この記事では、頻尿や尿もれ(尿失禁)予防のリハビリ(理学療法)として注目されているピフィラティス(Pfilates)について記載していく。
目次
ピフィラティス(Pfilates)とは?
ピフィラティス(Pfilates)とは、米国の婦人泌尿器科の専門医であるブルース・クロフォード氏によって考案された、尿失禁(尿もれ)に対するエビデンス(科学的根拠)に基づいた運動療法である。
「ピフィラティス」という名称は、「ピラティス」と類似していると感じた方は多いのではないだろうか?
関連記事⇒『ピラティスとヨガ(+違い)』
ピラティスは体幹インナーマッスル(コアマッスル)を鍛える要素が多分に含まれており、これらのインナーユニットの中には尿失禁(尿もれ)予防に重要な「骨盤底筋群」も含まれる。
そんな「骨盤底筋の強化に効果的なピラティスの運動」を筋電図の試験で確認し、クロフォード氏自身の運動理論に組み入れて開発されたのが「ピフィラティス(Pelvic Floor Pilatesの意味を込めた用語)」となる。
ちなみに骨盤底筋群は以下の様に、骨盤の底をハンモック様に形成している筋群を指す。
従来の骨盤底筋リハビリ(理学療法)の欠点と、ピフィラティスの利点
ここから先は、従来の骨盤底筋リハビリ(理学療法)の欠点と、ピフィラティスの利点について記載ていく。
従来の尿もれ(尿失禁)予防リハビリ(理学療法)のデメリット
骨盤底筋群へのリハビリ(理学療法)を根気強く継続することで、かなりの尿失禁(尿漏れ)の改善が期待できるとされている。
※尿失禁の分類に関わらず、「正しい方法」で「継続できた」人の7~8割は改善できるとされている。
※認知症やADL低下に伴う「機能性尿失禁」は除く。
※尿失禁の分類はこちらを参照⇒『尿失禁(尿もれ)などの排尿障害まとめ』
一方で以下の理由で早々とドロップアウトしてしまう人が多く、これらが骨盤底筋に対する従来のリハビリ(理学療法)のデメリットと言えるかもしれない。
- 即効性が無い場合も多く、効果が表れるまでに時間を要す。
(=本当に鍛えられているかの実感がわかない)
- 骨盤底筋がピンとこない。
- 骨盤底筋の収取のコツがつかめない(正しくトレーニングできているかピンとこない)
・・・・・などなど。
特に、②③は理学療法士自身でも「患者がきちんと理解できているか、正しい収縮が出来ているか」を確認しづらく(動きの視診や収縮の触診が出来ないので)、患者自身も加齢とともに骨盤底筋を意識したり、収縮のコツをつかむのが難しくなってくる。
ピフィラティスによるリハビリ(理学療法)のメリット
そんな従来の「骨盤底筋群トレーニング」の欠点を解消するかのようなピフィラティスの利点は以下となる。
『骨盤底筋群の収縮に意識を向けなくとも良い』
どういう事かと言うと、「ピフィラティスとして推奨されている特定のダイナミックな(分かりやすい)運動」を実施すると、(骨盤底筋群の収縮を意識せずとも)自然と骨盤底筋の収縮が促せるということだ。
また、従来の骨盤底筋トレーニングが(ベーシックなものは)等尺性収縮が主だったのに対して、ピフィラティスのトレーニングは動的(等張性収縮)なため、尿もれ(尿失禁)が生じる「日常場面」を想定したトレーニングに近いため、より「機能的」といことになる。
関連記事⇒『筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性・等尺性・等張性収縮)を解説!』
ピフィラティスは尿失禁(尿もれ)の救世主となり得るか?
ピフィラティスを考案したブルース・クロフォード氏は、特殊な無線の筋電計(ワイヤレスビデオEMG)を用いて、ピラティスのエクササイズを含む100種類以上もの体操を行った際に、骨盤底筋群がどれだけ収縮するのかを測定し、その中から骨盤底筋が強く収縮する10種類を導き出し運動プログラムとしてまとめた。
この導き出された運動プログラムこそが「ピフィラティス」ということになる。
骨盤底筋を意識せずに、誰でも最大効率で骨盤底筋群を鍛えられる画期的な体操があるとすれば、それは尿失禁(尿もれ)に悩んでいる人の救世主となり得るのではないだろうか?
