この記事では、慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)に対する治療に関しての概要に関してガイドラインを参考にしつつ、呼吸リハビリテーションのエビデンス、運動の重要性も含めて記載していく。
目次
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、病名ではなく以下のような慢性の閉塞性喚起障害を共通の病変とした呼吸器疾患群を指す。
- 慢性気管支炎
- 肺気腫
・・・・・・・・・・・・・・・などなど。
※ちなみに、気管支喘息は閉塞性換気障害に該当するが、慢性閉塞性呼吸器疾患には該当しない。
関連記事⇒『換気障害(閉塞性換気障害と拘束性換気障害)を解説』
※慢性閉塞性呼吸器疾患と呼ばれることもある。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状
COPDの主な症状は以下の通り。
- 息切れ、呼吸困難
- 胸痛、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー)
- 咳、痰(血痰)
COPDの治療
COPDの治療は、以下の3つに分類される。
- 薬物治療
- 非薬物治療
- 酸素療法
COPDに対する薬物治療
COPDに対する薬物治療は、『原疾患(前述した慢性気管支炎・肺気腫など)そのものに対する治療』と言える。
具体的な薬物治療としては以下などが挙げられる。
- 禁煙薬物療法
- 気管支拡張薬(抗コリン薬、β刺激薬など)
- ステロイド
- 抗菌薬
COPDに対する非薬物治療
COPDに対する非薬物療法は以下が挙げられる。
①禁煙指導
前述したように、喫煙はCOPDのもっとも重要な発症危険因子であり、何はともあれ禁煙が第一の非薬物治療と言える(禁煙療法は、禁煙指導などの「非薬物治療」と「薬物治療」がある)。
喫煙は百害あって一利なしなので、喫煙者は早めに辞めることをおススメする。
関連記事⇒『活性酸素のメリット・デメリット』
②健康的な生活習慣(規則的な日常生活)・定期的な運動と体重管理
③呼吸リハビリテーション
④その他(栄養指導、食事療法、口腔ケアなど)
※口腔ケアがおろそかになると肺炎を起こしてしまう可能性が高まる
関連記事⇒『誤嚥性肺炎から高齢者を守ろう!口腔ケアの重要性!』
酸素療法
特に、在宅酸素療法 HOT(Home Oxygen Therapy)はCOPD患者の自宅療養時に活用され、訪問リハビリでも必須の知識となる。
以下の記事でも深堀しているため、興味のある方は参考にしてもらいたい。
関連記事⇒『在宅酸素療法とは?』
ここまで、COPDの治療はとして「薬物治療」「非薬物治療」「酸素療法」を記載してきたが、以降はでは「非薬物療法」の一つである「呼吸リハビリテーション」についてフォーカスして記載していく。
COPDに対するリハビリ(理学療法)
COPDに対するリハビリ(理学療法)としては以下が挙げられる。
- 呼吸練習
- 呼吸筋トレーニング
- 気道のクリーニング
- リラクゼーション
- 徒手胸郭伸張法(呼吸筋のストレッチ・胸郭のモビライゼーション)
- ADL動作の指導
- 運動療法(筋力トレーニング・全身持久力トレーニング)
呼吸練習
呼吸練習として有名なものには以下の2つがある。
- 口すぼめ呼吸
- 腹式呼吸
口すぼめ呼吸
口すぼめ呼吸は、以下の効果があるとされる。
- 呼吸困難・呼吸数・PaCO2 を減少させる
- 安静時の一回換気量や酸素飽和度を増大させる
上記の効果は安静時に顕著なため、活動後に口すぼめ呼吸をすることは、症状の回復を早めることに繋がる。
また、「口すぼめ呼吸によって、歩行時でのガス交換の改善は示されていないこと」や「運動時に口すぼめ呼吸を併用しても、呼吸困難の程度や運動耐久容能には影響しない」などと言われる一方で、「呼吸数や運動終了後の回復時間を有意に減少、短縮させる」と言われている。
上記をまとめると以下になる。
・活動後におけるCOPDの症状を軽減させるために口すぼめ呼吸は有効。
・口すぼめ呼吸を活動時に実施すると、(活動中は呼吸数に変化がある程度だが)活動後の症状回復時間を短縮できる可能性がある。
腹式呼吸
