この記事では『脱臼』という用語について記載していく。
脱臼とは
脱臼は以下の3つに分類できる。
・完全脱臼
・亜脱臼(不完全脱臼)
・陳旧性脱臼
完全脱臼
完全脱臼とは「関節が完全にはずれた状態」を指す。
完全脱臼には以下の様な場合に分類される。
関節包外脱臼:
外傷性脱臼のように損傷部から関節包の外へ脱臼するものを指す。
関節包内脱臼:
関節包の損傷はなく、関節包内で脱臼するものを指す。
関節包外脱臼では周囲の靭滞などを損傷するため、治療期間は長期に及ぶ。
※関節包内脱臼の例としては、顎関節脱臼が代表的。
亜脱臼(不全脱臼)
亜脱臼とは「関節がはずれかかった状態」であり、互いの関節面の一部だけが接触している場合を指す。
亜脱臼は互いの関節面の適合性が低い場合に頻発する。
例えば脳卒中片マヒでは、肩甲上腕関節のように関節の適合性が低い形状な上に、更に上腕骨頭を関節窩に引き付ける回旋筋筋腱板(ローテターカフ)がマヒしてしまう事も亜脱臼に繋がってしまう要因である。
肩下垂位で亜脱臼は著明となり、そのまま放置すると関節包などに炎症が生じ疼痛の原因となる場合もある。
※この様な侵害受容刺激が『肩手症候群』に繋がると指摘する人もいる。
なので、弛緩性麻痺の状態では、三角巾やアームスリングなどで以下の様に腕を吊るすことで、亜脱臼による軟部組織へのストレスを低減させたりもする。
ただし、上記の様なスリングを使用することにより肩関節内転・内旋、肘関節屈曲の拘縮が生じやすい。
なので、適宜スリングを外して関節可動域訓練も行う。
※また、肩甲周囲筋の筋収縮が認められるならば筋再教育が適応な場合もある。
※ちなみに、あるいは、乳幼児の手を急に引いたときなどに起こる『肘内障』は、橈骨頭が橈骨輪状靭帯から亜脱臼を起こしたものとされる。
陳旧性脱臼
脱臼や亜脱臼を生じた関節を整復せずに放置すると、脱臼位のまま新たな関節を形成してしまう。
こうなると元の関節に戻らなくなり、変形と関節運動障害を残すことになり、このような状態を『陳旧性脱臼』という。
反復性亜脱臼(習慣性亜脱臼)とは
反復性亜脱臼とは、習慣性亜脱臼とも呼ばれ肩関節に起こることが多い。
でもって、「肩関節における反復性脱臼」は以下を指す。
『肩関節の脱臼や傷害を受けた後に、関節包や関節唇損傷、臼蓋縁骨欠損など肩関節安定化機構の破綻により脱臼を反復受傷する病態』
スポーツ傷害に多くみられ、脱臼をくり返すため徐々に不安定性は増加する。
ただし、上記の様に「明らかな受傷機転(外傷など)が起こらずして生じた亜脱臼」が繰り返される例も存在し、これも反復性亜脱臼に該当する。
これらの例は、先天的に関節が不安定なケースなどにみられる。
反復性の肩関節亜脱臼については以下でも解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
反復性肩関節亜脱臼とは?病態・症状・治療を解説!
先天性股関節脱臼(+発育性股関節形成不全)について
最後に余談として、『発育性股関節脱臼(+発育性股関節形成不全)』について記載して終わりにする。
発育性股関節脱臼は、小児整形外科の代表的疾患であり、乳児検診でみつかることが多い。
股関節が完全にはずれている『脱臼』、
脚の動きで出入りする『亜脱臼(不安定股)』のほか、
「はずれてはいないが関節面の適合性の悪いもの」を『臼蓋形成不全』と呼ぶ(乳幼児期に股関節が脱臼しやすくなる状態(臼蓋形成不全)を起こしているものを『発育性股関節形成不全』と呼ぶ)。
ちなみに、発育性股関節脱臼は、二次性変形性股関節症の原疾患のうち、もっとも頻度の高い疾患と言われている。
関連記事⇒『変形性股関節症とは?原因・症状・治療法など紹介するよ』
「先天性股関節脱臼」と呼ばれることも
発育性股関節脱臼は「先天性性股関節脱臼(先股脱)」とよばれることもある。
しかし実際には「真に先天性(奇形性)」の例は少なく、生後の発達過程で生じる脱臼(発達性股関節脱臼)が多いとされている。
※つまり「発育性股関節脱臼=先天性股関節脱臼」ではない。
何らかの原因で股関節がゆるい場合や、子宮内での姿勢によって脱臼が起こりやすいが、多くは乳児期までに正しく治療することで予防や改善の余地がある。
発育性股関節脱臼の詳細は、予防法や治療法なども含めて以下の記事で深堀り解説している。
発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)とは | 原因・症状・予防法・治療法など解説
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