ピフィラティスに関する記事としては、日経オンラインを以下にリンクしておくので、興味がある方は一読してみてほしい。
関連記事⇒『日経ウーマンオンライン ピフィラティス特集』
ピフィラティスのキーワード
ピフィラティスの特徴は以下の2つとなる。
- 共同筋の活用
- パルス運動(プライオメトリックストレーニング)
共同筋の活用
別記事「骨盤底筋が尿もれ(尿失禁)予防に重要な件」でも記載しているように、腹横筋・大殿筋・股関節内転筋などは、骨盤底筋群の共同筋として作用する。
そして、ピフィラティスでは必然的にこれら共同筋が収縮するような運動なため、骨盤底筋群の収縮も高まりやすいとされている。
例えば、ピフィラティスを実施する際の「姿勢」や「呼吸(ハッ ハッ っという様な呼気とともに動かすような運動)」などが関係している。
パルス運動(プライオメトリックストレーニング
具体的には、スキップの様に体を上下にリズミカルに弾ませるような運動を指す。
この様なパルス運動によって筋肉は収縮と弛緩を繰り返すことになるのだが、これが骨盤底筋群の瞬発的な収縮機能を高めてくれると言われている。
爪先立ちを活用することで、更に骨盤底筋の収縮が強まる
補足として、ピフィラティスに爪先立ちを活用することで、更に骨盤底筋群の収縮が強まることが分かっている。
これは、つま先立ちになることによる不安定な状態を制御するために、自然と(骨盤底筋を含めた)姿勢保持機構が働くことが影響していると思われる。
ピフィラティスの具体的なトレーニング
以下の動画では、ピフィラティスに関して「ランジ」「スクワット」「ホバリング」を紹介している。
ちなみに、骨盤底筋群に加わる刺激は以下であることが分かっている。
- ピフィラティススクワット⇒平常時と比べて最大で18倍以上に強まる
- ピフィラティスホバリング⇒平常時と比べて最大で28倍以上に強まる
- ピフィラティスランジ⇒骨盤底筋群にかかる刺激は平常時に比べて最大で40倍以上に強まる
スクワットを用いたピフィラティスのポイント
①準備運動:
スクワットを5回実施する
⇒骨盤底筋が収縮
②姿勢キープ:
①の後に「(スクワットの)腰を落とした状態」で5秒間キープする
⇒骨盤底筋の持続力向上
③パルス運動:
②の状態のまま(腰を落とした状態)で、上下にリズミカルに動かす(パルス運動)
⇒骨盤底筋収縮の瞬発性向上
※ピフィラティススクワットは、足を肩幅より少し開き、つま先は30°外側へ向けた状態で実施。
※屈伸時は常に骨盤ニュートラル・腰椎生理前湾をキープ・膝は外側へ向けておく。
※爪先立ちで実施したほうが、効果的!!
※高齢者では、壁や椅子に手をついて安定させた状態で実施してもOK。
※ランジに比べて、高齢者でも安全に実施しやすい。
※パルス運動時は、伸び上がる際に息を「フッ」っと吐く
(骨盤底筋を含めたコアマッスルが働きやすくなる)
ホバリングを用いたピフィラティスのポイント
①準備運動:
ホバリングを5回実施する
⇒骨盤底筋が収縮
②姿勢キープ:
①の後に「(ホバリングの)恥骨を斜め上に突き上げた姿勢」で5秒間キープする
⇒骨盤底筋の持続力向
③パルス運動:
②の状態のまま(恥骨を斜め上に突き上げた姿勢)で、にリズミカルに動かす(パルス運動)
⇒骨盤底筋収縮の瞬発性向上
※基本姿勢は膝立ち位、両膝を肩幅程度に開き、両足部は接触した(閉じた)姿勢。
※パルス運動時は、伸び上がる際に息を「フッ」っと吐く(骨盤底筋を含めたコアマッスルが働きやすくなる)
※スクワットより骨盤底筋群に入る力は強いが、両膝立ち位が可能な人に限定される(例えば膝OAなどでは困難な場合もある)。
ランジを活用したピフィラティス
ここから先は、骨盤底筋群にかかる刺激は平常時に比べて40倍以上に強まるとされる「ランジを活用したピフィラティス」について記載する。
①準備運動:
ランジを5回実施する
⇒骨盤底筋が収縮
②姿勢キープ:
①の後に「(ランジの)ステッピング肢位」で5秒間キープする
⇒骨盤底筋の持続力向上
③パルス運動:
②の状態のまま(恥骨を斜め上に突き上げた姿勢)で、にリズミカルに動かす(パルス運動)
⇒骨盤底筋収縮の瞬発性向上
骨盤臓器脱の予防としても効果的な可能性
骨盤臓器脱とは、骨盤内にある臓器が下がってくる病気で、以下などがある。