腹式呼吸の目的は以下になる。
「浅くて速く換気効率の悪い上部胸式呼吸を行っているCOPD患者に、呼吸補助筋の活動を抑制し、深くてゆっくりとした呼吸をさせること」
そして、腹式呼吸によってCOPD患者の一回換気量・呼吸仕事率、PaO2の上昇と、呼吸数、分時換気量の減少がみられるとされている。
一方で、『COPD 理学療法診療ガイドライン』では以下の様に表記されており、口すぼめ呼吸より有用性が乏しい扱いとなっている。
- 口すぼめ呼吸 ⇒推奨グレードB エビデンスレベル4a
- その他の呼吸法⇒推奨グレードB エビデンスレベル4a
- 腹式呼吸 ⇒推奨グレードC エビデンスレベル4a
※「その他の呼吸法」に関しては後述する。
ガイドラインにおける腹式呼吸のネガティブな記述は以下の通り。
・横隔膜呼吸では意識的な吸気時の腹壁の拡張運動が強調されるがかえって奇異呼吸パターンとなりやすく注意が必要。
・呼吸困難に及ぼす影響に関しては一定の結論は得られていないが,重症例ではかえって呼吸困難は増悪したとする。
・単純にゆっくりとした呼吸パターンや口すぼめ呼吸などによって得られる効果以上の利益がない。
腹式呼吸は、COPDのみならず一般的なリラクゼーション方法としても活用されることが多い一方で、中には「腹式呼吸によって、逆に不快になった。リラックスが妨げられた」といった人達も存在する点は覚えておいた方が良いかも知れない。
※この点に関しては、(一般人や精神疾患にも有効とされている)自律訓練法においても重要なポイントとなる。
※そうなってくると、安静時のみならず活動時にも取り入れやすい「ゆっくりとした呼吸パータン」や「口すぼめ呼吸」を習得したほうが重宝する。
※また、腹式呼吸が困難なCOPDに対しては、下部胸郭の両外側に手を置き、呼気時に内側へ圧迫し、吸気時にbouncingを加えて動きを促通する『下部胸式呼吸』がトレーニングとして実施されることがある。
その他の呼吸法
COPDに対するリハビリ(理学療法)としては、口すぼめ呼吸・腹式呼吸が有名だが、その他の呼吸法として以下も有効とされている。
リラックスして、ゆっくりと深い呼吸パターンでの呼吸法:
この呼吸法は、一回換気量を増大させ、PaCO2 を減少させたり15),もともと高いレベルにある交感神経活動を軽減させる効果がある。
COPD患者を観察していると(誰かに指導されるまでもなく)苦しい際にこの様な呼吸法を意識している場面はよく見かける。
労作に呼吸を同調させる方法:
前述した「リラックスして、ゆっくりと深い呼吸パータンでの呼吸法」を労作にあわせて同調させる方法となる。
呼吸を労作に同調させる際のポイントは「呼気時に労作を行うよう意識すること」がポイントとなる。
例としては階段昇降が分かりやすいと思う。
階段前で息を吸い、ゆっくりと吐きながら数段昇る。
そこで立ち止まって再び息を吸い、ゆっくりと吐きながら数段昇る。
この様にして「呼気時に労作を行うこと」が重要となる。
また、呼吸パターンと歩調を強調させる方法(paced breathing)は呼吸困難の軽減や労作を急いだり、息こらえや浅くて速い呼吸パターンの出現を防ぐ上で有用であると考えられている。
※これらの呼吸法に関する『COPD 理学療法診療ガイドライン』の推奨グレード・エビデンスレベルは前述したとおり。
動画で紹介!口すぼめ呼吸・腹式呼吸・横隔膜トレーニング・日常生活への応用など
以下の動画は、『環境改善保全機構』が提供している動画である。
口すぼめ呼吸・腹式呼吸・横隔膜トレーニングの方法や留意点について、非常に分かり易く親切な解説がなされていている。
また、日常生活に呼吸方法を取り入れて楽に活動する方法(歩行時や階段昇降時の呼吸方法)も分かり易く解説されている。
ぜひ一度観覧してみてほしい。
呼吸筋トレーニング
呼吸不全の原因の一つに呼吸筋疲労や呼吸筋不全があり、これらが原因の場合には呼吸器ントレーニングを行うとされている。
呼吸筋トレーニングとして有名なのは『腹部重錘負荷法』であり、具体的には以下の通り。
「腹部に0.5~3㎏の重錘を乗せ、横隔膜をトレーニングする(腹式呼吸の習得が前提)」
その他に、呼吸筋訓練機を用いた以下の方法もある。
・incentive spirometerによる過換気法
・threshold
