学・作業療法士が知っておくべき視診について』
厳密な等張性収縮というのは起こりえない
ここからは、前述した「等張性収縮」にフォーカスを当てて記載していく。
等張性収縮とは「筋張力が変化せずに収縮する状態を指すと前述したが、「厳密な等張性収縮」は、(徒手抵抗を含めた)運動療法では起こり得ない。
筋の発生する張力が一定であるような関節運動時の筋収縮(動的収縮)を等張性収縮という。
何キロの重りを持ち上げることができるのかと言った様な筋力を等張性筋力、その時の運動を等張性運動という。
ただし、重りを持ち上げるときの筋にかかる負荷は、モーメントアーム、重力、角速度などの影響を受けるため一定とはいえず、人体の運動においては真の等張性収縮はありえない。
~運動療法学より引用~
従って、等尺性・等張性という表現は無くしてしまい、「求心性・遠心性・静止性」という表現で統一した方がスッキリするのではないかという意見もある。
一方で徒手的操作(抵抗)は、前述したような重り(例えば重錘バンドなど)を持ち上げるのと異なり、可能な限り等張性収縮に近づけることは可能となる。
言い換えると、徒手による抵抗運動のメリットの一つは、「骨運動に際して各レンジに合った適切な抵抗量を目的筋へ加わえることが出来る」という点にある。
例えば一般論として目的とする筋へ最大抵抗を加えようとする際も「抵抗は開始肢位から中1/3を弱く、それ以降を強く、最終肢位に近づくに従って徐々に弱く」といった具合に抵抗を調整する。
以下の動画はPNFパターンで、「下肢の屈曲-内転-外旋運動」⇒「下肢の伸展-外転-内旋運動」の順で実施している。
そして、例えば最初の「下肢の屈曲-内転-外旋運動」でスタートポジションから最大抵抗を加えていたら、下肢を動かせない。
従って、最初は抵抗を軽めにするのだが、中3/2くらいのレンジではある程度の抵抗も可能となり、最終肢位に近づくにつれて抵抗を弱くしないとエンドレンジまで動かせないということになる。
この様に、100%な等張性収縮は不可能であるものの、徒手的操作による抵抗によって、等張性収縮に可能な限り近づけることは可能となる。
※自分の肘を伸展位から屈曲位まで様々な角度で抵抗を加えてみればわかるので、是非試してみてほしい。
※そして、その感覚をぜひ患者の抵抗運動をする際にも活かしてみてほしい
ちなみにPNFでは、例えば求心性収縮に対する各レンジにおける徒手抵抗の調整に関する記述を引用しておく。
PNFの抵抗の加え方は求心性収縮の場合、可動域の初期範囲は弱くし、中間範囲は強くし、最終範囲では再び弱くする。
初期範囲を弱くするのは、抵抗を強く加えるとゴルジ腱器官が反応し、その筋を抑制してしまうためである。
最終範囲を弱くするのは、アクチンがミオシンの方へ滑走し終わるためである。
どちらも生理学的根拠に基づいた理由である。
~アドバンス版 図解 理学療法技術ガイド(の実践PNF)より引用~
静止性収縮(等尺性収縮)のポイント
等張性収縮のついでに、静止性収縮(=等尺性収縮)に関するポイントも記載していく。
患者が一番力の入れやすい関節角度(フルレンジの1/2くらいが一番力入れやすい)で、まずはホールドする。
そこから、力が入れにくい角度(例えばエンドレンジ付近。弱化した筋が短縮位になるような角度)へ徐々に近づけていく。その方が筋収縮を理解しやすい。
※エンドレンジでの筋出力低下は、あくまで例え話。
もし、(苦手とされている)エンドレンジ付近での力の入れ易さが改善されたなら、それは「主動作筋の運動単位が動員されやすくなった」と表現することが出来るかもしれない。
ポイントは、直角に抵抗を加えること
等尺性収縮のみならず、ほかの収縮様式に対する徒手抵抗にも言えることだが、「抵抗を加える部位に垂直な力を加える」というのがポイントとなる。
- イラスト左は、膝関節伸展筋群に対して、下腿(遠位部)に直角な抵抗を加える
(⇒正解)
- イラスト右は、膝関節伸展筋群に対して、下腿(遠位部)に鋭角に抵抗が加えられている。
(⇒不正解)
求心性収縮や遠心収縮への抵抗の場合は、「骨運動によって変化する抵抗部位」に対して直角な抵抗を加え続ける必要があるため難易度が上がる。
ちなみに、MMT(徒手筋力テスト)でも、この点は留意しておく必要がある。
MMTに関しては以下の記事で深堀しているんで、このテストの詳細は以下で確認してみてほしい。
徒手筋力テスト(MMT)のやり方を網羅!(上肢・下肢・体幹の評価方法)
筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性・等尺性・等張性収縮)関連記事
筋の収縮様式を理解しておくことは、筋トレ・リハビリ(理学療法・作業療法)を実施において重要である。
そして、筋の収縮様式と同様に以下に記載してあるポイントも理解しておくことで、更に適切なアプローチが可能となるため、是非合わせて観覧することをおススメする。
過負荷の原則と特異性の原則
「過負荷の原則」と「特異性の原則」は筋トレを実施するうえで必須の知識となる。
また、リハビリにおいても「筋トレの目的」を明確にした上で実施することが必要な理由も、観覧してもらえば理解してもらえると思う。
筋力と筋出力(+違い)
皆さんは、筋力と筋出力の違いをご存知だろうか?
リハビリ(主に理学療法)の学生さんは、実習中に質問されたりすることもあると思うので、整理しておいたほうが良いかもしれない。
実は、この筋力と筋出力の違いを理解しておくことは、高齢者の筋トレを考えるにあたって非常に重要であったりする。
「高齢者に筋トレしても意味あるの?」
そんな疑問に対する答えも、この記事で見つかると思う。
高齢者の筋トレにおける効果/強度/回数/内容/注意点
高齢者に筋トレを処方するにあたって、押さえておきたいポイントを網羅した記事となる。
高齢者のリハビリ(理学療法)に携わることのある人は、ご一読することをおススメする。
永久保存版!バランス運動(トレー二ング)を総まとめ!
高齢者の筋トレを含めたリハビリを、バランス運動にまで話を広げて解説した記事となる。
筋トレ記事に飽きた人は、是非バランストレーニングにまで視野を広げて運動療法を考えてみてほしい。
PNFを臨床で活用しよう!
この記事の中でも出てきた『PNF(固有受容性神経筋促通法)』に言及した記事となる。
より専門的なリハビリとして筋力増強を考えている場合は、是非参考にしてみてほしい。
PNFは療法士の徒手的な抵抗によって自由自在に筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性など)を変化させることができるので、この記事で学んだ情報を応用するのにもってこいの治療手技である。
ただし、少し専門的な内容になるので(噛み砕いて解説はしてあるが)理学・作業療法士といったリハビリ職種以外の人は観覧しても使いこなせないかもしれない点はご注意を・・・
CKCとOKC(+違い)
この記事もやや専門的な内容となってしまうため、リハビリ職種を対象としている。
こちらも、リハビリ(理学療法・作業療法)を実施するうえで知っておいて損は無い知識となる。