これらを総称して『性器脱』と呼ばれることもあり、これらは単独のみならず同時に出現することもある。
- 子宮が下がる「子宮脱」
- 膣が下がる「膣脱」
- 小腸が下がる「小腸瘤」
- 膀胱が下がる「膀胱瘤(排尿障害が起こる)」
- 直腸が下がる「直腸瘤(排便障害が起こる」
そして、骨盤臓器脱の原因は以下のように言われている。
骨盤の底には子宮、膀胱、直腸などの臓器を支えている筋肉や靱帯があり、腹圧により臓器が骨盤外に出ないように支えています。
お産を繰り返したり年齢を重ねていくとこの支えが緩み、子宮や膀胱、直腸が骨盤の中から膣に下がってくるのです。
進行すると膣壁が反転して膀胱、子宮、直腸が体外に完全に脱出してきます。
リスクファクターとして慢性的な咳や便秘を繰り返す方、仕事などでいつも重い荷物を持っている方、肥満体型の方なども、腹圧がかかりやすいために骨盤臓器脱になりやすいといわれています
兎にも角にも、膀胱などの骨盤臓器は骨盤底筋群や靭帯で支えられているが、出産や閉経によるホルモンの減少や便秘・肥満などによって骨盤底筋群や靭帯が衰えると、臓器が下がっていくということになる。
その結果、骨盤臓器脱が起こる。
っということは、骨盤臓器脱の原因となる骨盤底の支持性をピフィラティスなどのリハビリ(理学療法)で若いうちから高めていれば、骨盤臓器脱を予防できる可能性があると言える。
※一度骨盤臓器脱が生じてから、それをリハビリ(理学療法)で元に戻すのは難しい。
骨盤臓器脱の症状緩和にエクササイズが有効な場合もある。
骨盤臓器脱によって生じる症状は以下の様に言われている。
下腹部や膣の中にものが降りてきたような違和感や、入浴時に膣から丸いものがふれるというのが初期症状です。これらの症状は一般的に午前中よりも活動した午後に多くみられます。
進行すると、常に股の間にものがはさまった感じとなり、尿や便がすっきりと出なくなります。高度になると膣壁が下着にすれて出血するなど歩行も困難となり、日常生活が大きく制限されてきます。
~日本医科大学付属病院HPより~
上記症状のうち「尿や便がすっきりと出なくなる」という症状は、専門用語で「溢流性尿失禁」と呼ぶ。
溢流性尿失禁とは?
溢流性尿失禁は、何らかの下人で排尿がスムーズにいかなくなり膀胱にたまった尿が昼夜を問わずあふれ出てしまうタイプの尿もれである。
※まとまった量の尿が一気に出るのではなく、少量の尿が断続的にもれる点が、溢流性尿失禁と特徴。
溢流性尿失禁になりやすいのは高齢の男女で、圧倒的に男性が多い。
※男性の場合は、前立腺肥大が主な原因となる。
※女性の場合は、骨盤臓器脱が主な原因となる。
そして、骨盤底筋群に対するリハビリ(ピフィラティス)は腹圧性尿失禁に有効とされており、更には切迫性失禁や溢流性失禁の一部にも効果が認められているため、エクササイズを実施してみる価値はあるかもしれない。
ここまで幾つかのピフィラティスを紹介してきたが、高齢者には「安全に実施可能」なピフィラティススクワットがおススメできる。
ただし、骨盤臓器脱の人は両足を開いた状態で行うと状態を悪化させる恐れがある。
従って、実施するのであれば膝を閉じた状態などアレンジしたエクササイズを実施する必要がある。
※例えば、スクワットであれば、膝をあえて閉じた状態(厳密には、膝と足部は握り拳一つ分だけ開いた状態)で実施するなど。
※いずれにしてもリスク管理は十分にする必要はある。
「ピフィラティスの講習会」と「尿失禁/頻尿の関連記事」について
ピフィラティスの講習会は、武田淳也医師が日本で開催されている。
ピフィラティスに興味がある方は是非学んでみてほしい。
また、ピフィラティスのメリットは『骨盤底筋群の収縮に意識を向けなくとも良い』という点にあることを前述したが、当然のことながら骨盤底筋群を意識できているのであれば効果は更に倍増すると思われる。
そんな「骨盤底筋群の収縮を意識したリハビリ(理学療法)」に関しては以下を参照にしていただき、ピフィラティスの効果をさらに高めていただきたい。
骨盤底筋が尿失禁(尿もれ)や頻尿の予防に重要な件
また、その他の「尿失禁/頻尿の関連記事」としては以下があるので、こちらも参考にして頂き、知識を整理に役立てていただきたい。
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