・P-flexなどの吸気抵抗負荷法
個人的には、(一部のCOPD患者に対して)腹式呼吸を実施することはあっても重錘を用いることはなく、(そもそも機械が無いので)他の呼吸筋トレーニングも実施しない。
『COPD 理学療法診療ガイドライン』には呼吸筋トレーニング単独効果について、以下の様に記載されている。
中等症から重症のCOPD を対象とした呼吸筋トレーニングによって、PImax、吸気筋耐久力は改善し、シャトルウォーキングテスト(ISWT)や6 分間歩行試験(6MWT)による運動耐容能は増大することが示されている。
これらは変化量としては小さいながらもそれぞれ有意な改善である。
・いくつかのRCT では、本法によって呼吸困難の軽減、『健康関連QOL』、『ADL(日常生活活動)』 への改善効果も示されている
※ちなみに、よく混合されやすいが、「呼吸筋トレーニング」と「呼吸リハビリテーション」は同義ではない。
呼吸リハビリテーションは、ここに記載した『呼吸器疾患に対するリハビリテーションの総称』を指し、この呼吸リハビリテーションの中の一つに『呼吸筋トレーニング』が存在する。
気道のクリーニング
COPDの中でも、過分泌、排出能力の低下で淡が貯留している場合に適応となる。
※気道クリーニングは個人的には実施した経験が無いので、表面的な知識のみ記載しておく。
気道のクリーニングは以下の通り。
①まず薬物療法により気管支を拡張し、淡の粘性を下げる。
②聴診により淡の貯留部位を確認し、重力を利用して(体位排淡法)排淡する。
その時、軽打や振動、Huffingなどの手技を加える。
Huffingとは?
ハフィング(Huffing)とは、席に先立ち最大吸気位から声門を開いて「ハーッ」と長く呼出するもので、淡の排出を促す。
咳の前に3~5回実施する。
Huffingを行うとき、療法士は下部胸郭の圧迫と引下げを行って、胸郭の動きを援助する。
自身でできる排痰法を動画で紹介
以下の動画は、『環境改善保全機構』が提供している動画である。
自分自身で可能な排痰法について、注意点なども含めて分かり易く解説されている。
リラクゼーション
COPDは主訴である慢性的な呼吸困難のため、全身の筋緊張が高まっている。
そのため、呼吸補助筋(斜角筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋など)の活動をリハビリ(理学療法)によって抑制することは、過剰な酸素消費を減らすことにも結びつく。
従って、安楽なポジショニングや、ストレッチング・等尺性収縮後弛緩テクニック・マッサージなどによってリラクゼーションを図ることは重要となる。
関連記事
⇒『(外部リンク理学療法のマッサージ手技/種類/効果/違法性』
頚部から肩甲帯にかけての筋緊張に対してはホットパックなどの温熱療法を併用するとリラクゼーションが得られやすい場合もあるので、是非活用してみてほしい。
関連記事
⇒『温熱療法の作用まとめ!『温熱の良し悪し』を把握して臨床に活かそう♪』
⇒『ホットパックの効果・適応を紹介!患者に紹介できるグッズもあるよ』
ADL動作の指導
COPDは進行性の疾患と捉えられることもあり、重症であるほどに「いかに負担無く活動できるか」といった視点は重要となる。
そして、(前述した)「口すぼめ呼吸」や「その他の呼吸法」を習得して、(息切れを起こさないように)動作と呼吸をマッチンスさせることや、患者にとって最も楽な動作速度を身につけるなどは、最大酸素摂取量能を増大や、動作の耐久性を向上に繋がる。
ここでは、そんなADLの指導に関して、具体例を列挙していく。
当然のことながら、一概に「COPD患者」といっても軽症から重症まで幅広く、(他の呼吸リハビリと同様に)画一的に当てはめることは出来ないが、何らかのヒントになれば幸いである。
体に負担をかけない動作のコツ
自分の体力に合わせて行動する:
一日の中で自分の体力を存分に発揮できる時間帯は、人それぞれ異なる。
従って、自身でそれを把握し、活動をもっとも楽に行える時間帯に行うようにする。
日によっても季節によっても体調は変わってくるため、体がきつい日は無理をせずに、柔軟に対応することが必要となる。
作業は休憩時間をとりながら行う:
何か作業を行う場合は、自分で楽な姿勢を見つけ、できるだけリラックスして行えるようにする。
また、屈むんでする草むしりなどは、軽作業のように見えて横隔膜を使った腹式呼吸を抑制するので注意が必要となる。
緊張しながら長時間作業を続けると体力が消耗しやすくなるので、必ず間に休憩時間をとるようにする。
セルフケアのポイント
・着替えは、基本的に椅子に座って行う。
(草むしりでも述べたように)かがむ動作は息苦しくなりやすいので、なるべく避けるようにする。
・靴下、靴などを履くときは、座って足を組み、上げた方の足に片足ずつ履くと苦しさが半減する場合がある。
・ズボンとパンツをはく際は、これらを重ねて履くようにすると、動作が一度に済む。
・前開きの服を選ぶと着脱が楽になる。
・立ち上がりや浴槽への移動を容易にするために、浴室には高めの椅子を設置すると良い。
・浴槽に首までつかると、水圧のために呼吸運動が抑制され、苦しくなる場合がある。
その様な場合は半身浴にしたり、シャワーを活用すると良い。
・洗体は、長い柄のついたブラシを使うと楽な場合がある。
・入浴時に息苦しくならないように、入浴前に気管支拡張薬を吸入し、酸素療法を受けている人は酸素を吸入しながら入浴する。
※ただし、入浴時間や入浴時の注意点などは主治医に聞き、その指示に従うようにすること!
COPD患者は、体を動かしたときに息切れを起こしやすいため、運動不足に陥りがちとなり、こうなると体力は徐々に低下し、日々の生活のちょっとした動作でも困難になることが少なくない。
したがって、(重複するが)体に負担をかけない動作のコツを身につけ、体力をできるだけ消耗しないような生活を日頃から工夫することは大切となる。
徒手胸郭伸張法(胸郭のモビライゼーション)
『徒手胸郭伸張法(胸郭のモビライゼーション)』には胸郭の捻転・胸郭の側屈・胸椎の伸展などがあり、全て患者の呼気と吸気に同調した行う。
特に、療法士が患者の肋間に手を置き、呼気時に肋間を捻じる肋骨の捻転が効果的である。
運動療法
この記事では、様々な呼吸リハビリテーションを記載してきた。
そして、これら呼吸リハビリテーションには(エビデンスが微妙なものもあるが)一定の効果が示されえており、薬物治療と一緒に用いることによる相乗効果が期待出来る。
そして、運動療法(筋力トレーニング・有酸素運動)は呼吸リハビリテーションの中核であり一番重要な要素とされている。
運動療法の概要を動画で紹介!
以下の動画は、『環境改善保全機構』が提供している動画である。
運動療法の種類・メリット・注意点などが、簡潔に分かり易く解説されていてお勧めである。
上記の動画では、COPDの運動療法の種類に関して以下の3つに分類している。
・柔軟性トレーニング
・全身持久力トレーニング
・筋力トレーニング
でもって、各々の運動療法について動画で紹介しているので、以下に紹介しておく。
運動療法①:柔軟性トレーニングの動画を紹介
以下が柔軟性トレーニングの動画となる。
頚部・肩甲帯・胸郭などのストレッチに関して解説されているが、動画なのでイメージしやすく、理学療法士・作業療法士・看護師などが臨床で指導する際に非常に役立つともう。
※簡単な運動が紹介されているので、自主トレーニングに最適だと思う。
運動療法②:全身持久力トレーニング
以下が全身持久力トレーニングの動画となる。
全身持久力トレーニングとして一番簡便なものは『歩行』であるが、歩行時の呼吸法などのポイントも分かり易く解説してくれている。
運動療法③:筋力トレーニング
以下が筋力トレーニングの動画となる。
上肢・下肢・腹筋の順に筋力トレーニングが紹介されている。
筋トレ中に辛くならないような呼吸法がCOPDには重要となってくるため、その点に関しても分かり易い解説がなされている。
後半は、セラバンド(ゴムバンド)を用いたトレーニング方法も紹介されており、これも具体的で分かり易いためぜひ一度観覧してみてほしい。
COPDに対する運動療法の重要性に関して、(もう少し専門的な表現を用いて)以下の記事でも言及しているので、理学療法士・作業療法士・看護師などの医療従事者の方は、こちらも併せて参照してみてほしい。
COPDに運動療法が重要って知ってた?
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